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冷たい抱擁 3

「言ってみろ」

「俺の体はこの地に捧げる。しかし俺の首は砂漠で出会った星を見る蛇に呑ませてやりたい」

「造作ない。聞き届けたぞ」

ハデスの腕の中ダリオの絶望は去っていき、深い安寧(あんねい)に充たされて命が尽きた。

そして最期の時、心に広がっていた果てのない砂漠に夢幻(むげん)の癒しの雨が降り注ぐ夢を見ていた。

彼の血肉をハデスは他の命と同じく砂漠の森の大地に捧げた。

森は香気を発しながら草木を伸ばし、苔を息づかせ清水を(たた)えて応えた。




とある静かな砂漠の夜、一匹の寝付かれない蛇は自分の蛇穴から這い出した。

月明かりに白く浮き上がる砂の広がりは一方の動きもなく沈黙し寒々しい。

ぱっちりと覚めて見開いた両目に冷え切った夜気を感じる。

自分の這いずる音さえじりじりと響く。

蛇は頭をもたげ、少し伸びあがってみた。

蛇が見つめる星々は近く遠く瞬き、時にすうっと流れて漆黒の空の肌合いに吸い込まれてゆく。

蛇はもう少し高く伸びあがってみた。


ドサリ、という音がして何かが砂を舞いあげ、蛇の目の前に降ってきた。

そして音もなく突然に、石膏色の肌をした骨ばった一対の足が見えた。

黒髪と花藍の瞳を持つ、美しい貌が屈みこんで蛇を見つめ、緋い唇が微笑みながら言った。

「お前への分け前だ、やつが望んだのでな」

目の前にあるのは生気を失った人間の首だった。

「灰色のピスターシュ」

フェンネルに逢ったのだな。

蒼白の首は目を閉ざし、平穏な面立ちだった。

突然現れた美しい貌と骨ばった足はすでに消え失せていた。

砂漠は元のままに沈黙した。

蛇は大きく顎を開き、静かにその首を呑み込み腹に収めた。

そして再び蛇穴に戻った。


風が描いた緩やかな砂の波間の上にどこまでも暗くひろがる星の夜空は、

遥かな砂山の波間に途切れていた。



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