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寝付かれない蛇

とある静かな砂漠の夜、一匹の寝付かれない蛇は自分の蛇穴から這い出した。

月明かりに白く浮き上がる砂の広がりは一方の動きもなく沈黙し寒々しい。

ぱっちりと覚めて見開いた両目に冷え切った夜気を感じる。

自分の這いずる音さえじりじりと響く。

蛇は頭をもたげ、少し伸びあがってみた。

蛇が見つめる星々は近く遠く(またた)き、時にすうっと流れて漆黒(しっこく)の空の肌合いに吸い込まれてゆく。蛇はもう少し高く伸びあがってみた。

風が描いた緩やかな砂の波間の上にどこまでも暗くひろがる星の夜空は、近づくことはなく遥かな砂山の波間に途切れていた。

「背伸び」と言うんだ、と蛇は思った。

灰色のピスターシュがそう言っていた。

「何を背伸びして見てるのさ」


灰色のピスターシュは人間で、その呼び名は蛇が決めた。

初めて出会った時にそいつから香ばしいピスターシュの匂いがしたからだ。

「おまえはピスターシュの味がするのだろうな。おれに呑まれてみろ」と蛇は誘いかけた。

薄い唇を引き結び、やや青白い(かお)と薄い褐色の瞳のピスターシュはおし黙ったまま応ともいやとも言わなかった。

蛇は()れて、

「一度呑まれてみろ。飽きたら吐き出してやるさ」と言った。でも、吐き出すというのは嘘で不可能なことだった。

ピスターシュは蛇の嘘に気づいているのかいないのか、なおもおし黙っていた。

が、しばらくして

「俺は、白黒つけるのが嫌なんだ」と言った。

「白黒とは何だ」

蛇が尋ねると、彼はしばらく首をかしげた挙句

「それはお互いに反対側の端にあるものだ。生きることと死ぬことのように」と言った。

「では今のお前はどちらでもないのか」

「俺は死んじゃいないが、果たして生きていると言えるのか。せいぜい真ん中あたりだろうな」

とピスターシュは言った。

「では白と黒の真ん中とは何なのだ」

「灰色、だな」とピスターシュは答えた。

その日からそいつは灰色のピスターシュになった。

二人が出会うたびに蛇は

「呑まれてみろ」と言い、灰色のピスターシュは答えなかった。

相変わらず彼は蛇の嘘を知っているのか知らないのか、それすらもわからなかった。


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