五日目「私の優しいお姉ちゃん」
やぁ(・ω・)ノ
今日は次女の『十夜』ちゃんが、新しいアルバイトをする話です。
どうもおはようございます。『心城 千菜』です。
「よっし、千菜! 後もう少しだ! 頑張れ!」
「ふんぐあぁあ!!」
時刻は朝の五時。今日は朝早くから鬼の十夜ねぇと共にランニングに励んでる。
何故かって? ふふ、一昨日の変態兄貴の発言が気になってしまってね。
━━おやぁ? 先月よりも横腹の肉付きがよろしいですなぁ?
「うるさいわい変態兄貴っ! だったら痩せてやるわぁ!」
てなことで、家の中で一番プロモーション抜群な十夜ねぇに頼んで、一緒に朝日を浴びながら、汗水垂らして走っているのだ。
「おーし! 休憩するぞ!」
「ぐ、ぐぁぁぁ......あ、足が、足が痛いぃぃぃ」
「そりゃお前、普段から運動してない証拠だ。その様子だと、その筋肉痛は暫く続くな」
ひぃぃぃ、ふくらはぎ痛いぃぃぃ、てか十夜ねぇ、一緒に町内三周したのに、なんで汗一つかかないんだよぉ、この体力おばけ。
「......つ、疲れたなぁ、十夜ねぇ、ちょっと抱き付いてもいい?」
「ああ? んなことしたら余計に熱くなるだろ、今はクールダウンしとけ」
ぬぅ、十夜ねぇの、あの豊満な胸に抱かれてリラックスしたかったが、致し方なし。
「ま、最初はこんなもんだろ、そろそろ帰るぞ」
「あーい」
はぁ、はぁ、疲れたなホント、そして熱い。
『あ、お帰りなさい二人と...も!?』
ふぅ、幽霊の零花ねぇの中、とっても涼しいなり~。
『や、やぁん! 千ちゃん、お姉ちゃんの中に入らないでよぉ~、くすぐったいじゃない~』
幽霊のくせに何言ってんだ? 霊体なのに感覚があったりするのか?
「わりぃ姉ちゃん、あたしも頼むわ」
『あ、あぁ、い、妹二人がワタシの中にぃ~』
なんか、滅茶苦茶卑猥に聞こえるのは、私の心が穢れてるからか?
そんなこんなで朝食の時間、百花にぃは神埼さんの家でお泊まり、お父さんは休日出勤で朝から居ない。万璃は昨日、珍しく夜更かししたので、まだ寝てる。
ちなみに私達学生は今日までお休みである。
「十夜ねぇってさぁ。学校だと、今どんな感じ?」
「なんで、んな事聞くんだよ千菜」
「いやいや、昔の十夜ねぇって荒れてたからさぁ。今はもう問題起こしてないのかな~と思って」
「はっはっはぁ! 千菜、あんましお姉ちゃんを見くびるなよぉ? 高校ではちゃあんと素行よく、クラスの連中とも仲良くやってるからなぁ~」
ほほう? 言いますな。二年前までは、町内一の不良とまで言われた十夜ねぇが、ねぇ?
「あらあら十夜、この間担任の先生から苦情が来たわよ? 貴女、くしゃみ一つで校舎の窓全て割ったんですって?」
「ぎくっ!? あ、あれはただの事故だよお袋ぉ」
「まったくもぅ、くしゃみをするときは、ちゃんと手を当てなさいって小さい頃から言ってるでしょ? 貴女のくしゃみは町一つ吹き飛ばすかもしれないんだから」
「お、大袈裟だなぁお袋も~、あたしのくしゃみで吹き飛ぶほど、この町はやわじゃねぇよ......ふぁ、ふぁ」
ちょぉぉぉ!? 言ったそばからくしゃみしないでぇ!!
「はっ!」
「むがっ!?」
お母さんが素早く十夜ねぇの鼻と口を塞ぎ、くしゃみを未然に防いだ。
と、思いきや。
「くしゅん !」
小さいけどくしゃみをした十夜ねぇ。けど、小さくても、お母さんの細腕で十夜ねぇのくしゃみを防げるとは......、
「ふんっ!」
と、普通の人は思うだろうけど、お母さんは十夜ねぇのくしゃみの衝撃を、腕から体を通じて、足下に流して、お母さんの足下の床が抜けてしまった。
「......あらあら、床が抜けてしまったわ」
「あ、その、ご、ごめんなさい」
お母さんが今やったのは、体で受けた衝撃を全身の関節を使って地面に流す忍者の技らしい。
......本当に人間なのですか? お母さん。
「うんうん、昔に比べたら大分『力』の制御ができるようになったし、すぐ謝れるようにもなった。偉い偉い」
「うお、お、お袋、みんなの前で頭を撫でないでくれよぉ......」
「ふふふ、床は後で直すから、みんな直るまで足下には気を付けてね~」
「「はーい」」
何だかんだで、お母さんは親バカで、子供に対しては甘々な部分がある。それでもしっかりと、アメとムチを使い分けてるんだよなぁ。
「いや~確かに十夜の奴、昔に比べたら大分制御が出来るようになったよね~」
「......かってに人の肩に乗って頬擦りするな、暑苦しい」
淫獣が朝っぱらから私の肩に乗って頬擦りしてくる。今日は何気に控え目なセクハラだな。
「ぐへへへ千菜ちゃんの汗ペロペロ」
前言撤回、抹殺する。
ピロリロリン♪ ピロリロリン♪
おや? 十夜ねぇのスマホが鳴ってる。
「ちょぉ、千菜さん、ギブギブ、マジ死ぬ、幸せ死する......」
うっさい黙ってろ。
私が淫獣虐待している中、十夜ねぇは普通にスマホを取った。
ここまでツッコミもなく普通に電話に出られると、なんか切ない気持ちがする。
「はい、もしもし? ......!? え、ほ、本当かよ......あ、いや、本当ですか!? はい、はい......で、ではすぐに行く、いやすぐに行きます!」
「どったの、十夜ねぇ?」
「......受かった」
「何が?」
「次のアルバイト」
「へぇ、もう次が決まったの?」
前は喫茶店で働いてたけど、店の皿全てをうっかり粉にしてしまってクビになったんだよね。
その皿をうっかり粉にしてしまう瞬間を是非見てみたいものだが......確か喫茶店よりも更に前のアルバイトでは、お客さんを殴ってしまってクビなったんだよね。
通算50回以上クビになってる十夜ねぇの次なる仕事って...... 。
「メイド喫茶」
「......何故そこを選んだし」
「いや、どうせ受からんだろうと思ってダメ元で応募したんだがなぁ。まさか今日から仕事とは......」
メイド姿の十夜ねぇか......鬼がメイド服着るなんて、なんともマニアックだな。
「あらあら、良かったわね十夜。お母さん、今日は暇だから後で顔を出しに行くわね♪」
「お、おいおい、気がはえぇよお袋、そんなすぐ接客なんて出来るわけないだろ?」
『......メイド姿の十夜ちゃん......お姉ちゃんも後で顔を出しに行ってもいいかな?』
「い、いや、零花姉ちゃんは外出れないだろ? んな無理するなよ」
......後でからかいに行くか。
~語り手変更中~
「ほ、本当にこれを着るのか?」
「当然でしょ? ここメイド喫茶なんだから」
今日から入ってきた『心城 十夜』さん。なんか頭からツノ生えてるけど、それ以外は顔もよし、スタイルよし、しかも履歴書には接客業の経験も豊富なようだし、ほんの少し指導すれば、今日中にでも接客はできるわね。
「う、な、なんか胸の当たりがキツいな......」
「ごめんなさいね。十夜さんに合うサイズがなくて、今日はそれで我慢してね」
「は、はぁ、それで、あたしは今日何をすればいいんだ......ですか?」
「そうね、十夜さんは接客業の経験があるから、今日中にでも接客をしてもらう予定よ」
「え!?」
「あら? 自信ありませんか?」
「ば、ばっきゃろー! 自信ならあるわい......あります。はい」
うーん、敬語で話すのに慣れてないのかな?
それでも、ちゃんと敬語で話そうとしてる努力は伝わってきたわ! 午前中は簡単な指導をして、午後から接客をやらせても大丈夫そうね!
~語り手変更中~
てことで、私達はお昼ご飯を食べた後に十夜ねぇが働いているメイド喫茶へと向かった。
と言っても、ついて来たのは零花ねぇだけなんだけどね。
『う、うひ~、やっぱり日差し苦手~』
一にぃは、メイドに興味がないので、万璃は小学校のお友達と遊びに、お母さんは急に入った仕事を済ませてから来るらしく。
結果的に、普段から外に出ない零花ねぇがついて来たわけだけど......。
「無理してついて来る必要なかったんじゃない?」
『でもねぇ、十夜ちゃんのメイド服姿を生で見てみたいしぃ、何か今後の同人活動のネタにならないかな~と思って』
ふぅむ、『あの』同人にメイド要素必要なのかな?
それにしても、やっぱ幽霊になっても零花ねぇは日差しダメなんだなぁ。生前は日差しを浴びる事自体が危険だったもんなぁ零花ねぇ、それに比べたらまだマシな方か。
『あ、ここじゃない?』
「ほうほうここかぁ......零花ねぇ、他のお客さんを驚かしたらダメだよ?」
『あっはははは、千ちゃんったら~、ワタシみたいな美人さんを見て驚く人なんて......』
「うわ!? あ、あの子、後ろに背後霊がいる!?」
「こっわ!!」
『あるえ~? ?』
早速驚かしてどないすんねん。
しかも、私が憑かれてるみたいな感じになってるし.......こんな状況になれてしまってる私も私だな、うん。
「「おかえりなさいませ、ご主人様」」
おぉ、初めてメイド喫茶来たけど、これだけ可愛いメイドさん達にご主人様と呼ばれるのも悪くないな。
『はぁ......はぁ......メイドしゃん......はぁ......はぁ......』
「零花ねぇ抑えて」
やっぱり、零花ねぇはメイド好きだったか、予想してたけど。
「ご主人様、お好きな席へどうぞ♪」
「あ、はい」
ふぅむ、それにしても......十夜ねぇどこにいるんだ? やっぱり裏方をやらされてるのかな?
「い、いりゃ、しゃい、ませ、お客様、ご注文は、お、きまりです、か?」
うわっほーい、メッチャぎこちないメイドさんが来ちゃった。
『わぁ、十夜ちゃん。とっても可愛いわよ!』
「おぇはぁ!? よ、よく見たら千菜に姉ちゃんじゃねぇか!?」
「こら十夜ちゃん。『ご主人様』でしょ?」
あ、なんか、チーフリーダーっぽいメイドさんが来た。
「ご、ご主人さ......ごにょ、ごにょ」
なんだこの可愛いらしく、恥じらいを持った鬼メイドは、
頭のツノは伊達なんですか~? ん~?
と、心の中で煽ってみた。
『か~わ~い~い~。ちゃんと肉体があったら、おさわりしまくってたのになぁ~』
「ちょ!? 姉ちゃ......ご主人様、おさわりはお止めになって、くだ、さい......」
『ぐはっ!?』
おいおい、零花ねぇが気絶しちゃったよ。幽霊なのに、まぁ気持ちは分からんでもないが。
数分後。
「ご、主人、様、お待たせ、し、まし、た」
ふぅ、皆さん、定番のアレ、アレが来ましたよ。メイド喫茶の定番『オムライス』。
そしてそしてぇ、十夜ねぇがアレをしてくれるのか!?
「......十夜ねぇ、いえ、メイドさん。よろしくお願いします」
「う、ぐぐ、ど、どうしてもやらないとダメか?」
隣に居る他のメイドさんに視線を送るが、そのメイドさんは十夜ねぇに、『やれ』と言った視線を送り返してきた。
「う、うぅ」
ここまで溜られると、段々と見たいと言う欲望が沸き上がってくるな。
『わくわく』
「......お」
お?
「いしく......なぁれ......も」
も?
「......ッッ!! え、ええい! 美味しくなりやがれッッ!! もえもえキュンキュンッッ!!」
す、すげぇ力強いおいしくなるおまじないだな、おい。
しかしまぁ、赤面になってまでされると、もの凄く可愛らしいものですな。これで元ヤンキーだから、そのギャップがまた何とも言えん。
『わーい! おいしくなったー!』
そしておいしくなったオムライスを食べる零花ねぇ。本当に霊体でよく食事が出来るな。
「はい、良くできました~」
「ちょ、なんで今日は色んな奴に頭撫でられるんだよー!」
先輩メイドに頭撫でられる十夜ねぇ。
ん? なんか、周囲がざわついてるような気が......。
「はい! こっちにも、今のおまじないお願いします!」
「こっちもお願いします!」
うお、他のお客さんからのご指名が次々と、
「十夜ちゃんご指名よ。さ、行ってきて」
「はぁ!? またあの恥ずかしいおまじないを......」
「じー」
「や、やります。はい」
本当に丸くなったな十夜ねぇ。昔のあの荒れ具合が嘘みたいだ。
『えー? 十夜ちゃん、もう行っちゃうのぉー? もっとご奉仕して欲しいのになー』
家族に向かって、あんな恥ずかしいおまじないするって、どんな気分かな? 私は絶対したくない。
『ねぇねぇ、千ちゃんもメイドさんになってみたら? とっても可愛いはずだよ?』
「......むしろ零花ねぇのメイド姿見てみたい」
『やぁんも~千ちゃんったら~』
まぁ、見たくても見れないだろうけどね。霊体でも着れるメイド服なんてあるわけないし。
いや~、それにしても、赤面しながら他のお客さんに力強いもえもえキュンキュンをしまくってる十夜ねぇ、悪くない、むしろ良い。
けど......
「なんか、あのメイド服、十夜ねぇにはキツい気がするような......もしかして、数秒後に胸のボタンが弾け飛ぶんじゃない?」
『何言ってるの千ちゃん。そんなアニメみたいな事が起こるわけが━━』
「おいしくなぁれッッ!! もえもえキュンキュッ!?」
あ、ボタン飛んだ。
「あ、あわわわ、うわぁあああ!!」
ああ、奥に引っ込んでしまった。
家では殆ど半裸みたいな状態のくせに、他人に胸見られると恥ずかしがるなんて。
そんな乙女みたいなこと、昔のヤンキー時代(笑)の十夜ねぇからは想像できないな。
家族とか、昔のヤンキー時代の仲間、或いはクラスメイトの前では、男勝りなあの零花ねぇが......、
良い。
「......零花ねぇがフラグ立てるから」
『え? ワタシのせい?』
~語り手変更中~
はぁい、零花お姉ちゃんにバトンが渡りました~。
お店を出て、千ちゃんと帰宅途中なぅ。
十夜ちゃんの晴れ姿が見られて良かったな~、今度、千ちゃんと万璃ちゃんにもメイドさんになってもらお~と。
「......とか考えてない、零花ねぇ?」
『な、なんのことかな~』
「目が泳いでますよお姉さん。そして、にやけ過ぎ」
『えへへ~』
だって、あそこはまさに桃源郷だったんだもん。ちゃっかり会員にもなれたし~。これからは無理してでも通お~と。
「それにしてさぁ、あの十夜ねぇがちゃんと仕事してるなんて、昔のことを考えると想像出来ないよね?」
『ホントねぇ......う、うぅ、あの頃はごめんねぇ十夜ちゃん。お姉さんが不甲斐ないばかりにぃ』
「確かに、生前の零花ねぇなら、十夜ねぇの暴走を止められただろうけど......その時に零花ねぇが事故で死んじゃったんだよね?」
そうそう、ワタシが事故で死んじゃったから、代わりに一兎が満月なしで無理して人に変身してまで、十夜ちゃんと大喧嘩しちゃったんだよねぇ。
ホント驚いたわ。二人を止めようと向かっている最中に、空からダンプカーが降ってくるとは思わなかったものぉ。
上からなんて反則よね~。ワタシは三日後に幽霊となって、その後の後日談を聞いたけど。
二人の喧嘩をお父さんとお母さんが止めたらしいけど......お父さんはともかく、お母さんはどうやって一兎が落とそうとした隕石を生身で止めたんだろ?
そこが気になってしょうがないな~。
「あ、あなたは!?」
「ん?」
『あら?』
なんか、いかにも不良っぽい人達が居るわ~。
「と、十夜さんのお姉様に妹さんではないですか!?」
「ほ、本当だ!」
「あの『殲鬼姫』のご姉妹!」
十夜ちゃんのお友達かな?
「え、と、貴方達は?」
「はい! 自分達は、十夜さんに憧れて不良となった者達っす! 十夜さんは不良から足を洗いましたが、未だにこの町では伝説的なお方!!」
「そのご家族にお会いできて光栄です!!」
十夜ちゃん、人気者ねぇ。
その伝説的な不良がメイドさんやってるなんて知ったら、この人達どう思うんだろ?
~語り手変更中~
あ、あぁ、恥ずかしい、なんでメイド喫茶なんて選んだんだよぉ、あたし。
「十夜ちゃん、こっちもお願い!」
「僕にもお願いします!」
あ、あぁもう! あんな、恥ずかしいのを連発出来るかっつーの!!
「良かったわね十夜ちゃん。初日から大人気じゃん」
「う、うす」
う、ぐ、さっきは千菜に姉ちゃんが来た。この後はお袋も来るから......いや、冷静になれ、後から来る家族はお袋だけじゃねぇか。
知らねえ奴にあの恥いおまじないするのはまだいい、だがなぁ、実の家族に「もえもえきゅんきゅん」なんてやってみろよ。
死にたくなる。
「あ、あれ? 十夜さん。今度はここでバイトしてたんですか?」
『(|| ゜Д゜) !?』
!? な、なんで、百華と神埼がここに居るんだよぉ!?
お前らデートに行ったんじゃなかったのか!?
デート先にメイド喫茶って、絶対に百華の趣味だろ。アイツ隠れオタクだし。
「い、いら、お帰りなさいませ。ご主人様」
『......ないなー』
「あぁ!? 百華テメェ! 千菜と姉ちゃんは可愛いと言ってくれたんだぞぉ!!」
『■■、 ■、■!!』
「わぁ!? 十夜さん落ち着いて!! スゴく似合ってて可愛いですよぉ!!」
「はぁ......はぁ......そ、そうか、だろ? 百華おめぇ見る目がねぇな」
『僕に目なんてないよ。てか、否定されたぐらいで弟の茎を絞めないでよね。まったく┐(´д`)┌』
こいつむかつく。て、お前目が無かったのかよ!? 初耳だ。だったらどうやって物を見てんだよ。
「こらこら十夜ちゃん。ご主人様に乱暴はよくないニャン」
「す、すみません先輩......ニャン?」
ま、まぁいい、百華と神埼を席に案内してと......あ、あのおまじない、あれだけは注文するなよ!!
「......あ、この美味しくなるおまじない......十夜さんがしてくれるんですか?」
「ん!? んん、んん、なんのことでしょうかご主人様......」
『......チェンジで』
お前はどんだけあたしの事嫌いなんだよ! さすがに泣くぞこらぁ!!
『さすがに実の姉の『美味しくなぁれ、もえもえキュンキュン』なんて見たくないよ。どんな公開処刑だよ(笑)』
お前らの仲取り持ったのあたしだよなぁ!?
このカップルを今ここで破滅させてやりてぇ。
「もう、百華君はどうして十夜さんには冷たいの?」
『......そんなことないよ? ただ、ずっと一緒に居た家族を可愛いメイドさんとして見れないだけさ。栞さん。例えば、君のお母様がメイド服着てもえもえキュンキュンなんてやったらどう思う? 絶対に今の僕と同じ心境になるはずだから』
「......あ、あたしは、オバサンだって言いてぇのかよぉ......お前より一つ上の姉に対してぇ......ぐすっ」
お、弟にここまで言われると、泣きたくなってくるな......。
「......百華君」
『......けどまぁ、見た目は可愛いのは事実だし。もえもえキュンキュンは要らないから、一緒に写真撮ってくれないかな? 可愛いメイドさん』
「! ......な、なんでぇ! やっぱお前も可愛いと思ってたじゃねぇか! この照れ屋めぇ、うりうり」
『ちょ、やめぇい! ぐりぐりすなー!』
「ふふ、本当に二人とも仲がいいですね」
~語り手変更中~
はぁい、『心城 古都音』よ。
娘がメイド喫茶で働くなんて聞いて、最初は不安でもあったわ。
あの子、昔は不良で、不良を辞めた後もアルバイトに明け暮れる日々を送っているものの、殆どか長く続かなかったのが現状。
果たしてあの子、上手くやってるかしら?
「......ここね」
カランッ、カランッ、
「よ、よぉ、ついに来やがったなお袋、いや、ご主人様よぉ......!!」
「......十夜、そんな親の仇に会えたかのような顔をしてどうしたの?」
まぁ、だいだいは予想がつくけどね。
数分後。
ふむ、ちゃんと仕事してるみたいね。安心したわ......
「おわっ!?」
「あ、ごめ~ん十夜ちゃん。ついお尻触っちゃったっ !?」
「あらあらご免なさい。手が滑ってしまったわ。うふ、うふふ」
親の目の前で娘にセクハラするなんて、とんだお馬鹿なお客様......あ、ここではご主人様だったかしら、うふ、ふふふ。
「......お袋、何も手裏剣投げる事はないだろ?」
「あら? むしろ、あの程度の気配すら察知出来ないとは、昔に比べると弛んでるわねアナタ」
「......るっせぇ」
「けどね、お母さん安心したわ」
「あ? 何がだよ?」
「ふふ、それだけ、アナタは『アレ』以来、喧嘩をしていない証拠なのね。武人としては良くないけど、親として見れば、アナタがそこまで優しくなれたのが、私にはとても誇らしく思うわ」
「お袋......」
「と言うことで、この『美味しくなるおまじない』を頼めるかしら。可愛いメイドさん♪」
「ぬぐぅああああ!! お袋もそれ頼むのかよぉ!!」
......ふふ、やっぱり、どれだけ体が大きく、精神面が成長したとしても、実の娘はいつまで経っても可愛いものね。
~おまけ1~
「......『都会音』。今度は何の用よ?」
「何、偶然通りかかっただけだ。気にするな」
娘が働いているメイド喫茶を後にして、帰り道、今日の晩御飯を買うためにスーパーに寄ろうとしたら。
政府直属の忍者『都会音』に遭遇してしまった。
「なぁに? また下らない忠告をしに来たの?」
「だから偶然だと言ったであろう? まぁなんだ、あの『心城 十夜』が、あそこまで可愛く......あ、いや、普通に他人に接することが出来るのも、お前の努力の賜物だろう。そこは素直に褒めてやろう」
「へぇ、ありがとう......あ、そうだ」
「む?」
「今、アナタのスマホに娘の写真を送ったわよ。どう? 可愛いでしょ?」
「......ふ、くくく、この程度でこのワタシを懐柔できたとでも?」
とか言いつつ、十夜のもえもえキュンキュンの写真をお気に入りに登録してるじゃない。素直じゃないわねぇ。
「都会音。やっぱり、アナタにシリアスキャラは似合わないわ。アナタの方こそ、昔みたいに可愛かった頃に戻ってみれば?」
「......ふっ、無理だ。お前が『心城 不死義』の野望を阻止したあの時、ワタシの人生は大きく変わったのだ。ではワタシはこれにて失礼する。さらばだ」
......不死義くんの野望、ねぇ、本当は不死義くんの『お父様』が黒幕だったんだけど。
それを知ってるのは極一部の人間だけ、都会音は知らないんだわ、きっと。
うーん、十夜のメイド姿、本当に可愛いわね。
......。
~おまけ2~
「ただいま~」
どうも心城 不死義です。
今日はいつもよりも早く帰ることができて良かった。
あの忌まわしき部長がクビになって以来、とても働きやすくなったからな。
さぁ、久し振りに子供達と戯れるぞぉ!!
「あら、お帰りなさい旦那様。ご飯にする? お風呂にする? それとも......私?」
「え!? こ、古都音さん!? その格好は......」
メイド? 何故に?
「ど、どうかな? 似合う?」
「え、あの......!?」
お、奥に子供達が居る!? 千菜に万璃に零花、何ジロジロ見てるんだ!?
「......か、可愛い、可愛いですよ、古都音さん(なんでメイドかは知らないが)」
「......ふふ、そう、良かった、ふふ」
喜んでる。正直、現状がまったく理解できないが。
古都さんが喜んでるから、別にいいか。
~おまけ3~
「やべぇやべぇ、遅くなった」
なんてこった。気が付いたらもう夜7時か。
メイド喫茶、悪くなかったな。千菜も姉ちゃんも百華に神埼もお袋も、みんな可愛いと言ってくれたも!
「と、十夜さん!!」
「あん? ......お前は」
いつぞやのあたしに告ってきたヒョロ男じゃねぇか。
「は、はい! あ、貴女に認められる為に、自分を磨いて戻ってまいりました!!」
「ほぉ、で?」
「はい! 十夜さんに認められるには......やっぱりこれしか思いつきませんでしたッッ!」
ほ、まっすぐ殴りかかってきたな。しかも、その目、『覚悟を決めた目』だ。なんでぇ、少しはよくなったじゃねぇか!!
十秒後。
「ぶ、ふぉ」
「はは、軽くボコっちまったが、もうおしまいか?」
「......」
あ、やべ、やり過ぎた。けどまぁ、根性だけは認めてやる。
「......あー、やっぱり、何かしてやった方がいいかな?」
こいつなりに頑張ったんだ。何か褒美をやらないとな。今あたしがこいつにあげられるのは......。
「ほらよ。今日のあたしのメイド写真だ。それやっから、また強くなって戻ってこいよ?」
とか言ったが、悪いね。あたしは恋とは無縁なんだわ。
だからお前がいくら頑張っても、お前の恋は報われねぇ。
だってよぉ、あたしは、百華やお袋わ親父のような『恋』の良さが未だに理解できてねぇんだ。
もしかしたら、このまま恋を理解できずに大人になってしまうのかもしれねぇ。
そんな女と居てもつまんないだろ?
だから、お前が諦めるまで、仕方ないから付き合ってやるよ。
じゃあな。目が覚めたら、ちゃんと家で寝ろよ?
おやすみ。
続く。
「と、思っていたか『心城 一兎』!! 今日もワタシと決闘を......」
「ノルマ達成しに来てんじゃねぇ!!」
「いやぁぁぁぁん!!(し、幸せぇ)」
その後『戦条寺 輝美』は、住居侵入罪で警察に連行された。
実は、作者は一度もメイド喫茶に行った事がありません。今度行ってみるか。
なんか、ちらほらと聞く二年前の十夜ちゃんの暴走事件。それを書く予定は、今のところありません。許せ。
てなことで、次回はいよいよ待ちに待った零花お姉ちゃんのお見合い回です。
果たして、三人のお見合い相手の中から零花ちゃんの運命の相手は現れるのか?
では、ここらでさらば!