三日目「私の努力家な兄」
よ! 今日は次男の『百華』の話だ!
おはようございます。『心城 千菜』です。
今日は私のもう一人の兄『百華』にスポットを当てた話です。
百華、私は百華にぃと呼んでる。もう一人の変態兄貴よりも大人しく、私の嫌がるような事は一切せず、私が判らないような事を沢山知ってて、宿題の分からないところを分かりやすく教えてくれる。
とても頼りになる兄です。
ま、花ですけどね。うん、花。私の頼りになる兄はお花さんなのです。どゆこと?
「■■■、■■■」
しかも、鉢植えから出て、根っこを足の代わりに自力で移動ができる植物なのです。昔は怖かったけど、もう慣れました。
ちなみに、百華にぃは日課のラジオ体操を庭先で行いながら、光合成という朝食をとっているのです。
百華にぃは家族の中で唯一、人間と同じ食事が出来ないのです。
その事で本人もお母さんの手料理が食べられなくて悔しがっていました。
「■■■■■■」
朝の体操を終えて、百華にぃは庭先からリビングに上がって、机の上にある鉢植えの中に根っこを食い込ませる。
うん、鉢植えに埋まっている所だけを見ると普通の花だ。
朝食を終えて、みんなが歯を磨いてる間、百華にぃは根っこ磨きをしています。百華にぃには歯がないので、代わりに根っこだそうです。
「■■■■■■!」
とってもピカピカになりました。が、
「■■■■■♪」
また鉢植えに戻って根っこを土の中に張り巡らせる。
......磨いた意味あるのかな? また根っこが土で汚れるのに、だったら最初っから汚れたままでも良かったような気が......。
そこに関しては謎の拘りがあります。
私は制服に着替えて、鉢植えに入った百華にぃを持って登校します。
「行ってきまーす」
「■■■■■」
「行って、き、ます」
基本、百華にぃは手ぶらです。だって、こんな体では、どうやっても自分より重たい教科書とノートが入った鞄を持てる訳がない。
百華にぃは植物だが頭がいい。しかし、恐らく家族の中で一番の非力だと思われる。
だって、筋肉無いんだもん、体を支える骨も無いんだもん。
今では根っこで自力で移動出来ているが、自力で歩けるようになるまでには、私の想像を絶する努力を積み重ねて、ようやく歩けるようにまでなったのです。
百華にぃが頭が良いのも、元々頭が良かったわけではない、他人の倍の努力を日々積み重ねてる証拠でもある。
後、百華にぃが手ぶら通学が許されてるのは、百華にぃが非力だからと言うだけではありません。
なんと、中学に置ける全教科の教科書の内容を全ページ暗記しているのです。
......努力し過ぎだろ。もしかしたら、筋力も脳も無いので、脳疲労、筋肉痛と言った身体的負荷が殆ど無いから出来る努力量なのかもしれません。
それに関して言えば、結構羨ましい限りです。
「じゃあね、千お姉ちゃん、百お兄ちゃん」
「うん、転ばないように気を付けてね万璃」
「■■■■■■■」
「え、本当!? 百お兄ちゃん! ありがとう!」
実は、百華にぃの言ってる事を家族の中で唯一理解出来ているのは妹の万璃だけである。
なんで理解出来るのか聞いてみましたが、本人もよく分かってなく、何故か百華にぃの言語が普通の日本語に聞こえるそうな。天使だから?
てか、今どんな会話をしたんだ? 気になる。
「■■■■■■」
「あーはいはい、今行くよ」
万璃みたいに百華にぃの言語は理解できないが、何となく言いたい事は分かる、家族なので。
一昨日のようにバタバタして校門を潜らず、私は悠々と体育の石田先生に挨拶をして校門を潜る。
「よ! 今朝は余裕だね!」
「あ、神崎さん。おはようございます」
この人は神崎さん。眼鏡美人で百華にぃの幼馴染みにして、将来の百華にぃの嫁候補である。
「ん? 今なんか変な事考えなかった? 千菜ちゃん」
「はて、なんのことやら」
この人、普段は否定してるが、実は百華にぃの事を恋愛対象として見ているのです。
だがしかし、当の百華にぃはラノベ主人公並の鈍感さ故、この二人がくっつくのは時間の問題か。
はよくっつけ。
「......千菜ちゃん、今朝はやたらと私の事ジロジロ見るんだね」
「はい、いい加減、神崎さんと百華にぃくっつけと思ってました」
「ぶふぉ!?」
「■?」
おおっと、口が滑ったぁ!! わざとではないよ?
「も、もう! だから私と百華君はそんなんじゃないってばぁ! 何度言えばいいのよぉ!」
ふふふ、朝からごちそうさまです。
私は百華にぃを神崎さんに渡して、ご満悦になりながら教室に向かう。いやー、今朝はなんか気分がいいなぁ!
「からのドン底へドーン!」
「うぎゃー!! 急に出てくんなバカ兄!」
私のもう一人の努力しない方の兄『一兎』にぃが急に現れて、小さな体で私の制服の中を高速でまさぐりまくる。
「ふははは! 他人を困らせる悪い妹にはお仕置きだー! 『秘技・螺旋地獄』! 一瞬で妹の肉付きを把握する!」
「やめろぉ!!」
「おやぁ? 横のお腹の肉付きが先月よりよろしいですなぁ?」
「はぎゃああああああああ!!」
最悪だ。一にぃの変態スキルが日々磨きがかっていやがる。
誰か、この変態を止めてー!
「心城 一兎ぉ! 今日も決闘......だ!?」
「なんでお前がここに居るんだバカ女! 遅刻するだろうが!」
なんと、一にぃが最も毛嫌いしてる『戦条寺 輝美』さんが登場と同時に全裸にされる。
て、あんたら高校生だろうが! ここ中学ぅぅぅ!
「......に、賑やかだね。君の妹ちゃんとお兄さんは」
「┐(´д`)┌」
~語り手変更中~
あ、どうもこんにちは、神崎です。現在教室に居ります。
あの後、百華君のお兄さんと、知らない全裸のお姉さんが体育の石田先生に不審者として追いかけ回された後にお兄さんが一人だけで瞬間移動して逃げて、お姉さんの方は警察に連行されてしまいました。
あのお兄さんが来ると、本当に騒がしいです。
私の同級生にもお兄さんのファンが居ますが......ごめんなさい。私ではお兄さんの良さが判りません。折角なので百華君に聞いてみます。
「ねぇ百華君。お兄さんの良いところをこの紙に書いてくれない?」
「■■■■」
彼が頷くと、鉢植えから一本の根を伸ばして、その根でシャーペンを持って紙に書き始める。
私は紙が動かないように押さえてあげる。
『僕の兄の良さ? ......(^_^;))) 悪い所なら百個書けるよ?』
あ、無さそうです。
「じゃあ、お兄さんの事、嫌い?」
『嫌いじゃないよ。むしろ、妹の千菜以外にもちゃんと僕と遊んでくれるし、僕より頭は悪いけど、誰よりも僕達兄弟の事を大切にしてくれる良い兄ちゃんだよ(^_^)v』
なんだ、良いとこあるじゃん。でも、私の同級生達がキャーキャー言う程の事でもないなぁ。
やっぱり謎だ。
いつかこの謎を解明してみたいです。
そんなこんなで午前の授業。
一限目。数学。
「よぉしここは......心城、答えてみろ」
「■■■■」
彼は鉢植えから出て、先生の手のひらに乗ってから黒板の前でチョークを持って、なんか、教科書に載っていないような新しい数式を書き始めました。
「......ほぉ、こんな考え方もあったか。勉強になる」
百華君は頭が良すぎるせいで、逆に先生の方が勉強を教わってしまうと言う珍事が良く発生します。
二限目。体育。
「心城! 頑張れ!」
「■■、■■、■■、■■」
体育の石田先生に励まされながらも、彼はクラスメイトと共にグラウンドを十周していました。
女子は体力の事も考えられて、五周だけとなりました。
「■■■■■■!!」
彼も女子と同じ五周、もしくはそれ以下でも良いような気がしますが、彼は男(?)なので、男子と同じ十周の道を彼自身が選んだのです。
「心城頑張れ!」
「俺達がついてるぞ!」
クラスの男子からも応援される彼。だって、明らかに男子が走る十周と彼が走る十周は、全然違いすぎる。
人の一歩と彼の一歩は天と地程の差がある。100m走ではトップの成績だが、それは彼独自の瞬発力を使っているからだ。こんな持久走では、お得意の瞬発力を発揮することが出来ない。
前半が良くても、後半は追い抜かされてしまう。
現在、彼はビリではあるが、必死に足(根っこ)をフル回転して、干からびかけている体に鞭を打ってまでして、残り一周を走る。
......分からない。なんで、彼は茨の道を歩もうとするのか、私には理解できません。
そして、昼休憩。
分からないので彼に聞いてみました。
そして、彼の筆談で返ってきた返答は、
『僕の一歩では君達人間の一歩に追い付けない。だったら僕は人の一歩に対して百歩踏み出すだけのこと。勉強も同じだ、君達が一文字書くのに対して、僕は百、千、万の文字を書いてようやく君達に追い付けるからだ。君達と対等になるには、それに見合う努力をし続けなきゃならないんだ(* ̄ー ̄)』
長々と書いてありますが、そこには彼の熱い思いが込められていました。
彼が努力を惜しまない理由......昔聞いたことはあるけど、でもやはり無茶してほしくないです。
さっきの体育も、下手したらミイラになっていたかもしれないんだもん。
「努力することは良いことだけど、無茶はしないで?」
すると、彼は新しい紙を用意して返事を書いた。
『うん? 大丈夫、僕には疲労も痛覚もないから、全然平気だよ(^.^) あ、でも水分不足で苦しくなる時はなるかな?』
っ!?
「......君が痛くなかったとしても、見てるこっちが痛いよぉ」
「■■■!? ■■!?」
あ、やばい、泣きかけた。努力は良いことだけど、でもお願いだから、君の事を見てる人達の事も考えてよ。
『......ご、ごめんなさいm(._.)m』
「あ、うん、いいの、こっちこそ御免ね、しおらしくしちゃって」
「■■■■■■」
「あ、そうだ! 折角だし千菜ちゃんとお弁当食べない?」
『お、良いねぇ......兄さんが居なきゃいいけど(^^;)))』
「あはは、その通りだね」
彼には、やっぱり何があっても無理をしてほしくないと、私は思うのでした。
私は、百華君を持って中庭のベンチで千菜ちゃんと、千菜ちゃんの親友の『式子』ちゃんが来るのを待つことにしました。
「よぉ、心城」
「■■■」
二人を待っていると、何やら見た目が怖そうな三人組の男子生徒が来ましたが、彼らはけっして不良とかではありません。
「この間の借り、返させてもらうぜぇ!」
「■■■■!」
と、彼は懐からカードゲームのデッキを取り出し、百華君は鉢植えの中から同じカードデッキを取り出しました。
そう、彼らは百華君の男友達なのです。
昼休みの時、こうしてたまに、学校にカードゲームを持ち込み、二、三回程勝負をする仲であります。
「しゃあ! 止め!」
「■■■■!」
「何ぃ!?」
「うお、すげぇ! あの状況で逆転かよ!」
「■■■■(^_^)v」
私には面白さが分かりませんが、とても白熱してます。
百華君はこのカードゲームを学校に持ち込むぐらい好きなようです。
良さは分かりませんが、彼が楽しそうにしてる姿を見るのが、私は好きです。
......はっ! ち、違いますから! これはその、そう! 友達として好きと言うだけですから! か、勘違いしないでください!
「くっそぉ! また負けた!」
「心城、お前強すぎ」
「んじゃ、俺達もう行くわ、お前たち二人の邪魔して悪かったな」
そう言い残すと、彼らは去って行った。
改めて彼らを見ると、なんだか奇妙な気分になります。
だって、彼らは小学生の頃の百華君をイジメていたイジメグループなのですから。
それが、今ではカードゲームするぐらいの仲にまでなっているなんて、人生何が起こるか分かりません。
「あ、お待たせしました神埼さん」
「お! 遅かったね二人とも」
彼らが去った後に千菜ちゃんと式子ちゃんが来ました。
二人と楽しく雑談をしながら弁当を食べていると、また千菜ちゃんのお兄さんがやって来て、千菜ちゃんにセクハラした後に嵐のように去って行きました。
いつかお兄さんが捕まりそうな気がしてなりません。
なんで千菜ちゃんばっかりセクハラするのでしょう? 好き過ぎるから?
実はちょっと羨ましい光景だと思います。
私一人っ子だから、あんな感じで、うっとおしくても、妹を愛してやまない兄、他の兄妹の事もちゃんと愛してくれる兄。そう言う愛を分け隔てなく与えられる人が私の家族に居てくれたら良かったと思うのでした。
~語り手変更中~
さて、再びこの『心城 千菜』にバトンが渡りました。
時刻は放課後。神埼さんが再び百華にぃを持ってきてくれました。
「さて、ではでは帰りますか!」
「はい」
今日は神埼さんと一緒に帰ることが出来ました。
いつもは部活で中々一緒に帰れない神埼さんでも、今日は部活が休みだそうなので、一緒に帰ることにしました。
「ねぇ千菜ちゃん。せっかくだし、十夜さんが働いてる喫茶店に行こっか?」
「はい、そうします」
鬼の十夜ねぇは学校の帰りにアルバイトをしているのです。
でも、普段から粗暴で乱暴な十夜ねぇの性格が災いして、過去二十件近くのバイトがクビになっているのです。
今から行く喫茶店も、最近始めたばかりなのですが、果たして、上手く続いているのか......。
「わりぃ、クビになった」
喫茶店に着く手前で十夜ねぇと出会い、予想通りの展開となる。
「こんにちは十夜さん」
「よ! ......えーと?」
「神埼です。そろそろ覚えてくれませんか?」
「あ、あぁ! 悪かったな神『崎』!」
惜しい! 漢字が微妙に違う!
「それで? 十夜ねぇ、今回の敗因は?」
「店の皿を誤って全部粉にした!」
粉って、割る以上に難しそうな事をしてクビになったなぁ......何がどうなってそうなったのやら。その瞬間をハプニング特集番組に投稿したら視聴率が得られそうだな。
「■■■■■......」
「うお!? どうした百華、お前なんか元気ないな」
「実は百華君、ここに来るまでの間、十夜さんが淹れてくれるコーヒーを楽しみにしてたんです」
そう、百華にぃは固形物を食べることは不可能ですが、飲み物なら水以外でも根っこを介して飲むことが出来るのです。
「あ? そうなのか? だったらいつでも言えよ、家で淹れてやるから」
「■■■!」
百華にぃは嬉しそうにしています。
私も十夜ねぇが淹れてくれるコーヒーは好きです。
と言うか、十夜ねぇは何だかんだで料理の腕は私以上だし、ある程度の家事全般をこなすことが出来るので、お母さんが忍者の仕事で家を空ける際は家族みんなの食事を代わりに用意してくれます。
本当に元ヤンキーかよとツッコミたくなるぐらい女子力高いです。こりゃ良い嫁さんになるわ。
「クビになったのはしゃーない、おい神咲」
「神埼です」
「あ、すまん。せっかくだ、もし時間がある家に来いよ。お前にもコーヒーの一つや二つ淹れてやるから」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「だとよ。良かったな百華、ガールフレンドが家に来てくれるぜぇ?」
「■■■■■??」
「ちょぉ!? な、ななな、何言ってんですか十夜さん!」
「あーたく、そんなのもういいから、神咲......いや、神埼、良い加減に告ったらどうよ? お前が百華に惚れてんの知ってんだよ」
「くぁせなまのらやなる」
うわぁ、知的な雰囲気がある神埼さんが意味不明な言語を口走った。
それにしても、十夜ねぇグッジョブ! 後でノンアルを飲んであげよう。
「え、えぇと、でも、百華君の方がどうなのか......!?」
「いいから行け!」
十夜ねぇに背中を押され、神埼さんは私が持っている百華にぃの目の前に出て勢いのままに告白する。
「あ、その、.......す、好きです! 君の事が好きです! 散々否定してきたけど、本当はひた向きに、人と対等になろうと必死になる君の事が誰よりも好きです! ......自分の気持ちに素直になれない駄目な私だけど、ダメ、ですか?」
神埼さんの告白に対して、百華にぃが鉢植えから根っこを出して『OK』の二文字を作る。
いよっしゃあああああああああ!!
私は心の中でガッヅポーズをとる。
すると、百華にぃがペンとメモ帳を取り出してOKの理由を書いた。
『正直不安だった。だって、僕は見た目人間じゃないし、兄さんみたいに人に変身出来るわけでもなければ喋る事も出来ない。実は、君と初めて会ったあの日から好きだったんだけどさ、君の幸せを考えると、どうも踏み出せなかったんだ。僕の方こそ鈍感な『フリ』をしててごめん』
「っ!?」
フリだったのか! 百華にぃの事を本気でラノベ主人公並のニブチンだと思っていました。こっちこそごめん。
てか、二人とも相思相愛だったのか、ずっと神埼さんの片想いだと思っていました。
それにしても、十夜ねぇのやり方は強引ではあったが、たった今二人の間にあった壁を打ち壊してくれました。十夜ねぇには二人を代表して私から感謝せねば、
なんか急展開すぎるけど、気にすんな! 私はやっと、もどかしかった二人が結ばれて、それで万々歳だよ。
百華にぃと神埼さんが明日学校で会う約束を交わしてから別れた。この後神埼さんは家に来る予定だったが、さすがに恥ずかしかったのだろう。すると、百華にぃがまたメモ帳に何か書き始めました。
『千菜、十夜姉ちゃん。昔、僕は自分が大っ嫌いだった。だって、家族の中で唯一人の姿からかけ離れてるもん。だから、姿形で人になれなくても、せめて人と対等になりたい。そう思って僕は今まで頑張ってきたんだ』
「百華にぃ......」
「......」
『そんな僕の側にずっと居てくれたのが彼女だったんだ。僕を変な歩く植物としてではなく、一個人として見てくれる彼女の事がずっと好きだったんだ、だから......』
と、百華にぃの花柱にあたる部分から大量の水が流れ出ました。
これは涙です。私と十夜ねぇはすぐに理解しました。百は華にぃは今泣いている。
『だから、昔人の姿に生んでくれなかったお母さんを恨んでごめんなさい! 人の姿に近い家族を妬んでごめんなさい! 僕はただ、人になりたかっただけなんだ! だから努力し続けたんだ! そんな僕を見続けてくれたのが彼女だ! そんなの、惚れない訳がないだろ!』
ほとんど殴り書きだ。でも、そうだったのか、今初めて百華にぃの胸の内を知った。
百華にぃはそんなに思い詰めていたのか、自分の姿に、だから少しでも人に近付きたくって努力し続けてきたのか。同じ家族なのに、兄の悩みに気付いてあげられなかった自分が憎く思えてなりませんでした。
「はい、よろしい」
「え!? お母さん!?」
「お、お袋、いつの間に......て、また仕事に行ってたのか」
いつの間にかそこには、私達のお母さん『心城 古都音』が居ました。しかも忍び装束で、お母さんは専業主婦ですが、たまに国から忍者としての仕事がやってきます、なんの仕事なのかは詳しく知りません。
そして、お母さんが百科にぃを両手で包みこんだ後に頭を下げた。
「......お母さんの方こそ御免ね。貴方を人として生んであげられなくて、でも、お母さん安心してるの」
「■?」
「百華、貴方は姿形は人ではないわ。けどね、心は人のそれよ。だから安心しなさい。貴方は既に人と対等よ」
「■■■■!!」
百華にぃが根っこを伸ばしてお母さんの頭に巻き付ける。なんか、こっちまで泣けてきたよぉ。
「ち、ちくしょぉ! 百華、すまねぇ! お前の悩みに気付いてやれなくてよぉ! うあああああああ!!」
十夜ねぇが号泣する。私だって、私だって......。
~語り手変更中~
百華です。なんか、今日はずっと心につっかえていたものが一気に取れたような気がしてスッキリしてます。
ハッキリ言って、僕は幸せ者です。昔は、お母さんを恨んで、兄妹達を妬んで、その上、幼稚園でも小学校でもイジメられて、僕の心の中はぐちゃぐちゃになっていました。
憎い、全てが憎い、なんで僕は人の姿じゃないんだよぉ!
そう言葉にしたくても、その言葉すら出ない。鏡で見る自分の姿が醜い、気持ち悪い、まるで絵本に出てくるような怪物のようだ。
僕なんて、生まれてこなければ良かった。
その気持ちすらも家族に隠してた僕は、よく近くの図書館に引き込もって本ばかり読んでいました。
何かを読んで集中してる時だけが、嫌な事から解放される至福の時でした。そんな時です。僕は彼女と出会った。
「あ、わたし、この本知ってるよ?」
「■!?」
その後も彼女は何故か奇怪な植物の僕によく絡んできました。
僕のこの姿を珍しげに見てるだけだと思っていた。
けど、違った。彼女だけは僕をちゃんと見てくれた。僕が彼女の知らないことを教えたら喜んでくれて、僕が何かに必死になると、彼女は僕を褒めてくれた。
そんなのを繰り返す内に、僕は彼女の事ばかり考えるようになった。
だから努力し続けたんだ。確かに僕は人と対等になりたくて努力した。だが、それは建前、本当は、彼女に振り向いてほしかっただけなんだ。
そんな想いすら隠していたなんて、そんな僕の心の壁を打ち砕いてくれたのは、紛れもない家族です。
今、ようやく生きてて良かったと思えた。今ようやく、この家族の一員になれて良かったと思えたのでした。
お母さん、お父さん、零花姉ちゃん、一兎兄ちゃん、十夜姉ちゃん、千菜、万璃、そして『神埼 栞』さん。君達に会えて、とても良かったです。これからもよろしくお願いします。
~おまけ1~
はぁい、私、心城家の専業主婦『心城 古都音』。今息子の悩みがようやく解決したわ。本当は気付いていたけど、でもこれに関しては、あの子自身の力で乗り越えなきゃならないと心を鬼にしていたつもりだったけど、まさか本物の鬼の娘が、息子の心の壁にヒビを入れるなんてね。
これはこれは、なんか一本取られた気分だわ。
心を鬼にしたつもりが仇になっていたなんて、私も母親としての修行が足りないわね。
「!?」
「うぅ、ぐす、ど、どうしたよぉ、お袋ぉ」
「......十夜、千菜と百華を連れて先に家に帰って、お母さん、ちょっと用事を思い出しちゃった」
「え? お、おい! お袋!」
あぁもう! 感動のシーンに部外者が来るな。まったく。
私は近くの裏山まで走った後に、私達を『監視』していた不届き者に向かって呼び掛ける。
「家族水入らずを邪魔しないでくれる? 『都会音』」
都会音。私の事を疎ましく思っている忍者。まったく、空気読んでよね。
「家族? 随分な言い様だな、化け物の子を六匹も生んだ女が家族を語るか」
「化け物? はて、私の子供に化け物なんて一人もいないわよ?」
「何を言っている? 魔王と契りを結んでおきながら......」
「居ないわよ。確かに私の子供達は一人も人間ではないわ。けどね、『化け物』は一人も居ないわ、そこんとこ勘違いしないでくれる?」
「......ほぉ」
「真の化け物ってのはね。他者の命を奪っても何も感じない奴の事を言うのよ。かつての私やあなたのような、ね? 」
「なるほど、確かに、その点で言えばお前の子供は化け物ではないな。だが覚えておけ古都音」
「......」
「お前達家族の平穏なんぞ、その気になればいつでも壊せる事をな」
「何? この私に脅し?」
「違う、警告だ。お前は生まれた時点で我々の所有物なのだ。もし我々に逆らえば......」
「それだけ言いに来たの? だったらもう帰っていいわよ」
「何?」
「聞こえなかった? 私はこの後、愛する家族に晩御飯を作らなきゃならないのよ。それを邪魔するならあなたでも消すわよ? 都会音」
はぁ、私は特に都会音に対して何とも思っていないけど、さすがに分かりきってる事をネチネチ言われると......今日の晩御飯にしたくなっちゃうわね☆ ふふ、うふふふふ。
「......ふ、一番の化け物は『人間』であったか。出来ればお前と闘いたくない。精々家族ごっこを満喫することだな、さらば」
「......」
ムカつくわね。国の飼い犬風情が、言われなくても分かってるわよ。私は、例えこの身が朽ちようと、私は家族全員を幸せにするつもりよ。
その障害は、誰であろうと容赦なく、
━━━━消してやるわ。
~おまけ2~
「万璃」
「あ、百お兄ちゃん」
「ふぅ、筆談無しで会話出来るのは万璃だけだな。今朝言っていた事、覚えているか?」
「あ、うん。と、その前に百お兄ちゃん、おめでとう! やっと神埼さんと恋人同士になったんでしょ?」
「ああ、千菜にでも聞いたか? ほとんどノリと勢いだったが、結果オーライだ。さて、次は妹との約束を果たす番だな」
「う、うん! よろしくお願いします!」
「......」
「......ふ、く」
「痛かったか?」
「う、ううん。くすぐったかっただけ、やっぱり百お兄ちゃんの『耳掻き』はとても気持ちいいです」
「こんなので喜んでくれるの万璃ぐらいだろうなぁ」
「いやいや、んな事ないぞ百華」
「一兎兄ちゃん......ん? そう言えば、一兄ちゃんの超能力の中に......」
「うん、テレパシーがあるな。だからこうしてお前とも会話出来るけど、今まで隠しててごめんね」
「......じゃあ、ずっと知ってたの? 僕の悩み......」
「うん知ってた、けど、お前の心の中、なんかぐにゃぐにゃしててキメェwって思っててさ、中々言えなかったけど、今のお前の心の中はとても澄みきっていて綺麗になったから打ち明けたんだ」
「......」
「さぁ百華! 万璃が終わったらお兄ちゃんの耳もお願......い?」
「兄ちゃん、安心して、耳だけじゃなく、全ての穴を掻いてあげるからね」
「え、ちょ? ひゃ、百華さん? そ、そんなに沢山の根っこを触手みたいに伸ばさないで、あ、あ、あ」
アッー!!
「は、はわわ、一お兄ちゃんが鉢植えみたいになっちゃったですぅ......」
......お、おやすみなさい......がく。
~おまけ3~
「ただいまー」
私は『心城 不死義』。心城家の大黒柱だ。また残業で遅くなった。もう今頃みんな寝てるだろうなぁ。
「う、うぅ」
「ん?」
リビングに向かうと、娘の『零花』が泣いておる。
「どうした零花?」
「うぅ、お、お父さん、お父さぁぁぁぁぁぁん!!」
娘が私に泣き付こうと飛び出すが、零花は幽霊なのですり抜けてしまい、そのまま零花は床下に顔面ダイブをしてしまった。
「......何を泣いているんだ?」
「う、うう、じ、実はね、かくかくしかじか」
「!!!? ひ、百華にこ、ここここ、恋人!?」
驚いた、まさか息子に恋人ができるなんて、一番家族の中で恋とは無縁そうだと思っていた、あの百華が......。
「そうなのよぉ、私まだ恋もしてないのにぃ、弟に先越されたぁぁぁぁ」
えぇ......嬉し泣きじゃなくて悔し泣きだったのか。
「う、うむ、しかし、相手が神埼君なら安心だな。それに零花。お前まだ19だろ? お前にもまだまだチャンスはあるさ!」
「無いわよぉぉぉぉぉ! 一兎だって、輝美ちゃんといつかくっつくかもしれないし! 十夜ちゃんも千ちゃんも万璃ちゃんも、みんなそのうちお姉ちゃんを置いて恋をするんだわぁぁぁぁぁぁ!!」
あー、まずい、こんなとき父親としてどうしたものか......!
「よし! お父さんがお見合い相手を探してきてやる!」
「え?」
「絶対にお前に見合う男を連れてくるから安心しろ!」
これでどうだ!?
「......本当?」
「本当さ」
「あ、あ、ありがとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
また零花が私に抱き付こうとして、すり抜けて床に激突した。勢いで言ったが、これも娘の幸せの為、お父さん頑張るぞ!
「それでだ零花。お前の希望とかはあるか?」
「うん! あのね。背がわたしより高くて、歳は上でも下でも可、あーでもでも歳は三つ以内までにして、離れ過ぎるとなんか甘えにくいし、誰に対しても気さくな態度でユーモア溢れる人が良いなぁ、多少の我が儘に対しても寛容で、滅多な事がない限り怒らない温厚な人がいいなぁ、あーでも、もしそんな人が居なかったら言動や態度が悪くても浮気しないならOKよ! 強引で乱暴な人でも、そんな人に壁☆ドンされたらわたし、絶対胸キュンしちゃうから! キャーッ! 職業は営業系か公務員系の人が良いかなぁ、将来の事も考えると、やっぱり高収入の人が良いし、家柄も高貴な御方が良いなぁ、あ、でも忙し過ぎてお父さんみたいに家族との時間が取れない人は嫌かな、やっぱり収入は大事だけど好きな人との時間の方が大事だし、休みの日は何処か旅行とかに連れてってくれる旅行好きな人が良い、特にわたしを知らない世界へと案内してくれる素敵な人が良いの、ああ、そんな人に口説かれたいよぉ......ダメ、かな? お父さん?」
「......ゑッ!? あ、ああ、うん! その程度の相手、お父さんが魔王だった頃の人脈を使えばすぐ見付かるぞ!」
「わーい! わたしにも春が来たぁぁぁぁぁ!!」
ど、どうしよう。途中から全然聞いてなかった......明日休みだし、取り合えず探してみるか。
『心城 不死義』 緊急クエスト『娘、零花のお見合い相手を探す』
頑張って下さい!
おおう、お父さんに緊急クエストが。
お姉ちゃんのお見合い相手どうしようかなぁ......次の次の次にやるお姉ちゃん回でお見合いさせようと思います。
次回は、天使な妹『万璃』ちゃんの話です。
では、さらば!