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心城さんちの変な家族  作者: 心之助
2/9

二日目「私の変態な兄貴」

 今日は兄貴回です。

 千菜ちゃんの出番は少な目だと思います。

 おはようございます。『心城 千菜』です。


 さて、今日は私の上の兄『心城 一兎』にスポットを当てたいと思います。


 一兎、私は一にぃと呼んでいる。一言で言えば変態だ。

 まず存在そのものが変態でふざけてる。

 一にぃは人間ではなくウサギさんなのです。


 こいつ何言ってんだ? と思いたくなると思いますが、何故か一にぃはウサギです。事実です。


 ちなみに私は普通の人間です。ウサギさんではありません。


「おっはー! 今日も千菜は可愛いのぉ、ぐへへへへ」


 淫獣が朝食を食べている私の顔の前に現れた。


 しかし、私は特に気にせず朝食を食べ続ける。もう馴れたので、


「ほぉら千菜、お兄ちゃんがウィンナーを口移ししてあげよう」


 淫獣がウィンナーをくわえている。ウサギだからと言って草ばかり食べている訳ではなく、一にぃは普通の人間と同じ食事をとることが出来る。


 だが、肉食のウサギって、なんかやだ。


「要らない。ウサギって口の中バイ菌だらけで、キスしたり口移しなんてしたら体調崩しちゃうから要らない」


「ガーン! 実の兄をウサギ扱いとは......いくら可愛い妹でも、これはいかに!?」


 それはこちらの台詞だ。どう見てもウサギだろ。

 というか食べ物で遊ぶな、食材に失礼だろ。


「よく見ろ千菜! お兄ちゃんは、ちゃんと毎日歯を磨いてるぞ!」


 と、一にぃは私に口を大きく空けて清潔な口をアピールしてるが、食事中に汚いことすんな。


「おぐぅ!?」


 さっき一にぃがくわえていたウィンナーを一にぃの口の中、喉の奥深くに捩じ込む。


「おっぶ!? おっぶ!? ......ぷはぁ、死ぬかと思った。でも、妹にあーんされるなんて、昇天しそうだなぁ」


「よし『万璃(まり)』。一にぃを天国に連れてってあげて」


「ふぇ!? わ、わたし、天国に行った事ないから、うぅ、ご、ごめんなさい」


 そうかぁ、妹の万璃は天使だから、この兄貴の魂を天国に連れてってくれると思ったが残念。


「ふぅ、勝手に兄を殺すなよ」


 うん、こんな淫獣さっさと駆逐したいです。


 そんなこんなで登校の時間。昨日のようなバタバタはなく、今朝は余裕を持って家を出る。


「行ってきまーす」


「■■■■■■」


「いってきま、ちゅ!? は、はぅぅぅ」


 妹の万璃が噛んで赤面する。あんな淫獣兄貴なんかよりも妹の方が可愛い小動物だな。


 ふぅ、


 と、ここからが問題、今回の話は一にぃにスポットが当てられているのに、私と次男の『百華(ひゃっか)』にぃは同じ中学校へ、一にぃは高校生なので高校に、中学生である私が語り手である以上、明らかに高校生活を送る一にぃを語る事が出来ないので、


 こんな時は語り手チェンジをします。


 こんな感じに、私では語る事が出来ない部分を別の人に交代するシステムを今後導入致します。


 多少メタいかもしれませんが、この話を読んで下さってる皆様への配慮でもあります。


 ~語り手変更中~


 やぁ! 妹に代わってこの『心城 一兎』が自身の高校生活をみんなに伝えるよ!


 妹達と別れて俺は家から自身の高校に瞬間移動する。


「キャー! 心城せんぱーい!」


「こっち向いてー!」


 そう、俺は見た目ウサギだが、人間のメス共にやたらモテるのだ。


 ここぞと言わんばかりに、このメス共は俺が瞬間移動して現れる場所を把握しており、何処に現れるのかほぼ全て網羅してやがる。


 だったら移動先を変えればいいんじゃないの? そう思うだろうが、ほぼ無駄、何故かメス共にバレてしまう。


「......はっはっは! おはよう諸君! 今日も素敵な一日なるといいね!(ウィンクッ)」


「「キャー!!」」


 おげぇぇぇぇぇぇぇ、自分でやっといてあれだが、おげぇぇぇぇぇぇぇ、きっしょくわる。


 取り合えず、学校では周囲の好印象を保つ為にあの手この手を尽くした結果がこれだ。


 なんか、俺が考えていた高校生活と違う。こんなメス共に向けて上っ面だけの言葉を並び立てる仮面優等生面をしてる自分に吐き気がする。


 というか、さっさと教室行こう、基本俺は手ぶらだが、実家の自室にノートと教科書を置いてあり、授業に合わせて家から瞬間移動で教室に持って来ることが出来るから便利だ。


 んで昼休憩。


 やっべぇ、息が詰まる。もう転校しようかなぁ。 この気持ちを和らげるにはやはり千菜をからかうに限る。


 て、事でマイシスターが居る中学に向かうとしよう。


 瞬間い......。


「待ちなさい心城 一兎! 今日こそは......」


「待たぬ」


「ちょぉ!?」


 え? 今の? 気にすんな、ただの俺の追っかけの一人だ。正直相等うざいがな。


「やぁ千菜」


「ぶほぉ!?」


 僅か一秒で到着。どうやら千菜はトイレの中でサンドイッチを食べていたようだ。


「おや? これはぼっち特有のぼっち飯かな? ニヤニヤ」


「ち、違うわい! てか、来るんなら時と場合を考えてからにしろ!」


「いやいや、俺は妹の居場所はどれだけ離れていてもなんとなく判るけど、まさか女子トイレに居るとは思わなかったよ。てへ」


「てへ、じゃねぇ!」


 もちろん、女子トイレに居る事は知ってたよ。むふふ。


 後から聞いたのだが、この時の千菜は弁当を食べた終わったけど、食い足りなかったので売店でサンドイッチを買ったはいいが、教室に戻って食べる暇がなかった、かと言って食べ歩きは、はしたないと考えた千菜は女子トイレでこっそり食べていたそうな。


 そっかぁ、さすがにぼっち飯じゃなくて、兄としては安心した。


 と、なんか女子トイレの外が騒がしいな。


「ねぇ、今一兎様の声が聞こえなかった?」


「え!? ホント!?」


 ちぃ、ハイエナ共が! もう嗅ぎ付けやがって、


「......一にぃ、もう戻った方が良くない? ニヤニヤ」


 くっ! 千菜をからかいに来たのに、からかい返された。


 渋々俺はハイエナ共の群れが来る前に退散する。


 そして、俺が高校に戻ったと同時に午後の授業が始まる。


 ......あーだり、なんで俺こんなにモテるんだ? ただ上っ面だけ優しくしてるだけなのに、全然理解できん。


 千菜が羨ましい、千菜みたいな普通の外見になりたかったし、千菜みたいな自分を偽らない性格になりたかった。


 ......だからか、俺はあの子に憧れてる。だから三人の妹の中であの子にばかりついつい、ちょっかいを出してしまうのかもしれない。


 あの子は俺の憧れだ、だから『あの子に自分の事を教えるわけにはいかない』。


 知ったら絶対、あの子はもう普通に戻れない。


 千菜は自分の事は知らない。知ってるのは家族の中でも両親と零花(れいか)姉ちゃんと俺だけだ。


 他の十夜と百華と万璃は知らない。けど、百華の事だ、いつかこの三人の中でいち早く千菜の正体に気付くだろうなぁ。或いはもう知ってるか。


 あの子も可哀想に、あんなに普通を愛し、普通を求めるその姿を、汚すわけにはいかない。


 なんせ俺は、あの子の兄貴だ。あの子には幸せになってほしい。


 なーんて、なんかシリアスチックになったが、気が付いたら午後の授業が終わってしまった。


 はぁ、やっぱ俺にシリアスは似合わねぇな。


 うざってぇ野次馬共に見付かる前に、さっさと下校するか。


 野次馬共の包囲網を掻い潜りながら、俺は学校の近くの河川に辿り着いた。別に今すぐ帰ろうと思えば帰れるが、やっぱ高校生の青春と言えば夕焼けの河川で黄昏るってな、俺は日々のストレスを千菜で癒す以外にも、こうして人気が少ない河川に寄ってボーっとするぐらいの事をしているのだ。


 ......はぁ、ぬぅぁんでこんな日々送ってんだ俺ぇ、嫌だぁ。普通になりたーい。


「やはりここに現れたな『心城 一兎』! 昼間はよくも無視してくれたなぁ!」


「おぉん?」


 んだよ。お前か、俺が黄昏てる時に間の悪い。


 今俺の目の前に現れた女は『戦条寺(せんじょうじ) 輝実(てるみ)』。かませ犬だ。


 ━━なんだその説明の仕方は! ちゃんとワタシの事を解説しろ!


 おいこら、何メタ発言してんだ、取り合えずコイツは、同じ高校の同級生で俺の追っかけの一人だ。が、他のメス共と違うのは、コイツ俺に敵意剥き出しという所か。


 俺は全然覚えてないが、昔俺はコイツに恥をかかせたらしく、その事を未だに根に持っているそうだ。


 そのせいなのか、コイツはしょっちゅう俺に決闘を申し込んでくる。本当にうざい。弱いくせに。


 当然、今のところ俺が全戦全勝してる。人間が魔王の息子に勝てるわけないだろ。


「今日こそ......は!?」


「じゃあな」


 猪女の相手なんかしてられん。俺は念動力でアホの制服だけを吹き飛ばして瞬間移動で家に帰る。やっぱかませじゃん。

 

「ふぃー、ただいまー」


『お帰りなさい一兎。今日もモテモテだったの?』


 家に着くと幽霊の零花姉ちゃんが出迎えてくれた。やっぱ千菜の次に零花姉ちゃんが俺の癒しかな。幽霊だけど。


『で、ところでさ一兎......女の子にモテるってどんな感じ? 今日も詳しくお姉ちゃんに教えて!』


 前言撤回。零花姉ちゃんは幽霊なので大学にも職にも就けないので、普段は一日中家に引きこもり同人誌を描いてる。よく霊体でペンが持てるなぁ。


 内容は全年齢対象の恋愛物語。だが、零花姉ちゃんは生前恋愛経験なんか一度もなかったので、異様なくらいモテる俺から同人のネタを搾り出そうとしてくる。


 家にも野次馬が......。しかも、この同人誌の主人公、まんま擬人化した俺じゃん!


 うわ、少女漫画みたいな画風でイケメン化した弟を描くの止めてくれぇ!


『どおかな? 今回もよく描けたでしょ?』


「......姉ちゃん。いくらなんでも擬人化した俺を美化し過ぎじゃない? 俺、こんなに目キラキラしてないよ?」


『えー? でも『人間』になった一兎もこんな感じじゃない?』


 そう、実は俺は、月に一度ウサギから『人間の姿』に変身することが出来る。


 それがいつ変身出来るのかに関しては、後で話そう。しかし、人間の時の俺って、他から見たらこんななの?......おげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、きっしょくわる。


 いや、姉ちゃんの同人誌は好きだよ? ただ、このイケメンすぎる上に上っ面な言葉を並び立てる自分って、きっしょくわる。


「......俺キモいな」


『え? 今更?』


 ひどっ!? あー、なんか散々だ。千菜でもからかうか。


「ちょっと行ってくる」


『え? 今帰ってきたばかりじゃん』


「お口直しに千菜からかってくる」


『あ、......一兎って、自己嫌悪し過ぎだよね。人間の時はあんなに格好いいのに』


 うるさいわい! さぁてと、千菜ちゃんはどこかなぁ? ふひひひひ。


 ......うん、やはり素の自分の方がキモくないな!


 今日はどんな登場の仕方をしようかなぁ? 千菜がビックリする方法がいいなぁ。


 よぉし、千菜のスカートの中に瞬間移動だ! 絶対ビックリするぞぉ!


「やぁこんにちは、お兄ちゃんだよぉ」


 うわ、真っ暗だ、けど目の前にうっすらと白い生地が見える。ほほう、今日は白か、でもこの下着。なんか腰回りにヒラヒラしてるものが付いてる。ほぉ、随分と可愛らしい下着じゃないか、ぐへへへへ。さて、千菜の恥ずかしがってる顔を拝むとしますか!


「......心城 一兎ぉぉ!」


 え? この声、千菜じゃない? ま、まさか......。


 俺は急いでスカートから出て顔を見ると、うげぇ!? さっき脱がした『戦条寺 輝美』!?


 アィエエエエエエエ!? 輝美サン!? ナンデナンデ!?


 ば、馬鹿な!? 確かに千菜のスカートの中に......!?


「き、今日は一お兄ちゃん来ないね......」


「いや、来てほしくないし、もし今度スカートの中に現れるような事があったら踏み潰すから」


「は、はわわわ、ぼ、暴力反対です!」


「■■■■■■」


 あ、あれは千菜に百華に万璃!? し、しまった! この女があの三人の近くに居たから間違えてしまったのか!? この長男の一兎、一生の不覚ッ!


 ん? てか、なんでコイツ妹達の近くに居るんだ? そもそもほんの数分前にコイツの制服を吹き飛ばしたのに、何故既に替えの制服を着てるんだ? どこに用意してたんだ?


「お、お前の妹達の近くに居たら、必ず現れると思っていたが......随分な登場の仕方だな」


「ちょ、おま!? なぁに人の妹達を監視してんだよ! それストーカーですよ! おまわりさーん!」


「ふ、ふふふ、だが、これでまたお前に対する恨みが募ったわけだ!」


 人の話聞けやーい! けー! イライラするぅ!


「かー! この際だからハッキリさせてやる! 俺が昔お前に何したってんだよ!」


「っ!? ま、まだ思い出せないのか!? あ、あんな、あんな......ゆ、許せん!」


 説明せいやーい! 理由も分からずにこう何度も襲われてちゃ、こっちも付き合いきれねぇよ!


 はぁ、めんど、さっさと軽く脱がしてから、今度こそ千菜のスカートの中に瞬間移動して、スーハースーハークンカクンカするとしますかぁ。


「ところで」


「あぁ?」


 なんだ? もう負け惜しみか?


「今日は『満月』だな?」


「......だから何?」


「お前が月に一度、人間になれる日、そうだな?」


「いや、だから何?」


「今夜、ワタシの屋敷に人の姿をして来い。そしたら、お前がワタシに何をしたのか思い出......せっ!?」


「じゃあな」


 馬鹿に付き合いきれるか、また制服だけ吹き飛ばして瞬間移動する。


「たっだいまー! お兄ちゃんだよー!」


 ふひひ! 今度こそ千菜のスカートの中に瞬間移動したぞぉ! うほぉ、今日の千菜は黒い大人っぽい下着を穿いて......。


「おい兄貴。千菜なら向こうだぜ?」


「ふぁ?」


 う、嘘だろ!? 俺は今度は一つ下の妹『十夜(とおや)』のスカートの中に瞬間移動してしまったようだ。


 な、なじぇに? た、確かに千菜の気配を感じた筈なのに......!?


「あ、お帰り一にぃ、ニヤニヤ」


「くぅ!」


 千菜の奴、大分知恵を使うようになったじゃないか!


 俺はどんなに離れていても、特定の人物の気配を感じ取る事が出来るが、離れ過ぎると正確な位置が判らなくなり、薄ぼんやりと感じる程度になる。


 さらに、もしその特定の人物が、第三者の近くに居たら、その第三者の気配と被ってしまって、どっちがどっちなのか判らなくなってしまう。


 だからである。千菜の奴、出来る限り一人での行動は避けている。なので千菜へのセクハラ成功率を上げるには、俺が近くに居るか、正確な位置を把握するか、或いは完全に一人になった時だけである。


 千菜にこの事を話した覚えがないが、さすがにバレたのか!? 超能力も、ある意味万能ではないのだ。


 今日は千菜へのセクハラは諦めよう。


 母さんの晩飯食って、テレビ観て、百華の好きなカードゲームの相手をして、最近寂しがってる十夜の相手を軽くして、千菜と万璃におやすみなさいをして、さぁて、寝るかぁ。


「か、一お兄ちゃん」


「ん? どうしたのかな万璃?」


「き、今日は、わ、ワタシと、一緒に寝て、くれません......か?」


「もちろんさぁ!」


 即答しちまった。基本俺は千菜だけ依怙贔屓(えこひいき)してるわけではない、小学生の万璃の事もちゃんと愛しておる。


 ただその、この子にはちょっかい出しづらいだけなんだよなぁ。


 この子、純真無垢な天使だから、なんか変にちょっかい出してしまうと罪悪感がハンパではない、さすがの俺でも自殺したくなるぐらいだ。


 だから俺は万璃に対してはちょっかい出さないよ。


「ほ、本当ですか! よ、良かったですぅ、最近一人で寝るようにしてるけど、や、やっぱりまだ怖くて......」


「おぉ、そうかそうか。じゃあ、お兄ちゃんと一緒に寝ようなぁ」


 んで、俺は万璃のベッドの中で、万璃に抱き枕にされる。......一部のロリコン諸君ならこの状況は歓喜すべきだろうが、悪いね。俺ロリコンじゃないんだ。


 さすがに妹相手に欲情するわけないだろ~。え? 普段からの千菜に対する行い? はて、何のことやら。


「ふわぁ、一お兄ちゃん。モフモフしてて気持ちいいです」


「そっかぁ、なら今夜は良い夢が見られるな」


「うん、おやすみなさい......すぅ、すぅ」


 万璃が寝息を立てて深い眠りにつく。


 おやすみなさい。



















 さて、事の真相を知るとするか。


 ━━今夜、人の姿をしてワタシの屋敷に来なさい、そしたらお前がワタシに何をしたのか思い出......せっ!?


 正直、このまま万璃の腕の中で寝たいが、明日もあの女に絡まれると思うと、気が気ではない。


 全戦全敗中の懲りないアホに引導を渡してやるか。


「少し離れるけど、すぐ戻ってくるね」


 俺は愛する妹の額に軽く口付けをして外に出る。


「......なんか、この月を見るのは嫌だなぁ」


 そうぼやきながら、俺は雲一つない夜空に浮かぶ満月を見つめる。


 すると、全身が大きく歪み、骨は軋み、肉は膨張し、どんどん大きくなり、次第にウサギの形から人の形に変形する。


 うん、こんなキモい変身シーンなんか誰得だよ。


「......あー、久し振りに見る目線だなぁ」


 人の姿になった俺は、なんとなく部屋にある手鏡を瞬間移動で召喚して、自分の顔を見る。


「......やっぱ零花姉ちゃん、美化し過ぎだわ。俺の目、キラキラどころかつり目で獣みたいな鋭い眼光してんじゃん」


 しかも、人になった俺は長身だ。普段の俺は全長60cmしかないが、人に変身すると195cmにもなる。目付き悪くて長身で、しかも人々が寝静まった夜の街を徘徊してたら完全に不審者だ。


「と、さすがにこの格好だと完全に不審者だな」


 今の俺は全裸だ。そもそも普段から全裸みたいなもんだから特に気にならんが、この格好で行ったら変態扱いされる(今更だよホント)。俺は父さんが昔使っていたライダースーツに一瞬で着替えて、あのアホ女の屋敷に向かう。


 ちなみに、父さんは昔バイクを乗り回していたそうだが、いつの話なのかは知らん。


「待っていたぞ心城 一兎」


「いちいち人の名前をフルネームで言ってて面倒じゃないか?」


「ふっ、そんな事はないさ。それに、まるであの頃のようだな」


「あ?」


「......いや、あの頃のようだな」


「覚えてねぇ」


「っ!? は、初めてお前とワタシが出会った時よ! 思い出しなさい!」


「は? お前と初めて会ったの高校の入学式だろ?」


「っ!! ど、どこまでもワタシの事をコケにしてぇ!」


 そう言って、アホ女は腰に差していた西洋剣レイピアを抜き放つ。おい、銃刀法違反......。


 たぶん気付いてるだろうが、この女『戦条寺 輝美』は、とある大企業のご令嬢だ。俺の高校では俺の次に男女問わずモテる女だ。


 最初は、自分以外にモテる俺を勝手に目の敵にしてると思っていたが、どうやら違うらしい。


 俺、コイツに何したっけ? 


「さぁ、ワタシの剣術でもって貴方に引導......を!?」


 また服だけ吹き飛ばした。が、それでも輝美のバカは俺に向かって渾身の突きを放つ。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 が、レイピアの切っ先は俺の喉に当たる1cm前で止まる。そもそも超能力者の俺に生身で勝てるわけないだろ。


「くっ、くそぉ!......!? ちょ、や、やめてぇ!? いやぁぁぁぁん!!」


 俺は、念動力で輝美を全裸のまま空中で拘束した後に、近くにあったエノコログサ(あの猫じゃらしみたいな雑草)でくすぐりの刑に処してやった。


 やはり、かませであった。


 取り合えず徹底的にくすぐってやった後に輝美を解放してやった。


「あ、あは、は、は」


 やり過ぎた。アホ面がより一層アホ面になってやがる。


「う、うう、な、何でよぉ、なんで『ワタシ』だって気付いてくれないのよぉ」


「......はぁ、もういい加減ネタバレしてくれ、俺は早く一人で不安がってる妹の元に戻らなきゃならんのだよ」


「妹......また妹、なんでそんなにあの子に構うのよ! あの千菜って子が何なのよぉ!」


 今俺が言ったのは万璃の方だったが、まぁいい、この際にこの馬鹿にハッキリ言ってやる。


「俺が千菜に構う理由? ......あの子は自分が何者なのか判ってない。だが、自分が何者なのか知ってしまったら、あの子は『この世界から一人ぼっち』になってしまう。そんな可哀想な妹を兄貴として放っておけるわけねぇだろ? 判ったらもう俺に構うな。次はその程度じゃ済まねぇぞ」


 そう言って俺は立ち去ろうとすると、輝美が聞き覚えのある名を口にする。


「......やっぱり、貴方は優しいのね『かずぴょん』は」


「え?」


 かずぴょん? ......!? あ、ああああああああああああ!!


「お前あの時のアイツかよ!?」


「や、やっと思い出したの!?」


 あー思い出した。コイツと俺は五年前に会ってるわ。


 当時の俺は小学生で、丁度満月の夜に人に変身してた時だ。


 俺が何となく夜の散歩をしてたら、月光に照らされ、ファンタジーでよく見るような不思議な屋敷の前に偶然居たんだ、そこで興味本意でその屋敷の門を飛び越えると、屋敷の前にある花壇の前で泣いてる女の子が居たんだ。


「何泣いてんだお前?」


「え? ......誰?」


 何となくそいつの相談に乗ってあげた。なんか詳しく知らんが、親に勝手に将来の許嫁を決められて泣いていたそうだ。


「いやならハッキリ言えば良いだろ?」


「で、でも、お父様には逆らうわけには......」


「けっ、くっだらねぇ、俺の父親は魔王なんだが、俺は散々父さんに逆らったり我が儘言ってるぜ?」


「え? そ、そうなの?」


「ああ、だって、俺は俺だ。親の言いなりになる生き方なんぞしたくないね」


「こ、怖くないの?」


「全然、むしろ、誰かの為に自分を押し殺して生きる生き方の方が怖いがな」


「......」


「あ? 俺の顔を見てどうしたんだ?」


「あ、あの、お名前は?」


「俺? 俺は一兎」


「じゃあ『かずぴょん』だね。ねぇかずぴょん」


「あん?」


「ワ、ワタシ達が将来大きくなったら、ワタシとけ、結婚してください! たった今貴方に惚れました!」


「え? やだよ」


「ガーン!!」


 そして今に至る。


「な、なんであの時、断ったのよぉ!」


「え? だって俺妹の方が好きだし、あの時のお前泣いてばかりでうぜぇと思ったから」


「ひ、酷い......あの後、初めてお父様に反発したのにぃ......」


 あ、また泣く気だ。


「ふぐぅ、も、もう泣かないわよ!」


 めっちゃ無理してるじゃん。てか、コイツが言ってた恥って、求婚を断った事だったのかよ。


 で、高校で再会して、俺にその時の八つ当たりをしてたわけか、面倒な奴。


「じゃ、俺帰るから、明日からもう決闘とかせず、普通に接しろよ? じゃあな」


「ま、待ってよかずぴょん!」


「その呼び方止めろ!」


 そして俺は帰宅する。本当は万璃の布団の中に戻るべきだろうが、今の俺は人間の姿、この姿で小学生の妹の布団の中に入ったら、確実に事案発生してしまう。


「む? 一兎、お前最近、夜遊びが多いな」


「父さん......」


 家に着くと、仕事帰りの父さんが居た。


 やっぱり家でも漆黒の鎧を着てるのか。


 なんか、折角だし父さんに『あの事』を聞いてみるか。


「なぁ父さん、ずっと気になっていたんだが、俺が異常なくらいモテるのは、何か原因でもあるのか?」


「ん? あるが、気になるのか?」


「まぁな......て、あるんかよ!?」


「いや、お前が全然その事で私に聞いてこないから、もう知ってるのかと......」


「......で? 何なんだ?」


「......」


「......」


「......教えなーい!」


「はぁ!?」


 見た目厳ついオッサンが何言ってんだよ!?


「そんなホイホイネタバレしてたら人生面白くないだろ?」


「ざっけんな! 俺の高校生活がかかってんだよ!」


「ふはははは! そんなに知りたくばお父さんを倒してからにするんだな!」


「上等だゴラァ! 人になった俺がどれだけ強いか見せてやるよ!」


「よぉし、来い!」


「うるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」


 俺が父さんと一戦交えようとしたその時、今寝ているはずの千菜がいつの間にか現れていた。


 まさかの千菜の登場で、俺と父さんは驚いて尻餅をついてしまった。


「せ、千菜?」


「......一にぃ、父さん、こんな夜遅くに何やってるの?」


「い、いや、これはだな千菜......深い事情が......」


「そんなの関係ない、うちの決まり事もう忘れたの?」


 心城家の掟その一『どんな理由があろうと家族同士の私闘を禁ずる』


「これ、父さんが考えたやつだよね?」


「う、うむ......だってだって! 最近残業ばかりで子供達との時間が取れないじゃないかぁ! だからたまには息子の遊び相手になってやろうかと......」

「言い訳無用! 二人とも、お母さんに代わって私が説教してあげる!」


 その後、俺と父さんは千菜に小一時間怒られた。千菜は、我が家では一番普通の子だ。

 十夜みたいな怪力も、百華のような頭脳も持ち合わせていないが、本気で怒った時の千菜はそれらを凌駕するぐらい怖い。


 あまりの恐怖に、俺は元のウサギの姿に戻ってしまいました。


 俺、いつになったら普通の高校生活を送れるんだよぉ、いつかこの父親の口を割らせてやる!


 そう思いながら、俺は万璃のベッドに戻って深い眠りについた。


 ......おやすみ。


~おまけ~


 自分は戦条寺家に使える名もなき執事です。


 先刻、お嬢様の輝美様が、想い人である一兎様に決闘を申し込んでコテンパンにやられた後です。


「ふぐ、し、心城 一兎......ひっぐ」


 脱がされた挙げ句、泣いておられる。


 一兎様の前では泣くのを我慢してましたが、一人になった途端泣き崩れてしまった。


 お辛いでしょう。あんなに頑張ってもお好きな御方に振り向いて貰えない苦しみ、自分にも判ります。


 自分はお嬢様の健闘を讃えながら、替えの服をお嬢様にお持ちしようと思った時であった。


「心城 一兎ぉ......うひ、うひひひひ」


 !?


「や、やはり好きな殿方に脱がされるのは気持ちいいですわねぇ~。はぁ、明日もまた決闘を申し込もうかなぁ、あーでも、明日から普通に接しろって言われたし......あー! 今更そんなの無理無理! よぉし! 明日も決闘を申し込むわよぉ!」


 駄目だこのお嬢様、早く何とかしないと。


 自分は、お嬢様の醜態をこれ以上晒さないように、静かに服をその場に置いて屋敷に戻った。


 ふぅ、......転職するかぁ。


 『名もなき執事』。本日の全業務終了時刻・0:30


 お疲れ様でした。  

 

 おおっと! なんか意味深な事ばかり言ってるぞぉ、この兄貴はぁ。


 次回は次男の『百華』にスポットを当てた話です。


 それでは、さらば!

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