一日目「私の変な日常」
短編で終わらせるつもりだったが、まさかの連載スタート! 話自体は短編版からの続きでもありますが、どちらから先に読んでも大丈夫だと思います。
※今作のコンセプトは、出来る限り戦闘シーンは避けて、ごく普通(?)の日常を送る事を目的としています。
おはようございます皆さん。
私の名は『心城 千菜』。
心城家の三女にして14歳の女子中学生です。
私は普通の人間です。
ですが、私以外の家族は全員普通ではありません。
丁度今はリビングに家族全員が揃っているので簡単に紹介します。
まず心城家の長女『零花(19)』自宅警備員。
二年前に交通事故で死んでしまって、今は幽霊として生活してる。最近、霊体のまま食事が出来るようになりました(?)
長男の『一兎(17)』仁迅高校の二年生。
シスコンで超能力者で人語を解する謎のウサギです。妹の私にセクハラしまくる変態兄貴です。
次女の『十夜(16)』鬼ヶ島高校の一年生。
元・ヤンキーで鬼です。比喩ではなくモノホンの鬼。額から立派な二本のツノが生えてます。
次男の『百華(15)』私が通っている凡才中学の三年生。
常に学年トップをキープしている頭脳明晰で、常に鉢植えの中に埋まっている一輪の花です。どう見ても花ですが、私の兄です。嘘だと思うでしょ? 事実なんだぜ。
四女の『万璃(10)』光神小学校の四年生。
私の妹でアルビノの美少女にして天使です。マジの。小柄な体躯だが、天使なので羽があります。普段は服に隠れるぐらい収納してますが、本当は窮屈な思いをしてるらしい。
お母さんの『古都音(??)』専業主婦。
私達のお母さん。見た目は相当若い美人で、国に仕える忍者です。それ以外は詳しく知らない。
最後にお父さんの『不死義(39)』株式会社『真海重工』のサラリーマン。
常に漆黒の鎧を着続けている一家の大黒柱。かつては世界を滅ぼそうとした元・魔王です。私が生まれてからの14年間、一度もお父さんの顔を見ていません。なんで鎧を着続けているのでしょう? その兜をとって顔だけでも見せてください。
......カオスだ。ざっと私の家族を簡単に紹介したけど、カオスにも程がある。
みんな種族がバラバラなのに、なんで私達にはちゃんと血縁があるのか不思議です。
「おや? どうしたんだ千菜? 顔色が悪いぞ?」
「一にぃ......て、何処から顔出してんのよ!?」
私が家族の事で頭を悩ませていると、超能力者にしてウサギの一にぃ事、一兎にぃが、私の育ち盛りな胸の間から顔を出してきた。
これが一にぃの超能力の内の一つ『瞬間移動』だ。
この力で一にぃは、私が学校に居ようが、トイレに居ようが、お風呂に入っておろうが、神出鬼没に現れる。
だが、今朝の登場の仕方は過去最悪だ。体が小さいことを良いことに未発達な乙女の胸から顔出すなんて、
『もう、なんて所から出てくるの一兎。妹にセクハラするのは止めなさい』
「いやいや零花お姉ちゃん。これは兄として朝の挨拶と同時に妹の発育を確認しようと思って、あ......大丈夫! まだ望みはあるぞ千菜! だから気を落とすな!」
「いいから出てけバカ兄貴!!」
「ぶぎゃー!?」
「あーたく、朝っぱらからくっだらねぇことすんなよな兄貴」
とても行儀悪そうに朝食をほお張る鬼の十夜ねぇが、私と一にぃとのやり取りを見て呆れ果てたような視線を送る。
......悔しい。十夜ねぇの方が明らかに胸がデカイ、ボン! キュッ! ボン! がハッキリと体に現れたワガママボディをしている十夜ねぇが妬ましい。本当に去年まで中学生だったのかよ。
「十夜ねぇってさ、何をどうしたらそんなナイスバディになれたの?」
「お! お! 気になるか千菜! そりゃあれだ! 毎日の適度な運動と適度な睡眠......からの酒だ!」
「......酒って、十夜ねぇ未成年じゃん」
「バッカおめぇ、ノンアルに決まってんだろ? てことで千菜、お前も飲め......っ!?」
十夜ねぇが、私にノンアルコールビールの缶を渡そうしたその時、凄まじい寒気を感じる。
寒気が感じる方に目をやると、そこには笑顔だけどその内心は怒っているお母さんが......!
「あらあら十夜ったら、妹に何勧めてるの?」
「お、お袋、いやこれ、ノンアル......」
「でもお酒でしょ?」
「いやノンア......」
「お・さ・け」
「......はい、ごめんなさい」
粗暴で乱暴な十夜ねぇでも、お母さん相手には頭が上がらないようだ。
それもそのはず、最近知った事だが、魔王だった頃のお父さんを生身で倒して世界滅亡の危機を回避した大英雄でもあるお母さん相手に文句を言う訳にはいかない。
でも、お母さんは忍者なので、どれだけ大活躍したとしても誰もお母さんの活躍なんて知るよしもないのです。
......少し寂しいです。
「まぁまぁ古都音さん。十夜も昔に比べたら大分礼儀を弁えられるようになったんだし、そこは大目に......」
「あなたは甘やかしすぎですよ不死義さん」
「......はい、ごめんなさい」
漆黒の鎧を身に纏い威厳溢れるお父さんでもお母さん相手には敵わないようだ。
実質、この家の頂点は元・魔王のお父さんではなくお母さんなのです。
魔王より強いお母さんって一体......。
「お、お、お母さん、お父さんを悪くい、言わないで......」
アルビノで天使で妹の万璃がこの場の仲裁に入る。本当に心優しいな、マジ天使。
ふと、私はあることに気が付いた。あれ? てっきり家族全員いると思ったけど、私のもう一人の兄の百華にぃが居ない。
それに気が付いたのか、零花ねぇが庭先を指差す。
「......ラジオ体操?」
『と言うより、朝の日光浴じゃない?』
花である百華にぃは庭先で鉢植えから出て、根っこを足の代わりに、葉っぱを手の代わりにして、ラジカセから流れるラジオ体操の放送に合わせて体を大きく動かしていた。
百花にぃは植物なので食事は基本、水と栄養豊富な土と日光だけでいいのだ。つまり、体操しながら光合成という食事をしているのです。
「■■■■、■■■■」
植物なのに、百華にぃはラジオ体操に合わせて声を発している。何処に声帯があるのか謎だ。と言っても、正直何を言ってるのか判らないが、大体言いたいことは判る、家族なので。
あ、と私は時計を見ると、時間が大変な事になっている事に気が付きました。
「み、みんな! 時計見て時計!」
「!? や、やべぇ! おい兄貴! あたしを高校まで瞬間移動してくれ! これ以上単位を落とすわけにはいかねぇんだ!」
「......はー、面倒な妹だな。さっさと着替えてこい」
「わりぃな!」
十夜ねぇは寝間着から制服に着替えて、一にぃは瞬間移動で十夜ねぇを高校まで送る。正直私も、百華にぃも万璃もお父さんも、このままでは遅刻してしまう! 何を悠長にしていたのやら。
一にぃが十夜ねぇを送った後に戻ってきたが、私の中学校では瞬間移動を使った登校は禁止されているため、私は一にぃに頼ることなく急いで制服に着替えて、百華にぃを鉢植えに入れた後に、私は百華にぃが入った鉢植えを抱えて、妹の万璃と共に家を出て急いで学校を目指す。
「いってきまーす!」
「■■■■■■■」
「行、てきま、す」
ちなみに、何故うちの中学校では瞬間移動禁止なのかは、いつか話します。
「千お姉ちゃん、時間ないから、と、翔んでいっていいか、な?」
「え? でも、翔んだら下からスカートの中が......」
「だ、大丈夫、今日は下に体操着を穿いてる......から」
「よし! 飛行を許可する!」
「う、うん、じゃあね千お姉ちゃん、百お兄ちゃん」
私が飛行を許可すると、万璃は135cmの体を遥かに越える全長2mの大きな羽を広げて大きく空へ羽ばたいて行った。
うん、一にぃも万璃も、特殊な移動法があって、逆に羨ましいな。ちくしょう。
私は百華にぃを抱えて全力疾走。なんとかギリギリセーフだった。
危ない危ない、途中百華にぃを落としかけたが、なんとか無事学校に到着。
「やぁ、今朝は随分と遅かったね二人とも」
「ぜぇ......ぜぇ......お、おはようございます神埼さん」
「■■■■」
正面口を潜って内履きに履き替えると、そこには百華にぃのクラスメイトにして、百華にぃの幼馴染みの眼鏡美人『神埼さん』が待っていてくれていた。
「か、神埼さん! 時間ないので兄をよろしくお願いします!」
半ば強引に百華にぃを神埼さんに押し付けて、私は教室に向かって廊下を走......る訳にはいかず、小走りで教室に向かう。
「......君の妹ちゃんにしては今朝は随分と遅かったね。何かあったの?」
「■■■■■■■」
後ろで神埼さんと百華にぃが私のことで会話していたが、気にしてる暇はないので教室へと急ぐ。
「セーフ!」
「なわけないだろ」
間に合わなかった。すでにホームルームが終わっていた。小走りするんじゃなかった。
担任の内田先生に注意されて私は渋々席に着く。
「珍しいね。千菜ちゃんが遅刻だなんて」
「あー、その、自分でもなんで遅れたのか判らない......今朝の十夜ねぇのせいかな?」
遅刻の言い訳を十夜ねぇのせいにしてしまった。なんかゴメン。
「よーし、みんな席に着け、授業を始めるぞー」
内田先生の号令と共に、日直であり、私の親友でもある『式子ちゃん』が起立、礼、着席をして午前の授業が始まる。
ふぅ、朝からバタバタしてしまった。だが、私は学校に居る時間が好きだ。
今朝紹介した通り、私の家族達は異常だ。普通の生活に憧れている私からすると、唯一普通の女の子として居られるのが学校に居る間だ。
まぁ、上の学年に百華にぃが居るが、基本的には放課後までは百華にぃと会うことはほとんどない、会うとしたら、昼休憩の際に神埼さんが一緒に弁当を食べに百華にぃを連れてくるぐらいか。
いやー、普通が一番。普通が最高だ。普通万歳。
「やけに嬉しそうだな千菜。何か良いことあったの?」
「うん、実はね......て、なんで一にぃが居るのさ?」
「むふふ、ランチのデザートに妹成分を補給しようかと思ってね」
私の普通を崩壊させる要因でもあるウサギの一にぃが、私の席の机の上に座っていた。
何が妹成分だ。妹にセクハラばかりする淫獣のくせに、そもそもうちの学校に一にぃは来てほしくない。だって、
「きゃー! 一兎様が来てくれたわよー!」
「今日こそはハグさせてー!」
このセクハラ淫獣の何処が良いのやら、一にぃは人間の女性にモテる、ウサギのクセに、家では淫獣だが外では誠実な紳士を演じているのだ。
そのせいなのか、一にぃは異様なくらいモテる。
「ハハハ! 騒がせてすまないね諸君。折角の皆さんの貴重な休み時間を妨害してすまない」
「そんなことありませんわ一兎様!」
「は、はぁ......も、もうダメ......一兎様優しすぎる......パタリ」
やっぱ変だ、喋るウサギがこんなにモテる訳がない。もしかして、何かしらの超能力を使っているのか?
いや、そんな筈はない、何故なら......一にぃは妹の私にしか興味ないのだ。他にも十夜ねぇと万璃と言った他の妹達が居るのに、何故か私だけ溺愛している。
そんな一にぃの事だ。内心は、
━━はーうざ、俺は妹に会いに来ただけなのに、関係ない奴ばかり騒ぎやがって......千菜もこれぐらい騒いでくれないかな? そしたら許す!
とか思ってんだろうなぁ。
━━正解。さすがは我が妹。
━━ちょ!? またテレパシーで人の心を読まないでよ!
━━はっはっは、いい感じに慌ててるね。さて、充分妹成分を補給出来たし、そろそろ学校に戻るか。瞬間移動!
「あぁん! 待って一兎様ぁ! 」
頼むからうちの兄貴に様付けは止めてくれ。
こっちが恥ずかしい。
「はぁ、やっぱり千菜ちゃんのお兄さんって素敵だねぇ、ふぅ」
式子ちゃん!? おぬしもか!?
一にぃのせいで騒ぎに騒いだ昼休憩が終わり、午後の授業が始まる。
私の席は窓際なので、ふと校庭を見ると、百華にぃのクラスが体育をしていた。
百華にぃは頭がいいだけでなく運動神経もいい、今は100m走で、他のクラスメイトをドンドン追い越して行く、てか、百華にぃって体が軽すぎるし、小回りがきくから、ちょっとした反則では? 突っ込んだら負けか。
「■■■■■■!」
走りきった百華にぃがこちらに気付いたのか、こちらに向けて手(葉っぱ)を振っている。
取り合えず私は手を振り返した。
「お、心城、お前この問題解けるのか?」
「え? あ、ちが......」
「よぉしよし、では前に出て解いてくれ」
勘違いされた。手を振っただけであって、手を上げた訳じゃないのに......ちくしょぉ。
ま、解けるけどね。この程度なら。
問題を解いたら先生に褒められました。むふー。
席に戻って、もう一度校庭を見ると百華にぃが風に飛ばされてました。
......軽すぎだろ、あんなに軽いのによく100m走トップだな。
そんな感じで、午後の授業が終わって放課後。
「やあ、待たせたね千菜ちゃん」
「あ、神埼さんに百華にぃ」
「■■■■■■■」
神埼さんが鉢植えに入った百華にぃを持ってきてくれた。
「あの、いつも兄を持ってきてくれて、ありがとうございます」
「いいのいいの、好きでやってることだし」
うーん、やっぱり気になる、百華にぃと神埼さんは確かに幼馴染みだ。だからと言って、毎朝正面口で百華にぃが来るのを待っていてくれたり、放課後はこうして百華にぃを持ってきてくれる、なんでここまでしてくれるんだ?......まさか、ね。
「神埼さんって、百華にぃのことが好きなんですか?」
「んん!? 」
あ、つい口を滑らせた。わざとじゃないよ?
「う、うーん、えーと、そ、そうあれよ! 百華くんはクラスメイトだし幼馴染みだし、頭は良いけど移動に苦労してるから手助けをと......」
分かりやすい、花を愛でるのではなく、花に恋愛感情を抱くか、私は別に構わない。私には姉が二人も居るのだし、今更一人増えてもなんら問題でもない。百華にぃがオーケーだったら付き合っても構わないと思っている。
「も、もぅ、千菜ちゃん、お姉さんをからかわないの! め!」
この人可愛いな。つい口元が緩んでしまう、駄目だ、笑うな、堪えろぉ。
て、事で私は百華にぃと帰ることにした。神埼さんは部活があるらしく、式子ちゃんは家の用事で先に帰っている。
今日は二人っきりだ。なので百華にぃに聞いてみた。
「ねぇ、百華にぃは神埼さんと付き合わないの?」
「■■?」
首ならぬ茎を傾げる百華にぃ、百華にぃは頭がいいくせに恋愛方面は鈍感だ。どこのラノベ主人公だよ。
こりゃ時間掛かるな。しかし恋愛か、私はまだした事がない。恋って、そんなに良いものなのかな?
「好きです! 付き合ってください!」
「え?」
告白する熱い声が聞こえる。まさか私? なわけないだろ。一人でノリツッコミか、悲しいな。
今私達が歩いている通学路の角の方から今の熱い声が聞こえてきたので、私と百華にぃが覗き込むと、そこには十夜ねぇと一人の学ランの男子高校生が居た。
「お願いします!」
まさかこんな通学路で愛の告白とは、ある意味勇気あるな。
して、十夜ねぇの返事は......。
「うっせぇ、消えろ」
酷い、彼の勇気ある行動をあっさり踏みにじった。さすがは鬼、その額から伸びるツノは伊達じゃないな。
更に十夜ねぇは断った理由を付け加える。
「あたしはひょろいモヤシに興味はねぇ、出直してこい」
「は、はい! 自分! 必ず強くなって十夜さんに見合う男になってみせます!」
めげないな。彼はそう言い残し走り去って行く。私は勇気と不屈の精神を持ち合わせた彼の事を応援する事にしよう。
「......かー、色ボケ野郎が盛りやがってめんどくせぇ。おい、千菜に百華、出てこい」
「!? き、気付いてたの?」
「くは! 百華はともかく、お前は気配の消し方が下手くそだからな、すぐ気が付いたぜ」
気配って、そんなお母さんじゃあるまいし、そんなこと普通の私には出来ません。
「ところで、十夜ねぇはやっぱり恋愛とかに興味ないの?」
「ねぇな、だが、さっきのモヤシがあたしに見合う男になって戻ってきたら考えんこともない、ああいうバカはあたし結構気に入ってるからな。そう言うお前の方はどうなんだ?」
「私?」
「おう、他人の恋路ばっかり気にしてるお前の方はどうなんだ? いい加減男の一人や二人作ってもいいんじゃねぇか?」
「一人で十分です」
私の恋愛か。まだ実感湧かないな、そもそも将来好きな人なんか出来るのか?
出来たとしても、例え私がオーケーを出したとしても、たぶんすぐに交際は無理だろうなぁ。
十夜ねぇは大雑把だからノリで許すだろうし、零花ねぇは天然だから『いーよー』て、あっさり許すだろう。けど、問題は一にぃとお父さんか。
シスコンにして最強の超能力者でもある一にぃの承諾は困難だ。
仮に一にぃが許したとしても、次に元・魔王のお父さんからの承諾を得るには命が足りないのでは?
ま、でもやっぱり有り得ないな、私に好きな人なんて、零花ねぇのような天然美人でも、一にぃのようにキャーキャー言われるわけでも、十夜ねぇみたいなナイスバディでも、百華にぃみたいに頭がよくもない、妹の万璃みたいなお人形さんのような可愛さもない、どちらかと言うと地味だ。
地味子と言われればその通りだ。
異色の博覧会のような家族の中で唯一の普通な私、確かに普通は好きだが、あの家族の中に居ると、普通で地味な私が逆に異物に思えてしょうがありません。
「とか思ってないかお前?」
「......十夜ねぇまで一にぃみたいに人の心を読まないでよ」
「アホ兄貴みたいに心なんて読めねぇよ。でもお前は昔っからすぐネガティブに物事を考える癖があるからすぐ判るんだよ」
「さいですか」
「......」
「わっ!?」
十夜ねぇが私を抱き締める。その勢いで百華にぃの鉢植えを落としかけたが、私は落とさないように百華にぃの鉢植えを抱き締めた。
「■■■!! ■■!!」
私と十夜ねぇの間に挟まれて百華にぃが苦しそうにしている。
それでも気にせず十夜ねぇは、私を優しく包み込みながら頭を撫でてくれる。
「気にすんな、てのが無理あるわな、けどよぉ、一人で何でも抱え込むなよ、嫌なもん溜めすぎると心が悲鳴を上げちまうぜ?」
「......うん」
「だから、えーと、辛い思いする前にあたしらに相談しろ。何たって家族だからな!」
十夜ねぇが笑いかけてくる。眩しい、根暗な私なんかよりも十夜ねぇは眩しすぎます。普段は粗暴で乱暴なクセに、隙を突くかの如く急にお姉ちゃん面するから......つい甘えたくなってしまう。
「ずっるーい! ずるいずるいずるい! 十夜! 何自然な流れで千菜を抱き締めてんだ! ふざけるな!」
塀の上にいつの間にか一にぃが居た。ど、どこまで見てたんだ!? 十夜ねぇに甘えたいと思った気持ちが急激に冷めてしまう。
「ふざけるなは、......こっちのセリフだゴルァ!! 少しは空気読めやクソ兄貴ぃ!」
「あー! 言ったな! 兄をクソ呼ばわりしたなー!」
「るっせぇ! 大体兄貴は千菜に構いすぎなんだよ! .......たまには、あたしにも構えよな、たく」
「え? なんか言った?」
「っ!? バ、バカな兄貴を今からぶん殴るつったんだよぉ!!」
「おぉう!?」
十夜ねぇが私から離れて一にぃが居る塀を拳で破壊する。
皆さん、気付いてるでしょうが、十夜ねぇはツンデレです。照れ隠しで器物破損しちゃいますが、大目に見てください。
「はっはっは! そんなに兄に構ってほしかったか、ならば家まで競争しようじゃないか十夜」
「テメー! やっぱ聞こえてたじゃねぇかぁ! !」
赤面しながら十夜ねぇは飛んで逃げる一にぃを追い掛けて、この場から居なくなりました。
お願いだからあんまし十夜ねぇを挑発しないで、この塀みたいに次々と器物破損が多発してしまう。
......後で二人ともお母さんに怒られるな。
あれ? そういや何か忘れていたような......!?
「ひ、百華にぃ!? ごめん忘れてた!」
「■■■......」
私と十夜ねぇに挟まれていた百華にぃが押し花になってしまいました。
あわわ、と私は慌てふためいてしまいましたが、百華にぃは普通の植物ではないので、水をあげればすぐに復活します。
急いで自販機から天然水を買おうと思いましたが、今月のお小遣いのことを考えると......兄か、お小遣いか、悩んだ末、私が取った行動は。
「家まで走る! 百華にぃ! ドケチな妹を許して!」
「■......■......■」
なんか今朝もそうだが、今日は走ってばかりだな、普段から運動をしていない私には辛すぎる。
そして、家に到着と同時に急いで洗面所に向かう。
『おかえりなさい二人と......』
「ごめん零花ねぇ! 」
『ひゃん!? お、お姉ちゃんの中を通り抜けるの止めてよ~。びっくりするじゃない』
幽霊が何言ってんだ!
私は急いで洗面所の蛇口を捻って百華にぃの鉢植えに水を足す。すると、
「■■■■■■!!」
無事に百華にぃ復活。しかし怒られて百華にぃの往復ビンタを受けてしまう(でも手が葉っぱなので痛くありません)。
「はわ!? ふ、二人ともお、お帰りなさい......はぅぅ」
なんと、風呂場に妹の万璃が入っていて、丁度上がった所で鉢合わせしてしまう。
うちの洗面所は風呂場の脱衣所にあるので、たまに入浴中の家族の誰かと鉢合わせしてしまう事がよくあります。
はっ! と、思い。私は急いで百華にぃの目(?)を覆い隠す。
兄妹とは言え、さすがに妹の裸体を見せる訳にはいかない!
「■■■!!」
「わー!? 千お姉ちゃん! そのままじゃ百お兄ちゃんがボロ雑巾になっちゃうよー!」
この後、また百華にぃに怒られた。今日は本当にバタバタでしたが、お母さんが作ってくれた晩御飯をみんなで食べて、宿題をして、ようやく我がマイルームにてベッドインする。
疲れた。今日は色々疲れた。そういや、お父さん今日も遅かったなぁ。
また残業だろうか? いつか仕事のストレスで世界を滅ぼしてしまいそうな気がしてなりません。
頼むから休んでください。
そんなことを考えながら、私は深い眠りにつく、こんな変な家族だからマトモな生活は難しいかもしれませんが、明日は出来るだけ今日みたいにバタバタしないように、時間と心にゆとりを持って行動しようと思うのでした。
皆さん、おやすみなさい。
......あれ? 何か忘れてるような......気のせいか。
~おまけ~
「心城! お前いつになったら報告書提出するんだよ! 嘗めてんのか!」
「......申し訳無い部長殿」
私の名は『心城 不死義』。
現在上司からパワハラを受けている。
今はこうしてペコペコと理不尽に頭を下げているが、こう見えてもかつては、この世界を滅ぼそうとした非情なる魔王である。
が、今は改心して家庭を築き、家庭を支える為に普通のサラリーマンとして働いていた。
「てかお前、いつまでそんな鎧を着続けてんだよ! 社会人として恥ずかしくないのか? あぁ!?」
そう、私は家に居るときも、職場に居る時も、取引先に行く時も、常に漆黒の鎧を身に着けている。
これは、魔王だった頃の膨大な魔力がまだ私の中に残留し続けている為、それを外に出さないようにする為の防具でもあり、もう二度と人を殺めないようにする為の戒めでもある。
......本当は今すぐ鎧を脱いで全魔力を解放して、この憎き部長をぶっ殺したいのだが、今の生活を守る為に耐えるしかない。
そして、部長に残業を言い渡され、私は一人職場に残り報告書の作成に勤しむ。
本当は定時に帰りたい。出来る事ならば、家族と過ごす時間を増やしたいのだ。だが、それは今の私に許されなかった。
これも、魔王だった頃の罰なのか? 全世界を敵に回して、大勢の人間を不幸に陥れた報いなのか? 今ようやく『不幸』というものを理解した。
私が今感じている苦しみ、屈辱、嘆きを、私は大勢の人間にも味あわせていたのか?
だとしたら、私はなんと愚かな行為をしてしまったのだろう。
願わくば、過去に戻って魔王になる前の自分を止めるか、或いは私が不幸にした者達に対する謝罪を今すぐしたい。
だが、いくら魔王でも過去の改竄など出来る筈がない。
だから私はこれからも社会人として闘い続けよう、今の生活を、今の家庭を、妻を、子供達を守る為に、私は闘い抜いて家族全員幸せにしてみせる。
それこそが、私が傷付けた者達に対する償いだと私は考えている。
......疲れたな。報告書も大分出来たし、今日はもう帰るか。
私は戸締まりを確認しようと窓に近付くと、窓の向こうに先に帰った筈の部長が居た。
どうやら会社の向かいにある居酒屋で、同僚の荒井君と共に飲んでいたようだ。
荒井君は表面では笑っているが、私には判る、あれは無理矢理付き合わされて部長のご機嫌を取るための作り笑いだ。
過去の私ほどではないが、あの部長も充分魔王の素質があるな。
職場の権力を使って部下をストレス発散の道具として使ったり、女性社員にセクハラをしたりする。
何とも卑劣な、あの部長にはいずれ法の鉄槌を下さねばならん。
そう思っていると、なんか部長が空中でトリプルアクセルを決めていた。
え? 部長はいつの間にスケートを始めたんだ?
というボケは置いといて、部長は自らトリプルアクセルを決めた訳ではなく、一人の少女に殴り飛ばされたようだ。
「ぜぇ.......ぜぇ......ま、待てやゴルァ! 何処まで逃げる気だクソ兄貴っ!」
「おいおい、無関係な人を殴るなよ。ま、後で治療して上げるけどね」
「兄貴がチョロチョロ逃げるから当たっちまったじゃねぇかっ! てか、もう家過ぎてるぞぉ!」
て、あれは私の娘の『十夜』と息子の『一兎』じゃないか。
こんな夜遅くに何やってんだあいつら?
しかし十夜、グッジョブ! 帰りにノンアルを買ってあげよう。
それに、十夜が殴らなくても、もうあの部長は終わりだがな、パワハラとセクハラの現場はボイスレコーダーと隠しカメラでバッチリ確保済みだ、これを会社の上層部か労働基準局に提出すれば、あの部長は近いうちにクビになるだろう。
私は過去に妻の『古都音』さんに世界滅亡を阻止されたが、部長の会社内の地位を滅亡させる事に成功した。
やはり今の時代、武力よりも法の力が勝っているのやもしれない。
そう思いながら私は職場の戸締まりをし、消灯をして、警備員さんに挨拶した後に退社した。
これで少しはサラリーマンとしての闘いが楽になったであろう。
が、この時の私は、次なる脅威が職場に迫っている事など知るよしもなく、バカな息子と娘と共に帰宅するのであった。
『心城 不死義』 打刻申請:退社時刻・22:30。
お疲れ様でした。
こんな感じで千菜ちゃんと変な家族達の日々がスタートしました。目標は何話かと聞かれたら、飽きたら適当に止めるです。
ですが、最低でも24話ぐらいまで頑張ります。
ちなみに、短編の方でも明かしましたが、千菜ちゃんも他の家族同様に人間ではありません。
本人も自分が何者なのか把握しておりませんが、いずれ明かす時が来るでしょう。
て、ことでさらば!