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初めての魔王討伐7

「私は完全に場違いなのでは?」


思わずそんな言葉が私の口から漏れてしまいました。私では知覚すら難しいスピードとまともに受ければ一撃でミンチになりそうなパワー。

これが敵として最高峰の強さを持つ魔王と私よりも遥か高みにいるプレイヤーの闘い。


「…でも、押されてる?」

「ええ、そうね。後輩の前で格好つけたかったけど、ちょっと無理そう」


私を庇うように前に立っている八宵さんの顔を伺うことはできませんが、その背中や声色からは焦りの色がみえます。


魔王は姿を自由に変えられるという能力を上手く活かして、確実に決まったと思えるような攻撃でさえ盾のような腕を生やして受け止め、その腕が攻撃の手数を増やし鬼姫ちゃんを追い詰めています。

今や腕の数は9本、更に鬼姫ちゃんの素早い動きに対応するため顔が3つへ増え、阿修羅を思わせる姿へ変貌しており全ての顔は闘いが楽しいかのようにゾッとする笑いを浮かべています。

まるでいたぶるのが楽しいかのように相手の強さに合わせて少しずつ姿を変えているのも戦闘狂のイメージに拍車をかけます。


…しかし、最初から本気を出さないと言うことはそれだけ付け入る隙が有るということ。


「私が囮になります!」

「えっ⁉あなたでは…」


八宵さんが止めようとするのは分かっています。それだけこの場において私は圧倒的に無力で囮になったところで精々気をそらせる程度でしょう。

でも、それで鬼姫ちゃんが少しでも有利になるのなら…

私は八宵さんの制止を無視して自分の得意分野であるスピードで撹乱すべく武器を構え身を乗り出しました。


「え?嘘?」


腹部に痛みが走り、身体が動かなくり目の前が暗くなっていく。

最後に私の視界に入ったのは此方を一瞥すらせず、いつの間にか増えていた銃の様な腕から僅かな煙を漏らしている魔王の姿でした。


________________


「はっ‼」


視界が元に戻ると私は教会のベッドの上でした。

傍らには銭ゲバ神父が立っており、此方へ胡散臭い笑顔を向けています。

恐らく既に私の所持金からお金を抜き取っており、内心ではその資金を元に夜の街へ繰り出して遊ぶことを考えていることでしょう。

レベル30に満たないわたしのデスペナルティは僅かなお金のみなので殆ど私の妄想なのですが。


私は教会を出るとギルドへ向かって歩いていきます。

その足取りは重く、歩いている内に自分がいかに無力で役立たずだったか段々と実感が湧いてきます。

気を引くどころか気にも止めてもらえなかった。

確かに私は他の方達と比べレベルは低いですが、それでもスピードには少し自信が有りましたし、武器や防具だってこの街のショップで一番性能の良いものを万引きで手に入れていたので少しは通用するものと思っていました。

結果はご覧の通り。


「うぅ、皆に会わせる顔がない」


実際は私の被害妄想でギルドで一番レベルの低い私に八面六臂の活躍を期待している方はいないでしょう。

それは私も分かってはいますが分かりたくはない。

そんなところです。


ゲームであまり遊んだことがなかった私が初めてまともに遊んだゲームがこのゲーム。

わくわくしながら1日かけてキャラクターメイキングをして、わくわくして冒険の世界へ飛び込んだあの日。

万引き犯というこのゲームに似つかわしくない職業のせいもあって中々ギルドに入れてもらえませんでした。

一人でログインして一人でログアウトする、そんなオフラインゲームとあまり変わらない遊び方をしていた私を誘ってくれたクラマさんと四つ葉亭の方達。

早く皆の強さに追い付いてもっとゲームを楽しみたいという気持ちもあれば、その誘ってもらった恩を返したいと言う気持ちもほんの少し、ほーんの少し有ります。

その為にネットで検索して自分に合った装備やステータスの上げ方を考えて、戦闘の稽古もつけてもらいました。

でも、正直役に立っているか微妙なところ。

私がゲームを始めたのは後発組なのでなぜもっと早く始めなかったのか後悔ばかりです。


そんなこんなでとぼとぼと歩いていましたがギルドの前まで着いてしまいました。

中からは近所迷惑になるのでは?と思うほどの騒ぎ声が聞こえます。実際何度か苦情を入れられました。

このまま入口の前で立ち往生しててもどうしようもないので入るとしましょう。


「ただいまー」

「だから!隙だらけの所に最強の攻撃を叩き込むのはセオリーだろ!」

「加減ってもんがあるだろ!洞窟の中なんだからちょっとは考えろ!」

「だったら最初に言えよ!任せられたら全力出すだろ!」

「二人ともうるさいわよ。また苦情が来るじゃない」

「「はい!」」


クラマさんと瑠花さんが言い争いして八宵さんが諫めるいつもの光景です。


「あら、おかえりなさい」

「すいません、役に立てなくて」

「私の方こそ守りきれなくてごめんなさいね。それに他にも岩に挟まれて動けなくなってアイテムを使って帰ってきた人もいるから気にしないで」


瑠花さんとたかしさんの肩がビクッとなったので恐らくその二人なのでしょう。

八宵さんは私が倒された後、しばらく魔王と戦っていると他のプレイヤーが参戦してきて助かったそうです。

最終的には魔王を討ち取れず逃げられたそうですが。


「フッフッフ、今回収穫あるのは俺だけのようだな」


クラマさんがそう言うと白銀の剣を含め、大きな宝石が輝く指輪や鎧をテーブルの上に広げました。周りからオオッと感嘆の声が漏れます。どれもかなりの値段になるのでしょう。


「これを売り払った金で今日はパーッといくぞー‼」

「うぉーーーーー!!」「やったー‼」「ひゃっほー‼」


このゲームにおいて食べ物はただステータスがアップしたり回復したりするだけのものではありません。

むしろそういった効果がなくても人気な食べ物は数多く有ります。味覚がしっかりと再現されていていくら食べても太らない。

もう一度言います。


いくら食べても太らない。


これは乙女にとってかなり嬉しく女性プレイヤーが多い事の要因にもなっていて、いつもは無駄遣いにうるさい八宵さんも隠してはいますが、少しニヤニヤしながらそわそわしています。

私も例外ではありません。

テンションだだ上がりです‼


「どこ行きます?どこ行きます?なんなら私の行ってみたいお店ランキングが火を吹きますよ‼この前美味しそうなスイーツのお店を見付けたんですよ!」

「あぁ⁉行くなら肉だろ?」

「居酒屋がいっすね」

「ちょっとみんな落ち着きなさい。ここは冷静に中華でいきましょう」


負けられない闘いがここにある!

魔王?そんなものは前哨戦です‼本番で勝てばいいのです!

_______________


「「「かんぱーい!!!」」」


キンッとジョッキ同士が心地よい音を奏で、喉ごしのよい黄金の液体をグビッグビッと流し込む。

そう、ビールである。

プハァと思わず声が漏れます。


「しっかし、本当に旨いっすね。むしろ現実の世界より美味しく感じるっす」

「確かに。この為に遊んでると言っても過言ではないかもなぁ」

「そういや、この店の大怪鳥の焼き鳥は珍味らしくて美味しいらしいっすよ」

「何だそれ⁉私も食べたい‼即行頼め‼あと、面白そうだからこれも!」

「イエッサー!」


盛り上がっている男性2人と瑠花さん。

確かに美味しい。確かに美味しいですけど


「うにゃぁーー!また負けたー!!」

「うぅ、中華…。麻婆豆腐、ふかひれスープ、エビチリ、北京ダック…」


厳正なるジャンケンの結果、今回は居酒屋になりました。ここは焼き鳥に定評のあるグルメギルド「三本の串」の経営する居酒屋です。

あぁ、愛しのスイーツ…


「まぁまぁ、ここにも餃子やラーメン、デザートもあるっすよ」

「デザートとスイーツは違います!ズボンとボトム位違います!」

「どっちも一緒じゃねーか」


確かに悔しいです。魔王に負けてジャンケンに負けて完全敗北ですが ここの焼き鳥はお世辞抜きに美味しいのでせっかくなので楽しみましょう。

手近に合った串を手に取り、食べるとホルモンの様な食感と味で噛めば噛むほど旨味が出てきてとても美味しいです。


「これすごく美味しい。八宵さんも食べてみてください」


未だ落ち込んでいる八宵さんに後一本残っていた同じ串を薦めます。

美味しいものを食べれば幸せな気持ちになるのはものの通り。


「あら、本当に。何のお肉なの?」

「ジャイアントデスワームの臓物」

「ブボッ」「…オボロロロロ」

「汚え!」

「吐くなよ勿体ない。飲み込め」

「何でこんなもの頼んでるのよ‼」

「でも旨いっすよ?」

「美味しい不味いの問題じゃないです!」


皆でわいわい騒いで、美味しいものを食べて、また冒険を頑張る、何かこういうのって楽しい。

「へい、お待ち!」

「これは…幻の食材森の真珠と呼ばれる伝説のホワイト毒テングダケ!」

「そう、幻の食材森の真珠と呼ばれる伝説のホワイト毒テングダケをふんだんに使い、デスソースであっさりと仕上げたきのこの丸焼き!」

「ゾンビうめー!腐敗してる五臓六腑に染み渡る!」

「おっと、最後にこれをかけな」

「これは、虫をすりつぶした和風ソース‼あっさりとした味に更にあっさりを足すことであっさりに深みが出てスケルトンうめー!」

「まぁ、俺達舌が腐ってて味分かんないけどな」


次回「金策」


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