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初めての魔王討伐6

「……巨神の鉄鎚(ティタノマキア)


瑠花さんは飛び降りると同時にスキルを発動させました。

巨神の鉄鎚(ティタノマキア)。その名の通り巨神の如き力を唯の一撃に全て込めた鎚系武器最強クラスのスキル。消費MPや隙が大きい為普段はあまり使用しない切り札です。

瑠花さんの場合はこれに第二リミッターを解除したミケの超重量が加わり、落下中の今は重力すら味方にしています。これはもう巨神すら超えているのではないでしょうか。

まともに受ければ魔王ですら無事ではいられないはずです。


「マスター!空から女の子が!」

「あれは……、げえぇ、災厄娘!」


下で交戦中だった方々が瑠花さんの存在に気が付いたみたいです。何故黙っておくことができないのでしょうか。

もちろん、魔王を此方が討伐すれば報酬は減ってしまいますが、そもそも倒せなければ報酬は完全に0になってしまうというのに。

戦況が優勢ならばともかく、今は完全に劣勢だと思うのですが。あ、また一人倒されました。


PCの一人をその大鎌で引き裂いた魔王は他のPCの言葉に反応して頭上を見上げました。


「気が付かれたか。だが遅ぇ!くらえぇぇぇぇ‼」


瑠花さんの降り下ろす鉄塊と防御の為に振り上げた魔王の大鎌は激しくぶつかり合い、その衝撃で周囲にいたPC達は吹き飛ばされ壁に激突、私達の乗っている岩にまで余波が届き激しく揺さぶられました。


咄嗟に剛鬼さんが私と八宵さんを庇い、頭を出して下を覗き込んでいたたかしさんは体勢を崩して落下し、危険予知能力が高いクラマさんは隠し通路へ逃げ込んでいます。


瑠花さんと魔王の鍔迫合いで最初に悲鳴をあげたのは地面でした。

魔王が攻撃を受け止めた時既に地面には亀裂が入っていましたが、そこを中心に崩落していきます。

これは不味いです。床どころか壁、天井まで連鎖的に崩れてます。


「響ちゃん!飛び降りるわよ!」

「え?ちょ……」


瓦解していく岩から声が聞こえるのが早いか剛鬼さんが私と八宵さんを抱えて飛び降りました。


「まだ心の準きゃぁぁぁぁぁぁあ‼」


いくらゲームの世界だからと言って数十mの高さから飛び降りるのは正直怖いですが、八宵さんの判断は正しかったようで先程まで乗っていた岩は崩れてきた天井によって押し潰されてしまいました。

問題は着地です。飛び降りた先の地面はとうに崩壊し、まるで奈落の底のような暗闇が広がっています。

周囲は落ちてくる岩や騒音に包まれ瑠花さん達や他のPCがどうなってしまったのか全く分かりません。

剛鬼さんに抱えられている以上、八宵さんに全てを任せるしかないので観念して奈落の底へ落ちていきました。


ーーーーーーー


「響ちゃん、大丈夫だった?」

「はい、お陰様で助かりました。ですが、剛鬼さんが……」


落ちてくる瓦礫や落下の衝撃から私達を庇ったせいで致命的なダメージを受けてしまった剛鬼さんは鬼から紙の状態へ戻ってしまいました。


「しばらくすれば回復するから大丈夫よ。それよりもこれからどうするかが問題ね」


どれ程の距離を落ちてきたか分かりませんがうまい具合に空洞ができて押し潰されずにすみました。

下の階層の通路だと思うのですが、何階なのか見当もつきません。

ダンジョンを瞬時に脱出することができるアイテムもあるにはあるのですが、瑠花さん達がまだ魔王と戦っているかもしれない以上帰るわけにもいきません。


他のPCも二人近くに倒れています。

私達とは異なりそのまま落下してきたのでかなりダメージを受けてしまったようです。

現代のナイチンゲールを自負している私としては見逃す訳にはいきません。

というか、瑠花さんの攻撃が原因なので正直、申し訳ない気持ちでいっぱいです。


魔法の鞄からHP回復薬を二本取り出し、倒れている戦士風の男性と魔法使い風の女性の元へ駆け寄りコンソールを開くと、二人の名前を確認して呼び掛けます。



「大丈夫ですか?ソイ・ソースさん、ミオウさん。今回復しますから……あれ?」


このような格好の女性は先程いなかったような……。

私が違和感に気が付くのとほぼ同時に魔法使い風の女性の両腕が巨大な剣に変わり私の頭目掛けて高速で伸びてきました。

咄嗟に身を翻しましたが、頬に鈍い痛みが走り、僅かにHPが減ります。

地面を蹴って距離を取ると追撃はありませんでしたが、私を攻撃した腕とは逆の腕によって戦士風の男性が貫かれ、倒されてしまいました。

魔王の能力が変身だと分かっていたので、警戒してステータスも確認していたのですが、まさかステータスまで変えることができるのは想定外でした。

先程まで眠っているかのような顔でしたが、今は目が見開かれ、口は三日月のように口角が上がっています。

まるで笑っているかの様なその表情に思わず背筋が冷たくなり、今すぐにでも逃げ出したくなります。

戦いを……或いは一方的な駆逐を楽しんでいるかの様な表情。いえ、所詮はプログラムされているはずのNPCなので考えすぎですね。

しかし、怖い顔です。私の攻撃もあまり効かないでしょうし帰っても問題ないのではないでしょうか。


「攻撃が掠めた様に見えたけど大丈夫?」

「はい、大丈夫です。なので帰っても「下がってなさい。私が相手をするわ」


私の前に出てきた八宵さんは剛鬼さんとはまた別の式神を取り出すと短い詠唱と共に投げると剛鬼さんと比べるとかなり小柄な鬼が現れました。身長は私よりも低く、恐らく150cmもないでしょう。艶やかで長い黒髪の間からは一本の角が生えており、そのホッソリとした身体には一見動き辛そうな和服を纏い、角を除けば剛鬼さんに比べてかなり人間に近い外見。

彼女こそ八宵さんの切り札の内の一つ。人間をはるかに凌駕する力を持つ鬼にして万夫不当の鬼の姫…という設定で八宵さんが作った式神である。


_______________


「さて、鬼姫(きき)。かわいい後輩の前だから格好つけるわよ」


八宵はそう言うと複数の札を鬼姫へフワリと投げると身体へ張り付いていく。

防御力を上げる金剛の札、攻撃力を上げる鬼神の札、理性を失う代わりに身体能力を底上げする狂化の札、素早さを上げる疾風の札、魔法防御力を上げる魔封じの札、邪悪な敵に対して攻撃にボーナスを付与する破魔の札。

ただでさえ高いステータスが各種バフにより更に上がっていく。


「うぅ…うがぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁあ!!!」


理性を失い、狂気を纏った鬼姫はそのか細い外見からは想像も出来ないほどの大声を上げる。


「ぐるぉぉぉぉおおおおぉぉおおおぉぉぉぁぁあ!!!」


それに呼応するかのように魔王も人のものでない恐怖を掻き立てる声を上げる。先程まで人間の様な姿をしていたが、口はひび割れたかのように広がり、目はギョロりと大きくなり眼球が動き回っている。手足はより戦闘向きに変化し両手は更に巨大な刃となっている。身体も倍ほどまで膨れ上がった。


最初に動いたのは鬼姫。踏み込んだたけで地面にヒビが入り後方にいる響にまで移動によって発生した突風が吹き付ける。一瞬で距離を詰めた鬼姫の降り下ろした拳と魔王の刃がぶつかり甲高い金属音が響き、遅れて衝撃波が洞窟内を揺るがす。

魔王は逆の腕で切りつけるが鬼姫はそれを手の平で受けとめる。

受け止めた衝撃で地面が陥没する。共に鍔迫合いの様に両手が塞がると魔王の背中から刃となった腕が二本生えて顔と腹へ迫る。

鬼姫は顔へ迫る刃を噛みついて止めるが、腹へまともに斬撃を受けて吹き飛び壁へ叩きつけられ、魔王は4本の腕を伸ばし追撃を繰り出す。

鬼姫は体勢を低くするとその追撃を掻い潜り魔王の身体へ拳を突きだすが腹からは盾のような腕が生えて防がれてしまう。それでも構わず足を止めてほぼゼロ距離という至近距離から拳の連撃を繰り出し背後から迫る刃を避けると洞窟という場を活かして壁や天井を縦横無尽に駆け回り刃を避けながら攻撃を加える。


響にはそれはまさに人智を越えた闘いに見えた。いや、正確にはスピード特化でステータスを上げているがレベルは低い響ではその闘いを目で追うことすら困難であった。


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