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初めての魔王討伐

-Tips-

要塞国家「グランドヴァイス」

魔導大国「リーイス」

科学先進国家「サイエンフォス」

海洋国家「クラン」

四大国家。その他にも大小さまざまな国が存在している。

条件は難しいがPCによる立国も可能。

                   

         -Now Loading-


リーイスとサイエンフォスの国境付近に位置する街「イズ」は両国の特徴を色濃く受け継いでおり、このゲーム内でも珍しい魔法と科学が入り混じる街となっている。

その街の中心から程よく離れている、言い換えれば土地代の安い場所に私たちギルドの2つある内の1つの拠点があります。

見た目はオンボロで小さく、いかにも弱小ギルドで実際お金もありません。

ギルド名は「四つ葉邸」。総勢8名からなるこのゲーム内ダントツ最下位のギルドである。最下位と言うことは勿論昨日今日ゲームを始めた初心者が一人で作ったばかりのギルドよりも下なのです。

ギルドランクは所属人数、平均レベル、所持金額、イベント達成率、ワールドマップ開拓率、モンスター撃破数等複数の要素から決まりますが、私達のランクが低い理由は借金です。それも生半可な借金ではありません。

このゲームはその気になれば建国すらも可能ですが、小さな国ならば建国可能と言えばその膨大さが分かるでしょう。


そんなギルドの戸を開けると中に2つの人影がありました。


「こんにちはー。あれ?今日はお二人だけですか?」


一人はこのギルドのマスターであり、私をギルドに誘っていただいた張本人。

彼の名前は「クラマ」。メインジョブは「ラッキースター」、レベルは74。名前の通りステータスのほとんどを幸運にふっている職業。よく「現実の世界でもこの幸運があれば働かずに暮らせるのになぁ」とぼやいている屑です。


もう一人はソファーで横になって気持ちよさそうに眠っている女性。

名前は「瑠花(るか)」。職業は「破鎚者(クラッシャー)」、レベルは71。その御淑やかな名前とは裏腹に男勝りな性格と闘いぶりに定評があり、ガサツ女や災厄娘等の愛称でギルド内外問わず親しまれています。


「あー、他は今日来ないんじゃない?昨日そんなこと言ってた気がする」とクラマさん。

「では、今日は五人だけですね」

「今日はレベリングっすか?」

「いや、今日は行きたいところがある。八宵はるかるかを起こしといて。たかしとヒビキは戸締り」


瑠花さんは寝起きが悪く起こすのはいつも八宵さんの役割で、起こすと暴れるので注意が必要です。


私とたかしさんは狭いギルドの少ない窓をあっという間に施錠し終えて、ギルドの外で待つことにしました。

特攻服を着ている男性と二人きりで並んで立っているのは多少抵抗感がありますが、慣れるしかありません。


しばらくすると3人がギルドから出てきました。

瑠花さんは八宵さんの式神である赤鬼に担がれていましたが、原因は待っている間に聞こえてきた鈍い音でしょう。


「眩暈の状態異常ですか?」

「そうなの。当たり所が悪かったみたいね」


赤鬼の名前は「剛鬼」、身長250cmはあろうかという巨体とその見た目通りの怪力を誇っている八宵さんのよく使う式神です。とある情報筋によると「全自動瑠花目覚まし鬼」とも呼ばれているとかなんとか。


「そういやクラマさん、行きたいところって何処っすか?」

「さっき新しい情報が入ってな。ここの近くダンジョンで魔王の目撃情報があったらしいからその真偽の確認とできれば討伐。信憑性は微妙だけど、そのダンジョンは行ったことがないからちょうどいい」


他のゲームでは魔王といえばラスボスなんかが定番ですが、このゲームでは魔王が何人もいて数件討伐報告も上がっています。

一匹狼タイプや魔王軍を率いている者、世界中をランダムに動き回っている者、とある場所を根城にしている者など様々ですが、全員が程度の差こそあれかなりの強さを誇っているとのことです。


「魔王と戦うことになるなら全員揃ってからの方が良くないっすか?」

「さっきも言ったが、信憑性は微妙だし仮に本当ならぐずぐずしてると他に先を越される可能性が高いから仕方がない」

「そうねぇ、そろそろお金も素材も底をつきそうだから魔王がいてもいなくてもダンジョンに潜る必要はあるわね。あ、お金はマイナスだったわ」


八宵さんが黒い笑顔でクラマさんを睨んでいますが、睨まれている本人はどこ吹く風と言った様子。その心臓に毛が生えているかのような図太さは見習いたいものです。


このゲームでお金を手に入れる方法は主にダンジョンに潜ってアイテムを入手して売るかクエストをクリアして報酬を得るかになります。

勿論細かく分ければ自分でアイテムを生産して売るなどいくつもあるのですが、特別なスキルが必要なものもあるので省きます。


[しかし、この時まさかあんなことになるとは誰一人として想像だにしていなかった]


「ちょっとクラマ、用もないのにチャットを使わないでって言ってるでしょう」

「そうですよ。視界にチラチラ入って邪魔なんですから」

「雰囲気出るかなと思って」

「出ないわよ」


「ところでダンジョンまで走って30分位っすか?」

「そんなもんだろうな」

「えー!ダンジョンまで走って行くんですか?」


私が驚くのも当然でしょう。近場ならともかくも遠出するなら何らかの乗り物に乗って行くものだと思っていたからです。

有名なギルドでは空を駆ける船やモンスター、移動式の建物を持っているという話も聞きます。そこまではなくともせめて馬車とかファンタジーっぽい移動手段が欲しいところです。


「仕方ないだろ。金がないんだから」


味方を探して他の方達の顔を見てみると皆さん走るのが当たり前というかの様に準備していて少数派は私だけのようでした。


ーーーいざダンジョンへ





「魔王狩りじゃー‼狩って狩って狩りまくるんじゃー‼」

「うぉぉぉぉぉーー!」


イズから走って30分ほどでダンジョンに到着しました。

洞窟探索型のダンジョンとなっているその周辺には67…いえ、68人のPCが集まっていて周囲の会話から既にダンジョンに潜っている方も多数いるようです。



「さっき新しい情報って言ってなかったかしら?完全に私たち後発組じゃない?」

「逆に考えるんだ。これだけ人が集まっているのなら情報が正しい可能性が高いと」


走って移動したから後発組になってしまったのでは?と思いましたが、私は空気を読める女なのでここは黙っておきましょう。

確かにダンジョンの周囲は異様な熱気に包まれており、テンションが上がっているのかうるさく叫んでいる方達もいらっしゃいます。

これだけの人が集まっているなら確かに期待値は上がってしまいます。


「なら早いとこダンジョンに潜った方が良いっすね」


たかしさんが走り出すと他のメンバーもその後をついていきます。

ちなみに瑠花さんは少し前に眩暈から睡眠の状態異常に変わっていてまだ剛鬼さんに担がれています。

そろそろ起こした方が良いような気がするので頭をペシペシ叩いたり鼻を摘まんだりしてますが一向に起きる気配がありません。

睡眠の状態異常回復アイテムである眠気覚まし薬を使い、一定時間睡眠を無効にする不眠薬を使おうとも考えましたがアイテムが勿体ないので放っておくことにしましょう。

私が起こすと何をされるか分からないですし、いざとなれば剛鬼さんが叩き起こしてくれるでしょう。


ダンジョン内では基本的に職業によって前衛、後衛に分かれます。

今のメンバーでいえば前衛は瑠花さんと剛鬼さん。後衛はクラマさんと八宵さん。

そして、私たちのギルドでは中衛にも分かれており、私とたかしさんがこれに当たります。

前衛は相手を攻撃したりタンクと呼ばれる攻撃を引き付ける事が仕事で、後衛は援護射撃をしたり敵味方にバフやデバフ、回復を行うのが仕事です。

中衛である私の仕事は前衛と一緒に攻撃に参加しつつ万引きで手に入れたアイテムを味方に使用することです。万引きで入手したアイテムは譲渡や売却ができないため私が他の人に使わなければならず、回復職の少ない私たちのギルドではこれが主な回復手段でまさに現代のナイチンゲールを自称しても良いほどの働きぶりです。

もしもの為に全員回復アイテムを持ってはいますがお金が勿体ないのでほとんど使うことはありません。


「そろそろ起こすわね」

ダンジョンに入るなり八宵さんは指をパチンと鳴らしました。

剛鬼さんは肩に担いでいた瑠花さんを持ち直し、腰をしっかりとホールドするとそのまま後方へ反り投げをしました。見事なジャーマン・スープレックスホールドです。

地面を砕く程の衝撃に「ゴフッ」と瑠花さんの口から声が洩れたのも束の間、流れるような動きで剛鬼さんは腕挫十字固を極めました。これには私も思わず拍手をしてしまいました。


「ギャーーーー‼ギブギブ!腕折れる、マジ折れる!」

「ゲーム内だから大丈夫よ」


このゲームでは痛覚もある程度コントロールできるので、痛いのが嫌な方は痛覚をほぼ0にしていますが、痛覚を無くせば無くすほど攻撃を受けたとき気が付かなかったり反応が遅くなったりするのである程度残している方がほとんどです。

瑠花さんは確か臨場感が出るとの事でこのゲームの上限近くまで痛覚を残していると言っていました。実はマゾなのでしょうか。


ようやく解放された瑠花さんは腕を擦りながらブツクサ文句を言っていましたがこれは仕方がないでしょう。

前衛が2人しかいないのに片方が寝て片方が担いでいたのではまともに機能せず、戦力が半減してしまいます。

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