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修業

「おはようございます!」

「オハヨウ。今日ハ機嫌ガイイヨウダネ」

「あ、先生おはようございます。分かりますか?実はですね、昨日ジュエリージェネラルに殺されたあと露店を見て回ってたら格安でいい武器を手に入れてしまったんですよ」


惜しむらくはPKされた後で急いで戻ったのですが、既に露店のおじさんは衛兵に連行されていて捕まるところを見学できなかった事でしょうか。


「ホウ。デハ、クラマニ見テ貰ウトイイ。彼ハ鑑定スキルヲ習得シテイル」

「話は聞かせてもらった!見せてみろ!」

「こちらです」


私は昨日必要のない鉱石(ゴミクズ)と交換していただいた宝石剣をクラマさんへ手渡しました。

小石が一個1G、鉄鉱石が一個10G、銅鉱石が一個20Gなので合計218Gで手に入れたにしては中々いい買い物をさせていただきました。

あの初心者想いのおじさんには感謝だなー。


「これはゴミ武器だな」

「えっ?」

「武器の名前と外見をアイテムで変えてるだけでなまくらだ。NPCに売るなら300G。プレイヤーに売るなら鑑賞用かスキン用と割り切って1,000G前後ってところか。いくらだったんだ?」

「200,000G」

「其奴ノ名前ト外見ヲ教エロ。斬ッテクル」

「を交渉して218G分の鉱石と交換してもらいました」

「アメ横の偽ブランドの割引率どころじゃないな」

「私の小粋なトークと人を安心させる笑顔のなせる技です」


武器は実用的ではありませんでしたが、売れば多少はプラスになるので良しとしましょう。プレイヤーの方で高く買い取ってくださる方もいるかもしれませんし。


「それで偽物掴まされてたら意味ないけどな」

「でも、鑑定スキルを持ってないので見た目で判断できないですよ」

「それなら最初のうちはアイテムで名前や外見を変えていない物を買うべきだな。それならWiki等で調べればそのアイテムの能力の最低値が出てくるからよっぽどの外れは引かないはずだ。耐久値が少なくなっているものを安く売っている可能性もあるけど。後は信頼できる鍛冶職人を見付けたり、銘入りの武器を買ったりだな」

「銘入りって何です?」

「ある一定以上のランクで作成すると作成者の名前をアイテムに入れられるんだ。でも、品質が保証されているから高い。だから銘入りのアイテムを買うのはまだレベルが上がってからがいいぞ。因みに明らかな粗悪品を堂々と売る奴はあまりいないな。噂が広まると誰も買わなくなるから。」

「なるほど」


お金もないですし、しばらくは万引きした武具で何とかしましょう。


「ところで今日はどうします?ダンジョンに行きます?買い物に行きます?」

「それなんだが、今日は行ってきて欲しいところがある」

「行ってきて欲しいところとは?」

「ふっ、それは行ってみてのお楽しみだ」


特に意味もなくニヤリと笑ったクラマさんの顔を見てると少しイラッとしましたが黙っておきましょう。


ーーーーーーーーーーー


「貴様らは蛆虫だ!だが、今日は私が貴様らをゴミのような蛆虫から使える蛆虫にジョブチェンジさせてやる!」

「「「サー、イエス、サー!」」」

「そうか、嬉しいか!私も嬉しいぞ!今から貴様らに地獄を見せてやれると思うとな!」

「「「サー、イエス、サー!」」」

「私はエウリア軍曹だ!貴様らに地獄を見せる者の名だ!墓場まで手土産として持っていくといい!」

「「「サー、イエス、サー!」」」


ーークエスト「エウリア軍曹の特訓」を受注しましたーー


何でしょうかこのノリは。

洞窟の前に集まった私達は軍服を来たグラマラスなNPCの美女に罵倒されて何でも肯定するよう強要されています。

クラマさんに連れて来られたのはレベル20~29のプレイヤーが対象のチュートリアルの様なクエストでした。

右を見ても左を見てもまだ産毛の生え変わっていない様な初心者プレイヤーばかりです。

要は私はこのゲームの戦闘においての立ち回りが全く分かっていないとのことでした。

クラマさんだけではなく師匠にも言われてしまってはぐうの音も出ません。


「今から貴様らを適当な四人組に分ける!その四人は一蓮托生、運命共同体だ!そのスポンジの様なスカスカの脳みそをフル回転させ、見事試練を乗り越えて見せろ!」

「「「サー、イエス、サー!」」」

「最初に渡した袋を見ろ!数字が書いてあるはずだ!同じ数字が書いてある者が今回のパーティー、さっさとそのメンバーで集まれ!」

「「「サー、イエス、サー!」」」


ーーーーーーーーーーー


「よろしく」

「よろしくお願いします」

「よろしくね~」


私達のパーティーは戦士風の格好をした男性と魔法使い風の女性です。


「後一人はまだですか?」

「さぁ?他のパーティーはだいたい出来てるからすぐに見付かるんじゃない?」


周囲を見回してみると確かにほとんどが四人組を作っていて一人でうろうろしている人が僅にいる程度です。


「申し訳ありません、エウリア軍曹!同じ数字の者を見付けることが出来ません!」


突然の大声にこの場に集まっていた人々の目が一斉に一人の男性へ向けられました。

その男性はとても大柄で強面でエウリア軍曹に合わせたかの様に軍服を着込んでいます。


「何だとこの蛆虫!その目はガラス玉か何かか⁉それともその頭の中には本当にスポンジでも入っているのか⁉」

「申し訳ありません!私はガラス玉とスポンジが詰まった豚野郎であります!」

「全く手のかかる赤ん坊か貴様は!家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶってた方がお似合いだぞ!仕方がない、着いてこい!」

「サー、イエス、サー!」


先生に叱られた生徒のように頭を垂れた大柄な男性がエウリア軍曹に連れられて歩いてきます。

周囲からは「可哀相」「そこまで言わなくても」と小声で聞こえてきます。

しかし、私は見ました。罵倒されて下を向いている彼の顔はだらしなく鼻の下を伸ばしていたのを。

間違いなく変態です。


「おい、蛆虫!貴様のパーティーはこの三人だ!いくら無能でもここまですれば問題ないな!それともおしめまで替えてやらねばならないか?」

「是非!!!」

「黙れ蛆虫」


あ、先程まではよく見る軍隊のしごきの様でしたが、最後の一言は本当に蛆虫を見るような嫌悪感や憎悪がこもった言葉と眼差しでした。

そして、私達のパーティーに連れてこられた軍服の男性は先程よりも鼻の下を伸ばしています。

こちらへ歩いてきていたので嫌な予感がしていましたが、このガチの変態が私達の最後のメンバーの様です。

変態を案内し終えたエウリア軍曹は元の場所に戻ると再び説明を始めました。


「よし、全員パーティーを作ったな!次は数字の書いてある袋を開けろ!今回のクエストではその中に入っているアイテムや武器、防具の使用しか認めん!さっさと装備しろ!」

「「「サー、イエス、サー!」」」

「いいか!装備を変更する方法は大きく分けて2つある!一つは実際に着替える方法だ!もう一つはコンソールを使って装備を変更する方法だ!前者は手間はかかるが、戦闘中でも装備を変更する事ができる!後者は手軽に変えることができるが戦闘中には使えない!よく覚えておけ!」

「「「サー、イエス、サー!」」」


皆さん一斉に着替え始めました。

ほとんどの人はコンソールを操作して装備を変更していますが、何故かわざわざ服を脱いでから着替えている人がごく少数います。

軍服の変態もその一人です。

ふむ、なかなかいい筋肉ですね。


「そう言えば、なんでこのクエストは自前のアイテムや装備を使えないんですか?」

「さぁ?」

「私も知らなぁい」


既に装備を変更している戦士風の男性と魔法使い風の女性に疑問を投げかけてみましたが、二人とも知らないようです。


「それはな、過去に廃装備で無双していくプレイヤーがいたからだ。このクエストはプレイヤー間の連携を訓練するためのものであるから装備が自由だとその趣旨から外れてしまう。同じ理由でレベル制限も設けられている。」

「へぇ、詳しいですね」

「このクエストは116回目だからな」

「へ?」

「因みに先程の会話の流れは27回目に見付けた特殊会話だ。あれ以外にも見付けただけで17種類の特殊会話がある。どれも凄くいい眼と言葉なんだ」

「へ、へぇ…」


ヤバい。

ほら、他の二人もドン引きしてるじゃないですか。

ドン引きしているのに気が付いたのか軍服の男性はこちらを一瞥すると笑みを浮かべました。


「安心しろ。俺はドMだ」

「なにを安心すればいいんですか?」

「俺からは手を出すことはない」


いえ、そういう問題ではないです。


「おい、そこの蛆虫!いつまでのろのろと着替えているんだ!さっさとしろ!それとも全裸で行きたいのか⁉」

「是非!!!」

「お前は本当に気持ちが悪いな」


あ、多分今のは特殊会話ですね。

また声のトーンが変わりました。


その後全員が着替え終わるとエウリア軍曹が口を開きました。


「今から、貴様らにはこの洞窟へ潜り、最奥のボスモンスターを倒してきてもらう!楽しい楽しい地獄のピクニックだ!他のパーティーとはエンカウントしないうえ、全滅しなければ教会へ戻れない特別仕様のダンジョンだから安心して楽しんでこい!」

「「「サー、イエス、サー!」」」


袋に書いてある順番でパーティーが一定の時間を空けて洞窟へ入っていきます。

私達のパーティーは17組の内13番目。

その間に自己紹介です。


「名前はハヤウェイ、ジョブは戦士、レベルは28です。普段はアタッカー兼タンクしてます」

「プリームって言いまぁす。レベル23でヒーラーしてまぁす。回復なら私にお任せ!」

「響です。レベル21でアサシン系のジョブです。普段はアイテムを使っての回復やバフ、隙を見て掩護攻撃してます」

「SDMだ。レベル29でスナイパーをしている。先程も言ったがこのクエストは116回目だ。まず間違いなく全プレイヤーの中で一番このクエストに精通している。俺に任せておけ」


変態なのに頼もしいです。

何よりこの変態のインパクトのおかげでジョブをアサシン系で濁したのに誰からも突っ込まれませんでした。


「では、SDMさんには後衛からの援護射撃と指示を、響さんが遊撃、プリームさんはバフと回復をお願いします。僕が前衛で皆さんをお守りしますから」


ハヤウェイさんもテキパキとしていてリーダーみたいだし、プリームさんは最初はやる気がないのかと思っていましたがフンスッと鼻を鳴らしてやる気満々のようです。

よく考えれば、このクエストは集団戦闘の練習

であり必須ではないため、少なからず戦闘に興味がある人ばかりなのでしょう。



「了解した。できる限り俺の指示に従ってくれ」

「あ、もしかしてぇドMだからわざとクエスト失敗してエウリア軍曹に叱られようとしてなぁい?」

「安心しろ。このクエストは失敗…つまり全滅するとエウリア軍曹と会話することなく強制的に教会へ送られるからそんな失態は犯さない。だが、これから受けるクエストは成功率が1割以下だ。油断できない数値だが、俺達なら必ず乗り越えられる」

「はい!」「はぁい」「はい」


その後は順番が来るまで配られたアイテムの確認です。

普段は万引きしたアイテムを湯水の様に使用してますが、今回はそうもいきません。

考えながら使っていく必要があります。

無言での確認に気まずくなったのかハヤウェイさんが口を開きました。


「えっと、SDMさんはもうすぐレベル30になるのでこのクエストを受けられなくなりますね」

「ああ、恐らくこのクエストも今回を含め後1~2回が限度だろう。だが、俺はレベル30を越えたときの為に有志を集め、運営に何度も何度も何度も何度も要望を出し、つい先日ようやく受諾された。次のメンテナンスから街中をエウリア軍曹がランダムに歩き回るそうだ」

「お、おう…」


運営さんも大変だなー。


「13番の蛆虫共!次は貴様らだ!」

「サー、イエス、サー!」

「いい返事だな!今回集まった蛆虫の中で特にゴミだった貴様らには特別なクエストを準備してやった!ありがたく思え!」

「サー、イエス、サー!」


ーークエスト「エウリア軍曹の猛特訓」を受注しましたーー


え?

クエストが変わった?


「他の蛆虫は成功率7割のピクニックだが、貴様らは成功率1割以下の死の行軍だ!死んで私を楽しませてみろ!」


エウリア軍曹はそう言うと、私達四人を洞窟へ蹴り入れました。

もちろん、他の人を庇うように割って入ったSDMさんが全ての蹴りを享受していました。

何いい顔したんだこのド変態が!

そして私達四人は洞窟の中へ転がり落ちていきました。

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