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金策2

「それはね、クラマさんが黙っとけって…」

「おいバカ止めろ!」


危ない危ない。このルーシィ(バカ)はいきなり何を言い出すんだ。

只でさえ莫大な借金の理由が巨大ロボットという女受け最悪な理由だと言うのにそれをわざと隠していたみたいに言うなんて。いや、実際隠してはいたんだけど。

このゲームでは女性のプレイヤーの数は多い。人口比としては男女で6:4といった所だろう。

その理由というのも、現実と同じように味覚があるためだ。

しかもゲームの世界ではいくら食べようとも太ることがなく、冒険でお金を貯めればリアルマネーを消費することもない。

冒険をしたくないと言う人は課金をしてまで食べに来るほどだ。

それほどまでに食べても太らないというのは女性にとってはこのゲームで遊ぶ大きな理由となっている。

その為、瑠花の様な戦闘狂やルーシィの様なロボット好きは珍しく、うちのような極貧ギルドでは勧誘が難しい。

しかし、響は何としてでも勧誘しなくてはならない。

何故ならば万引き犯というのはレアだからだ。

もちろん万引き犯というジョブがレアという訳ではない。響はキャラメイク時のジョブガチャで万引き犯になったと言っていたが、他のプレイヤーでも最初に万引き犯になっていたプレイヤーは結構いた。ところが、殆どのプレイヤーはすぐに別のジョブへ変えてしまうのだ。

その理由としてはVRMMOは自分自身がそのキャラクターになる為、ネタビルドにする人がかなり少ない為だ。サブアカウントを作成できな事もそれに拍車をかけている。

更に万引き犯のステータスは攻撃力や防御力等殆どのステータスが平均を下回り、速さだけが平均を上回るという偏った構成をしており、ヘイトを稼ぐスキルがなく火力が出ない為ヘイトが稼げず、速さを活かしたスピード型のタンク

という役割もできない。

それに同じようなステータスのジョブに盗賊系統があるが、こちらはダンジョン内の罠を解除したり隠し通路を見付けることができたり暗殺系統のスキルがあったりと役割がある為万引き犯は盗賊系統の下位互換と言われることが多い。

唯一といって良い個性の万引きもある程度冒険を進めていけばダンジョンでのドロップや鍛冶職に作ってもらう武器や防具の方が性能が高く、消費アイテムも生産職の作った物の方が安価で効果も高い為没個性化していく。

こう言った理由から万引き犯をジョブにしている人がレアなのだ。

しかし、それは普通のギルドの場合である。

うちのような極貧ギルドでは消費アイテムや装備品1つ買うのにも一苦労の為、響という存在は喉から手が出ほど欲しい。

幸いにも響は冒険に対して否定的ではない。むしろ戦闘を楽しんでいた節があった。

それならば希少鉱石をふんだんに使った装備品も交渉材料になるだろう。

絶対に逃がすわけにはいかない。


クラマは響を逃がせないと改めて決心を固めると内心を悟られないように顔に笑顔を張り付けた。


「何でもないから気にするなよ響。本当に何でもないから」


「ええ、分かりました。何があろうとも動じませんとも」


悟られたか⁉いや、怪しんではいるがまだ確信は持てないといった所だろう。

此方としては響にギルドへ入りたいと思わせることが出来ればベストだ。

無理矢理入ってもらっても長続きしないだろうから。

その為にも金策の間もプレゼンを随所でさりげなくしていく必要がある。


「それじゃあ、準備が出来たら鉱山へ行こうか」


クラマは頭の中で考えを巡らせながら、メンバーへ伝えた。


ーーーーーーーーーーー


背後でゴロゴロと拠点の入口を隠していた岩が元の位置へ戻っていく。

この拠点の位置が私にバレても良いのでしょうか?いえ、恐らく私のような小娘一人にバレたところで問題ないと考えているのでしょう。

舐められたものですね。

ですが、妥当な評価です。


「うわぁ…凄いですね」


何て言うか凄いです。

拠点から出るとそこは鬱蒼としたジャングルが広がっていた。森の中特有の青臭いが新鮮な空気、風に吹かれた葉の擦れる音、足を踏み出すと草や木の枝を踏み締めた感触までわかります。

街やダンジョンは人工的な感じでしたが、それらとは異なる生命の息吹のようなものを感じます。

木にはカブトムシによく似た四本角の虫がいて、地面には綺麗な宝石の様なカエルがピョコピョコと跳ねている。

私はカエルを指でつつくとそれに合わせてゲコゲコと鳴いて大変可愛らしい。


「お母さん!この子をギルドで飼っていい⁉」

「誰がお母さんだ。いいけど、自分の部屋から出すなよ。八宵が怯えてる」

「ありがとう、お母さん」


両手でカエルを抱え上げるとひんやりとしてとても気持ちがいい。プゥプゥと頬を膨らませているのでプゥ太と名付けましょう。

八宵さんの方をチラリと見ると木の影に隠れて怯えています。背後からプゥ太を顔にペタリと

くっ付けたい衝動に駆られましたが、後が怖いので止めておきましょう。

私はプゥ太をアイテムと同じように魔法の鞄にしまいました。

その後、一行は師匠を先頭にジャングルを歩き始めました。

タケさんは「おいおい、俺を連れていっても足は引っ張っても役には立たんぞ」と言って拠点に残ったので今はクラマさん、八宵さん、師匠、ルーシィ、そして私の五人です。

この辺りの敵は平均レベルが50を越えるそうなので私と坑道内に入らないデウス・エクス・マキナを置いてきたルーシィは足手まといです。

その二人を間に挟んで先頭に師匠、後方にクラマさんと八宵さん、そして周囲を鳥型の式紙が飛び回っている陣形です。


「不味イナ。此方二気ガ付イタモンスターガ一…イヤ二体イル」

「あら、本当ね。と言うか何で私より先に気が付くのよ」

「潜ッテキタ修羅場ノ数ガ違ウ」


流石師匠。


「それで、モンスターはどこに?」

「あの崖の上ともう一体は此方へ向かってきてるわ」


八宵さんの指差した方を見てみると遥か先の崖の上に何やら巨大な生き物の姿がありました。

それは銀色の美しい毛並みを持ち、太陽の光を反射してキラキラと輝く狼のような生き物。ハッと息をのんでしまうほど美しく気高い孤高の存在。



「フェンリル⁉レアモンスターじゃねぇか!クソッ、遠すぎてレベルを確認できん!」

「デウス・エクス・マキナを呼んで喧嘩ふっかける?」

「待テ、モウ一体ガスグソコダ」


師匠の言葉とほぼ同時に木々の間から巨大な蛇の様な生き物が飛び出して巨木へ体当たりしました。

いえ、これは巨木へ叩きつけられたといった方が正しいでしょう。

叩き付けられたのは羽根の生えた蛇の様な生き物。叩き付けられて痛みからかその長い身体をくねらせて暴れています。

コンソールを開いてステータスを確認するとワイアーム、レベル62。

私では手も足も出ない強さのモンスターの様なので、ここは姿を隠して(けん)にまわりましょう。

私が木の影に隠れようとしたとき、ワイアームを追って小さな人影が飛び出し、追い討ちとばかりにワイアームへ殴りかかりました。

地面が陥没する程の威力でワイアームはピクリとも動かなくなりました。


「あら、ごめんあそばせ。お怪我はありませんこと?」


ワイアームの上に立っているのは幼さが残る可愛らしい少女で金髪縦ロールの髪型にアイドルの様な少し派手な衣装を身に纏っています。

先程までの暴力の化身の様な動きからは想像もできません。


「天姐さーん、ちょっと待ってくださいよー」


天姐さんと呼ばれた少女が飛び出してきた方からドスンドスンという大きな足音と共に野太い大きな声が聞こえてきました。

デカっ⁉木々を押し倒しながら現れたのは4mはありそうな大きな男性でした。

デウス・エクス・マキナを見た後でなければ取り乱していたかもしれません。


「遅いですわよ!早くしないとフェンリルに逃げられてしまいますわ!」

「それなんですけど、既に逃げられてますよ」

「何ですって⁉ムキー!ワイアームの邪魔さえ入らなければ!」


ムキー!と言って地団駄を踏んでいる姿がまたあざと…可愛らしいです。しかし、ムキーなんて実際に言う人を初めて見ました。



「あー、この二人はギルド『百花繚乱』のギルマスとサブギルマス。この鉱山を共有してるギルドの内の一つな」

「今ご紹介に預かりました『百花繚乱』にてギルドマスターをしてます天王寺(てんのうじ) 姫華(ひばな)と申します。ジョブは覇王(アイドル)ですわ!」

「天姐さん。覇王(ウォーロード)をアイドルなんて読む文化はこの星の何処を探してもありませんよ」

「では、貴方が作りなさい!」

「嫌です」


ムキーと叫びながら天姐さんが大きな男性をポカポカと殴っていますが効果音がドスンドスンと重量級プロボクサーがサンドバッグを全力で殴っている様な音がするので多分私がされたら死にます。


「俺は副ギルマスのジャーラと言います。種族が巨人族(ギガンテス)なものでデカイ図体ですが以後お見知りおきを」

「これはご丁寧に。響と言います。『四つ葉亭』に先日からお世話になってます。初心者なので色々教えていただけると幸いです」

「俺に出来ることでした言ってください。後で拠点の場所も教えるので何時でも遊びに来てくださいね」

「ありがとうございます」


めっちゃいい人!師匠といいジャーラさんといい、私はここに「人からかけ離れた外見をしたプレイヤーの方がいい人が多い説」を提唱します。


「ちょっと、私を差し置いて何を仰ってるんですの?」

「天姐さんもよろしくお願いします」

「何で自然と天姐さん呼びをしてますの?」

「さっきのワイアームとの戦い格好良かったです!服装も可愛くってお嬢様みたい」

「あら、そう?貴女なかなか見処がありますわね。何かあったら何時でも私を頼ってよろしくってよ!」


ふっ、ちょろいな。


「天姐さんはステゴロ最強候補で凄いんだぞ」

「そうそう、天姐さんが私のデウス・エクス・マキナと殴りあってた時は化け物かと思ったもん」

「貴方達は私を馬鹿にしてますわね。そうですわね。ちょっとそこに並びなさい。シバキますわ」


天姐さんが雑草を引き抜くかのようにひょいと木を引抜きブンブンと素振りをしています。

わぁ、木ってあんな風に使えるんですね。


「おい、お前ら。本人はじゃれてるつもりだけど、前衛職以外は普通に死ぬから逃げた方がいいぞ」


危機察知能力が人の数倍あるクラマさんは既に全力で逃げ出していて、此方をいっさい振り向きもせずに忠告してきました。

ここは俺に任せて先に逃げろとか言って欲しかったですが、そんな事を考えてる場合ではないので私も早く逃げるとしましょう。


ーーーーーーーーー


5分は経ったでしょうか?先程までしていた地鳴りが止みました。

ここのモンスターは軒並み私よりも強いので長時間一人でいるのは危険です。早く戻るとしましょう。


隠れていた茂みから出ようとしたとき、近くに気配を感じました。


「何でーーーーかんーーーてーーーーーよ」


人の声ですね。

この少女のような声は天姐さんでしょうか。

茂みから覗いて見ると天姐さんが独り言の様に何かしゃべっています。

多分遠方にいるプレイヤーか現実の世界の誰かと話しているのでしょう。


「はぁ?誰ーーめーもらいーーいなくーーって?」


聞き取り辛いですね。少し罪悪感がありますが近付いてみましょう。


「な?言うに事欠いて三十路って言った?まだ28歳なんだけ…ど…」


あ、目があってしまいました。

目を見開いて口をあんぐりと開いてる姿も可愛らしいですが、いつもの笑顔の方が可愛いと思います。

身の危険を感じ、とっさに身を翻して逃げようとしましたが、振り向いた先には天姐さんがいました。


「あら、ご機嫌麗しゅうござます」

「ご、ご機嫌麗しゅう」


ご機嫌麗しゅうは別れの挨拶ですが、天姐さんは笑顔なのに怖くて言えません。


「今お時間は宜しくて?少し二人きりでお話しませんこと?」

「あ、はい。よろこんで」


肩に回された手が断っても逃がさないけどなと物語っています。

どうやら私の本当の力を見せ付けるときがきたようですね。


ーーーーーーーーーーーー


「お、やっと戻ってきたか。何処まで行ってたんだ?と言うか、いつの間にそんなに仲良くなったんだ。肩なんか組んで」

「何言ってるんですの。私達は元々仲良しですわよ。ねぇ、響さん?」

「そうですよ。私たちはマブダチですよ。ねぇ、天ちゃん」

「え、何?洗脳されてんの?」


失礼な。私の媚を売って相手に取り入る能力をフルに使っただけですよ。

ふっ、久々に全力を出してしまいました。


「それより早く行きましょう。さっきの騒ぎで他のモンスターが来るかも」


八宵さんの言葉でふたたび鉱山へ歩みを始めました。

モンスターの数が少ないのか、こちらの平均レベルが高いからなのか分かりませんが何事もなく鉱山まで辿り着きました。

しかし、そこは私が想像していたような鉱山とはかなり違いました。

地面に大きな穴が開いていて木々のせいで近くに来るまで全く気が付きませんでした。


「これは露天掘りと言われる方法でな、鉱床が地下にある場合に用いられる。地表から渦を巻くように地下めがけて掘っていくんだ。ここはその渦からギルドごとに横に坑道を掘っていってる」

「へぇ、詳しいんですね」

「坑道を掘る際にwikiで調べた」

「なるほど」

「ところで、行く坑道は私達が掘ったところで宜しかったかしら?他の坑道ではジャーラが入れないから」

「え?着いてくんの?」

「え?」


天ちゃんがあまりにも予想外の事を言われたかのようにポカンとした顔をしています。


「ところで、行く坑道は私達が掘ったところで宜しかったかしら?」

「いや、二度と言わなくても聞こえてる」

「何でよ!私がいたら道中も安全だしジュエリージェネラルが出てきても倒せる可能性が高くなるじゃない!」


天ちゃんが駄々をこね始めました。

あら、チャットが…。ジャーラさんからのようです。


[天姐さんは他の人から頼られるのが好きなんです。すいませんが頼ってもらっていいですか?]


そういう事なら仕方がないですね。

それよりジャーラさんの苦労人感が半端じゃないです。

私は魔法の鞄からそっと秘蔵の飴を取り出しました。


「わぁ、天ちゃんが着いてきてくれるなら百人力ですね!ねぇ、ルーシィもそう思わない?」

「へ?私は別に…私も天姐さんに着いてきて欲しいなぁ!」

「師匠もそう思いませんか⁉」

「フム、確カニ手練レハ一人デモ多ク欲シイ」


私が身を乗り出して師匠の本来目がある筈の窪みを真っ直ぐに見つめると、少しの思案の後賛同してくれました。

これで過半数を越えました。民意は我にあり!

八宵さんにはあえて聞きません。女の勘ですが天ちゃんとあまり仲が良くないような気がするので。


「皆さんこう言ってるので、意地悪言ってないで着いてきてもらいましょうよ」

「…しょうがないな」

「そこまで言うのなら仕方がないですわね!私が行くからには大船に乗ったつもりでよくってよ!」


機嫌の良くなった天ちゃんが歩き出しました。

私達もその後を着いていきます。

あら、またチャットが。


[ありがとうございます]

[どういたしまして。これは貸しですよ笑]

[覚えておきます笑]


その後、辿り着いたのはジャーラさんでものびのび…とはいきませんが歩いて移動できるほど大きな坑道でした。

他の坑道とは一線を画する大きさです。


「さて、行きますわよ!」

「ランプは?」

「壁に付いてるのでいらないですよ」

「坑道の長さは?」

「枝分かれしている道も含めて5km以上あります」

「何それ凄い」

「頑張って掘りましたから」

「坑道の長さって何か意味があるんですか?」

「このゲームでは坑道は元からあるものと新たにプレイヤーが掘ったものと二種類あるのですわ。プレイヤーが掘った坑道は一定の長さを越えるとモンスターが自然発生するようになるんですの。坑道が長いほどレアなモンスターや鉱石が出やすくなりますのよ」

「長い坑道を掘って他のプレイヤーに有料で貸し出す者もいる。炭鉱夫や採掘者と呼ばれる冒険や戦闘はミニゲームと豪語する猛者まで現れる始末だ」

「…それは…楽しいんですか?」

「楽しみ方は人それぞれだから」


人がたくさん集まればそれだけ遊び方も増えると言うことでしょう。


「つるはしは全員持ってきたな?」


出発前につるはしは絶対持ってくるように言われていたのでちゃんと魔法の鞄にしまってあります。もちろん万引したものですが。

皆さんがつるはしを取り出してるので私も取り出しました。

よく見ると他の人達のつるはしは私が持ってきたものと微妙に見た目が異なります。

NPCのお店では見かけない物なので他に入手方法があるのでしょう。


「響は初めてだろうから一応説明しておく。採掘は何かキラキラ光ってる場所があるからそこをつるはしで叩け。鉱石が手に入るから。採掘限界に達したら光らなくなるから次の採掘場所を探すんだ」

「結構簡単なんですね」

「簡単だけど最初は低レアの物ばかり出てくるぞ。たくさん掘れば掘るほど採掘スキルが上がって高レアの物が出やすくなる」

「なるほど」

「モンスターガ出テキタラ引受ケヨウ」

「私もですわ」

「じゃあ、出てきたら二人に任せた。行くぞ」


坑道を進むと至る所にキラキラと光っている箇所があります。

ピッケルで叩いてみるとコロンと拳大位の岩が現れました。コンソールを開いて調べてみると鉄鉱石という名前のようです。続いて叩いてみると石ころ、鉄鉱石、石ころ。

うん、見事に役に立たなそうな物ばかりです。ですが念のため魔法の鞄に入れておきましょう。

周りを見てみると他の人達は何やらキラキラした宝石の様な物が出てきてます。

採掘スキルが上がれば私だって!今は無心で叩き続けましょう。

しばらく採掘を続けていると段々人同士の距離が離れてきました。一番奥にいるのは採掘スキルが低く、一ヶ所で採掘できる回数が少ない私です。

おや、奥に人影が。私達以外にも採掘に来てる人がいるようです。

金ぴかの鎧に金ぴかの武器を持って、至る所に宝石が散りばめられている趣味の悪い成金装備ですね。


「こんにちは」

「……」


無視されてしまいました。私の挨拶を無視して奥の方へ歩いていきます。

感じ悪いですね。


「響姉ぇ、あんまり先に行くと危ないよ。モンスターも出始めてるし」

「ごめんねルーシィ。今すぐ戻るから」


歩いて皆の所へ戻り、先程の感じの悪い人の愚痴を聞いてもらいました。


「それでその人はどんな格好だったんだ?」

「趣味の悪い金ぴかの装備でした」

「バッカモーン!そいつがジュエリージェネラルだ!追えー!」


クラマさんの声で弾けるように師匠と天ちゃんが走り出しました。


「ジュエリージェネラルって何?」

「倒すと大量の金貨と宝石をドロップするレアモンスターだよ。攻撃を当てただけでもお金が手に入るから金策がとても捗るんだ。見付けてもすぐに逃げちゃうから包囲しつつ戦うのが基本になるんだけどね」


ありがとうルーシィ。

どうやら私はレアなモンスターを逃がしてしまったようです。

この失態は自分で取り戻します。

前を見ると師匠と天ちゃんがジュエリージェネラルに追い付いていました。

最初に追い付いたのは師匠です。抜き放った刀による斬撃をジュエリージェネラルも武器を抜いて受け止めています。


覇王金剛掌(はおうこんごうしょう)‼」


続いて追い付いた天ちゃんがスキルを発動し、強化された掌底がジュエリージェネラルを吹き飛ばし、壁に叩き付けました。直撃の様に見えましたが、もう一つの武器を抜いてそちらで受け止めたようです。

包囲して戦うのが基本なら早く追い付いた方がいいでしょう。私は睨み合っている二人の元へ

早く辿り着くようにスピードを上げました。


「流石に固いですわね」

「ダナ。ダガ、二人ナラ突破デキルダロウ」

「当たり前ですわ」

「では、三人ならもっと確実ですね」


追い付いた私はその勢いのまま無防備なジュエリージェネラルの背中を殴り付けました。

わぁ、本当にお金が手に入りました。


「ちょ、何故、逃げなさ…」

「逃ゲロ!」

「へ?」


振り返ったジュエリージェネラルが武器を振りかぶって、降り下ろしてきました。

あ、早い。


私は死にました。



ーーーーーーーーーーーー


「おお、死んでしまうとは情けない」


さっき手に入れたささやかなお金が銭ゲバ神父に取られてしまいました。

その胡散臭い笑顔にチョップを入れてやりたい気持ちになりましたが、街中でNPCに攻撃すると傭兵が出てくるのでここは我慢です。

私はベッドから起き上がると教会から出ました。

最初は結構落ち込みましたが、何度か死ぬと慣れるものですね。

ただ、さっきの死に方は最悪でした。先程の戦闘ログを確認してみるとジュエリージェネラルのレベルは80。事前に確認もせずに殴りかかった私の判断ミスです。

まさかあのダサい装備のモンスターがあんなに強いとは思いもよりませんでした。

気持ちを切り替えてこの失敗を次に活かしましょう。

あ、クラマさんからボイスチャットがきました。


『おーい、大丈夫か?』

『もうダメです。稼いだお金を神父に盗られました。』

『それは知らん。すまないが、迎えに行けない。短時間で戻ってきたら拠点が近くに有るんじゃないかと勘繰られるからな。まぁ天王寺なら問題ないかもしれんが念のためな』

『こちらこそすいませんでした。足を引っ張ってしまって』

『気にすんな。こっちはまだ時間かかりそうだから先に落ちててもいいぞ』

『分かりました。適当にブラついてから暇になったら落ちます』


これからどうしましょうか。レベリング?ショッピング?それとも観光?本当は食べ歩きもいいんですが、お金がありません。

あ、ルーシィからチャットが来てました。


[あの飴美味しかった‼今度どこで買ったか教えてね‼]

[今度連れててってあげるね]


とりあえず歩きますか。

イズはこのゲームでも珍しい科学と魔法が共存する街です。ゲームの設定ではNPCで魔力が高い者は魔法を、低い者は対抗するために科学をそれぞれ学ぶそうです。その為、魔法派と科学派はまさに水と油の関係だそうで、他の街では有り得ない光景のようです。

右を見ればセグウェイの様な乗り物に乗った女性が走っており、左を見れば魔女の格好をした男性が箒に乗って飛んでいます。え?男性?


街行く人々を見てるだけでも楽しいものです。パッと見た感じでは人間種の女性が一番多く、続いて人間種の男性、獣人、数は少ないですが異形種も数人見ました。キャラメイクがあるから美男美女ばかりです。

格好も戦士や魔法使いの様に見た目ですぐにジョブが分かる人もいれば、ドレスやパーカーを着ていて見た目ではジョブが分からない人もいます。

テイマー系の職業でしょうか?モンスターを引き連れて歩いている人もいます。

おや?先日絡んできた少女が歩いています。あの時は立派な鉄の大剣と鉄の鎧を装備していましたが、今は骨で作った大剣と革の鎧にグレードダウンしていました。それに心なしか表情が暗いです。

あ…きっとPKされて装備を奪われたか、モンスターに殺されて装備を落とした所へ戻ったら既に他のプレイヤーに持っていかれていたと言った所でしょう。

レベル30になるまでは死体が強制的に教会へ帰還させられるので所持品を奪われる事がないのですが、レベル30を越えると死体はその場に残り、プレイヤーは幽霊となります。幽霊になると周りに干渉できないため、死体に残ったお金やアイテムは他のプレイヤーの格好の餌食となります。一部奪えないアイテムがあったり保険をかけることもできるようですが。

レベル30を越えると修羅の国、レベル30以上と未満では別ゲーと言われる所以です。

食べることや他のプレイヤーとのコミュニケーションが目的のプレイヤー等はPKを避けるためにわざとレベル30を越えないようにするらしいです。


そんなわけで私一人でレベリングをして万が一レベル30を越えてしまった場合、鴨が葱を背負ってきた状態になってしまいます。

少し盛りました。

お金もまともなアイテムも装備もない私ではPKしたとしても雀が木の枝を背負ってきた程度の旨味しかないです。


ここは安全なショッピングと洒落混みましょう。お金はなくても冷やかす事くらいはできますし。

この街では銀行の前の大通りに露店が沢山あったはず。


「安いよ‼安いよ‼あっ、そこのお兄さん、この装備買っていかない?安くしとくよ!」

「冒険に行くなら武器や防具の耐久力を回復させとくのは常識だよ!よっといでー!」

「そこのお姉さん!お気に入りの装備にワンポイント入れてみない?」

「食べて美味しい、ステータスもアップすると二度美味しい料理食べてってー!」


5分ほど歩いて辿り着いた銀行の前には沢山の露店とそれを目的として集まったプレイヤーでごった返していました。

売られている商品も武器や防具、食べ物は当たり前でテイマーが調教したペットや馬などの騎乗用生物、その場で特注の服を仕立てて売っていたりと様々です。

露店側は売れれば収入源になり、次に売るアイテムを作成してスキル上げもできるので中には鬼気迫る勢いでほぼ押し売りをしている人もいれば、商品を並べてはいるものの呼び込みもせず本を読んでいる人もいます。


買い物中に話しかけられるのはあまり好きではないので見るならお客にあまり興味が無さそうな露店にかぎります。

本を読んでいる人の露店へ行き、並べられているマジックアイテムを見てみると、ブローチやネックレス、イヤリングと見た目がとても可愛いです。

うっ、値段は可愛くないです。


「そこの可愛いお嬢ちゃん!こっちの武器も見てかない?」


ちっ、どうせキャラクリで作った仮初めの外見じゃないですか。

可愛いって言われた側もそれで調子にのっちゃうんでしょうね。

そんなに見た目が大切ですか?大事なのは中身。

外見なんてしょせん魂の入れ物に過ぎず、大切なのはその魂をいかに輝かせるかではないでしょうか。


「ちょっと無視はひどいな。そこのマジックアイテムを見てる黒髪の可愛いお嬢ちゃん!」


お高く止まって自分の価値を高めようって魂胆ですね。

あー。やだやだ。どうせ、気が付いてないふりをして「え、私だったんですか?そんなに可愛くないですよぉ」とかわざとらしく謙遜しちゃうんでしょうね。


「えっと…響ちゃーん。そこでマジックアイテムを見てる響ちゃーん!」

「え、私だったんですか?そんなに可愛くないですよぉ。美少女だなんてぇ」

「いや、そこまでは言ってない」


どうやら、あそこの露店の人は見る目があるようですね。

数いるプレイヤーの中で私に声をかけるなんてその審美眼には敬服させられます。

渋いおじさまでいかにも凄腕鍛冶職人といった外見なのも好印象です。


「どの武器がおすすめなんですか?」

「おすすめは断然これだね。宝石剣カラット!つい先日鍛えたばかりの上物だよ!見た目よし、性能よし、使い勝手よしと三拍子揃ってて、お嬢ちゃんの様な可愛い子にはピッタリだ!」

「でもお高いんでしょう?」

「何と今ならたったの200,000G!」

「高っ!」


先程まで見ていたマジックアイテムは10,000~30,000Gでそれでさえ手が出なかった私の財布事情ではかなり厳しいです。

勿論性能が良くてお買い得だという可能性もありますが、鑑定スキルを持っていない私ではその判別すら出来ません。


「何言ってんの。こんなお買い得な武器はそうそうないよ。見てみなよこの散りばめられた宝石の数々。飾るだけでも部屋の品位が上がるし、メンテナンスだって稀少金属を使ってるから少なくて済むよ。お嬢ちゃんみたいな可愛い子にはお似合いだと思うけどなぁ」


確かに言われてみれば趣味の悪い見た目ではありますが、売れば高く売れそうな外見ではあります。


「でも、私持ち合わせがなくって」

「いくら持ってんの?」

「352Gほど」

「子供は帰んな」


手のひら返し早すぎませんか?

最初は冷やかすだけのつもりでしたがいいでしょう。


「実はお金がなくてさっきまで金策で友人達と鉱山に行って鉱石を掘っていました。そこでジュエリージェネラルというモンスターと遭遇しまして戦って戻ってきたばかりだったんです」

「おいおい、ジュエリージェネラルって鉱山の深部ですらなかなか出会えないレアモンスターじゃねーか!」

「そうなんですか?なにぶん始めたばかりでモンスターにもアイテムにも詳しくなくて。そこで手に入れたアイテムを換金してくるので買うかどうかはそれからでもいいですか?急いで行ってくるので」

「ちょっと待ちな!手に入れたアイテムは何処で売る気なんだ?」


食い付いた。


「NPCのお店で売ろうかと思ってます。プレイヤーの方に売ろうにも相場が分からないので」

「おいおい、NPCに売ってもたかが知れてるぞ。それよりもいい話があるんだが、聞いてかないかい?」

「いい話とは?」

「可愛いお嬢ちゃんがその鉱山で手に入れたアイテム全部とこの宝石剣カラットを交換ってのはどうだい?」

「そんな、いくらになるかも分からないのに」

「いや、いいんだ。俺はなお嬢ちゃんの様な初心者にもっとゲームを楽しんでほしくて鍛冶屋やってんだ。確かにその鉱山で手に入れたアイテムは安いかも知れねぇが、差額分は俺からのお布施だと思ってくれ」

「わぁ、ありがとうございます」

「あぁ、後この事は他の人には内密にな。初心者皆に同じようなサービスしてたら干上がっちまう」

「はい、分かりました!契約成立ですね!」


私は露店商のおじさんから宝石剣カラットを受け取ると、魔法の鞄を開いて先程の鉱山で手に入れたアイテムを全て出しました。

小石×38個、鉄鉱石×14個、銅鉱石×2個。


「ありがとうございました。それでは」

「ちょっと待ちな!」

「なんでしょうか?」

「このゴミクズは何だ?」


ゴミクズとは失礼ですね。私が手に汗して手に入れたアイテムの数々に向かって。


「ジュエリージェネラルに会うまでに沢山採掘した鉱石は?ジュエリージェネラルを倒した際のドロップアイテムは?」

「私の採掘スキルは1なので察して下さい」

「だが!ジュエリージェネラルを倒したなら高額な宝石や金属がドロップするだろ!」

「確かにジュエリージェネラルと戦ったとは言った。ですが、倒したとは言っていない!」

「なっ…」

「ぷーくすくす。私なんて雑魚は一撃で死んじゃいましたよ。戦闘ログも録ってあるので見てみますか?あ、この剣は有り難く貰っていきますね。貴方も物を売る立場なら信用が一番大切だって分かってますよね?一度成立した取引を自分の感情で取消ちゃうんですか?それとも店側版クーリングオフ制度なんて自分ルール作ってました?」


すっきりしました。

さて、この趣味の悪い武器を売り払って美味しいものでも食べに行きましょう。


「おい、ちょっと待ちな」

「何か御用ですか?あ、もしかして謝る…」

「おらぁ!」

「へ?」


私は死にました。


ーーーーーーーーーーー


「これはゴミ武器だな」

「えっ?」

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