一話 転移
───システム起動。登録者ナンバー『000(トリプル・ゼロ)』確認。神経回路疑似接続開始、同調率75、81、83パーセントを記録、グリーンゾーンで安定。登録者のバイタル値に異常はなく安定。最終接続・・・終了いたしました。
暗闇からうすぼんやりと光が差し込む。真っ白な空間に色が付き始めた。ぼやけた空間ははっきりとしてくる。
白衣を着た学者風の人間が顔をのぞかせる。何やら記録をとっているようだ。視野角は通常、視覚情報の伝達におけるラグは0.03秒で許容範囲内だ、という声がかすかに聞こえてくる。
白衣の男が声をかける。「被験者の名前は国重龍一。登録者ナンバーは『000(トリプル・ゼロ)』。年齢は二三歳のいたって健康体。国重君、実験は成功したよ」
頭の中で木霊する。国重龍一、その名前は自分の名だ。だがなぜか今は別人の名前のような気がしている。
「ではまず、右を向いて」白衣の男が促す。言われた通りの反応を示す。次は左、指の細かな動き、全てをこなしていく。
「うむ、聴覚も正常なようだ。では最後に自分の名前を口に出してみようか」白衣の男の言うがままに口を動かす。だがうまく発声ができず、打ち上げられた魚のように口をパクパクさせる。
「急がなくてもいい、ゆっくりでいいぞ」
徐々に音を伴い始めた。口の形も複雑に変わってゆく。
「くに・・・し・・・げ・・・りゅうい・・・ち」
───口に出したその声は、女の子の声だった