203 いい加減、寝させて
寝させて。
俺は魔王城にある風呂場から放心状態のまま、脱衣所で着替えをしています。
周りには満面の笑みを浮かべ、やけにつやつやしている女神達がいます。
「アキラ様とのお風呂は温まりますね」
「身体の奥底かラ、みなぎりまス」
「「洗い愛の心は大事ですぅ~」」
「補充は大事ですからね~」
「すきんしっぷ!」
女神達、ヴァルちゃん、マジちゃん、ディフェちゃん、マジディフェちゃん、すーちゃん、ひーちゃん、ラッキーちゃんが呟きます。
なんの話をしているのか分かりませんが、とてもご機嫌です。
実際俺、お風呂上りに身体を綺麗にしてもらっただけです。
段々、身体を洗われる事に耐性が付いてきそうな気がします。
俺は風呂上り後、魔王城の廊下をふらふらと漂っています。
さて、風呂も上がったし寝るわ。このまま永久の眠りについて消えてしまいたいです。
どうした俺、生きるのが辛いのか?
異世界に戻って来るって事は、潜在的に追い込まれてるのかと感じました。
いつ首切られるのか分からない状態なので、生きているだけで精一杯です。
辛かったら頑張らずに、現実逃避するのは大事だぞ。
生きるのに疲れました。
誰か褒めて!
俺の気持ちを察したのか、女神達が俺をもてはやします。
「アキラ様は生きているだけで立派です! 他者は偉大さが理解できてません!」
「流石アキラ様! 無意識のうちに肺呼吸できてるなんてスゴイ!」
「過酷な異世界で生きていけるなんて、アキラ様じゃなかったら即死です~!」
「見事な二足歩行ですー! 歩く事、前に出る姿勢、素晴らしいですー!」
「アキラ様の心臓が鼓動する度に、私達の胸が高鳴ります~! 惚れ惚れしますぅ~」
「一人できがえできるなんて、アキラ様すごい-!」
女神達は、俺を褒めているのか煽っているのかさっぱり分かりません。
アホか! 自分が思っていうのもなんですけど、いい加減にして下さい!
生きてるだけで丸儲けなんでしょうか? 分かりません。
女神達に励まされなんだか、少しだけ元気が出てきました。
「アキラ様の凄さを、もっと異世界に布教させる必要があります」
「もっと崇拝なる信者、信仰者を増やしましょウ!」
「アキラ様は世界の理ですー。アキラ様を中心に世界が回っていますー!」
「アキラ様は働きすぎなのです~。これ以上働いたら、世界が狂ってしまいます~」
「誰にも真似できない神の奇跡を、起こし続けている事に誰一人気付いていません!」
「なんてったって、アキラ様はキス(魔力補充)ができるんだから!」
「「「世界を敵に回したとしても、私達が居ますから安心して下さい」」」
なんなの? バブみの極みかな?
女神達のもてはやし具合がエスカレートしてきます。
なんだろう? 新手の宗教勧誘かな?
俺は宗教に興味は無いんだよ!
「ドーーーーン!」
てか先程から、魔王城内で爆発音が鳴り響きます。
爆発音はしていても魔王城の壁は傷一つ付いていません。
風呂場に移動してる最中から爆発音鳴ってたなぁ?
「ちょっと寝るから、静かにさせちゃって?」
「「「「「分かりました!」」」」
俺は女神達に頼みます。
「「「「「シュンッ!」」」」」
次の瞬間、俺の周りにいた女神達が居なくなります。
何故か運の女神『ラッキーちゃん』だけが残ります。
俺はラッキーちゃんに向きます。
「ラッキーちゃん、皆どこ行ったんだろね?」
「ん?」
紺色髪のラッキーちゃんは指を頬に当てて、首を傾げます。
うん。可愛いなぁ。俺、ロリコンじゃないけどね?
まぁいいか。
取り残された俺はフラフラと千鳥足の様に、寝室に向かい歩きます。
ラッキーちゃんも俺の真似をしてフラフラと歩きます。
爆発音も止まり、次々と女神達が現れます。
そして、俺に報告します。
「なにしてきたん?」
俺は疑問に思い、帰って来た女神達に聞きます。
「リビングにて帝国で捕まっていた人達が争ってたので、『貴方達はアキラ様に生かされている事を思い直しなさい』と、説明しました」
ヴァルちゃんがキリッっと答えます。
「報告しますー。リビングにて、『リョウ』がスキルドレインを使用し、暴れていたの制圧しました。本気を出した私に、二度目の敗北はありえませんー。貴方がスキルを奪い成長するとしても『私はそれ以上の速さで成長しますー』と、説明してきましたー」
すーちゃんが無い胸を強調して報告します。
「『モラル』が時空を操って、元いた異世界とこの異世界を繋げようと試みてたので、阻止しました~。アキラ様が白と言ったら白、アキラ様が明日だと言ったら明日だと、説明してきました~」
ディフェちゃんは巨乳を前屈みにアピールする様に答えます。
「帝国共の争いニ、ヤマダさんがキレテ、魔力暴走を起こした状態デ、消滅魔法(改)を詠唱してましたけド、阻止しましタ。制御できない魔法を使うのは恥だト、説明してきましタ」
マジちゃんが答えます。
「アキラ様がキレなくても、度が過ぎると私はキレますからね~? と、説明しました~」
ひーちゃんはニコニコしながら答えます。
「帝国の精鋭部隊数名が、魔王城に乗り込んできていたので『アキラ様の存在を理解していない愚か者』に『すこぉ~し』お灸を据えてあげましたぁ~」
マジディフェちゃんは腕を組み豊満な胸を強調して答えます。
女神達は各自報告してくれます。
張り切りすぎです。
えと、確か帝国にいたダンジョンマスターの『リョウ』はスキルドレインを使って、俺からスキル『7柱の女神』を奪ったんだよね?
懲りずによくやるなぁ。コミュニケーションの一環だと思えばいいのかな?
殴り合いの後に芽生える友情とかあるしね? 喧嘩する程、仲がいいんですかね?
さっき、仲良くやってね? って伝えたばかりなのに何やってんだろ?
まぁいっか、仲良く喧嘩しな!
そんな事を思っていると、てくてくと、白いメイド服姿のルフちゃんが歩いてきます。
「アキラ殿いいかの?」
「どうしたん? ルフちゃん?」
「弱チェリーが商店の売上金をカジノで使ってるぞい?」
「ええ?」
メイド服姿のコピールフちゃんはサイドチェストを決めながら教えてくれます。
ええ? 弱チェリー何やってんの!?
お金の管理は全部丸投げしてたけど、売上金使っちゃ駄目でしょ?
俺は女神達に向きます。
「どこにいるのかな?」
「弱チェリーは現在、魔王城外、カジノのスロットコーナーに居ますー!」
「そっか。歩くの面倒になって来たから、サクッと転移しちゃって?」
「了解ですー!」
俺達魔王城の外にあるカジノに転移します。
煌びやかで、高級感溢れる内装のホールにはルーレットやポーカー台等、多数のエリアにがあります。
一際目立って、スロットコーナーが配置されています。
コピールフちゃんもいるな?
スロット台に群がっている獣人達が見えます。
その中心に、銀髪ショートの黒いバニーガールから声が聞こえます。
「勝てるッ! 大丈夫! 流れはきてる!」
「ボス! これ以上はまずいですよ!」
「使っちゃいけないお金は、流石にヤバイですって!」
「いい加減バレます!」
「うるせぇ! もう少しで波に乗るんだよ! 今は潜伏期なんだよ!」
「あんまり大きい声出すと店側からマークされますよ」
「ボス、さっきからメイド長の視線がやけに憐れむように見てます」
「あぁ、ボス……もう……おしまいです……」
「おれに未来を!!」
一人の獣人が俺達の視線に気が付きます。
俺は弱チェリーに近づき、軽く肩を叩きます。
「よっ、弱チェリー儲かってる?」
「せせせせせ!? 先輩! お疲れ様です! どどどどど、どうしたんですか?」
「うわ……ひどいデータグラフだね? どの位入れてるの?」
「そそそそそ、そうですね。さささささ、3000枚位ですかね」
「3000枚!? これ6確が出たって聞いたのに飲まれすぎじゃね?」
「かかかかか、確定画面じゃなくて子役換算が全て6を上回ってたんで」
「そっかー。所でさ? このお金どこから出してるん?」
「すすすすす、すみませんでした!! 二度と売上金には手を出しませんっ!」
弱チェリーは慌てて椅子から転がり落ちるかの様に、その場で土下座します。
ねぇねぇ? 怒った?
怒ってないよ?
「別に怒ってる訳じゃないからさ? お金使い込んでまでスロットするのはどうかと思って。まぁ、程々にしといてね?」
「あああああ、ありがたきお言葉!」
別に今お金に困ってる訳じゃないからいいけどさ?
嘘ついてまでギャンブルする様になったら末期だからね?
まだ、弱チェリーは大丈夫かな?
さて今回だけだよ?
俺は弱チェリーの打ってた台にコインを3枚入れて、レバーを叩きます。
リールがゆっくり回転しフリーズします。
台が壊れました。
「んじゃ、俺帰って寝るから。おつかれ」
「マジスカ!? これ1/65536のロングフリーズじゃないですか! マジスカ!?」
「後は頑張ってー」
「マジスカ!? 流石先輩、マジパネェ!」
黒バニーガールは土下座状態のまま歓喜しています。
近くにルフちゃんが近寄ります。
カジノエリアマネージャー担当のコピールフちゃんかな?
「アキラ殿よかったかの?」
「あれ、ルフちゃん? 早い段階で釘させたから問題無いよ? 知らせてくれてありがとう」
「アキラ殿がそれでよければ問題ないかの?」
ルフちゃんはポージングであるフロントバイセプスを決めています。
それにしても今日一日やけに長く感じるな。
大体さ? 今日一日自分の身体の中に何者か分からない感覚の時もあったし。
俺の身体は俺一人の物じゃない気がしてしょうがありません。
さて、なんもしてないのに疲れたな。今にでもぶっ倒れそうな感じです。
えいさーーーーーぃ! はらますこーーーーいー!
俺の思考は段々曇って行きます。
俺は疲れて何故かその場に倒れます。
兄貴、もう駄目だ。