199 ゲーム脳 2
ゲーム脳です。
俺達はプレンちゃんの屋敷庭園にいます。
塀の上には、セイ君を少し大きくした様な黒髪の男性がいます。
街人の服を着ています。
「弟のセイを放せ!」
「……兄さん!」
セイ君は驚きながら叫びます。
えっと、セイ君の兄さんも異世界に転移してたの?
「ミルちゃん、あの人誰か分かる?」
「……アキラ分かる。あの人は『柏原 景』16歳、日本人、転移者、レベル300、スキル『ステルス:背景と同化できる』。……後、さっきまで、魅了効果が掛かってた……」
ミルちゃんが教えてくれます。
こっちが偵察の方だったのね?
俺は塀の上にいる人に向けて、話しかけます。
「すみません。もしかして、帝国のルリザベートさんと関係ある人ですか?」
「なんで、姫様の名前が出てくるんだ!? 魅了が解けたのがバレたのか!? クソッ! セイ! 今助けるからな!」
そう叫ぶと、塀の上にいた人が消えます。
「セイ君の兄さんって、異世界に転移してたの?」
「分からない。だけどどう見ても、兄さんだ」
「「アキラ様、ケイと呼ばれた人を捕まえました~」」
「なっ、離せよ! 何で居場所が分かるんだ!?」
「「空間の気配まで、消すことはできてませんでした~」」
ディフェちゃんと、マジディフェちゃんが答えます。
拘束された状態で『ケイ』と呼ばれてた青年が現れます。
話し合いでもしようかね?
「それで、ケイ君はなんでここにいるの?」
「なんで俺の名前を知ってるんだ!? 偽勇者!」
「あれ? 俺の事は偽勇者で通ってるのね?」
「そうだ! 偽勇者の情報取集する為に、鍛冶王の屋敷が怪しいと思い、この屋敷に鍛冶王の最中に忍び込む予定だったが、魅了が解けて、我に返って今後どうしようか悩んでいた。そんな中、目の前に、前世界で行方不明になってた弟がいた――我を忘れて、姿を現してしまったが、偽勇者の罠だったとは……」
「罠じゃないんだけどなぁ。んと、ルリザベートさんから仕向けられた偵察の人だったら、ミッション中止になったから、一度確認しに戻るといいよ?」
「信じられるか!」
ケイ青年は、俺達に睨みを利かせながら答えます。
怖いなぁ……まるで俺、悪役です。
「ケイ兄さん! ここって異世界って聞いたけど本当なの!?」
「あぁ、本当だ、セイ。兄さん心配したんだぞ? っていうより、セイが行方不明になった後、皆心配したんだけどな。そんな中、俺は、イスニアル帝国でクラス丸ごと勇者召喚に巻き込まれて、異世界に来たんだが……どうやら俺はさっきまで、操られていたようだ」
「兄さん。この世界って、ゲームだよね? 転生者や転移者を倒すと、レベルが上がるって、頭の中に思い浮かぶんだけど」
「残念だけど、ゲームじゃない。異世界だ」
「僕がこの世界に来たのが1ヵ月前位なんだけど、兄さん、いつこっちに来たの?」
「俺が巻き込まれたのは2ヶ月前だから……おかしいな。時間軸でもズレてるのか?」
「兄さん。僕、この人達に捕まったけど、チョコくれたから悪い人じゃないよ?」
「料理スキル保持者なのか!? 弟よ……。もしかしたら俺達は、とんでもない人に捕まったのかもしれない……」
そう言って二人は、俺達を「じーっと」品定めする様に見ます。
そんなにじーっと見ると、俺達妊娠しちゃうよ?
なんなの? 保護者として、かくまわなくちゃいけないの?
面倒です。
「俺に害する事しなければ、異世界で自由に過ごしていいと思うけどさ? とりあえずマジちゃん、追加でチョコ出してあげて」
「わかりましタ!」
俺はマジちゃんに頼んで、チョコを出してもらいます。
にしても、ケイ青年はどうやってドワーフの国に転移してきたんだろ?
帝国の召喚魔法陣ダンジョンって、固定転移魔法陣あったから転移してきたのかな?
思ったからって話すと、時間取られそうだからいいか。
あぁ、ごめん。拘束解けて無いからチョコ食べれないのか。
さっきセイ君、普通にチョコ食べてたけど、拘束一時的に解除して貰ったのかな?
まぁいいや。
「それじゃ、拘束解くけどさ? 逃げたり、消えたり、暴れたりしないって、約束できるならチョコ渡すけどどうする?」
「どうせ、変な物入ってんだろ! セイは騙せても、俺は騙されないからな! 帝国の料理を食べてから思考が変になった前例があるから、信用できない!」
「疑り深い所とか、兄弟そろって似てるよなぁ。どうすりゃいいんさ?」
「面倒なので消した方がいいですぅ~」
「マジディフェちゃん、物騒な事いっちゃ駄目だよ?」
「すみません~」
無理やり食べさせるのも悪いから、どうしようかな?
弟の方を放っておいたら、転移者って理由だけで、銃殺し続けるような気がします。
マジちゃんに頼んで、スキルドレインして貰ったらどうだろ?
別にそれでもいいけど、つまらないよ?
つまらないとか関係なしで、周りの人に迷惑掛けてるんだったら止めさせるべきだよ。
俺会議始めるの? 面倒です。
もういいや、適当で。
俺は女神達に向きます。
「それじゃ、スキル使うと、撃つ相手が『大切な人』に見えるようにできる?」
「「「「できますー」」」」
俺は女神達に頼みます。
それでいいかな? これでむやみに転移者とか撃たないよね?
ケイ青年はどうしよ。まぁいいか。
「二人の拘束、解いてあげて」
「「「はーい!」」」
女神達が答えます。
これで、チョコ食べれるかな?
セイ君は素早く距離を置き、銃を構えます。
さっきまで、ほんわかしてたのに雰囲気が変わります。
「なんで兄さんがいっぱいいるんだ!? 兄さんを偽るな!」
セイ君は驚きながら叫びます。
「パンッ!」
「…………セイ?」
「え、あぁ……? 兄さん!?」
ケイ青年は撃たれ、崩れる様にその場に倒れます。
「兄さん! 死なないで!」
セイ少年は駆け寄り、ケイ青年を心配します。
「あれ? これって、蘇生して倒すを繰り返せば、無限レベリングできるんじゃね?」
「蘇生上限があるので、むやみに再生を繰り返すと魂に負荷がかかります~」
俺が呟くと、ひーちゃんが教えてくれます。
「そういう大事な事は、始めに教えて下さい」
「アキラ様には、関係ありませんけどね~?」
「ひーちゃん、まだ何か知ってそうだね?」
「嘘でしょ兄さん!? これゲームなんでしょ!? HP回復アイテムや、回復魔法とかあるんでしょ? ゲームだと言ってよ! 兄さん!」
セイ君は泣きながら叫びます。
畜生、誰がこんな惨い事を。
セイ君のせいです。
「……許さねぇ。よくも兄さんをやってくれたな」
セイ君は涙をぬぐい、振り返ると、俺達を睨みつけます。
逆恨みとか勘弁して下さい。
「ひーちゃん、回復してあげて?」
「分かりました~。終わりました~」
俺はひーちゃんに頼みます。
セイ君の後ろには、撃たれた身体を確かめ――上体を起こして不思議がってる、ケイ青年がいます。
俯いているセイ君は、手に持つ『スナイパーライフル』を『バズーカ』に替えます。
レア役確率は、1/4にアップするのかな?
分かりません。
「……許さねぇ。絶対に許さねぇ!」
「セイ! 兄さんは生きてるぞ!」
「え?」
「ズドーーンッ!」
セイ君が振り返ると同時に、バズーカはケイ青年に向けて発射されます。
「兄さん!?」
ケイ青年はその場に倒れます。
弾は後方の塀に爆発し、黒い煙が上がっています。
漫才かな?
「兄さーーーーん!?」
セイ君は叫び、手に持っていたバズーカを投げ捨て、兄さんを介抱します。
地面に落ちたバズーカは消えます。
「あれ? もしかして、レベル上がったからバズーカ砲になったの?」
「……アキラ分かる。現在のセイ少年のスキルレベルは『3』に上がってる。『武器成長』スキルで、バズーカ砲の項目が見える……」
ミルちゃんが教えてくれます。
なんて恐ろしい相手なのだろうか……実の兄を殺してまでレベルを上げようとするなんて。
俺には真似できません。
そんな事を思いました。
セイ……恐ろしい子。