198 鍛冶王とゲーム脳
外れます。
俺達は鍛冶王が行われてる広場にいます。
発砲音と共に、ウメさんが崩れ落ちると、会場は悲鳴で溢れかえります。
「ウメ! しっかりしろ!」
プレンちゃんは壇上に駆け上がり、ウメの容態を心配します。
俺も壇上に上がりウメさんの容態を心配すると「バキンッ!」と、金属を弾く音が聞こえます。
遅れて、発砲音が鳴り響きます。
「物理障壁で、攻撃を防ぎましたぁ~!」
「後方700m、建物屋根からの狙撃ですー」
「アキラ様に害する存在を、捕縛します」
女神達が答えた後、ヴァルちゃんが消えます。
「ひーちゃん、ウメさん治しちゃって?」
「わかりました~。終わりました~」
俺はひーちゃんに頼むと、腹部の傷はみるみる塞がります。
ヴァルちゃんが現れます。
「アキラ様、捕まえてきました」
「なんだお前!? 離せよ!」
銃を持っている黒髪の少年は、ヴァルちゃんと共に現れます。
少年は銃を持っており、銃にはスナイパーゴーグルが付いています。
これで、ウメさんを撃ったのかな?
ヴァルちゃんは、抱えていた少年を床に置きます。
「銃を撃つのは、撃たれる覚悟のある奴だけだよ?」
俺は、銃を持つ少年に告げます。
指を『田舎チョキ』にして、銃を撃つ振りをしてます。
「パンッ!」
「うぁああああああああああああ!」
「パンッ!」
「うぁああああああああああああ!」
「パンッ!」
「うぁああああああああああああ!」
なーんてね。少年。ノリがいいね?
少年は撃たれる度に叫び、オーバーリアクションをしてます。
実際撃たれていないのに、少年は倒れます。
「あれ? やけにオーバーリアクションなんだけど、なんかした?」
「アキラ様の打つタイミングで、実際に撃たれた痛覚をそのまま脳内に与えました~」
ひーちゃんが答えてくれます。
ええ? てっきりノリのいい少年が、俺に合わせて撃たれた振りしてくれたと思ったのに、悪い事をしたなぁ。
「少年拘束して、回復してあげて? もしかしたら帝国のエリザベートさんが言ってた、偵察の人かもしれないからさ」
「わかりました~」
俺はひーちゃんに頼みます。
あ、この壇上、表彰式の最中だから離れたほうがいいかな?
めっちゃ目立ってます。
「プレンちゃん、ウメさんの介抱頼みます」
「アキラ、分かった」
俺はプレンちゃんに頼みます。
「すーちゃん。転移でちょっと人目の付かない所に転移して?」
「了解ですー!」
俺はすーちゃんに頼むと、プレンちゃんの屋敷庭園に転移します。
ここならあんまり人目に付かないかな?
まぁいいや。
「なんで身体が動かないんだ!?」
身動きの取れない少年は、目を覚まし叫びます。
「ちょっと聞きたいんだけど、なんでウメさん撃ったの?」
「……」
身体の動かなくなった少年は、無言で、俺達を睨んできます。
「黙ってると分かりません。別に、喋った後用済みだからって、消すとかしないからさ?」
「……どうだか」
「うーん、どうしたら喋ってくれるかなぁ。適当に聞いて見ようかな? んーと、ルリザベート姫さんからの偵察だったら、連絡が行きわたってないから、ミッション中止だと思うけど?」
俺は少年に聞きます。
あれ? 思ったけど、俺の偵察だったら、別にウメさん射撃する必要性ないよね?
ウメさんが狙われる理由って何だろ? ウメさんが鍛冶王になると困る人が居るのかな?
うーん。毎回鍛冶王だから、多くの恨み買ってるのかもしれないよね。
それにしても、この銃って、前世界のスナイパーライフルだよね?
異世界に来てから銃とか見た事ないから、転移者の可能性があるよね?
俺はミルちゃんに向きます。
「ミルちゃん、分かる?」
「……アキラ分かる。この少年の名前は『柏原 政』13歳、日本人、転移者、レベル200、スキル『武器成長:転生者、転移者を倒すと銃の武器レベルが上がる』。『弾丸作成:弾丸を作成、制限有』。現在のスキルレベルは『2』で、転移者を1人を倒している。放っておくと厄介なスキル……」
ミルちゃんは『魔眼』で少年を見て、教えてくれます。
あれ? この少年ルリザベートさん関係無くね?
「なんで僕の事知ってるんだ!?」
「薄紫色髪した『ミル』ちゃんが、そういうスキル持ってるからかな? そういえば、自己紹介まだだったね。俺の名前は『アキラ』で、こっちにいるのが俺の嫁かな? そんでこっちにいるのがエルフの『フル』ちゃんです」
「……僕の名前は『セイ』だ」
セイ君は睨みながら、俺に名前を教えてくれます。
多分、ウメさんの刀を見て転移者と勘違いしたのかな?
てか、倒すって1人殺めてるの? 怖いな。
「セイ君。いくら力を手に入れる為だからって、人を殺めちゃ駄目だよ?」
「……僕を倒そうとしてきた奴が、転移者だった。この世界で生きる為には、もっと強くなる必要があった」
「それでも、他人がやられて嫌な事は、しちゃ駄目だと思うけどね?」
「僕はまだ、死にたくない。強くなる為だったら、何でもやるって決めたんだ」
「うーん。安全に、生きていければ強くなる必要ないかな? とりあえず、カリカリしてるのは、お腹がすいてる時だよね? チョコでも食べる?」
「チョコ持ってるのか!?」
「マジちゃん。チョコ出してあげて?」
「了解でス!」
目の前にチョコが出ます。
セイ君はチョコを受け取ると、俺とチョコを見比べて疑心暗鬼になってます。
まぁ、疑うのは仕方ないかな?
「変なのは入ってないよ?」
「……」
そう言った後、俺と女性達は、芝の上に座ります。
チョコを食べる姿を見て安心したのか、セイ君はチョコを食べ始めます。
直ぐに食べ終わり、視線を逸らして何か言いたげそうです。
食べたりないのかな? もっと出そうかな?
マジちゃんは気を利かせて、お菓子を出して渡します。
「……美味しい! 1ヶ月ぶりにチョコ食べました!」
セイ君は声を上げて、微笑みます。
笑顔になり、さっきまで殺伐とした雰囲気がなくなります。
チョコを食べて落ち着いたのか、セイ少年は話し始めます。
「……僕は、兄さんがやってたガンゲームをやっているうちに、意識をなくします。気づいたら、この国から離れた山岳地帯に出ます。右も左も分からないまま、日が暮れるまで歩いてると、小さな集落があって、子供のいない夫婦にお世話になります」
「へー」
「ある日、集落に盗賊が現れました。僕を世話してくれた人達は、盗賊に倒されます。僕は必死になって逃げました。逃げて追い込まれた時に、生きたい気持ちを強く思ったら、手元に拳銃が出て、引き金を引いたら盗賊は倒れました。僕は必死に引き金を引きました。盗賊達を倒した後、集落に戻って襲っていた盗賊達を倒しました。僕はもっと強くならないと、生きて行けないと思いました」
「物騒だね……」
「家にあった食料を持ち出して旅に出ました。始めは自動拳銃だったけど、どうやら盗賊の中に、転生者か、転移者が混じってたみたいで、レベルアップしてスナイパーライフルになりました。僕の武器は、転生者や転移者を倒せばレベルが上がるみたいです。盗賊を倒して以降、スキルが頭に浮かび上がります。転生者は何処にいるか分からないから、強くなる為に、前世界の情報を持っている転移者を、片っ端から倒すことにしました。今日この国で、鍛冶王ってのがあるので、優勝者の刀を見て、転移者かと思って撃ったけど、レベルは上がりませんでした……」
「怖いな」
俺はセイ君の話を聞きます。
転移者だったら、誰彼構わずに倒すって考えが怖いです。
何か引っかかるなぁ。
セイ君はこの異世界を、ゲームとか何かと思ってるような気がします。
にしても、700mの長距離スナイプできるとかすごくない?
「それにしても、700m先からスナイプできるとかすごいね?」
「前のゲームでは、スナイパーとしての腕は上位に食い込んでいました。実際に撃って見る感覚とゲームの感覚は全く別物ですけど、コツを掴めば大したことないです」
セイ君は自信ありげに答えます。
「それにこの世界って、ゲームなんでしょ? だって、屋根の上とかピョンピョン飛び回れるからさ」
セイ君は拘束されたまま、不思議そうとも思わず素顔で答えます。
なんだろう、道徳の勉強を始めないといけない気がします。
日本昔話でも聞かせたほうがいいのかな?
てか、帝国の勇者召喚に巻き込まれなくてよかったね。
血の雨が降って、無双してそうな気がします。
何なの? セイ君に、異世界の常識教えてあげないといけないの?
非常に面倒くさいです。
俺はセイ君に向きます。
「ちょっと確認するけど、ここゲームの中じゃないよ?」
「最近のゲームはすごいんだよ。銃なんて日本じゃ撃ったことも無かったし、頭の中で『弾丸作成』ってスキルを思い浮かべると、弾丸を作れるから、ここはゲームの中だよ。痛みを感じるゲームなんて、やった事はないけどね」
「なんて説明すればいいのかなぁ。この世界って魔法って概念があるけど知ってる?」
「魔法? 見た事無いけど使えるの?」
「マジちゃん頼みます」
「了解でス!」
マジちゃんは元気よく答えた後、『火』と『氷』魔法を空中に出します。
合わせてメドローアとか使えるのかな?
「できますヨ?」
「マジちゃん、今は使わなくていいから! ってことで、魔法が使える異世界です」
「……」
セイ君は言葉を失っています。
これで少しは、ゲームじゃないって事分かるかな?
でも前世界のゲームが進化し続けたら、こんな世界になってたのかもしれないなぁ。
どうなんだろ?
そんな中、何処からか声が聞こえます。
「弟を放せ!」
「……兄さん!」
声のする方を向くと、塀の上に、セイ君を少し大きくしたような人が立ってます。
なにこれ、俺悪役にならないといけないの?
面倒臭い展開になってきたなぁと、思いました。
面倒です。