194 帝国 目覚める力
力です。
俺の背中に焼けるような熱い感覚が走ります。
フルちゃんのお尻から、俺のお腹に視線を移すと、オリハルコンの短剣が深々と刺さっています。
あまりの痛さで、俺の意識が遠のきます。
これが死ぬ感覚なのか……。
おい、俺。こんな終わり方してどうする?
簡単に追い込まれるなんて、どうしようもないな。仕方ない、後は俺に任せろ。
薄れいく意識の中で、俺の頭の中に声が響きます。
俺は目を覚まし立ち上がります。
「心臓を貫いたというのに、何故生きているのですか!?」
ルリザベートさんは、驚いている様子です。
あれ? 俺死んだんじゃないの?
俺は、俺の後ろで見ているような感じを覚えます。
「女神達よ……我の声を聞きここに集え」
俺じゃない俺が呟くと、地に伏せている女神達は光り輝きだします。
神々しい光に包まれて、街人の服から白い布に、白い翼を広げ、俺の前に降臨します。
「「「「「「おかえりなさいませ、大天使アキラ様」」」」」」」
女神達は光り輝きながら答えます。
「うむ、女神達久しいな。アキラがピンチに陥ったので、一時的に我が権限を握った」
「「「「「「はい! 大天使アキラ様!」」」」」」」
「お前達はいったい……」
エリザベートさんが困惑の表情をしながら聞いてきます。
「この程度の相手に煩わせる等、考えられんな」
姫さんはその場に倒れます。
何したんですか?
俺、これで後はなんとかしろ。あんまり、ピンチになる状況に持ち込むんじゃないぞ?
大天使アキラって、なんですか?
俺からの返事はなく、胸の傷は塞がっていきます。
自分の身体を確かめます。
「すんません。一体何が起きたのかさっぱり分からないんですけど……」
俺は座ったまま呟き、頭に手を当てて悩みます。
目の前には、異世界に到着した時に見られた姿で、女神達が立っています。
状況がさっぱり分かりません。
さてどうしたものやら。
一つずつ確認して行こうか。
俺は座り、女神達に向きます。
「ごめん、タブーだけど『大天使アキラ』ってなんなの?」
「私から説明させていただきます。今まで黙っていて申し訳ありませんでした。大和アキラ様は、大天使アキラ様の転生先です」
「それって、ちょっと前に言ってた冗談の話?」
「はい、あの時は冗談としてごまかしましたが、本当の事です。私達、女神達は大天使アキラ様に組み込まれたスキルです。無理にアキラ様の精神を治療したり、死に直面する場合は、大天使アキラ様が発動する仕組みになっています」
「嘘ついてたの?」
「そう言う訳ではございません……どうかアキラ様、気を悪くしないで下さい。すべてアキラ様を想っての行動なので……」
ひーちゃんが説明してくれます。
今まで俺を助けるんじゃなくて、大天使アキラを助ける為に従ってたわけね?
ちょっと、ショックです。
大天使アキラねぇ? 俺全くそんな自覚ないけどなぁ。
「俺、まったく大天使アキラって自覚ないんだけど、どういうこと?」
「アキラ様、転生する際は基本的に記憶を消されます。前世界でアキラ様が死んで、天界を通った際に、大天使アキラ様の記憶が断片的ですけど、復活されました」
「天界で気絶したのって何か関係あります?」
「私達はその場に居りませんでしたので、わかりません。申し訳ありません」
女神達は俺に謝ってきます。
自覚は無いけど、どうやら俺は、大天使アキラの生まれ変わりみたいです。
大天使か、凶悪なスキルなわけだ。
まだ聞きたい事あるけど、とりあえず目の前の出来事を片付けないと……。
俺は女神達に向きます。
「とりあえず、カプセルに入ってる人達、解放してあげて? 後、ルリザベートさんとリョウのスキル奪って、生き返らせて?」
「「「「「はーい!」」」」」
俺は女神達に頼みます。
半分混乱してメダパニ状態です。
本物のルリザベートさんは、操られた偽物だった! ってオチはもういらないから!
そう思ってフラグ回避するのって大事だよね。
現実は非情なり。もっと自由でいんだよ! いいんだ……。
うーん、ちょっと暴走気味です。パレス逆流! 暴走します!
「フルちゃん、覚醒しないでね!」
「アキラ様……突然、何を言ってるのです?」
フルちゃんが困惑しながら俺を見ています。
ごめん、ちょっと俺の思考がネルフ職員になってました。
カプセルの中の人達が起き上がります。
ルリザベートの傷が塞がり回復し起き上がり、目の前にリョウが現れます。
俺は二人に向きます。
「ルリザベートさん、リョウさん、俺はこの異世界で、まったり過ごしたいので見逃してもらえませんか? 本来ここに来た目的は新聞の訂正で、それさえ済ませれば、ここを出ていくので……。後、俺達の旅と生活を、できるだけ阻害しないで下さい。お願いします」
「いいえと、言える訳がありません。私の命は偽勇者様に握られたと同じですから」
「はいアキラ様! スキルドレインを奪われ、自分に残されたのは、ダンジョンマスター権限位です! 断れる理由がありません!」
「あれ? 思ったけど二人共、別々の意思持ってるのね?」
「はいアキラ様! 俺はルリザベート姫に操られていました! スキルドレインで姫様の人形劇場を使えるようになったと同時に、操られていました!」
「私はスキル『監獄』で保存されたと同時に、操ってただけに過ぎませんので、全ての事を把握している訳ではありません」
「なるほど。俺達の生活を阻害させないようにするのって、各都市にある、商店商売と魔王城とかだから」
「え……偽勇者様は魔王だったのですか?」
「魔王がアキラ様だったら、強大な力の持ち主と言う事の話は頷けます」
「なんて説明すればいいのかなぁ」
「帝国軍は現在、魔王城に向けて進軍を続けているのですけど、大丈夫でしょうか?」
「帝国軍って何?」
「はい、魔法陣ダンジョンを利用して、精鋭帝国軍、数3000人を、魔王城に向けて出陣させました。現在シルマリル国で、鍛冶王が開催されています。偽勇者様の情報を回収する為に、偵察部隊を送らせています。行き違いで阻害させるような事が無ければよろしいですが……」
ルリザベートさんとリョウに話を聞きました。
問題があったら、ルフちゃんから連絡あるから……大丈夫かな?
どうしたらいいのやら。
「ルリザベート! よくも私達を利用しましたね!」
「今度はお前が監獄に入る番だ!」
「……殺す」
カプセルから起き上がった人達が、ルリザベートさん達にスキルを使用して攻撃を加えようとしています。
せっかく一段落着いたと思ったのに、この人達も何とかしないといけないの?
「ちょっと、この人達一時的に拘束して!」
「「「「「分かりました!」」」」」
俺は女神達に頼んで、攻撃を加えようとする人達を拘束します。
少しは話し合うって気持ち、持ち合わせてないのかな?
慌てた表情でリョウが向きます。
「はい、魔王アキラ様! 地上の帝国城内で反乱が起きて、ダンジョンコアである勇者召喚魔法陣が攻撃されています!」
白髪のリョウがパンツ一丁で教えてくれます。
次から次へと、問題事が起き続けます。
なんで俺の事『魔王』っていってるの?
魔王城攻撃されてて、鍛冶王荒らされて、この人達に説明して、誤解解くの面倒くさいです。
そのうえ、大天使アキラの存在も調べないといけないとか。
俺、このまま死んでた方がよかったかも……。
そんな事を思ってました。
面倒です。