プロローグ2~徒然命~
私は徒然命と言います。今日から高校生です。
でも、ちょっと憂鬱なことがあります。
それは登校時間です。私の住む町からその学校までは、高速バス、市バス、電車と3つほど乗り継がなくてはいけません。そしてそれには合計2時間以上の時間がかかってしまうのです。
花も恥じらう女子高生としては、ヘアセットやメイク、その他もろもろに時間をかけたいのですが、そんな余裕はもちろんありません。
そして極め付けには、街に一つしかない営業所への道のりです。とても急な坂道で夏にでもなればとても大変でしょう。
……と思っていましたが、案外坂道は楽でした。私が中学生のころまで陸上部に所属していた、というのも遠因かもしれませんが、このくらいの坂道ならだれでも汗一つかかないのではないでしょうか。
男の子ならもっと早く登れるんだろうなぁ。
じゃあ、いったい何に憂鬱になっていたんでしょうか?
あ、そうです。もう一つ気がかりなことがありました。
私は極度の引っ込み思案なんです。今までは私立の女学園に通っていましたが、今年からは県境の高校。知らない人と嫌でも接する機会が増えてしまいます。
それに人に接するのは決して学校だけではありません。ええ、まず第一の関門として高速バスが待っています。
突然隣の人が話しかけてきたらどうしましょう!?
いや、でもさすがに初対面――というかたまたま隣になっただけの人に話しかけるくらいフレンドリーな人は今日日、日本にいませんよね。
同じ学校の人、とかならともかくですが、学校から離れたこの町にたまたま同じ生徒がいるとは思えません。
大丈夫、みこと。隣に座った人は愛玩動物だと思えばいいの。そう例えば猫。そうすれば緊張するどころか、顎を撫でたくなってしまいます!
なんて。
そんなばからしいことを考えながら坂道を上る私は、きっとなんだかんだ言って疲れているんじゃあないでしょうか。でも、そんなことを考えでもしないととても退屈な道のりなのだと考えてください。
あら、私さっきから誰に話しかけているのかしら。
それから数分と経たずにバスが見えてきました。発車時刻よりまだ5分ほど早いです。
どうやら予定の時間までバスは待機しているようです。
まあ、何はともあれ間に合ってよかった。私はすぐにバスに乗り込みます。
「おはようございます」
一応礼儀として運転手さんへのあいさつは忘れません。とても赤面してしまいましたが。
座席を見回すと会社員のおじさんたちが数人、疲れた顔で乗っているだけのようでした。とてもがらがらです。
私はとりあえず自分の座るところを探すことにします。
といっても私がバスに乗るときは、大体同じ場所なんですけれどね。
前過ぎず、後ろ過ぎず、だからと言って真ん中でもない。真ん中よりは後ろ。そんな席です。そうですね、このバスだと前から7番目くらいの場所がいいかもしれません。右か、左かは気分ですが、今日は左側の気分です。
この座席選びは、私の性格を表していると思います。目立ちたくない、という私の性格を。
私は、まっすぐ選んだ座席へと向かい、腰を掛け――て、ええっ!?
「……あ」
うぅあぁああ……。つい声が漏れてしまいました。
だって、私が座ろうとしていた席にはすでに先客がいたのですから! ちょっと変なテンションになってしまいました。耳が熱いです。
どうやらその先客は前屈みでカバンをのぞき込んでいたため、さっきの私の視界に入らなかったようです。
私の声に先客――同じ学校の制服を着た男の子です!?――が振り向き、目が合いました。……あっちゃいました。
少し男の子にしては小柄な彼は、とても気が弱そうです。まるで捨てられた子犬。
私がこのまま立ち去ってしまえば、この人はとても傷ついてしまうんじゃあないでしょうか。
それによく見もせずにここまで来てしまったのは私です。……やるしかありませんでした。
「……っ」
私は極力男の子の顔を見ないように隣の席に腰を下ろしました。
「!?」
隣から男の子の驚く反応を感じます。
すかすかのバスの中でわざわざ隣に座ったのですから当たり前です。でもこれはあなたのためでもあるんですよ。ああ顔が熱い……。
「…………?」
てアレ? 私何か致命的にやってしまっていませんか……?
すかすかのバスの中、わざわざ隣の席に腰を下ろす――ってまるで何か意味ありげじゃないですかぁ!
男の子も「え、何か用なの……?」みたいな顔をしてこちらを見ています。
は、話なんてないのに……!
どどど、ど、どうしましょうっ!?