7.オーガ討伐・前編
いつもお世話になりますアリス工房(仮)です
討伐編ですやっとスタートです!
早朝、待ち合わせの場所に指定された町の入り口である門へ向かう為、日が昇る頃合いを見計らって宿屋を出発した。
道すがら、思いっきり緊張しているユーリちゃんに声を掛けながら歩いていると待ち合わせの場所に到着する。
門の前には冒険者らしき集団が固まっている。俺は、その中の一人に声を掛けてみる。
「オーガ討伐依頼のパーティですか?」
仲間の女性と話していた金髪頭のガッシリとした体型の男が振り向いて答える。
「ああそうだ。すると君達も討伐依頼を受けたパーティーか?」
その言葉に頷き返すと男は自己紹介を始める。
「俺の名前はギル、横にいるニ人がマルクとミラだ」
無愛想な男と、少し切れ長の目が印象的で腰まで届く茶色い髪が綺麗な美人さんがこちらに来て挨拶して来る。
「ミラよ。よろしく」
「…………」
「マルクは無口な奴なんだ気を悪くしないでくれ」
いや、でもマルクさん凄く小さな声で挨拶したぞ。わかりづらいから喋ってない様に思われているのか?でも悪そうな人には見えないな。
ミラさんの印象は何か妖艶な感じがする。何処と無く出で立ちも冒険者と言うよりはお嬢様的な雰囲気を感じる。
ギルさんは………普通かな。
二人に挨拶していると、別の場所から大男がデカイ声で話に入って来た。見た目まんまビックバン○○な人だ。
「随分と細い奴がきたな。俺はポルコ、後ろのニ人が、二アラとギアンだ」
もう一組のパーティーがそれぞれ挨拶してくる。
二アラさんとギアンさんは見た目そっくりな顔立ちで、聞くと双子の弓使いだそうだ。なるほど、そっくり過ぎて見分けがつかない。
「ナツメですよろしく。後ろの小さいのが相棒のユーリです」
自己紹介するとユーリは緊張しまくりの声を発する。
「ゆ、ゆ、ユーリです。よろしくお願いします」
緊張しすぎて声が上ずっている。大丈夫だからと声を掛け落ち着かせる。
全員の挨拶が一通り終わり、オーガ討伐に向け森林地帯へ出発する。
道すがら、全体のリーダーを決めようという話になりランクCの冒険者ギルが必然的にリーダーになる事で話は決まった。
俺は後方に下がり全員のレベルをステータスウィンドで確認した。味方の戦力を知りたいのが主な目的だ。
殆どの冒険者が、レベル十五~二十前後。ランクCのギルはレベル二十二で、全体で一番高い。ランクCクラスだとこんなものかと納得し、ウインドを閉じる。ただ少し引っかかる事もあったが、今は保留にして置こう。
暫く歩いていると、俺の横にギルが並んで話しかけて来た。
「ナツメ達は見た目、戦士の格好だが二人とも前衛の隊列で良いか?」
今後、魔物と戦う時の隊列を決める為に聞いて回っている見たいだ。
その質問にどう答えようか一瞬迷ったが、多分正解だろう答えを言ってみる。
「ユーリは、戦士に見えるがあいつの武器は盾だ。剣は飾りで普段は殆ど使わない」
「珍しいな、二人組のパーティで盾職か。お前さんは?」
「俺はユーリのブレーキです」
しれっとお答えする。
「はあ。ブレエキ?なんだそりゃ」
ハテナマーク全開で聞いてくる。
しまった!この世界じゃブレーキなんて言葉が無いのか………少し考えて言い直す。
「暴走するユーリを止めるのが俺の役目です」
こいつ大丈夫か?見たいな眼差しでギルは愛想笑いをする。
「イマイチよくわかんねえ。お嬢ちゃんが盾職見たいだから頼みたい事がある。ミラは回復専門の魔法使いで、攻撃魔法は火属性しかつかえねえ。森林地帯じゃあまり使えねえから守ってもらいたい」
どうやらギルさんとマルクさんは、前衛で戦いたいらしい。
「良いですよ。ユーリに言っても突撃すると思うので、守りは俺がやります。」
「盾職がか?何でもいいや、よろしく頼む」
更に怪訝な顔をされたが、納得したのかそれだけ言ってギルはマルクの所へ戻った。
ミラさんは魔法使いか………この世界の魔法を後で聞いてみよう。
ユーリは楽しそうにミラさんと話している。大分打ち解けてきたな良い傾向だ(保護者目線)
途中ゴブリンに襲われることもなく討伐チームは、順調に森林地帯に到着した。周りは気がついていないが多分ユーリのお陰だな。最近までゴブリンを狩りまくっていたのが影響しているのだと思う。
森林地帯は、樹齢何百年ですか?と言うような木々が生い茂っている。一本辺りの木がとても大きく、人一人が通り抜けれる間隔が結構あるので非常に助かる。
それにしてもこの森林地帯はかなり広い。奥地にオーガの住処があると言われているが一体どの位奥地なんだろう。流石に一カ月もキャンプ生活はやだなあ。あながちユーリのキャンプセットは必要なのかもしれない。流石はキャンプのプロ!
俺は別の異世界にいた時、習得した気配探知なるスキルがある。周辺三〇〇m位に潜む魔物がいれば大体わかる。ユーリも何故か?それに近い事が出来る為、魔物の気配を感じ取れる。真剣な顔をしたユーリが魔物の気配に気付いた様のか小声で話してくる。
「ナツメさん!私達の周りに何かいます」
ユーリの言葉に静かに頷く。周辺の気配を探索すると、三十匹程の魔物が俺達を囲む様に近づいてきている。その事を伝える為先頭を行くメンバーに声を掛ける。
「ギルさん魔物だ!三十匹位に囲まれてる」
「なっ!お前さんは魔物の気配が解るのか?」
肯定した意思表示を確認し直ぐ気持ちを切り替え指示を出す。
「みんな、魔物だ戦闘準備してくれ!」
全員が慌てて戦う準備をする。双子のコンビは弓を構え、ポルコは大斧を、ギルとマルクは剣を抜いた。ミラは杖を構え、俺はアイテムウィンドから剣(量産型)を召喚し身構える。
我らがユーリさんは殺る気満々の表情で、ショートソードを………いきなり前方にブン投げた。
相変わらずのデタラメな速度で剣は飛んでいき、前方に現れたオークに突き刺さる。断末魔の悲鳴が戦いの合図となった。
慌てて双子のコンビが矢を放ち前方のオークをけん制。ギルとマルクが、横合いから飛び出して来たオークの相手をする。その二人を追い抜かして、前方にいたオークに向かったユーリさんは、盾の一撃で二体の魔物を撲殺。キョロキョロ周りを見回し、獲物を見つけたハンターよろしくそちらに走っていった。
後ろで戦っているミラを見たマルクさんが「……」
心配な表情で何か言った。
今のって?……その言葉に疑問を感じたが直ぐに気持ちを切り替え目の前に現れたオークを剣で切り捨てながら叫ぶ。
「ポルコさん。ここお願いします」
一言告げて俺はミラの元へ急ぎ向かう。
ミラは杖で巧みにオークの攻撃を交わしながら、間合いを取って戦っている。
あの動き………俺は少し考え会社から至急された空気圧縮魔力砲を取り出した。
魔力を込めながら撃鉄を引き魔物に照準を合わせ発射する。打ち出された魔力弾は、敵を的確に捉え爆散!一撃の元にオークを倒した。
見た目がロケットランチャーなこの武器!圧縮された魔力が込められ魔力弾となって発射される飛び道具。うちの製造部とっておきの製品だ!
助けられたミラは目を見開いたままその光景を呆然と眺めながら固まっていた。
「何、今の!……魔法?」
「魔法が使えないならこの武器を使って下さい」
ミラに空圧砲を渡し使い方を簡単に教える。何回か試し打ちして見ると扱えることが分かる。弓矢の二人と一緒に援護して欲しいと頼みこみ再び前衛へ戻る。
前線ではユーリが、ユーリさんになってオーク達を無双!これは殆ど出番が無いな………
程なくして。オークを全滅させた事を確認した俺たちは、みんなの所へ合流する。何人かは敵に受けた傷をミラさんが回復魔法で直してくれた。
ユーリちゃんはこちらにやってきて興奮した口調で嬉しそうに喋ってくる。
「ナツメさん。この盾凄く使いやすいです」
「良かったなユーリ。怪我とかしなかったか?」
頭を撫でながら確認すると。
「はいっ!大丈夫です」と元気に答えが帰って来た。
「お嬢ちゃん何者だ!オーク相手に無傷で倒しまくってたぞ」
ギルも驚いた様子で追従する。
「ああ俺も見てた。盾でガンガン殴ってる姿を……」
エヘヘと笑うユーリちゃんは嬉しそうだ。
俺のそばに来たミラが名残惜しそうな顔で魔導具を差し出す。
「ナツメ君これありがとう。助かったわ」
「お役に立てて良かったです。後で良いのですが、聞きたいことがあるので時間とか取れますか?」
少し考える素振りを見せるがニッコリ笑う。
「ええ、良いわよ。休憩した時にでも声をかけて頂戴」
ミラに了解を得た。これでこの世界の魔法が聞ける。あと気になることも……ステータスウィンドを確認しながら黙考する。
オークを警戒しつつ暫く歩くと、前に偵察した冒険者が残したであろう印をマルクが見つける。ここから少し歩いた所に野営できる場所があるらしく、全員でそこを目指す事にした。
小一時間程歩き野営場所を見つけた俺等は、各々野営の準備に取り掛かる。
大荷物を取り出しキャンプのプロに渡し準備をお願いする。
「ユーリプロ!荷物の準備が整いました。よろしくお願いします」
「任せてくださいナツメさん。私が最高の寝床を作ることを約束します」
プロはキャンプ道具を受け取ると慣れた手つきでテントを建て始める。程なくしてギルの呼ぶ声が聞こえる。
ギル達がいる野営場所へ行くとそこにはポルコもいる。
「ナツメとポルコの旦那。見張りの順番を決めたいんだがいいか?」
提案してきた事にポルコも了承しこちらを見据える。俺はアイテムウィンドから掌サイズの陶器を取り出し二人に見せると、不思議そうに道具を見つめながら質問する。
「なんだこの壺は?」
「魔物除けの壺です。これが有れば魔物も寄り付きません。それに俺とユーリは、魔物が近づくと気配でわかるんで見張りはいらないです。それでも心配でしたら見張りは交代でやってもいいですが、どうしますか?」
「随分と便利な道具が有るんだな。その壺はどの位効果が有るんだ?」
「今からですと……明日の明け方位は大丈夫です」
「お前達は何でもありだな。俺等も朝までグッスリ
寝れた方が体力も回復するし良いだろう。その提案
受けよう!ポルコの旦那もそれでいいか?」
ポルコも了承し二人に魔除けの壺を何箇所か設置する旨を伝え野営地から離れた。
壺を四箇所設置した俺は周りに人と魔物の気配が無いことを確認し、会社(天使様)に連絡すべく通信システムを立ち上げる。
程なくしてお目当ての天使様が御降臨される。
「どうされました夏目さん。何か御用ですか?」
異世界の森に一人の天使が舞い降りる。本日も癒されボイスに耳を傾けながら要件をお伝えした。
ミラに魔法の事を教えてもらい出来ればユーリに覚えさせたい。その対価として空圧砲を交換条件として使いたいことを天使様に相談した。待たされる事数十分、天使様から折り返しの通信が入った。
「お待たせしました。お持ちの空圧砲は、発売前の最新モデルなので許可が降りませんでした。その代わり既存のモデルでしたら許可が取れたので、これから転送しますね」
「ありがとうございます。山田さんに相談して良かったです」
「お仕事ですから。それでは頑張ってくださいね」
なんともご謙遜を天使様は仕事も早い。
アイテムウィンドを確認すると、早速お目当ての物が転送されている。これであの人と交渉できる。それともう一つ、最初からだがこの討伐依頼は何かある。鍵を握るのはミラさん!さて向こうはどう出るか、お手並み拝見と行こう。
野営地に戻りア然とした。目の前にかなり大き目のテントが建っていた。入り口には花が飾ってあり、テント前ではエプロン姿のプロが、今夜の夕飯と思われる準備をしている。何故か?椅子とテーブルまで用意されており、テントの中を覗くと普通の部屋になっている。女の子らしく整理もされていて、中にも花が飾ってあり部屋の奥には布団も畳んで置いてあった。恐るべしはキャンプのプロ!
「あっ、おかえりなさいナツメさん。もうすぐ出来上がるので、待っていてくださいね」
初々しいエプロン姿のユーリ(新妻モード)が答える。
「ユーリさん、なんか新婚夫婦みたいになってるんですけど?」
俺が答えるとユーリ(新妻モード)は顔を真っ赤にしながら否定する。
「そ、そそそんなことな、な無いです」
「変なこと言わないでください。お料理焦がしそうに
なりました」
テンパり気味のユーリちゃん(新妻)
「ごめん、ごめん悪かった謝るよ。ユーリ相談だが、ちょっと部屋借りていいか?ミラさんと話したい事があるんだ」
ちょっとだけ嫌そうな顔をするユーリちゃん。
「良いですけど。何の話をするのですか?」
「ミラさん魔法使いだろ。魔法を教えてくれるかどうか頼もうと思ってさ」
すると、目を輝かせるユーリちゃん(新妻モード)
「本当ですか!魔法が使えるかもしれないんですか」
「交渉次第だし上手くいけばの話だがな」
過度の期待はさせ無い様に釘を刺しておく。
「盾魔法使いに成れるかも知れないのですね」
やっぱりそこに盾は入るのねユーリさん。
ユーリ(新妻モード)の了承を得て、ミラに話があるとギル達に伝えてテント部屋まで来てもらった。
さて、ここから本番だ。
とい面の椅子に座ってもらい急な呼び出しに少し戸惑う表情を見せるが気にせず話し始める。
「すみませんミラさん。急に呼び出してしまって」
足を組みながら真っ直ぐこちらを見据えるミラさんは妙に色っぽい。
「別に構わないわ。それで、お話しと言うのは何かしら」
「話は二つあります。一つは確認でもう一つはお願いですかね。先ずは確認から。ミラさんのパーティーですが、隠していることが有りますよね」
なるべく棘が立たない様に心掛けながら質問する。
「どうしてそう思うのかしら?」
「ミラさんのパーティはギルさんがリーダーだと思ってました。でも違った、本当はあなたがこのパーティのリーダーで今回の討伐依頼者!」
「そうですよねミラさん。いや、冒険者のミランダ・ファルシオーネさん!」
俺の問いに、静かだか薄っすらと笑みをこぼしながら真っ直ぐ見つめるミランダの姿があった。
敵か味方かミランダの取った行動とは
オーガ相手にどう戦うサラリーマン
次回もサラリーマンが奮闘します乞うご期待
皆様の暇つぶしに少しでもなれたら幸いです
それではまた次回