54.転移の祠
いつもお世話になりますアリス工房(仮)です
今日は本格的に移動を開始する。朝日が昇り始めた頃には全員が起床し簡単な朝食を済ませ身支度を整えて出発の準備を始める。昨晩は久しぶりのキャンプと言う事もあり夜の内職もお休みして早めの就寝を取ったお陰か、朝が弱い寝坊助ちゃんも無事に起きられた。
「気持ちの良い朝なのです。今日も張り切って行きましょう」
お日様に向かって高らかと宣言するお子さまは今日も元気だ。
「ユーリは今日も元気だなあ」
「当然です。冒険は待ってはくれません」
朝からどんぶり飯三杯を完食したお子さまに、最近の自分磨きについて聞いてみる。
「ユーリはお化粧とかしないのか?」
「この前ミランダさんに教えてもらったのですがうまく行きませんでした。あれは、失敗なのです」
「ああ、あれね」
ちょっとした好奇心からおしゃまなユーリちゃんはお化粧をしてみたが、物凄い事になったので本人的には生の素材で頑張ると心に誓ったそうな。
着替えとお化粧に余念が無い二人のお嬢様も、準備が整ったのか漸くテントから姿を現す。
「お待たせ致しました」
「んなっ!」
優雅な仕草でテントから出てくるルルベルの格好を見て変な声がでました。
「ルルベルさん……その格好はどうされたのですか?」
その出で立ちはめがね特製の魔法衣に身を包んでいる。色合いこそ薄いピンク調で帯のラインが赤を基調としている。りりかるさん(ピンク)とも言うべきか?
「ナツメさ…さん。どうでしょうか?」
頬を少し赤らめながら服の感想を聞いてくる現役リアル天使さん。
「ああ、似合っていると思うがその魔法衣はひょっとしてめがねの服か?」
「はいっ。私宛にめぐみ様よりプレゼントと仰って頂きました」
あの野郎ついに現役リアル天使にまで趣味を押しつけてきやがったな!まあ装備も強化されるから悪くは無いのだが………
「ルルベルさん素敵です。これで皆お揃いなのです」
ユーリちゃんはおねいさんとるるえもんの腕を組みながらご満悦である。
そんな話を聞きつつも本日の移動予定を皆に伝える。
「今日は転移の祠を目指し出来れば国境越えも視野にいれている。無理をするつもりは無いが少し急ぎましょう」
早めにエルフ国に入国して現状を把握したいのが本音だ。
「飛翔魔法で移動するつもりだが問題ないか?」
主にるるえもんに対して質問する。
「問題御座いません。飛翔魔法は天界人が最も得意とする技能です」
「そうか、それでは空での誘導はルルベルに任す」
了承したのを確認しそれぞれが飛翔魔法で移動を開始する。転移の祠がある場所はルルベルしか解らないので必然的に誘導係に任命し、俺たちは後ろについて行く形となる。
跳び続けること三時間!途中休憩を挟みながらの移動は思ったより時間も掛からず目的地の転移の祠がある森林に囲まれた場所に到着した。祠の位置はルルベルが明確に把握しているらしく彼女が指さす方向、すなわち森の奥にあるとのこと。今回は魔物との戦闘はなるべく回避する方向で俺たちは森林に入って行く。
目の前に聳え立つ圧倒的な大自然。未開の地と呼ばれるこの場所は獣人族がまだ未開拓の土地で、その広大さは圧巻の一言だ。魔物以外の動物も数多く生息しているこの森林は未だ見ぬ未知の生き物も生息しているとか天使さんが仰っていた。
ちなみに、この大森林は王都を中心地とした西側に位置しており距離にして数百キロは離れている。途中には転移の迷宮と呼ばれる不思議な洞窟があるらしく、一攫千金を夢見た冒険者がこぞって迷宮に挑んでいるとのこと。冒険大好きユーリちゃんは目を輝かせながら天使さんの話を聞き入っていた。まあ、俺も興味を引かれたのは言うまでもない是非チャレンジしたいものだ!
「転移の祠って他にもあるのかしら?」
何てことない質問だが俺もこの大陸には幾つあるのか大変興味がある。
「はい。この大陸には全部で十カ所御座います。ああ、二カ所は魔族に破壊されてしまったので八カ所になります」
「ふ~ん。だっだらーー」
「ーーミランダさん。ひょっとして転移の祠でエルフ国へとか考えてませんか?」
「その方が楽かなって」
やはりおねいさんは時間短縮して泡よくばそのまま国境越えを考えている見たいだ。
「それだとこの前みたいに迷い人を演じなければなりませんよ。内には演技がへたっぴな女優がいるので危険です。それに、正式に商業ギルドを通して入国した方が向こうへ行った時に何かと動きやすいとマリンさんに助言を貰いました」
「それもそうね。ユーリちゃん演技が苦手だもんね」
「ううっ………すみません」
「町でコソコソするより、正規のルートでちゃんと入国すれば堂々とお店に立ち寄ったりも出来ます。ユーリも美味しいものを気兼ねなく食べたいよな」
「勿論です!堂々とお店に入っておなか一杯食べたいです。それに町の中を見て周るのも楽しみにしています」
ユーリちゃんは未だ見ぬエルフ族の食べ物を早くも想像している。
他愛もない話をしながら歩を進めて行く。成るべく魔物との戦闘を回避する為に超魔物探知機ユーリちゃんが大活躍する!
魔物に対して神経を使いながらの移動は正直疲れるが戦いながらの移動は他の仲間も疲労度か増すし怪我でもしたら目も当てられない。
幸い三人とも疲れた雰囲気はなさそうなので安心する。
数時間を掛けて漸く目的地とも言える転移の祠?があるであろう一際大きな大木の前で案内人のルルベルが立ち止まった。
「こちらが祠の入り口になります」
るるえもんが指し示す方向には、これまたスクスクと育った巨大な木がそびえ立っている。
「おっきな木しかありませんが、この中にあるのですか?」
「この木はあくまで目印となっております。今からロックを解除致しますね」
一見して、とても入り口に見えない大きな巨木が俺達の前に見て取れる。それは、何処か現実離れしていて見上げるのも一苦労だ。木の外周など四人で手を取り合って何とか囲める位の大きさで高さも下からでは解りづらいが五階建てのビルくらいはあるのでは無いだろうか?ここまで育つのにこの木は一体何年かかったのであろう。それに、不確かではあるが若干の魔力を感じられる。それが何を意味するのかは解らないがその辺も関係しているのではなかろうか。
天使さんは目の前の大きな木に向かって何やら手を向けて呪文の様な物を唱えている。俺達は特にすることもないが念の為、周囲の警戒だけは怠らない。
光の粒子が目に見える程彼女に集まっていく姿が何処か幻想的で、普段のポワ~ンとしている姿が想像出来ない。この辺が天使なんだなと再認識させられる。二人のお嬢様もその光景に見入っている感じだ。
その儀式とも見える光景が暫く続くとルルベルが差し出した空間に人がくぐり抜けられるサイズの魔法陣が現れた。
「準備が整いました。こちらが転移の祠に通ずる入り口となっております」
振り返りながらルルベルは、あちらに見えますのはとか言うバスガイドさんの様な仕草で説明するのが可笑しかった。
「ほえ〜。ルルベルさん何かカッコイイです」
ユーリちゃんは、目の前の光景がカッコ良く見えるみたいだ。
少し照れ顏の天使さんに促されるまま魔法陣をくぐり抜けると目の前には久しぶりに訪れた洞窟!その姿は前に訪れた場所と何ら代わり映えがしない石畳で作られた洞窟であった。
あまりにも前の祠と姿形が似ているので勘違いしてしまわないだろうか?と素朴な質問をした所、祠にはナンバーなる物で管理されていて、天界人は転移先のナンバーを認識しながら移動を行うと言っていた。
ここの祠はナンバー六。転移先はナンバー七だそうだ。数字自体が俺では理解しがたい模様であり一応スキルの恩恵で読めるのだが天使に聞いて見るとバビロニア数字が何たらとか六十進法がとか言い出したので「ごめん。無理っ!」とだけ言って説明を打ち切らせてもらった。色々突っ込み所は満載だが敢えてコメントは控えさせて頂く。この辺は何だかおねいさんの気持ちが少しわかった気がする。
「そう言えば、最初に訪れた祠には適当な場所から移動したと思うのだがそんな感じでこの祠には移動出来なかったのか?」
最初にママチャリ(タイタニックさん)で訪れた祠を思い出し聞いてみる。
「あの転移は主様に特別許可を頂いた言わば緊急措置で御座います。本来転移の祠へはその地へ赴かなければ発動させることが出来ません。龍人族の方達が所持している転移クリスタルはそれこそ秘宝と呼べるもので御座います」
「そうなんだ。でもるるちゃんも転移クリスタルを持っているわよね?」
「あれは一回だけ使用出来るナツメさ…さんの国から購入した簡易型転移クリスタルです」
「ふ~ん」
顔が近いですおねいさま………何か墓穴を掘った気がする。
「ま、まあ。気を取り直して先へ急ぎましょう」
何か言いたそうなおねいさんは見ないフリをして誤魔化し部屋の中央にある祭壇の巨大な転移クリスタルに手を翳す。
神秘的な光に包まれた俺たちは身構える暇もなく目の前が一瞬見えなくなると…………転移は無事に完了した。
転移先だが………先ほどと何ら変わらぬ景色に成功したのか実感が保てない。同じ祭壇に同じ部屋!何の変化も見られない事に不安が募りるるえもんに問いかける。
「転移したんだよな?」
「ちゃんと成功してしますよ」
ニコニコ笑顔で答える天使さんに促されながらそのまま祠を抜けると、確かに先ほどの大きな木は見られないと言うかそもそもが森の中では無い。
崖の中腹にある洞窟で外に出て少し進めば崖下には大きな川が流れている。見上げると崖の頂上は高さ百メートル位あるのでは無かろうか?対面も同じ様な崖でありこんな場所に良く祠を作ったなと感心してしまう。
「見てください。あそこにお魚がいます」
川の中に潜んでいるお魚さんを早くもロックオン状態のハンター様。
「うおっ。結構いるもんだな。釣り道具でもあれば行けそうなのだが……」
川魚を見てはしゃいでいる俺とユーリちゃんはおかあさんに叱られる。
「もう!今日中に国境渡るって言ってなかった?」
「渓谷を越えた所に国境の町ルーチェが御座います。この時間からだと国境越えは厳しいかもしれません」
「スミマセン。魚を見てたらつい………そうか。なら、今日はルーチェで一泊しましょう。エルフ国への入国は明日と言う事で」
「エルフ国もそうですけど今日の晩ご飯が楽しみです。今日はお魚さんが食べたい気分なのです」
腹ぺこハンター様は異国の地よりも本日の夕飯が大事である。
転移の祠を飛びっ立った俺達は一路国境の町ルーチェを目指すのであった。
転移も無事に完了し一路国境付近の町ルーチェへ。サラリーマンはエルフの国目指して奮闘します。
皆様の暇つぶしに少しでも慣れれば幸いです
それではまた次回




