刺激的な世界
私は、耳元でやかましく騒ぐ目覚まし時計を、布団から腕だけ出して止める。欠伸をしながら、布団をどけ、一度大きく背伸びをした。
リビングでは、すでに自分以外の家族はそろっており、父は新聞を読みながら、母はテレビを見ながら、そして妹は携帯電話をちらちら見ながら各々勝手に朝食をとっている。みな、こちらに気が付くつと、「おはよう」と一言かけてきた。おはようと返し、用意されていたベーコンエッグとサラダを食パンにのせ、口いっぱいにほおばった。
制服に着替え、学校までの道を自転車で駆けていく。太陽の心地よい日差しと、肩で切る風の冷たさが心地よい。前かごに乗せたスクールバックが、時折強くぶつかって音が鳴る。至極平穏でいつも通りの通学路だ。
教室での授業は酷く退屈で、暇つぶしに絵をかいたり、外を眺めたり、先生にばれないよう携帯電話をいじり過ごす。時折、問題の解答などを求められる以外は、ただただ退屈な時間が過ぎていった。
すべの授業が終わり、オレンジの日差しが教室に入り込んでくる。何人かの友人と無駄話に花を咲かせ、ずいぶんと盛り上がったあと、皆で下校をした。
家に帰ってくると、妹がテレビを見ている。ずいぶんと夢中なようで、帰ってきてもこちらに気が付いていないようだ。そろりそろりと後ろから近づき、声を上げ驚かせた。妹は声も上げずゆっくりとこちらを向き、気が付いてたよと冷たく言い放った。残念に思いながら、自室に戻り、制服から部屋着へと着替えた。
夕飯時、父親は晩酌をしながら野球を観戦をしていた。白球がバックホームに吸い込まれ、まるで子供の様に喜んでいる。母親も同じように思ったようで、子どもが一人増えたみたいねと小さくつぶやいた。妹はそんな二人を見つめ、一人嬉しそうににやにやと笑顔を浮かべていた。
風呂から上がり、パジャマに着替え、目覚ましをセットする。友人からのメールを返し、少しだけ勉強し後、ベットに潜り込んだ。明日も、こんな日になるといいなと思って、意識を闇の中へと手放した。
祭壇の中央部に作られた、石壇の上で一人の修羅が目覚めた。
「いかがでしたか。」
石壇の横には、夜叉が立っており、修羅を見つめていた。
「あぁ、素晴らしかったよ。本当に生活が違うのだな。」
修羅は楽しそうに声を上げた。夜叉の秘術によって、別の世界の日常を見てきた修羅は、いつもの自身の生活との違いを大いに満喫してきたのだ。
「そう言っていただけると幸いです。」
「世話になったな。さて、私も、いつもの生活へと戻るか。」
軽く礼を言って、夜叉の祭壇を後にした修羅は、腰に下がっていていた二本の剣を抜き、歩いていく。
まったくもって刺激も面白味も無い、いつもの戦場へと歩みを進めていった。