螺旋鍵盤
文才なくても小説を書くスレで、お題を貰って書きました。 お題:走馬灯
「こんなところに何があるって?」
螺旋階段を登りながら彼はそう聞いた。
「何があるというのでもないけど、イメージは湧きそうなんだ」
そう答えると、ああもうという溜め息交じりの声を吐いて、彼がガシガシとその頭を掻いた。
「いっつもそうだろうに」
そういいつつも、彼はその足を止めずに登っていく。
古い古い灯台の、古い古いこだわりに満ちた、日本では異質なまでの建築様式も今は昔、ただの立ち入り禁止の危ない建物としてのみ存在する。
そこに勝手に入って靴音を踏み鳴らす。幼い頃に感じた通りに、近年の耐震基準は満たしてなくても素人目にはしっかりとした作りで、だからこそそれほど厳重なバリケードもないのだろう。
コツンコツンと靴音が鳴る中で、石段一つ一つがピアノの鍵盤のように感じる。
人は死に直面したときに走馬灯をみるという。
人生をダイジェストで写すそれに、自分に最も適したスタイルがあるならば、それはこの螺旋階段みたいなものだろう。
人が思い出を見るように、思い出のキーを踏んで音を奏でながら、自分は最後の瞬間を迎えるのだろう。
良い思い出と共にある音も、悲しい思い出と共にある曲も、頭の中にいっぺんに流れ込んでくるのだろう。
それはとても凄絶で、壮大で、かつ繊細な一つの曲になって、自分は何よりそれを世に出せないことを悔いながら果てそうだ。
「なにを笑ってんだ」
振向かずに彼はいう。
そのお蔭で自分が笑っていたことに気付いた。
走馬灯の夢は覚めて、現実に立ち返る。幻想的なイメージはそのままに、思い浮かんだありえない曲だけが消えて、かすかに残った音符を口ずさむ。
「また何か思い浮かんだのか」
「さっそく忘れそうなんだ」
「好きに歌ってろ。俺が覚えとく」
その言葉に安堵して、コツンコツンというリズムに乗りながら自分の思うままに音を口ずさむ。
もし、走馬灯を見ることになっても、帰ってこれるとしたらこういうことなんだろう。
どんなに永遠と言える一瞬に囚われても、容赦なく引き戻してくれる。
覚めそうな夢に名残を惜しめば、夢は見ていいと言ってくれる。
「もし走馬灯を見るとしたら……」
「あん?」
「出てくるのは君だと思う」
「そうか」
曲でも想いでも思いつきのまま口にしても、彼はそう受け止めてくれる。
「友情っていいね」
「……お前、男と女で……。ああ、もう」
そういってまた頭をガシガシとかく。
苛立ちを表しつつ、螺旋階段にはコツンコツンという自分のミュールの音だけで、彼のシューズは静かに音を消して動く。
「安心してよ」
いずれ夢から覚めるなら、
「形が変わっても、君の傍にいたいから」
最後には、一緒にこの螺旋階段のような走馬灯を聞く仲になろう。
書いている最中にプロットを変更するような、今迄で一番の即興なのに、個人的には今までもかなりイイ部類のできに……。
なんだこれ。
……考えるな、と。そういうことなのかな?
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324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/13(火) 07:55:46.57 ID:lnPfO2ad0
お題下さい
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/13(火) 08:30:56.72 ID:8w6aNGZ7o
>>324
走馬灯
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/13(火) 12:15:51.34 ID:lnPfO2ad0
>>325
把握