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第八話

「今頃どうなってんだろうな」


 紙パックのコーヒー牛乳を飲みながら、廊下の窓の縁に寄りかかり、宗司は感慨深そうに呟いた。


「気にならないか?」


 その隣には1人の少女が立っている。髪はポニーテール。腕を組み、スカートの下にはすらっとした健康的な脚線美を覗かせている。かわいいと言うよりは凛々しいといった言葉が似合う少女は口をへの字に曲げ、目は鋭く威圧的に宗司を睨んでいた。


 苛立ちが見て取れる。宗司はやれやれと心の中で呆れる。


「そんな俺に怒っても仕方ないだろ、湯浅勇魚ゆあさいさなさん?」


 宗司の言葉に対して勇魚は鼻を鳴らした。

 

 嫌われたものだ。まぁその理由も分からなくもない。勇魚がこの状況を良く思っていないのは分かっている。だがそれとこれとは話が別だ。


「親友に彼氏が出来たんだから祝福してあげるべきなんじゃないか?」


 反感を買うことは分かっていながら言ってみる。


「納得できないのも分かるが、付き合うって決めたのは本人なんだから部外者の俺たちが口を挟むことじゃ―いって―ッ!」


 口では無くローキックが飛んできた。


「いちいちうっさいわね!!あんたに言われなくても分かってるわよそんな事!!」


 罵声を飛ばし、勇魚が宗司の襟首を掴む。柔道の黒帯を持っていると噂されている勇魚の動きに全くの素人の宗司に抗う術はない。


「そもそもあんたが悪いのよ!あんたが変なこと言い出すから!」


「は、放してくれ……」


 相当の力が入っているのか、宗司の顔から血の気が失せていく。


「ふん!」


 乱暴に放り投げられるように開放される。


「全く、武力に訴えるとはこれいかに」


「うるっさい!こんなの当然の報いよ」


「そんなに悪いことした覚えは無いんだが。逆に俺はキューピッドと称えられても良いくらいだ。なんせ あの二人をくっつけたのは俺なんだからな」


 宗司は襟の乱れを整えながら言う。闘矢が告白した状況には宗司が関係している。その状況を作り出した当事者である。


 昼休みの始め、闘矢を屋上へ誘った宗司はその足で勇魚を訪ねた。夏陽を屋上へ誘い出すために勇魚に適当な口実を作ってもらうためだ。


「確かにけしかけたのは俺だが、お前も納得した結果だろう」


「それはそうだけど」


 勇魚は目線を外した。何か納得していない顔、後悔している様なものが窺える。


「四之宮の親友なら闘矢が告白したらこうなることくらい予想してなかったのか?」


 勇魚は夏陽の一番の親友である。部活も教室も同じでほぼ一緒にいる関係だ。好きな人も知っていてもおかしくは無い。


「…………」


 勇魚の答えは沈黙。肯定も否定もせず、宗司に目線を合わせないで斜め下を見ている。言いたくないこと、もしくは宗司には関係が無いこと。そのどちらか、もしくは両方か。


「まぁ無理に言う事はねえな。だけど現にあいつ等は付き合っちまった。それをお前が後悔しようが何しようがその現実は変わらん」


「言われなくても、そのくらい分かってるわよ」


 勇魚は依然厳しい表情をしている。全くこの状況を受け入れようとしていない。


 一体その頭で何を考えているのか。


「何が気に食わないんだよ?もしかして闘矢が四之宮に酷いことしないか心配だとか?親友として闘矢みたいな、まぁごく一部を除いてモブキャラと付き合うことに反対とか?」


 宗司の言葉を聞いた勇魚はハッと顔を上げた。


「そ、そう。そこまでとは言わないけど心配なのよ。そう、二人が仲良くやっていけるか心配なの」


「そうか。それじゃ、今週の土曜日デートし」


 勇魚の右の拳が宗司の腹部にめり込む。


「ありがとうございます!!!」


 予想通りの攻撃だが、あまりの威力に膝をつく。直ぐに立ち上がれず、宗司は壁を使ってよろよろと立ち上がる。


「そ、そんな威嚇しないでくれ……」


 勇魚は不良も真っ青のドスの利いた表情で宗司を睨んでいる。よっぽど不快だったのか。


「言葉のあやだ。土曜日にあいつ等は遊園地に遊びに行く。俺等はたまたまそこに居合わせただけの存在になるってことだ」


「そう言う事ね。はいはい理解理解」


「分かったら握り拳作るのやめてくれ」


「サンドバッグって凄いね」


「俺人間なんだが」


「ま、ともかく見極めるって言う意味でもその提案には賛成ね。いいわ、乗ってあげようじゃない」


 勇魚は右の拳を左の掌に力強くかち合わせる。今から喧嘩しに行くわけではないのだが。言動には気をつける必要がありそうだ。


 宗司は改めて認識する。

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