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第五話


「いや全然意味分からないし、何それどう言う事だし、お前ちょっと頭おかしいんじゃねって言うか、普通そんな展開ありえなくね?マジ無いわーですよ本当に」


 開口一番、部屋に入るなり宗司は驚いた表情を見せながら世の不平等を嘆くが如く、罵声を闘矢に浴びせてきた。


 だからと言って部屋の主である闘矢は、宗司を納得できるほどの言葉を並べることは出来ない。別に語彙が乏しいとかそういった理由ではなく、今の闘矢の状況を他人に説明するのは難しい。


 闘矢は宗司の気持ちをほぼ完全に理解している。何せ自分すら言っている内容が現実的でないことが分かっているからだ。


 今日の昼休みの一件において桐崎闘矢と四之宮夏陽は恋人になった。片や学校を代表する程の知名度を持ち、学園のアイドルと言っても良い女子生徒。片や―ある一部分を除けば―学校の一生徒でしかないモブキャラな男子生徒。


 そんな接点がまるで無い、ましてや学校内の地位の違いが歴然である二人が付き合っていると言って、一体誰が信じるのか。現に男子生徒の親友は驚いてばかりだ。


 宗司には昼休みに会った事を包み隠さず話した。それは罰ゲームを遂行したと言う報告であるのだが、若干違う意味合いも含まれていた。


「じゃあ例え話でお前が四之宮と付き合ってるとする」


 事実を例え話にする時点で信じる気がサラサラ無いと取れる。


 尤も、それを批判できない闘矢も闘矢だが。


「そうすると、学校でお前等はいちゃいちゃするのか?」


「ブハッ!……何だいきなり!!」


 闘矢は飲もうとしていたウーロン茶を噴出しそうになるのを何とか堪えた。


「いやいやちょっと待て。付き合うって言ったらそれくらい普通だろ。あれだぞ、別に校内でキスしたり体を密着させたり、いろんなところ触ったりとかそんな事を言っているわけではないからない。お前にそれが出来ないってことは俺が良く知っている。まぁ俺としてはそれもやってみたいことの1つではあるが」


 宗司の言葉は全く冗談には聞こえなかった。せめてもの救いはまだその行為に至っていないと言う事か。


「俺が言いたいのは四之宮とどう付き合っていくのかだ」


「どうって何をだ?」


「つまり周囲に付き合っている事をそれはもう堂々と見せ付けるのかって事」


「それは……」


 闘矢は言葉につまった。宗司の言っていることは良く分かる。四之宮夏陽と付き合っていると公言すればどうなるか。宗司はそれを危惧しているのだ。


「まぁまずSFがどう動くのか」


 SF、俗に言う四之宮ファンクラブは四之宮夏陽を見守るために結成された学校の非公式組織である。四之宮夏陽は学校全体、体育会系や文化系問わず高い人気を誇っている。その人気は他校にも余裕で届いており、決して少なくは無い人数が参加しており、学校での影響力もそれなりに持っている。


 そう、その四之宮夏陽を見守っている彼等がどう動くのか、そしてそれを発端とする学校全体の動きが重要なのだ。


「確かに危険だが、本当にそんなに警戒する必要があるのか?別に呼び出し食らってリンチされるわけじゃ」


「半年前、下校中の四之宮が大学生に声をかけられたことがあってな」


 闘矢の言葉を遮り、宗司は言葉を続ける。


「随分しつこかったみたいだけど何とか四之宮はそこから逃げることが出来たらしいんだ」


「話の流れ的にその大学生は?」


「次の日の朝交番の裏手で全裸で寝てるところを発見された。そいつ曰くナンパした後、体にビリッと来たらしい。全く怖い話だな」


 軽快に笑い飛ばす宗司だが、闘矢には全く笑い事ではない。ナンパだけでその仕打ち。悪ふざけにも程があると言いたいが、はたしてそんな道徳心溢れる説得が成功するとは思えない。レベル的に言えば闘矢は東京湾に埋められても良いだろう。


 それだけあちらも本気と言う事だ。


 だが、それなら対処は出来る。物理的な干渉なら、闘矢にはいくらでも回避できる自信がある。


「確かにお前に関して言えば確かにそんな気にしなくても良いかもしれないけど」


「四之宮か?」


 そうだと言わんばかりに宗司は頷いた。


「流石に四之宮にばれないようにアプローチしてくるだろうが、ばれないって事はまずありえない。黙っていればばれた時に四之宮の心労に繋がる。流石にそれは避けたいだろ?」


 今度は闘矢が頷いた。片方だけが我慢しても、それでは意味がない。根本的な解決にはなっていない。ならばどうするか。この場合闘矢と四之宮夏陽の仲を周囲に納得してもらえばいい。そうすれば全ての人間が二人と温かく見守ってくれる。

 

 だがそれは現実的ではない。SFがいるからというわけでなく、少なからず闘矢たちに不快な感情を抱く人もいるだろう。


 四之宮夏陽の人気の高さを考えれば、学校にいる男子全員が該当すると言って良い。それだけでなく他校、またはその他にも四之宮夏陽に好意を抱いているものは少なくない。


 大人しく引き下がってくれれば良いが、と言うのは先の大学生の前例があるように0%の願望に聞こえなくも無い。


「じゃあ学校じゃ今まで通り全く話さないで過ごすしかないのか?」



「いや、それは極論だ。そんな白がダメなら黒って決め付けるのは良くない」


「何か考えがあるのか?」


 問いに対して宗司は頷く。


「ようは学校の奴等にばれずに、学校の中で四之宮と一緒にいられれば良いんだろ。あるだろ、ちょうど良い場所が」


「え、そんな場所があるのか?」


 学校で一緒にいても決してばれない場所。確かに今そんな場所を最も欲している。そこで会うことが出来ればちゃんと顔を合わせて会話をすることが出来る。願っても無い場所だ。


 だが、闘矢にはその場所に心当たりが無い。


 教室なんてもっての他であり、その他の場所だって人が来ないなんて保障はどこにも無い。


「ヒント、その場所はお前と俺が良く知っている」


「……なるほど、分かった」


 見かねた宗司のヒントによって闘矢に頭に答えが浮かんだ。確かにその場所ならば最高の条件が揃っている。奇跡のような場所だ。


「全く世話が焼けるな」


 宗司は肩をすくめ、腰掛けていたベッドに横になった。闘矢が包み隠さず宗司に打ち明けたのは、助言をもらうためであった。恋愛経験豊富で、知力に長ける宗司ならば多くのことに頭が回る。


 全くそういったことに長けていない闘矢にとっては最良のアドバイザーである。

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