第五十七話
しかし闘矢には状況が理解できなかった。澪が夏陽を連れて来たことは何とか理解できるものの、何故夏陽は今更闘矢に触ろうとするのか。以前の関係ならば分からなくもないが、もう夏陽とは何の関係もないはずである。
そこで闘矢はなにやら夏陽がそわそわし始めことに気付いた。そうかと思いと、突然今度は横になっている闘矢に重なるように体を倒してくる。
未だかつて無い旋律が闘矢に走る。心臓の鼓動はありえないほどバクバクと動き、何か言葉を発しようにも、パクパクと口が動くだけで音として発せられない。しかもすでに夏陽が闘矢に抱きつくように首に手を回しているため逃げることも不可能。
すがるようにソファーを見るが、そこには既に宗司と澪の姿は無かった。逃げやがった!
「部長と風間さんから大体のお話はお聞きしました」
耳元で夏陽の吐息がかかることに一瞬身震いする。しかし言葉の内容を理解し目を見張る。
夏陽が全てを知ること。それは闘矢の望むことでもあり、当事者である夏陽の権利でもある。しかしそれにより闘矢に再び自責の念が降りかかる。
闘矢は確かに夏陽の思いを踏みにじったのだ。
「ですがやっぱり私は闘矢の事が嫌いになれません」
言葉と共に抱きつく夏陽の力が僅かに強くなった気がした。
「どう……して?」
許されないことをした、その自覚があるからこそ、闘矢は夏陽の言葉が信じられなかった。
「闘矢君は私の事が好きではなかった。でも私は闘矢君の事が好きです。それは闘矢君が私をどう思っていようが関係のないことです。つまり、そういうことです」
そして夏陽は闘矢から手を離して体を起こし、ベッドから降り、闘矢に背を向ける。その最中目が僅かに潤んでいるように見えたのは気のせいだろうか。
「あの時に比べ、私は大人になりました。結婚も出来ますし、子供だって産めます。だからもう一度私の気持ちを聞いてくれますか?」
神妙な夏陽の声は震えていた。それは今にも壊れてしまいそうなほど繊細で儚い。
体を起こした闘矢はそのままベッドに腰掛けるように足を投げ出し、夏陽に体を向ける。
「あぁ、あの時そう誓った」
『もう少し、大人になってからもう一度だけ考え直してくれない?』
もしかすればこの言葉が全ての始まりだったのかもしれない。この言葉、この誓いがこの2人をここまで引き合わせた。そう考えてもいいんじゃないか、そう思えてしまう。
そして再びここから始める。二人の関係はまたこの言葉から始まるのだ。
少女は振り返る。7年前に自身が気にしていた容姿から想像も出来ない美貌を手に入れ、この日この時のため決して恥じることのない自分を磨き上げた少女。一度は諦めた。いや諦めたと自分を偽った。少女の思いはあの時から途切れることは一度もなかった。
「私はやっぱり……あなたの事が好きです」
一先ずこの作品はここで終わりになります。量にしてライトノベル250Pほどのものでしたが如何でしたでしょうか。
今回は既に書き終わった作品であったために更新も早く行えました。続編については今少しずつ執筆を行っており、しばらくしたら公開しようと思っています。
ご意見、ご感想など書いて頂けたら嬉しく思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




