第五十五話
「ノリが悪いですね。そんなんじゃ夏陽ちゃんに嫌われちゃいますよ?」
しばらくして闘矢の対応に不満だったのか、澪は拗ねたように唇を尖らせる。依然話した時は大人な雰囲気だったのが一転、急に幼く見えた。いや、気分屋なのだと理解した。
「嫌われるも何も、俺と夏陽はもうそういう関係じゃないですよ」
澪の言葉に、闘矢は気弱な表情を浮かべる。
「会長が全ての発端なら分かっていることだと思いますが、俺は夏陽に嘘をついていました。それもかなり酷い嘘を。たとえ夏陽の婚約がなくなったとしても、俺が夏陽についていた嘘がなくなったわけじゃない。そんな俺がこれ以上夏陽に関わるわけにはいきません」
自分が付いた嘘は決して許されるものではない。例え許されたとしても、嘘をついたという過去が闘矢に負い目を感じさせ、今までのように夏陽と接することは難しいのが心情だった。だから会えない、会ってはいけない。そう自分に言い聞かせた。
「それに夏陽はやっと十二宮家のしきたりから解放されたんだ。それがよりによって閻陣なんて危険な存在と関わらせるわけには……ってなんでそこで笑ってるんですか?」
言葉の途中から、澪が口元に手を当て上品そうな笑顔を見せていた。心底何かを楽しんでいる様子だが、闘矢にはそれが何か全く見当が付かない。
「いえ、すみません。どうやら闘矢さんはこの件に天皇家が関わっていたに気づいてはいても、何故天皇家が関わっているかについては知らないのだと思いまして」
言われてみれば確かにそうなのだが、澪の登場といい驚くことが多すぎたため聞くタイミングを逸したと言ったほうが正確な気がしてならない。
「それは……確かにそうですけど。今それ何か関係あるんですか?」
「大ありですよ!寧ろ重要と言っていいです!」
「は、はぁ」
突如目を輝かせ力説し始めた澪に、気圧されるように返事をする。
「闘矢さんは閻陣の異能を暴走させてしまいました。ではその暴走を止めた天皇家は誰だと思いますか?」
「え、会長じゃないんですか?」
「私はその時自宅でクイズ番組を見ていました。よって違います」
「えぇぇ……」
発言とは異なり、澪は至って真面目な表情をしているので、なんとも調子が狂ってしまう。
「では、こうして姿を見せている天皇家の私ではないということは、一体誰が闘矢さんを止めたのでしょうか?」
問われ、考えても闘矢には答えが分からなかった。皇の光速思考を用いても、思考の質が向上するわけではないので何の足しにもならない。結局考えた結果、答えが出ないので助け舟を求めて宗司に目を向ける。
「ヒント。あの場に新たに登場する人物は無かった」
見かねた宗司が口を開く。
言われて闘矢はあの場にいた人間を思い出す。自分を含めると、夏陽、慧刻、康成、悠獅、想の6人が該当する。だがその中で天皇家の血を引く人間などいるわけが――
「おいおい嘘だろ……」
闘矢は焦った様に呟く。叩き出された答えはあった。しかしそれはとても信じられる代物ではなかった。だがそれが正しいならば、天皇家が動いた理由、動かなければいけない理由を説明することができる。
「夏陽が天皇家の血を引いていた。夏陽の母親が天皇家の人間だったってことですか?」
「はい。夏陽ちゃんのお母様は私の父の妹であり、夏陽ちゃんは私の従妹になります」
「なるほど、だから天皇家は夏陽と十二宮家の婚約を阻止する必要があった。そうしなければ十二宮家の異能が、全て消えてしまう危険があった」
天皇家と異能を持つ家の間に生まれた子供は、異能の序列により他の異能を消し去り、天皇家の異能だけを引き継ぐ。もし夏陽と悠獅の子供が生まれていた場合、その子供は御門の異能を扱うことは出来ない。すると本来上がるはずの異能の質は逆に0になってしまい、御門家は衰退の一途をたどってしまう。
故に異能を持つ家系からすれば、天皇家は一種の毒とも言える存在なのだ。




