第五十二話
「なんだここの部屋は、客人に茶も出ないのか?」
という傍若無人な悠獅の物言いにより部屋に居る全ての人間に海里から紅茶が配られることになった。発言した張本人、それと見知らぬ少女がソファーへと腰掛け、海里は出入り口の傍で軍人のように真顔で直立し、対して想はその横で胡坐をかいて座っていた。傍には依然見かけなかった日本刀が立てかけられていた。おい銃刀法違反。
記憶ではつい先ほどまで死闘を演じていた悠獅と想が近くに居り、内心気が気でない。
両者とも闘矢との戦いで負傷したはずであるが、その体は全快そのものだった。異能の中には治療を主とするものもあり、おそらくを受けたのだろうと推測する。
「……んでどういう状況?」
「全くもって非効率的で要領を得ない質問ね」
この空間で唯一名前を知らない少女にダメ出しされる。だが今この瞬間発現した異能が、闘矢に少女が何者かを告げる。
「あんた今光速思考を使ったってことは皇家か。それに藤代がいるってことは、あんたが皇雛紗だな?」
「という自己紹介よ」
少女、雛紗は高圧的な口調と共に肩をすくめる。
皇気功術―光速思考
思考の並列化を行い、瞬時で複数の思考を可能にする異能であり、それにより思考を光速に処理する事ができる。つまり今の雛紗の思考は、闘矢が雛紗の正体に気付くまですでに織り込み済みだったのだ。
皇雛紗、想の主であり闘矢を被検体として欲しがっていたイカレた科学者だ。
「それにしても流石は閻陣というところかしら、ほんの試しに使っただけでばれてしまうのね。あぁやっぱり研究対象として欲しいわ」
今の言葉で闘矢が気になったのが、雛紗が本当に口惜しそうにしていたことである。背筋がゾクリと疼いた。
「まぁまぁこいつが状況の見込めてないのは仕方ないんじゃないか?だから俺たち全員がこうして集まったんだろ?」
宗司の言葉に雛紗はフンっと鼻を鳴らす。どうやら宗司との仲は良好ではないようだ。
「種明かしって言ってたが、具体的に何を教えてくれるんだ?」
なるようになれと言う、投げやりの態度で問う。
「ことの発端からことの終末までなんでも答えるさ。そうだな、まずここにいる面子が何の集団かを話そうか。正確に言えば皇と藤代は違うが、俺たちは夏陽と悠獅の婚約を破棄させるために同盟を結んでいたんだ」
「婚約を……破棄?ちょっと待てよそれって」
宗司の言葉を聞き、闘矢は婚約の当事者である悠獅を見る。
「簡単なことだ。元々俺には夏陽と婚約する意志が無い。十二宮家のしきたりだかなんだか知らんが、そんな物に付き合ってやる義理は無いんでな。一芝居うったというわけだ」
悠獅は嘲笑をもらしながら言う。
「ちょっと待って。てことはそもそも俺とお前が戦う必要なんて無かったんじゃないか?」
「貴様が十二宮家に逆らうにはあまりにもひ弱だったからだ」
負けたにも関わらず悠獅の態度はまるで圧勝したかのような貫禄を感じさせるものだった。しかし闘矢も閻陣の異能を思い出せなければ負けていたのが事実なので、あまり強く言うこともできなかった。
「まぁ悠獅との勝負にはちゃんとした理由があるんだよ。そもそも、悠獅を倒したって事実が無きゃ夏陽の婚約破棄は無理なことだったんだ」
フォローするように宗司が付け加える。
「どういうことだ?」
闘矢は疑問に思った。例え婚約者である悠獅を倒したとしても、それで婚約が破棄になるという美味しい話は無いはずである。そんな勝った方に夏陽の所有権が移るというものではない。
「お前に力ずくで黙らせられた御門悠獅が、勢い余って婚約を解消した。そういう構図が欲しかったんだよ。もっと言えば閻陣の生き残りが攻め込んだって形がな」




