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あの日君に誓ったこと  作者: ハルサメ
エピローグ
51/58

第五十話

 なにやら消毒液のような独特の匂いが鼻をついた。それに続き目蓋が開き、視界が開ける。


 目の前、最初に飛び込んできたのは白髪交じりの顎鬚を携えた、初老の男性だった。


「おう、起きたかクソ孫」


「寝起き一番がてめえの顔かよクソジジイ」


 無意識に悪態をつく。だが、今の正直な感想だった。目を開けたらいの一番に美少女の顔が飛び込んでくるなら大歓迎だが、祖父なんてお呼びではない。


 そこで闘矢は自分がどこにいるのかを把握した。どうやら病院の一室、そのベッドで寝ていたようだである。重い頭を気遣いながら周囲を確認して体をゆっくりと起こす。


 傍にいた男性―闘矢の祖父である桐崎闘伍は満足そうに口元を緩め、顎鬚を摩った。


「それだけ口が達者なら、後遺症は無いようですね」


 闘伍とは別の方向から発せられた声に、闘矢は背筋が震えた。


「母……さん」


 そして苦笑いを浮かべながら頬をかく。視線の先、小雪は柔らかい笑顔をしていた。


「私はちゃんと帰って来なさいと伝えたはずですよ?」


 笑顔だ、確かに笑顔なのだが、闘矢は身の危険をヒシヒシと感じていた。


「それに体にかなりの傷が見られますね。という事は思い出しましたか?」


 何を?と疑問が過ぎったが、直ぐに言われた内容を理解する。


「思い出したって言っても、断片的にだよ。俺が閻陣の血を引いていて、桐崎の家に来るまでどっかの施設で昼夜問わず永遠と戦わされてたって事しか覚えてない」


「まぁそこまでで十分でしょう」


 そこで小雪は悲しそうに呟いた。


 小雪が閻陣の話を振ったことに闘矢は僅かに驚くものの、特に何かを言おうとはしなかった。桐崎も異能の家系の1つであり、何より子供である闘矢が閻陣の血を引いているのだから、その母親である小雪が閻陣の異能について知らないはずが無い。


 良心が痛むが闘矢には聞いておきたことがあった。


「つまり俺の親父は閻陣の生き残りなんだよな?」


「えぇそうです。確かめなくとも閻陣の意思にあなたの父親の記憶も存在しているはずですが?」


「まぁ確かにそうなんだけど、一応の確認。てか俺異能なんか持ってたのかよ。それもよくよく考えたらかなりチートな類じゃねえか」


 闘矢は頭を抱える。だがそこで1つ気になったことがあった。


「でも何で俺は閻陣の異能と一緒に記憶が無くなってたんだ?」


「あぁ悪ぃ。俺が消しちまった」


 あっけらかんとした様子で闘伍が答える。


「消したってなんだよ!!」


「いや、ある日いつも通りお前の寝起きを襲ったんだが、どうも打ち所悪くてな。うまい具合に記憶と一緒に閻陣の異能もすっぽり抜けちまったんだよ。ありゃ俺も驚いたぜ」


「ピンポイント過ぎるだろぉが!!」


 枕を闘伍に叩きつけようとするが、枕をつかんだ時点で既に闘伍は枕が届く範囲外に移動していた。さすがは本家の幻幽姿である。


「しかし結果論ではありますが、それは私が望んだことでもあるのですよ」


 意味深に小雪が呟く。


「先ほど自分が言った通りあなたは最強の対異能者になり得る存在として、十二宮家に反発する組織の中で非人道的ともいえる行為をされ続けていました。これは私が招いた事態であり、あなたに謝らなければならないことでもあります」


「いや、母さんに頭下げられるとあんまいい気がしないんだが」


「では止めましょう」


「変わり身早いなー!!」


「ともあれ、私はある程度成長したあなたを連れてその場から逃げ出すことを選びました。私も桐崎の人間、逃げることには自信があります。そして私はあなたを桐崎に預けました。桐崎の異能が開花すれば、もうあなたは他人の異能や戦闘技術を習得することが無く、閻陣の血から逃れられる。それが唯一の方法だと思ったのです」


「そして俺が見事に閻陣の異能を封印した。ついでに記憶もな。どうよ!俺凄いだろ?」


「……重たい話してんだから空気読めよクソジジイ」


 70目前の闘伍だが、言動といいふた周り以上若く見える。


「記憶を失い、気の扱い方も幻虚姿が優先的されるようになり、あなたを戦いから十空ける事ができた。ですがあなたはもう記憶も、そして閻陣の異能も思い出した。極めつけは閻陣の宿敵である十二宮家とも関わりを持ってしまい、状況はかなり切迫しています」


「桐崎も元は十二宮家に追いやられた家だからな。俺もこの話を聞いたときは腰を抜かしたぜ。特に四之宮ってとこがな」

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