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第四十八話

 体が勝手に動き出した。意識などまるでしていない動き、しかしそれは流れるようで無駄が無い。気が付けば、荒れ狂う竜閃の雨を掻い潜っていた。


桐崎気功術―幻虚姿げんきょし


 異能を含めた相手からの全ての干渉を避ける、幻のように虚ろな姿。そう称される異能。


 閻陣の異能を所持していた闘矢の幻虚姿は後天的に習得したこともあり異能に対する反応にやや不安定になるという未完成の異能であった。


 しかし、今の闘矢は閻陣の異能により完璧な幻虚姿を使用できる。紛れもなく、今の闘矢には何も触れる事が出来ない。それが例え、目に見えない斬撃だとしてもだ。


「嘘だろッ!」


 驚き声を上げる想だが、その隙を闘矢は見逃さない。雷鵺を使い一瞬で間合いを詰める。外気功を得意とする家は接近戦ではその力を存分に発揮できない。戦場の主導権は闘矢に移った。


閻陣気功術―無常夢想


 最大にして唯一の閻陣の名を冠した近接技。相手の気の流れ、動きの癖、反射速度などを完璧に読み取り、膨大な戦闘技術を駆使して回避不可能、防御不可能な独自の連続技を相手に応じて即時に組み立て放つ技。


 組み合わされた技が次々と想の体に叩き込まれる。回避しようともその隙を与えず、防御しようにも逆に空いた箇所を狙われる。くらう側はやがて何をしても負けるという意識に支配される。そうして内面からも蝕むのがこの技の真髄だ。


 数多の技を組み合わせた手数およそ25、その最後に想を吹き飛ばすように蹴り出し、闘矢は動きを止めた。吹き飛ばされた想は受身を取ることもなく、部屋の入り口である扉にまともに背中を打ちつけ、廊下へと見えなくなる。


 その様子を見ていた闘矢はやがて力が抜けたように床に膝をつく。


「闘矢君!!」


 離れたところで見守っていた夏陽が闘矢に駆け寄る。なんとか床に倒れそうになるところを夏陽が支えた。


「悪い……ぐっ!!」

「闘矢君!」


 夏陽に受け止められ苦笑いを浮かべた闘矢だが、突如頭を抑え始める。


 闘矢の体は度重なる異能の使用により悲鳴を上げていた。体力もそうだが問題は気の枯渇だ。異能は気を元に扱うが気の制御は主に脳で行われている。そして闘矢は元々気の量に関しては平凡であり、本来扱いきれる気の量を超えたツケが頭痛となり闘矢を襲っていた。


 苦痛にうめく闘矢は傍にいた夏陽を突き飛ばす。


「逃げ……ろ」


 そして辛そうに呟く。


 闘矢は自身の危険性を感じていた。閻陣にとって気とは唯の異能の源ではなく怨念の塊ともいえる閻陣の意思を抑えつける役割も担っている。更に十二宮家が傍にいるというだけで闘矢の中で激しく暴れており、いつ異能が暴走してもおかしくない状態だった。


 故に夏陽を遠ざける。誰よりも、自分よりも大切な存在を傷つけてしまうことを恐れて。


「――っ!!」


 だが、夏陽は闘矢から離れようとしなかった。逆に身を寄せ、膝の上で闘矢を抱くように包む。その力はとても強かった。


「はな……れろ……」


「嫌です!離れません!!」


 夏陽は頑な拒否を示す。しかし闘矢にも限界が近づいていた。頭をきつく締め上げるような激痛に、最早夏陽の身を案じている余裕すら薄れ始めている。


「今の闘矢君を見ているだけなんて私には無理です!!」


 いやいやと首を左右に振る。その目には大粒の涙がたまっていた。


「闘矢君が私のことをどう思っていようと、私は闘矢君の事が好きです!今の私には闘矢君の痛みを失くす方法は分かりません!でも、絶対に離れません!」


 夏陽は泣いて訴える。しかしその言葉が闘矢に届いたかどうかは分からない。もう闘矢は会話をする程の余裕も見られない。頭を押さえ、呻き散らす姿は酷く痛々しい。

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