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第四十五話

―その時だった。


「おおっと、ちょっと待てよ」


 場にそぐわない、陽気な声が部屋に響いた。闘矢は声の方向、扉の場所に目を向ける。


 そこには1人の男がいた。寝癖のように毛先がはねた少し長い黒髪。体格は闘矢と同じほどで、どちらかと言えば痩せ型のように見える。襟が伸びきったシャツにジーンズという格好の男は人懐っこそうなニカッとした笑みを闘矢に向ける。


「悪いがお前をこのまま帰すわけにはいかないんだよ」


 そこで闘矢は男の肩に何かが乗っていることに気付いた。見間違いはずもない、それは確かに勇魚だった。勇魚を背負っている男、該当するのは1人しかいない。


「お前は藤代の!?」


 闘矢の背後で、慧刻が息を呑むように言う。


「あんたが藤代想か」


「ご名答、こいつが教えたみたいだな。話が早くて助かる。大丈夫、殺しちゃいないぜ」


 至極楽しそうに告げ、想は肩に乗せていた勇魚を床に寝かせる。何気ない身のこなし、だが闘矢はその動きに何一つ隙が無いことを察した。否―本来ある隙が想の発する膨大な気によって、隙でないように見えているのだ。


「さて悪いけど四之宮のおっさん。ちょっと黙っててくれよ?」


 想は釘を刺すように慧刻にお願いではなく、命令をした。


「最初に言っておくと、俺の仕事は神永の代わりにここの護衛をすることじゃないんだ。俺の仕事は十二宮家のどの家よりも先にお前を皇まで連れて行くことなんだよ」


 慧刻の返答を待たずに想は言葉を発する。


「俺を連れて行く?」


「そう。何でもお前、他人の異能が使えるらしいじゃないか」


 僅かに闘矢の体が強張った。


「閻陣家。かなり昔に十二宮家と同じ立場にいた家らしいな。もっとも、十二宮家によって迫害されて滅んじまったみたいだがな。んでその家の異能が他家の異能の模写というもんだった。今のお前の異能と全く同じだよな?」


 問われた闘矢は気付く。たった今来たばかりの想に闘矢が異能を複数使ったことが分かるわけが無い。つまりしばらく前より出てくるタイミングを計っていたことになる。


「それが、どうした?」


「簡単だ。閻陣は昔に十二宮家によって滅ぼされた家だ。その生き残りが今ここにいる。俺の主ははっきり言ってイカレた科学者でね。お前みたいな生きた化石はいい研究対象なんだとよ。だからよ、お前俺と一緒に来てくんない?」


 拍子抜けするほど軽い口調の想に、闘矢は直ぐに返事をしなかった。自分が閻陣という家系の血を引いていることは理解していた。というよりも、思い出した。


 閻陣。他家の異能を模写するという力を持ち、その強力過ぎる異能により十二宮家によって滅ぼされた家。


 十二宮家に研究対象として扱われることに抵抗は感じるものの、今の闘矢にはそれに逆らう意思はなかった。殺されてもいい覚悟を持っていたし、何より今は生きることを含め、何をするにも気力が湧かなかった。


 しかし、闘矢個人が認めていても闘矢の中にある1つの意思がそれを拒んだ。それは閻陣の意思といわれるものだ。


 閻陣家の異能は他者の異能を模写するがために、多くの異能の情報を所持している必要がある。そのために閻陣家は親から子へと異能だけでなく、様々な戦闘経験―所謂記憶を継承する術を身につけた。闘矢もその例外ではなく、閻陣の意思を確かに受け継いでいた。


 その意思、記憶とも言い換えられるものには当然十二宮家にまつわる事も含まれている。同胞であったはずが突如謀反を働いたと濡れ衣を着せられ、滅ぼされた辛い過去。先ほど口では殺される覚悟をしていると言ったが、その意思は十二宮家に良い様に扱われることを決して許してはいなかった。

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