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第三十三話

<おーし、あと5秒後にそこから右に移動。3,2,1>


 耳につけているインカムから宗司の指示を聞き、闘矢はタイミングを計ってT字路を右に曲がる。闘矢がその場を離れると同時に、今まで闘矢がいた廊下に使用人が姿を現す。間一髪のタイミング、針の穴を通すような正確さだ。


 先ほどから肝を冷やすタイミングを何度も体験しており、闘矢はもう精神がボロボロになっている感覚に襲われる。


<ほらほら、疲れてる暇はねえぞ。そのまま直進>


 宗司にまんまと言い当てられる。確かに文句をいっても仕方が無かった。本来今の状況で見つかることなく行動できること事態奇跡に近いのだ。


 闘矢とSFの面々が表で暴れているうちに宗司が四宮家のセキュリティシステムのハッキングに成功し、その映像を元に闘矢は四之宮邸の中を進んでいた。


 ハッキングなどそんな簡単にできてしまうのかと疑問に思ったが、事実今のところ宗司の出した情報に一切の狂いは無い。そしてそれを信じるしか、人海戦術で闘矢を捕獲しようとする警備員に対抗する道は無かった。


 四之宮邸は四方を高い塀で囲まれ、建物は日本屋敷と洋館の2つに分かれている。前者は創設が平安時代とも言われており、情緒溢れる日本庭園に囲まれた建物であり、対して後者は明治維新後に建てられたものだ。宗司の情報から洋館の方に夏陽の姿があるということで、闘矢はその洋館の中を突き進んでいるところだった。


 しかし何分敷地面積が広く、更に警備員の数が邪魔をし、行って戻っての繰り返しであり思うように進むことができない。高レベルのかくれんぼをしているわけである。


 このもどかしさに、今すぐ駆け出して夏陽のもとに行こうという意思が爆発しそうになるが、それで見つかってしまえば本末転倒になる。故に先ほどから事あるごとに宗司が宥めるという状況が出来上がっていた。


<そこの手前で止まれ>


 十字路に差し掛かったところで、インカムからの指示が飛び足を止める。


<まずいな。左右のどっちにもいやがる>


 宗司の言葉を聞き、闘矢も集中して気配を探る。右に1人、左に1人。確かに気配が感じられた。どうする、という旨を伝えるためインカムを軽く小突く。


<どういうことだ?さっきまではここには左側に1人だけで右には……こいつは!?>


 闘矢もあまり聞いた事が無い、宗司の驚愕の声が響いた。


<おい闘矢!今すぐ……ら……ろ……>


 すると突然宗司の音声をかき消すようにノイズが走った。いやな予感が闘矢に過ぎる。


<ふざ……な……すぐ……さな……あ……げ…………>


 うまく聞き取り切れない宗司の声、とうとう音声が聞こえなくなる。焦る闘矢はインカムを数回小突くが、何の反応も無い。


 その時だった。闘矢は背中越しに今まで感じたことの無いプレッシャーを感じた。闘矢の背中の先、それは先ほど宗司が誰もいなかったはずと言っていた、十字路の右側だった。


 この先に何かがいる、闘矢の本能は黄色信号ではなく、突如として赤信号を発し始めた。有無を言わせぬ重圧、武道の道に携わるが故に感じる代物。それもかなりの腕、と闘矢は推測する。今まで頼っていた宗司のバックアップを失った今、闘矢にこの状況を打開する策は最早強行突破しか残されていない。


 闘矢はその体質のこともあり、ある程度の白兵戦には自信を持っている。四之宮の警備員もタイマンで戦えば勝つことができる程度の自信は持っている。


 しかし、今泰志の背後にいる人物はその比ではない。紛れも無いプロ、それも実践を生き抜いてきた相当の達人である。


 闘矢の理性も、本能も、そして第3の意思もここから逃げることを全力で訴えた。


 今ならまだ間に合う、そう思い動こうとしたところで闘矢は背後の気配が動くのを感じた。あろうことか闘矢がいる方向に動き始めたのだ。


 闘矢がこの場を去るのと気配の主が姿を現すのでは、圧倒的に後者の方が早い。成す術が無かった。闘矢は戦慄する。


 その時、闘矢は自分の直ぐ傍に部屋の扉があることに気付いた。この扉の先がどうなっているかは分からない。だが命の手綱を握るように、闘矢はそのドアノブを捻る。


 鍵は開いていた。安堵する暇も無く、滑り込むように室内に侵入して静かにドアを閉めた。


 部屋は明かりがなく、真っ暗闇になっていた闘矢の目には何も映らなかった。しかし何かの甘い匂いが鼻腔を刺激する。


 それもつかの間、廊下から足音が1つ聞こえてきた。気配で分かる、先ほどの異様な気配を発していた人物だ。通り過ぎてくれ、という闘矢の願い空しく足音はちょうどドアの手前で停止する。そしてしばらくの後、ドアノブに触れるような音が発せられ―

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