第二十九話
目の前に1人の少女が立っていた。名前は知っている。隣のクラスの山田***だ。小学校の制服を身に纏い、黄色い帽子を被っている。
ぽっちゃり気味の体系からか、背負っている赤いランドセルが心なしか小さく感じられた。
「えっと……ごめん」
伏せ目気味にこちらを見てくる山田***に答える。たった今、告白された。放課後の校舎裏という、ベタな場所で。ストレートに好きですと言われた。
ただ、それだけだ。付き合ってほしいとか、そんな言葉は無かった。
思いを告げて、少女は沈黙した。
付き合うと言っても、それがどう言う事なのか闘矢にはよく理解できていなかった。ただ普通に遊ぶのとは何かが違うと言う事は知っていた。そして、闘矢は遊ぶと言うのをよく知らなかった。
「俺、付き合うとかよくわかんないし。それにやらなきゃいけないことも色々あるから」
学校の時は友達と話したりはする。だが放課後になると直ぐに帰宅し、道草など食った事が無い。遊ぶ時間なんてなかった。だからこそ、闘矢に付き合うと言う選択肢は無かった。
山田***を見やる。
彼女は泣いていた。両目から大粒の涙が頬を伝っていく。鼻をすする音と共に、しゃっくりの様な呼吸音を出す。
「な、泣くなよ!」
慌てて何かをしようとするが、泣いている相手に対する接し方など知るはずも無い。ただ自分が泣かしたんだという罪悪感が襲った。
「はっきりと……言ってください」
涙声で少女は訴える。
「私がこんなだから……他の子より太ってるから……可愛くないから……だからダメなんだってはっきり言ってください!!」
「待ってくれ、そんなこと別に思ってない!」
正直な感想だった。
確かに少女の体系は太めだった。同年代の平均は軽く超えているだろう。だが、それで断ったわけではない。今断った理由に容姿など微塵も関係なかった。誰が告白しても断った。
だが、それを少女に伝えても、少女は話を聞こうとしなかった。どれだけ言葉を重ねても、信じてくれなかった。
太ってたから、断った。そう言えばその場は簡単に治まっただろう。もしかしたらそれが少女のためになったのかもしれない。
だがそれは口が裂けても言えなかった。嘘と言えど、闘矢は泣いている少女に貶す言葉をかけられなかった。泣き続ける少女の前で闘矢は立ち尽くし、決めた。
「付き合うって言われても今の俺にはどうすることも出来ない。だからもう少し、大人になってからもう一度だけ考え直してくれない?」




