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第二十七話

 勇魚はカッターの刃をしまう。その手には傷一つついていなかった。


「異能……?」


「マンガとかで見る特殊能力だと思えば理解が早いでしょうね。でもあれは空想のお話。これは現実の力よ。あなたも見たはずよ。遊園地での一件、そして神永の異能を」


 言われて闘矢は思い出した。遊園地で夏陽に絡んできた短髪、あの男はアスファルトを拳で叩き割った。あれは闘矢の見間違いではなかったのだ。そして神永海里が姿を現す前、闘矢は危険を感じて回避を行っていた。結果、ベンチが粉々に砕けた。


「神永の人間の手からはあらゆるものが尋常ならざる速度と威力を持って打ち出される。ベンチなんて木製じゃなくても粉々だったでしょうね」


 平然と語る勇魚に対し、闘矢は言葉を失った。その時は深く考えなかったが、何故ベンチが粉々になっていたのか。海里がやったのは分かっていたが、その方法まで考えていなかった。それが、異能。それによるものだとは。


「そして、十二宮家は己の力を示す為にこの力を維持していかなければならない。そのために四ノ宮の異能が必要なの。四ノ宮の、異能を増幅させる力が」


 勇魚は言う。力を失った十二宮家は他の力を持った家と対等になってしまう。異能の力で日本を支えてきた十二宮家とその分家にとって異能の質の低下は避けなければならない。そのために、四ノ宮の異能が使われる。四ノ宮を母体に生まれた異能者は異能の質が向上する。そうすることで十二宮家は異能の質を保ってきたのだと。


「それじゃあ夏陽は……」


「御門の異能を強くするために御門家に嫁ぐことが決定していたの」


 闘矢の言葉を推測して勇魚が続ける。


「そうすることが四ノ宮の女の使命。そうやって十二宮家は権力を誇示し続けてきた」


 闘矢は自分がいつの間にかに拳を強く握っていることに気付いた。


「そのことを夏陽は知っていたのか?」


「当然知っていた……んだけど、夏陽の場合はちょっと特殊ね」


 勇魚はカッターを机に戻し、再び席についた。


「あの子は10歳まで自分が十二宮家なんていう巨大組織に所属しているなんて知らなかった。それはあの子が四宮家現当主、四ノ宮慧刻様と妾との間の子供で、慧刻様がその存在を隠していたから。あの子がそれを知ったのは母親が死んで、四ノ宮家が引き取った時よ」


「それじゃ夏陽はいきなりそんな使命を背負わされたってのか?」


「それがルールで、絶対だからよ。仕方ないの」


 夏陽の母親は、慧刻の妾という立場からほとんど隠居に近い生活を送っていた。自分の存在が明るめになれば十二宮家全体が揺れる。そう考えた母親は、世間との関わりを断った。夏陽ら親子は完全に孤立した存在だったという。


 だが母親が早くに病に倒れ、当時10歳であった夏陽の引き取り手はなかった。今まで黙秘していた四ノ宮慧刻は、動くしかなかった。血液検査を受け、夏陽が正式に四ノ宮へと迎えられたのは母親が死んでから2年が経っていた。


「当時慧刻様は十二宮家全体から謹慎処分を受けたわ。そのために四ノ宮は十二宮家での地位を格段に落とした。そんな事分かり切っていたはずなのに慧刻様はあの子を助けた。どういう意味か分かるでしょ?」


 勇魚の問いの意味を闘矢は理解した。だが、だからこそ苛立ちを覚える所もある。


「そんなに愛してやってるなら、何で夏陽を自由にしてやらないんだ!」


 大事に思っているなら、何でそんな重荷を背負わせるのか。


 だが、勇魚は首を横に振った。


「言ったでしょ。今の四ノ宮の地位は十二宮家でも最低よ。これ以上問題を起こせば四ノ宮全体の立場が危うくなるわ。慧刻様の独断でやっていいことではないわ。それに慧刻様も何とか夏陽を例外に出来ないか動きはした。でも無理だった。十二宮家、特に夏陽の異能を貰い受ける御門家が許すわけがなかった」


 闘矢は何も言えなかった。反論が思いつかない。気持ちだけが空回りし、それを表現できないもどかしさに苛立った。十二宮家における四ノ宮の立場。それを顧みないで夏陽を助けた四ノ宮慧刻。だがそれは逆に夏陽に苦しい運命を背負わせる結果になってしまった。


「夏陽は……納得してるのか?」


「納得しているわ。いえ、あの子が納得しないはずがない。あの子は自分が断れば慧刻様に迷惑がかかることを知っているから」


 再び闘矢は言葉を失った。当事者である夏陽が認めてしまっている。それが闘矢の中で決して小さくない衝撃を与えた。


「ちょっといいか?」


 突然、それまで沈黙を守っていた宗司が手をあげる。


 その宗司に、勇魚は何故か鋭い視線を投げかける。


「自分の使命に納得したのに何で夏陽ちゃんは闘矢と付き合うなんて反抗的な態度を取ったんだ?」


 宗司の問いはもっともだった。迷惑をかけられないという点に関し、夏陽の行動は少し不可解だ。自分の事ながら、闘矢はそこには全く気がつかなかった。


 だが、それが出発点であったのかもしれない。

「確かにそうだ、なんで夏陽は俺と付き合うことに決めたのか?」


「それは……」


 勇魚は言いにくそうに口を濁す。


「もうここまで来たら、隠し事は無しに行こうぜ」


 宗司が流し眼で勇魚を見る。


 2人の視線が宙で交差する。


 先に目を反らしたのは、勇魚だった。


「本来、私の口からこれを言うのはダメ。夏陽自身が言わなくちゃいけないことなの。だからそれを理解して聞きなさい」


 勇魚は観念したように息を吐く。


「四ノ宮の家に引き取られる直前、夏陽には1つ心残りがあった。四ノ宮に引き取られるということはそれに相応しい教育を受ける必要があって、一般の学校を去らなければならなかった。だからこそ、夏陽にはやらなければならないことがあった。それが……あなたに想いを伝えることよ」


「俺……に?」


 視線を送られ、闘矢は目を丸くする。


「覚えてないかしら?小学校5年生の時、あなたに告白した1人の女の子を」

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