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第二十六話

 遥か昔から日本を表からも裏からも支える十二の家。


 日本の政治を支える四ノ宮、御門、式部しきぶすめらぎ神楽坂かぐらざかやしろの公家六家。


 日本の武力を支える藤堂とうどう風斬かざきり龍宮りゅうぐうくすのき五後胤ごこういん時任ときとうの武家六家。


 今現在も政治の世界には公家六家の人間が大半を占め、自衛隊などの戦力についても、武家六家の息がかかっている。日本のそれぞれの分野の頂点は全てこの十二宮家に収束する。


 文字通り、日本を牛耳る家々である。


「そして公家六家本家の人間には武家の分家の人間が守り目、つまり護衛が入るの。夏陽は公家六家、四ノ宮の娘。そして私は武家六家楠の分家として夏陽の守り目を担っている。理解できた?」


 闘矢は黙って話を聞いていた。正直、ピンとこない話だ。日本が十二の家で支えられている。しかしそのいくつかの家は名前は聞いたことがあった。


 御門は世襲制の政治家、皇は医療関係でよく聞く名前だ。式部と言うのが歌舞伎など伝統文化の家系であることも知っている。


 だが、それが日本を支えているとは、にわかには信じがたい。


「天皇家ってのとはまた違う感じなのか?」


「あなたが知っている天皇家とはそこまで深い関係ではないわ」


「俺の知っている?」


「表に出ている天皇家は全員影武者よ。本物の天皇家は確かに十二宮家の更に上、日本の事実上の頂点の家系になっているわ。と言っても、GHQにより天皇家の実権がある程度残されたとはいえ自粛みたいな形で殆ど表舞台に出ることは無いし、十二宮家でも代々当主だけがその存在に接触できるって形になってるから私もよくは知らないんだけど」


 話を聞いている最中、闘矢は自分がとんでもないことに首を突っ込んでいるのではないかと、臆病風に吹かれそうになった。勇魚が語った内容は決して一般人が知りえてはいけないものばかりだ。いや、その前に信じがたいことばかりだと言う印象の方が強い。


 しかしこの状況、勇魚が嘘を言うだろうか。闘矢は脳内でかぶりを振った。宗司は勇魚が闘矢の疑問に答えてくれると言った。そういうことに関し、宗司が嘘をつくとも思えない。


「それで、その十二宮家が今回の件についてどう関係してるんだ?」


「四ノ宮は日本の財政面を支えることともう1つ、十二宮家内で重要な使命がある。いえ、四ノ宮の女限定ね。四ノ宮の女は他の十二宮家に嫁に出されるというしきたりがあるの」


 勇魚は目を伏せ、何かを堪える様な表情を見せる。


「それって……」


「許嫁、って言えば理解が早いかもね。つまり四ノ宮の女に望んだ結婚は許されていない。女として生まれた、分かった瞬間にはもう十二宮のどの家に嫁がせるかの会議が開かれるわ。それが四ノ宮の子として生まれた夏陽の運命よ」


「嘘……だろ?」


 闘矢は茫然とした。夏陽が、というのも理由の1つだが、そんな規則が実在することに対する衝撃も大きかった。


「じゃあ……夏陽は御門悠獅と」


「婚約が進められているわ。それも、今週末に」


「今週!?」


「夏陽とあんたが付き合ったからよ。十二宮家としてのルールは絶対。例外は存在しない。嫁ぎ先が決まっているにもかかわらず夏陽があんたと付き合ったから十二宮家全体が急がせたのよ。と言っても、元々高校卒業と同時だったものが1年半早まっただけよ」


「そんな……理不尽だろ!」


 闘矢は内に湧き上がる怒りを感じた。1人の少女の将来を束縛するシステム。そんなものがあっていいのか。嫌悪感さえ覚える。


「そうしないと、十二宮家は力を維持できないのよ」


 勇魚は静かに呟き、額に手を当て軽く息を吐くとゆっくりと立ちあがった。そして闘矢の傍まで来て、机の上に置いてあったカッターを拾い上げる。


「これが十二宮家に属する者の、維持していかなければならない力の一部よ」


 そしてカチカチとカッターの刀身を出し、突然自身の掌に振り下ろした。それを傍観していた闘矢は慌てて止めさせようとするが、間に合わない。


 カッターは無残にも勇魚の手をつらぬ――かなかった。カッターが掌に接触した瞬間、闘矢は信じられないものを見た。カッターは勇魚の手を傷つけることなく掌の上で止まっていた。


 振り下ろす途中で勇魚が勢いを弱めた様子は全くない。なのにカッターは勇魚の掌を貫かない。そして勇魚は今度は手を引き裂く様にカッターをスライドさせた。だが、それでも掌には傷一つつかない。まるで何かに守られている様に無傷を保っていた。


 そして闘矢の脳裏に言葉が掠める。


湯浅気功術―血鎧ちよろい


「これが私の、武家六家楠の分家湯浅の異能。体内の血液を硬質化させて、あらゆる物理攻撃から身を守る『血鎧』」

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