第二十三話
「野球ボール?」
「あぁ」
闘矢は手に持っていたボールを1つ、夏陽に見せる。
「最初に距離を取った時拾ってずっと手に持っていた。んで最後の竹刀をそれとこれで挟む感じで受け止めた」
更に闘矢は逆の手に持っていた硬球を見せる。その二つを手に持ち、竹刀の攻撃を耐えた。ルール上、闘矢が攻撃を受けたわけではないので問題は無いはずである。何より、攻撃を放った倉田自身が認めている。
竹刀を受け止め、しばらく動かなかったのは倉田と会話をしていたからだった。
「お前は本当に四宮さんのことが好きか?」
そう問われ、闘矢は倉田の意志を悟り、答える。
「はい、愛してます」
「好きかどうかで聞いてんのにわざわざふざけやがって……」
苦笑した倉田は「まぁいい」と呟き、膝を突いたのだ。
あの時の倉田は何か清々しい表情をしていた。
状況的に一撃が入ったと言われても仕方が無い状況だった闘矢にとって、倉田の誠実な人間性を垣間見た瞬間でもあった。倉田は本気で夏陽のことを心配していた。
だからこそ、闘矢を試した。そして闘矢を認めてくれた。
SF四天王が敗北し、闘矢たちの仲を認めたことで、晴れて2人は学校公認の間柄となった。勝負終了と同時に異例の全部活休みの事態により勝負が終わった時点で下校を促す放送が入った。
そして今、二人は学校中の人間からなかばからかわれながら送り出され、一緒に下校をしている。と言っても家の方向が反対と言う事もあり、どこに進めば良いかも分からない状況になっていたため、近場の公園のベンチに座り話し込んでいる。時々下校中の学生が近くを通り、こちらを見てくるが闘矢と夏陽だと分かると、直ぐにその場を去っていった。
他校の学生ですら同じ対応の始末だ。だから情報伝達の速度が可笑しいだろと思わざるを得ない。どんな扱いをされているのか気になってしまう。
隣の夏陽はそんなことお構い無しなのか、硬球をじっと眺めている。
そして突然頷く。
「つまりこのボールがあったから私たちは今こうして隣に座っていられるんですね!」
「まぁそうなるな」
可愛らしい笑顔で言われて一瞬ドキッとしてしまう。
「それではこちらは私がもらいます」
夏陽は持っていた硬球を闘矢に見せる。
「闘矢君がもう片方を持てば、お守りみたいですね」
そう言う事か、闘矢は納得する。が、なんとも言えない気分にもなった。
何かを半分にして片方を持ってお守りにするのは分かる。夏陽も女子であり、何か形になるものを持っていたいのだと思う。
だがそれを差し引いたとしても、野球ボールがお守りか……。
流石に少し考え込む。エピソードとしては確かに申し分ない。確かにこれがなかったらこうして隣に座っていないのは事実であり、十分ご利益がある。
何より、夏陽が喜んでいる。屈託の無い笑顔で、微笑んでいる。
それで十分じゃないのか。それ以外に、何があるというんだ。
納得した闘矢は手でボールを遊んでいる夏陽を見る。
「な、なんですか?」
それに気付いた夏陽が頬を赤らめながら戸惑いがちに答える。
「いや、何でも」
闘矢としても特に理由があって夏陽を見ていたわけではない。ただ夏陽を見ていたかった、それだけだった。
「あの……寄りかかっても……良いですか?」
僅かな沈黙の後、夏陽が躊躇いがちに言った。普通なら許可を求めそうに無いことではあるが、闘矢の体質を考慮すると、どうしても必要になってしまう。
それが分かっているからこそ、闘矢は自身の体質を一瞬恨んだ。
「うん」
先に闘矢が夏陽にくっつく様に体を寄せる。闘矢が触れてから、夏陽は自身の体重を闘矢に預けた。半身に圧し掛かる重み。ほのかに暖かいこの重みが今は愛おしかった。
今夏陽はどんな表情をしているのだろう。闘矢はあまり体を動かさず、首だけを夏陽のほうに向けた。夏陽の顔は直ぐそこにあった。鼻先20cmにも満たない距離、夏陽はやや闘矢を見上げるように見ていた。
沈黙、闘矢の脳内は硬直した。
え、これどんな状況?というツッコミが脳内を駆け巡る。すると夏陽が突然目を閉じ、顔を闘矢に向くように近づけた。
待て待て待て待て、これそういう状況だったのか!嘘だろ、マジかよ!
一瞬混乱した闘矢だが、この時は何故か直ぐに落ち着いた。決心をつけ、そっと顔を夏陽に近づける。夏陽にキスをするために、顔を動かす。
その距離、もう5cm。
闘矢の意識は既に呆然としていた。
―しかし、そんな状況、そんな時でさえ、闘矢の絶対拒絶は反応を示す。




