第一話
その日はとても晴れていた。まるで先週までの嵐のような豪雨が嘘のように太陽がさんさんと輝いている。外にはまだぬかるんだ場所があるが、それがかえって湿度を上げる結果となり、今日はじめじめとした空気が漂っている。
なんとも集中力が続かない日だ。
「罰ゲームなんだから仕方ないんじゃないか?」
ある高校の校舎の一室、湿気のために開け放たれた窓を手すりにして少年がジャムパンをほうばる。少年の短いとも長いとも言い辛い長さの髪は外からの風で僅かに舞うが、何事も無かったかのようにふわりと元に戻った。
少年の気楽な口調に隣からため息が聞こえる。
「罰ゲームだからって何でもやって良いって訳じゃないだろ?」
その隣にはまた別の―若干ふてくされ気味な表情の―少年が先ほどの少年とは反対の方を向いて椅子に座っていた。椅子を前後逆にして座って、背もたれに腕を乗っけている。
「そうは言ってもそもそもお前がゲームで負けたのがいけないんじゃないか?」
責めるような言葉に椅子に座った少年は頭を抱える。
「いや、元はと言えばあんな罰ゲームを考えた宗司が悪い」
「俺にはどう考えたって負けた闘矢が悪いと思うぞ」
宗司はため息混じりに答えるが、闘矢は納得しない。
「いや、絶対お前が何か仕組んだんだって。もうそうとしか考えられない」
「常識的に考えろ。カードを切ったのもお前。そしてカードを一枚選んだのもお前。それが3なら俺の勝ち、それ以外ならお前の勝ちって言うルールを作ったのもお前。一体このゲームで俺が有利な点がどこにあるんだよ。逆に負けたお前を尊敬したいね」
最後の部分を強調し、宗司はあくまでも冷静に告げながらパンを食していく。
「マークまで縛っとけば良かったのか」
「おいおいどんだけ鬼畜仕様にするんだよ。マゾゲーじゃねえんだ。これでも十分きつい」
「俺としては何でお前がそんなルールで了承したかが凄い疑問だ」
「そりゃ、別に俺は負けて罰ゲームになっても痛くないし。逆に本望だし。あれは俺にとって罰ゲームでもなんでもなかったわけだし。と言うかその質問は俺がお前にしたいくらいだ。なんであの罰ゲームをお前が了承したのか分からん。ふざけて提案しただけなのに」
宗司はパンを加えながら両手を広げて肩をすくめる。それに対し闘矢は何も言わなかった。言えなかった。自分の意見がただの負け惜しみだと分かっていた。今更ながらこんなくだらないゲームをやる気になった数分前の自分を殴りたくなってきた。
「ふざけてたんなら水に流せないのか?」
「逃げの一手か?まぁ分からなくもないが、逃げるんなら提案される寸前。昼休みに俺が近づいた瞬間にするんだったな」
4限が終わった瞬間にコンビニ袋を持って闘矢の机によってきた宗司。いつも通りの風景だが、嫌な予感がしなかったわけでもない。自分にはそういう空気を感じ取ることが出来る。普段と変わらない中にも違ったものを感じ取れる。そう育てられてきたはずなのに。
「つまり逃げれなかったお前の負け。それに罰ゲームがあると分かって参加した人間がその後で文句を言うのは筋違いも良いところじゃないか?なぁ、俺の言ってること間違ってるか?」
宗司は振り向きざまに言う。この言葉が自分に向けられたものでないことを闘矢は感じ取った。それに対し、今まで全く別々の行動を取っていた教室にいる全員が動きを止め、闘矢を見て口を揃える。
「「負けた闘矢が悪い」」
そう笑顔で告げた級友はまるで何事も無かったかのように、またいつもの他愛のない昼休みの生活へと戻っていった。仕組まれてたんじゃないかと思いほどのぴったりの呼吸。そして一瞬で元に戻った鮮やか過ぎる切り替えし。
「宗司、一体何をした?」
表情を引きずらせながら闘矢は問う。クラスの参謀的位置である少年はその問いに笑顔で答える。
「例え遊びだろうが、使える手を最大限利用して全力を尽くし、完全勝利を勝ち取るのが俺のモットーであるとだけ言っておくさ」
気障な言葉を吐いた宗司がやけに似合っていたのが、闘矢には憎たらしかった。だがそんな感情を宗司に持っても仕方が無いことだと分かっていた。
宗司と話した罰ゲーム。それは罰ゲームと言わずになんと言えば良いのか分からない。
大量のわさび入りの寿司を食えとか、購買でパンを買って来い等のものなら今の闘矢は喜んで引き受ける。それは自分が我慢すれば良いことだからだ。その瞬間、一時を自分が堪え凌げば済むだけの話。継続的なダメージは無く、直ぐに終わる。
だがこの罰ゲームは違う。影響は闘矢1人には留まらない。それはこの罰ゲームがある人物に、ある事をしにいくという他人を巻き込んだ罰ゲームだからだ。
その人物は四之宮夏陽という闘矢と同級の女子生徒。
ある事とは、その女子生徒に告白をするというイベントである。