第十二話
遠くから見ていた宗司は、良い結果が出て満足した。
「あれは……どう言う事よ!」
対照的に勇魚は唖然とした表情を見せる。ここからの角度でも短髪の拳が回避不可能なのは分かった。だがそこから闘矢の動きが明らかに変わった。
ギアを2速ほど入れ替えたように見違える速さで動き、男を簡単に倒してしまった。勇魚の反応は当然だ。
「聞いたことは無いか?桐崎闘矢には誰も触れたことが無いって話」
宗司は何食わぬ顔で聞く。
「それってただの噂でしょ?現にあたしはあいつが他人に触れているのを見たことがあるわ。今だって夏陽に」
「言いたいことは分かる。だが闘矢から触ること自体はその対象には入らない。あくまで他人から闘矢に触る場合だ。あれが闘矢が普通とは唯一違う点だ」
「触れるものから反射的に避けているとでも言うの?」
「御明察。意識無意識に関わらず、あいつは自分に触れるものを避けようとする。知っている間柄では 絶対拒絶「アンタッチャブル」って言われてる。10人がかりであいつに触るゲームすらあるくらいだ。いつも俺らが負けるけどな」
愉快に話してはいるが、勇魚は深刻な表情を見せた。自分が仕掛けた男たちがいとも簡単に撃退されて焦っているのか。その心情は流石に探れない。
「とまぁそんな具合で、物理的な干渉に関してあいつはほぼ無敵と言って良い。どうする?まだなんかちょっかい出すか」
「ちょっかいって私が悪者みたいじゃない!!」
「今は明らかにそうだろう。闘矢が本当に平凡な人間だったらどうなっていた?」
「それは……」
問いに対して勇魚は反論できない。あのまま殴られていたら酷い惨事になっていたのは想像出来る。その代償は他人がどうやっても払えるものではない。
結果論だが、一番良い結末になったという事だ。
「それよりも聞きたいのが、あの短髪の男なんだが」
バツの悪い表情を見せる勇魚が言葉を聞いた途端、微かに目を見開いたことを宗司は見逃さなかった。
「あの男がアスファルトを砕いたように見えたんだが」
「な、何言ってんの?人間の手でアスファルトが砕けるはず無いじゃない!」
苦笑いを浮かべながら、勇魚は宗司の言葉を否定する。
「……まぁ良いけどね」
「ほ、ほら早くしないとあの二人見失うわよ!」
明らかに態度がおかしい勇魚だが、宗司はこれ以上追及するつもりは無かった。それよりも、まだ観察を続けるのかと思ってしまう。意味がないと思っていても、もう片方が納得しない限り、この状態が続くのだろう。
宗司は個人的にお化け屋敷前のポップコーンが食いたい願望を我慢せざるを得なかった。