第九話
良く晴れた日だ。ここ最近晴れの日が続いており、今日という日も絶好のお出かけ日和となった。そこまで日が照っているというわけでもなく、また微かにある雲が地表にうっすらと影を作っており、ちょうど良い感じだった。
一先ずはその天気に安堵する。予報で雨が降らないことは知っていたが、流石に天気は当日になってみなければ分からない。
遊園地は入り口時点で早くから多くの人で溢れかえっていた。元々有名な場所であり、休日は殆ど満員と言って良い人の入りらしい。今日この日、365分の1の確立で打ち合わせも何もしていない人がこうまで一箇所に集まるのはなんともおかしく感じる。
入り口付近、大きな照明が設置されている場所を闘矢は目指した。よく待ち合わせの目印にされるものであり、夏陽との待ち合わせもそこになっている。
約束の時間にはまだ時間が30分以上あり、十分な時間だ。
照明付近は当然のことで人が密集していた。寄りかかれるスペースを探そうとした闘矢だが、それより先にある人物を見かける。
グレーのシャツの上に白のキャミソールワンピースを重ね着し、ウエストを引き締めるようにベルトをプラスした服装の、よく見知った容姿の少女がいた。
手提げ鞄を肩にかけ、内側に巻いた時計を見て時間を確認している。
おいおい嘘だろ、と目の前の光景が信じられなくなる。否定したくてもその人物はそこにいる。一体いつからいるのか、それは分からない。
だが醸し出す雰囲気を感じ取ってか、数人、いや数十人の人間がその人物に目を向けている。多数の人間の目を釘付けにするほどの存在。
そんなものに今から話しかけなければならないとなると、背筋が凍る思いだ。
一瞬、このまま見つからなかったで帰りたい感覚に襲われたが、携帯電話という無駄に便利な機械があるおかげでそんな逃げは通用しない。
思わず足が止まってしまった闘矢に対して、夏陽が顔を上げた。闘矢と視線がかち合う。
一瞬身構えてしまうが、幸い距離があるためそんなものは悟られないだろう。
夏陽は闘矢を見つけると、満面の笑みを浮かべる。
そして小走り気味に闘矢の許へやってきた。
その最中、夏陽の移動先を追っていた数々の視線がマシンガンの如く闘矢に突き刺さる。視線の種類は様々。嫉妬もあれば、哀れみもある。共通点は何でお前みたい不釣合いな奴がと言う思い。
帰りたい思いを必死に我慢し、夏陽が辿り着くまで待つ。
「おはようございます!」
近くで見るとその笑顔は絶大な力を持っていた。その存在はその場にいた誰よりも大きかった。闘矢を見る視線が更に増えた。
「お、おはよう。悪い、待たせたか?」
「いえ。それに待ったとしても集合時刻より早めに来た私の責任ですし。と、闘矢君が謝る必要は……ありません」
夏陽は気恥ずかしそうに顔を背ける。先日名前で呼ぶ事を約束しただけに、未だ名前で呼ばれることに慣れない。クラスの女子も闘矢と呼んではいるが、それとは違った感覚に襲われる。何かこそばゆい。
とにかく、この場を何とかしないとそろそろ刺してくる視線に負けそうだった。
闘矢は直ぐに遊園地内に入る事を提案した。