異世界にてぶちギレたら求婚されました
初投稿です。
──夢のような現実、嘘のような真実。
「カノン、私はあまり気が長くない」
「……手、離してくれませんか」
我が儘王女様が異世界の住人を見たいと言い出したらしく、城の有能な召喚士が喚び出した異世界の住人──それが、私だ。
強い感情が魔法の源であり強者の証でありモテる要素であり秩序だとかいう世界で、理不尽な要求にぶちギレたら、見た目若々しい王様に求婚された。
だっていきなり『異世界の住人よわたくしの下女になりなさい』とか片手に人魂サイズの炎を灯した人間に言われたらぶちギレるよ。
すごかったなぁ、突風が吹き荒れて先端が尖った氷の柱が王女様の顔の真横に突き刺さって手からは人魂ならぬ人間サイズの炎が出たし……ちょっとやり過ぎたかもしれないと思うくらいだったけど王様は爆笑してたっけ。
「何故だ? お前の世界よりもここはずっと素晴らしいと言っていただろう」
「確かに素晴らしいです。念じれば魔法が使える世界なんて、すごいと思います。でも」
「そうだろう? ならば、どうして私から逃げようとする」
言葉を言い切る前に遮られた。
腕を掴む力は大して強くはないものの、彼はよっぽど私に動いて欲しくないと思っているらしく魔法により拘束されている。
子持ちのくせに!王妃様はどうした!あ、あの人は駄目だった……どうして側室はいないのさ!
目の前で繰り広げられているにも関わらず沈黙を貫く王様の護衛兼……を睨み付けてから、王様に向き直る。
染めたような色ではなく自然な色をした傷みを知らない金髪に翡翠みたいな目をした美青年がそこにいる。
「確かに、確かに二十二歳だしそろそろ恋人くらいは欲しいかなーとは思わないわけじゃないんですけど。……前にも言いましたよ、私は子持ちの既婚者とどうこうなる気はないですから。まだ下僕のヘンリー君のがマシです」
「ヘンリーだと?」
王様の低く凄みのある声に、びくっ!と視界の端で王様の護衛……兼、私の下僕のヘンリー君が跳ねた。
「ちょ、カノン様!? 俺が急に名誉の戦死を遂げたらあんたのせいだからな! っていうか下僕じゃないですし!?」
「私は貴様に発言を許したか……?」
よし、計画通り。
王様はヘンリー君に気を取られている。
それはつまり、私への拘束が疎かになったということだ。
ヘンリー君は見た目は弱々しい優男だけど王様の護衛だしそれなりに強いらしいので死にはしないだろう。
「ひぃ!? 俺ってばカノン様の下僕ですごく嬉しいです!」
「貴様、今すぐ婚礼を挙げろ。そして一人でモンスター討伐に行け」
「死ねと!?」
抜き足差し足忍び足、逃げ出そうとした私の腕を誰かが掴んだ。
「カノン様、是非是非ヴァルクス様とくっついてくださいな。わたくしは王妃など辞めて恋に生きたいのですわ! 我が子も貴女様にギッタギタにされてからはむしろ貴女様に仕えたいと言っておりますし問題ありませんのよ?」
良い笑顔で言ったのは、件の王妃様だった。
王様とは政略結婚で、とりあえず子供は産んだしこれでいいでしょう実は好きな人がなどと言って王妃を辞めようとしたらしい。
王女様は王女様で私がぶちギレてから是非私のお義母様になって欲しいと言い寄ってくるし。
「だから、私は還りたいんですって」
「そんなこと許しませんわ! うふふ、それに召喚士が不在の今は還れませんものね? ヴァルクス様! カノン様が逃げてしまいますわー」
オホホホホー!と高笑いする王妃様にドン引きした。
「何? よくやったソフィア。……カノン、まだ還ろうとしているのか」
一睨みでヘンリー君を氷漬けにして王様は凶悪な微笑みを浮かべながら王妃様に腕を掴まれたままの私に歩み寄ってくる。
こ、怖い。謎の威圧感を感じる。
「還さないさ、何処にも行かせない。絶対に」
「そうですわヴァルクス様。その意気で、さあ既成事実を!」
とんでもないことを言う王妃様に何処と無く満足げな王様。
「い」
「「い?」」
「いい加減にして! 勝手に喚び出されるわ見下されるわ求婚されるわで今度は既成事実? 何で恋人関係通り越して結婚妊娠出産!? そんなの嫌に決まってるでしょ!」
私の声に呼応するようにビシビシと音を立てて壁に亀裂が走る。
バチッと王妃様の手が弾かれて、私は自由を取り戻した。
今度こそ家出……違うか、旅に出ようと思う。召喚士捜しの旅に!
そして有無を言わさず脅してでも元の世界に還ってやる。
「それじゃあ、私の姿が見えなくなるまで、動かないでくださいね?」
お金は、ちまちまと女官や兵士のお手伝いをして貯めていたし、そのお手伝いの一環で買い物もしたことがある。ヘンリー君相手に練習して魔法もそれなりに使えるようになっている。
とりあえずここから出ても生きて行けるように、努力はしたつもりだ。
「貴様に惚れた。俺様と結婚しろ」
「ふざけるなぁあ! 今私を売り飛ばすって攻撃してきたばっかりでしょ!?」
「こんなに凄絶にやられたのは生まれて初めてだ。ヴァルクスから頼まれていたが、あいつに売り飛ばすにはもったいない。俺様がもらう」
そのときの私は──まさか行く先々で求婚者が増えるなんて、予想もしていなかった。
こんなモテ期は、いりません。