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気づいたら真っ白タウンにいた俺はある重大なことを忘れていた。
それはあのバカ神に、俺がどう死んだのかってのを聞き忘れていた事だ。
重大なことじゃない? うるせえ俺には重大なことなんだよ!
ここで真っ白タウンの説明をしようと思う。あたり一面、中世ヨーロッパの村のようなところだ。とくに、このそれなりに広い畑が中世感を醸し出している。
なんていうか、どこかのにゃんぱすーの村に中世をプラスしましたって感じの村である。
まるでリアルなRPGにフルダイブしてしまった感覚だ。
ふとあの神様に、最強の魔法を教えてもらったことを思い出した。
とりあえず旅をする前に、不死身の魔法を使ってみるか。
直接聞いた訳でもなく、脳にインプットされたらしい。すっと口から出ていた。
「えーっと、不死身になーあっれ、かっこはーとかっことじ」
魔法を唱えた後、俺は何故か宙を舞っていた。
地面から勢いよく飛んでいくその姿はまさにロケットそのものだろう。目新しいものを見てしまったのか村人が俺の方を指さし、何かを言っている。先ほどまで近くにいた牛があんなに小さく見える。
高速で落下していくのを感じた。
あーめっちゃ怖い。この高さじゃ死んじゃうでしょ。そういえば不死身だから大丈夫だよな。
マジ不死身最強じゃん。
「えぶっし!」
我ながらに凄い声をあげていた。
ものすごい勢いで首が閉まったのである。
木の枝にでも引っかかってしまったのか、地面との距離が一向に縮まらない。
「あなたが私の主様ですか?」
ん?主様ぁ?ほへえ?
俺の顔を覗き込むようにして、俺を持ち上げている彼女。しびれを切らすような鋭い眼差しで俺を見ていた。
彼女の背中にコウモリのような翼が生えている。整った顔立ちは、まるでひと昔前の吸血鬼の話に出てきそうなほど美しく、髪は黒色でちょうど彼女のへそ当たりまで伸びている。背は百七十ある俺と同じくらいだろうか。
運命ってものはこういうことを言うのかもしれない。
俺は彼女に一目ぼれしていた。
苦しいから一度おろしてと合図をとる。
「わかりました」
案外雑に扱われるかと思ったら優しくされた。
二十三歳児は、赤ん坊のように扱われている。
「私の名前はアメリア、あなたの召喚獣として召喚されました」
もじもじ恥ずかしそうに話す彼女。
ダメだ、本当にきれいだ。
「そ、そうか俺の名前は佐部佑」
少しキョドってしまった。
俺は聖職者のはずだ、どうして召喚獣だなんて。
っていうか召喚獣ってさ、もっとほらこんなにも人型ではないでしょ。
だいたいの予想はついている。たぶんあのバカ神だろう。今度会ったら尋問する必要があるな。
そうして俺は続けて喋る。
「魔王を倒して、学生時代に戻るんだ。そしてその子に告白しようと思っている」
異世界に経緯と目標をアメリアという女性に言う。
「それは神様から聞いています。そして輪廻転生の渦から、生前のあなたの活躍を見ていました、お供になれて光栄です」
アメリアはそう言うと、膝を地面に付け右手を胸につけている。
そんなころとはない、俺の人生は当たり障りのない普通な人生だったと思うが。
「そんなことは、よしてくれよ…… あとさ俺は、そんなにも大それたことはしてないよ」
ほんとうに憧れるような人生は歩んでいない。自らのヘっぽこな正義のために動いていた。
周りが摩擦を生むたびに、そいつらをあやしたり、たまに矛先を自分の方へと向かわせたり。今思うと自尊心がないバカな人だと思った。
ただ自分の身の回りが平和であってほしい。そのくせ自分のことは気にかけない、それが俺という人間の人生だ。
「いいえ、あなたはいつも周りを大切にしていた。なのになぜあなたの周りに人が集まらないのか、あの世界の住民はなぜ自分がそんなにも大切なんですか、あなたが一番報われていいはずの人なのに……」
彼女の目は悲しそうだった。今にでも泣きそうで申し訳なくなってしまった。
彼女なりに、僕の人生を見ていたらしい。いろいろ見られたかと思うと恥ずかしくなってきた。でもこれだけは彼女に言わなければならない。
「独りではなかったよ。話す人もいたし、気にかけてくれる人はいた」
アメリアを見ていた俺は目の前が滲んでいることに気づいた。
目から出た雫は、頬を伝い地面に落ちた。ああ久しぶりに泣いちまった。
そりゃあ辛かったよ、でもこんなやり方しかできなかった。
なんどもあの世界から逃げ出しそうになった。
でも好きな子がいたんだ。
好きになればなるほど遠くに行ってしまうあの子。
昔の記憶なんて思い出したくもなかった。
「泣いてもいいんですよ佑さん。素直になってもいいんです」
そういうとアメリアは俺の頭を掴み、そっと肩の方へと寄り添いかけた。
「ごめん鼻水が……」
ズルズルと鼻を啜りながらアメリアによりかかる。
アメリアは黙って俺を受け入れている。
なんでだろうか、アメリアの匂いがとても懐かしく感じる。
「もし本当に生まれ変わったのなら、もう少し器用にできるかな?」
今の俺には自信が無い、ここでもうまくやっていけるんだろうか。
「できますよ。私が保証します」
アメリアはささやきかけるように、耳元で言った。
俺は二十三にもなって一目ぼれした召喚獣の女性とワンワン泣いた。
村のギャラリーたちに見世物のように笑われながら。




