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魔王と元カノと異世界と  作者: 土佐牛乳


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17


 ユウは魔王城最上階についた。


 適当に作った階段を、よじ登るようにして這い上がる。

 椅子と机が綺麗に並べられた部屋であった。

 すぐさま、ほのかに香る生臭いにおいに、吐き気を催そうになり、あわてて鼻を塞ぐ。



 この生臭い匂いは何なのかと、周りを見るように後ろを向くと、その光景に彼女は驚いた。

 血が絨毯のように広がっていて、その上に血まみれの女性が何かを抱いているのだ。

 彼女の着物には、黒い”何か”が、からみついているように見える。

 違う、あれは”何か”を纏っているのだと、ユウは気づいた。

 まとっている物は、寒気がするような黒光りをしており、虫とも言えぬ底気味悪い物体である。

 周りには肉塊が散らばっており、生き物を捌いたような光景が広がっていた。


 女性は、身を震わせ人形のようなものを抱きかかえていた。

 ユウに気づいたのか、突如大声をあげる彼女。



「私はッ…… タスクと戻るのッ!! 私たちを邪魔をしにきたのねッ!!」



 ギロリと目を剥いた。

 操り人形のように立ち上がると、”人形”と思っていたものを、無造作といえるほど荒く地面に置く。

 グッシャと落ちた音、そして何よりも”人形”と思っていたものに、ユウは恐怖を覚えた。


 それは、人の形をしていて、わずかかに骨格から男性であったということがわかる。

 鎖骨あたりから下半身より少し上の器官が、無理やりにも刳り貫いたような痕跡に、唯一下半身が棒状のようなもので繋がっている。

 半壊した赤黒い拳サイズの玉が、大きさは違えど二つほど四方八方に離れており、男性器は強い力で毟り取ったように外れていて、繋がった糸が1メートル後ろの方にまで伸びている。

 そして顔は何かに噛まれたのか、無数の歯形のようなものがついており、元の形状をとどまっておらず、全ての髪の毛までもが無残に引き千切られている。

 その”何か”は、人としての機能は残っているのか、カツカツと剥きだしの歯を鳴らして、目を縦横無尽に動かしていた。


 肉塊、いや、出来の悪いゾンビだ。


 悪夢を見るような感覚に、ユウは後方へと後ずさりする。

 現実ではないような、狂気の所業と思えるような光景に身は震え、脂汗がじんわりと全身から吹き出ていくのをユウは感じた。

 ユウを現実に戻すかのように、一人の女性は口を開いた。


「あなたが…… タスクを汚したアメリアって人?」


 彼女の瞳孔は開き、光散った目――そして、殺意が篭った声音。


「ち、違う…… 私はユウだ、タスクを返してもらうぞッ!!」


 瞬間、女性の手、いや黒い”何か”が腕から伸びた。

 反応が遅れ、黒い”何か”がユウの首を強く締める。


「名前なんて、そんなことはどうでもいいッ! タスクは私のものなのッ!! わかった!?」


 濁流のように言い終わると、はたくように彼女を叩き飛ばした。

 ユウは勢いよく壁に飛ばされ、口の中のものが捲れあがるほどの嘔吐をする。


 吐き出した後、あの変死体はタスクではないのかと、思い浮かんだ。

 離れていた彼女は、ユウを虫を見るように凝視する。


 瞬間、時空が歪むほどの振動が二人を襲う。

 女性の目の前に、空間が捩れたような円形のものが現れた。


「やっときた。遅い……」


 安堵の篭った女性の声が聞こえる。

 

 円形の捩れから黒い指先が伸び、そして腕、体全体を這い出すように、その捩れから人の形をした物体が出てきた。

 その物体は、女性の身に付いていた、”何か”が人型のように凝集しているようだ。


 物体は宙に浮いており、悠々にあぐらをかくと、ゆっくりとしゃべり始めた。


「マイよ――全てを終えたようですね…… 私たちの契約を確認しましょう」


 女性とも男性とも聞き取れるような声をする物体。

 両手を前に出すと、人差し指を曲げ、親指へと付ける。

 トーンと音のようなものが、その物体から放たれた。


「タロマティ…… あなたの言うとおり、全てをやり遂げた…… はやく戻らせて」


「…… では契約を叶えましょう」

 何かを調べ終えたのか、黒い物体の顔のようなものの中心に、赤い目が浮かび上がる。


 ユウはアスクの言っていたことを思い出した。

 タロマティが絶対悪の黒幕であると。


「タロマティ――あなたの思い通りにはッ……」


 ユウは全身の痛みに悶えながらゆっくりと立ち上がる。


「契約執行には時間がかかります。マイよ邪魔をされる前に、アヤツを倒しなさい」


「分かった! 早く終わらせて!!」


 マイと呼ばれる女性が、ユウの方へと体を向け、右手の黒い物体をぶつけようと振りかぶる。


 その瞬間、マイとユウが睨み合っている中心の場所に、突如まぶしい光が現れた。

 時空を捻じ曲げるような、凄まじい光に、二人は目を隠す。


「アメリアッ!!」


 この光の色に、ユウは気づく――アメリアの光であると。


 光が消えた場所に、片方の膝を地面に着けたアメリアがいた。


「ユウッ! 大丈夫ですか!?」


「そ、それよりもッ…… た、タスクが……」


 ユウはアメリアに抱きつく、自分が遅れたことでタスクがあのような状態になってしまったことが悔やまれるのだ。

 アメリアはマイの近くに落ちでいる、タスクの成れの果てを見た。


 その惨劇にアメリアは、気が狂いそうになるほどの悲しみ、そして怒りが彼女の中で渦巻いた。


「タスクッ…… ダメだったのですね……」




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 ああこの光景は何度目だろうかと、目の前の光景を見て思ってしまう。


 薄い霧、そして真っ白な空間。

 白すぎてどのくらいの大きさなんだろうかと、まったくと検討がつかないこの部屋……



 という訳で、俺はもう一度死んでしまった。



 まさかのラスボスが、舞だった。


 あの片思いをしていた子だったのだ。

 まあ俺がその子に殺されてしまったってわけなんだけど……



 ショックだ。



 彼女が魔王であり、彼女の過去についてもだ。

 ”監禁”されていたと言った事実。そして、俺を殺すときの彼女の顔。


 俺はあの二年間、何をしてきたんだろうか。彼女に何もせず、家に引きこもっていた。

 彼女に連絡をしていたら、彼女のSOSにも気づくことができたのかもしれない。




 自分に腹が立ってしょうがなかった。現実からも彼女からも、逃げに逃げた今の惨状に。




 どうしようもない自分が憎たらしくて憎たらしくて、唇を噛む。




 そんな俺の目の前に、一人の男が立っていた。


「タスク君おひさ」




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「あなたが、タスクを汚したアメリアねえ!!」


 憤怒したマイが、纏っている黒い物体でアメリアを襲った。

 次々と襲い掛かる攻撃をアメリアは鼻目先で避ける。


「はぁあ!!」


 きりが無い黒い物体の攻撃に、アメリアは物体に向けて斬撃を仕掛けた。

 効いてもいないその物体はアメリアの方へと、怒涛の攻撃を加える。


「ガハッ!!」


 ブローのような攻撃がアメリアの顔を直撃して、後方へと吹っ飛んだ。

 背中を壁に強打した彼女は口から出た血を手の甲でふき取る。


「死ねぇ!! アメリアァ!!!!」


 マイの全身から無数の物体がアメリア目掛けて飛び出していった。

 反応も遅れ、遮ることができない攻撃にアメリアは諦めていた。

 

「タスク…… 最後に元気なあなたの顔を見たかった……」


 タスクの死体を見るアメリアの中で、タスクとの日々が走馬灯のようによみがえる。

 タスクに勇気づけられたこと、そして叶わなかった二人の将来に彼女は涙する。


 その時だった。


「あぶなあぶな、おいちょっとああああああ」

 彼女の目の前に、何かが覆いかぶさった。


「あいたたたた」

 アメリアはとっさに目を塞いでいたため、何が起こっているのかわかっていない。

 手のようなものがアメリアの胸を揉んでいるような感覚だけしか理解が追いつかない。


「って、アメリア!!」

 彼女の目の前には驚くような光景が広がっていた。

 タスクが自分の胸を揉んでいたのだ。

 しかも、こちらに気づいていると分かっていながらもずっと揉み続けている。


「タスク?…… タスクッ!!」

 彼女は感情のあまり、目の前にいるタスクをめいいっぱい抱きしめた。

 タスクが目の前で元気にいることと、今こうして会えたことがとてもうれしかったのだ。

 強く抱きしめられたタスクは、胸と腕に挟まれ、息ができなくなっている。

 髪の毛の上に水のようなものが落ちている感覚に、タスクは足掻いていた動作を止めた。

 そして、タスクはゆっくりやさしく彼女の手を退けると、彼女を力強く抱きしめた。




「な、なんで……」


 マイは、なぜお前が生きているんだと言わんばかりに、呆然とタスクを見ていた。


「やっぱり、タスク↓…… あんたはすごい↓」


 消えかかる意識の中、ユウはタスクが復活していることに驚いた。




「遅れてごめん、いやここは心配させてごめんだね」


 彼女の存在を今一度確かめるように、タスクは、強く、強く抱きしめる。


 タスクの腕の中で、彼女はタスクの心を感じた。

 自分への暖かい愛情、今こうしていることの充実感、タスクとマイに今まで何があったのかまで。


 短い時間ではあるが、二人の仲ではとても長い時間が流れた。


「大変だったと思うのでいいんです…… こうして私の目の前に現れたんですから」


「ちょっときつかったよ…… でも君がいてくれてよかった。 この戦いは、君には見ていてほしい」


「でも相手は…… 私も一緒に!」


「いや、これは過去の俺へのけじめでもあるんだ。君ももうボロボロだ…… どうか俺にやらせてくれないか?」


「……わかりました。か、必ず勝って最後にハッピーエンドですよ」


「ああ、そうだハッピーエンドだ」


 タスクはアメリア、そしてユウを一箇所に集めると、長期回復系の呪文と結界をかけた。

 結界が閉まる最中、アメリアはタスクの背中をじっと見ていた。

 アメリアは、タスクの背中の大きさがこんなにも大きかったんだなと、今になって気づき、安心にも似た感情を感じながら眠りについた。


「タロマティーッ!!」

 タスクは吼えるように、物体の名前を叫ぶ。


「やはりお前がアルマティーの不純物…… あの書物通り、再転生をした貴様が余を倒すというわけか」


 言い終えた物体は、千手観音菩薩のように手を広げると、目が二つほど増えた。

 三つほどの目は、俺をしっかりと目視すると口のようなものが裂けるように開く。


「代償も無しに貴様は転生をする…… この世界軸は不条理…… 不条理よ。こんな不均衡な三界は滅んでしまえばいい。あの書物の理を超え、貴様を倒す!」


 タロマティーは、嘆きのようにも聞こえる声音で言う。

 瞬間、無数の手が円を書くように動き出した。


「俺はな、いつも周りの奴らに…… いや全てのものに世話をさせられてばかりだよ! だけどそれが俺だ。みっともない俺は、誰かの力がないと立ち上がることもできない残念なやつだ。だけど今度は、俺が散々甘えてきた世界が、俺に助けを求めているんだ。感謝のつもりでもないけど、俺にしかできないことらしいから、俺が全てを救ってやるッ! だからお前が全てを暗闇に突き落とすというなら、俺は世界を救ってみせる。三界も全てッ!」


 タスクは思いの丈をタロマティにぶつける。嘆きにも、決意にも近いようなものを。


「たわけが…… 絶無を貴様にも味あわせてやろう……」


 千本、いや、数え切れないほどの手が、波のようにタスクを襲った。


「無に帰れッ!!! アルヤーマー・イシュヨーッ! 闇を照らッ……」


 タスクは臆せず、あの呪文を唱える。


 しかし、タスクの呪文を遮るように、マイがタスクに攻撃を仕掛けてきた。


「もうい…… もう一度ぉ! 私のために死んで、タスクッ!」


 全身に纏ったありったけの黒い物体をタスクへと放出させる。

 大蛇のようにも見えるその物体は、タスクを飲み込むように大きく口を開けて襲ってきた。


「マイッ!! クソ…… 詠唱はさすがにダメか…… じゃあアスク、例のものを使わせてもらうぜ」


 タスクは軽々と避け、ポケットから大きさに似合わない槍のようなものを取り出した。


「我が名は佐部佑改め、スターク・インフィニティー。我が寄る辺に従い蹂躙せよ拷具〈ごうぐ〉。我が手に収めるは死、楽を与えず、目の前の者に苦を、いでよ、Heretic's Fork〈異端者のフォーク〉」


 禁句の呪文をタスクは唱えた。いいや今はスターク・インフィニティーという名である。

 何者にもなれない男が唯一手に入れた力。


 タスクの手にある黒い槍は、両端が枝のように二手に分かれ、中央に持つ手が現れた。

 凄まじい魔力を纏っているその槍は、禍々しいまでのオーラを武器全体に宿っている。


「行くぞタロマティー!!」


 タスクは爆発的な移動速度で、タロマティーの背後へと移動する。

 そしてタロマティーの首をめがけ、槍を串突き刺す勢いで体全体にありったけの力を込める。


神足じんそくまでッ…… 絶無式イーフィル・アーマヤ!!」


 タロマティーは、凄まじい反応で背後に魔性防御壁を空間がネジ切れるほどに発動する。

 タスクの攻撃は黒い壁に跳ね返された。一度距離を取るため、ある程度の触手が当たらない位置まで移動をした。

 多重による魔性防御壁は、全てを遮ることができる。振動、光、物体までもだ。


「なんて硬さだよ…… さすが神様ってところだな…… でもな、これがあるんだよッ!! 絶有式確率変動槍投、オラッ!!」 


 タスクは距離を取ると、タロマティー目掛けて槍を投げた。

 確率変動槍投とは、槍投による対象への当たる確率が、絶対に当たるという現象に変わることができる。


 タロマティーは結界を張るも、現象改変の力で右胸へと槍が刺さった。


「ああああああ痛いいいいいいい」


 タロマティーは悲鳴を上げる。トドメを刺すために、タスクは怯んだタロマティーへ向けて詠唱を唱える。


「これでトドメだッ!! アルヤーマー・イシュヨーッ! 闇を照らし、奇跡を起こせ」


 タスクはタロマティーへと詠唱を唱えた。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 タロマティーは、破裂するように膨らむと、黄金の輝きを放ちながら爆散した。




 あっけなく終わったラスボスに、タスクは安堵のため息をこぼした。




「マイ、全てが終わったよ」


 俺はマイのもとへと近づいていく。


「私…… こんなところで、何を…… タスクッ!? どうしてここに?」


 マイは小動物のように、周りを見渡すと、俺に気づいた。

 彼女の記憶は、これまでのことがなくなっているのかなと、俺は勝手な憶測を立てる。


「事情はそれなりにあるけど…… まあこれは全部悪い夢だよ。寒いだろうからこれ着て」


 脱いだ上着をマイに着せる。

 文字通り全てが終わった、しかし実感が全くと俺の中で湧いてこない。


 二人は地べたに座ると、しばらくこのボロボロになった教室を見ていた。


「俺がここに来たのは、君ともう一度やり直したいと思ったからなんだ」


 窓の夕暮れを見ながら、ゆっくりと彼女に告げる。


「そうなの……」


 黙って彼女は俺の言うことを聞いていた。

 それに甘えるように続ける。


「舞、君が好きだった。だけど俺はもう大丈夫、君の助けが無くても生きていけるよ」


 マイは俺を見ていた。

 少し目をそらすとにんわりと笑顔になりこう言う。


「私にはタスクに何があったなんてわからない…… だけど大切なものが見つかったってことだけはわかった」


 なんとなくとも、彼女はタスクに何があったのが検討がついたらしい。

 俺は彼女には、かなわないなと思ってしまった。


「あの時さ、タスクに話しかけられてなかったら、私はどうなってたんだろうね」


 あの時…… 二人が共に寂しかった頃だ。

 俺の中の学生時代で一番面白かった時期で、時間があっという間に通り過ぎるような日々だった。


「それは分からない…… でも舞がさ、前に進めたんだったら俺はそれで良かったと思うよ」


「あの時、私に彼氏ができたこと恨んでない?」


「恨んではないよ…… でも辛かった、悲しかった。でもね、君が幸せなら俺はそれで良かったと思っているよ」


「ごめんね、こんなこと聞いて」


「いいよいいよ」


「タスクが死んだって聞いてさ…… 最初は信じれなくて、それで結婚生活を楽しんでたんだ。そしたら、タスクのことだんだん思い出しちゃって、なんか悪いことしちゃなって…… それからアイツに監禁されちゃって。こんな自分だからこうなるのは当たり前よね……」


 舞の目元が赤くなっていく、彼女は自分を責めていた。


「俺のことなんて気にしなくてもいいんだよ。それは全部夢なんだよ。今こうしているのも、夢なのかもしれないけどね」


「なんでそんなにあなたは優しいの?」


「好きだったってのもあるけどさ、これが本当の友達じゃないかなって思うんだ。損得関係なしに相手に何かできるかってね。俺には友達と呼べる友達はいなかったよ、というよりも自分から縁を切って回っていたからね。でもそんな自分に君がいてくれて助かったって時もあったんだ」


 まあ恩返しみたいなものだよ、と俺は言う。


「もう一度私と来てと言ったら?」


「それはダメだ。僕には大好きなアメリアがいる。それにもう人でもないんだ」


「なんでッ! 私をまた助けてよ」


 と彼女は、感情を高ぶらせ俺に抱きついた。

 

「君とは一緒にはなれない」


 ただ彼女は俺の胸で泣いていた。


「君はひとりでも大丈夫だよ。舞は僕がいなくても生きていける強い人だ」


 彼女の肩を掴んで、優しく離す。



 丁度にアスクが神界から扉を開けてここに来た。

 どこでもドアのようなもので来たため、笑いがこみあげてしまった。


「タスクくん、異世界ここでのことは全て済んだんだね。僕の手筈は全て終えてきたよ」


「おk、契約通りに舞を現世へと返してくれ、それとあれだな最後の最終決戦を……」


「ああ分かっているよタスクくん」


「ちょっと舞を見てもらってもいいですか?」


「分かった。アメリアさんに言ってくるんだね」


 アスクに舞を頼んで、俺は二人を結界に張っていたところに行く。

 結界を解いて、眠っていたアメリアを起こした。

 横にはユウも寝ている。彼女はダメージも多いと思ったため起こさないことにした。


「アメリア、アメリア」


 猫のように丸まっていたアメリアの肩を揺らす。


「んんっ…… タスクですか?」


 握り手で目をこすりながら起きたアメリア。


「少し話があるんだ」


「あれはッ…… マイと言われるやつですね!? どうしてアスクも一緒に!?」


 アメリアは舞の存在に気づき、今の穏やかな現状に驚いていた。


「全部という訳ではないけど終わったんだ、もう舞は大丈夫だよ」


「本当に終わったんですね……」


 俺は焦燥感に似た、なんとも言えない感じが心のなかでじんわりと広がっていた。

 アメリアもおんなじことを思っているのか、二人は沈黙する。


「俺はこれからさ、俺のいた世界に戻って、変わってしまった過去を変えなきゃいけないんだ」


 とりあえず本題に入るためにも言う。


「戦いをするんでしょうか……? それなら私も一緒に」


「いいやこれは俺にしかできないことなんだよ。だから君は俺のことを待っていてくれないか?」


「長く、長くなるんでしょうか?」


 彼女は、擦り切れるような声で聞いた。


「それはわからない。そんな顔しないでくれ、一生懸命に頑張るから」


 そう言って彼女の胸に飛び込んだ。

 包み込まれるような2つの山に俺は顔を埋める。

 肌のさわり心地に感動しながら、俺は顔をプルプルと振る。


「もうッ/// わかりました。私は待っていますから、早く帰ってきてくださいね」


 そう言いながら彼女は俺の頭を撫でた。

 ああ安心するな、できるならずっとこうしていたい。


「うん分かったよ、愛してるアメリア」


「私も愛しています、タスク」


 それから俺はアメリアを抱きかかえて、アスクの方へと移動した。

 いつの間にか、アスクの近くには大きな扉が置かれてあり、アスクがここに来た扉よりも何倍にも大きかった。

 そして何よりも神々しく、いかにも神にしか使えないような代物である。


「じゃあアスクのおっさん頼むわ」


「分かった、ジャンプポイント2000年1月10日の人類のミッドポイントへ。どうか世界をよろしく頼む」


「なんすか改まって…… じゃあアメリア行ってくるよ! アスクのおっさん舞のこと頼むぞ」


「はい、いってらっしゃい」


「しっかり届けるよ、任せておいてくれ」


 俺は彼ら彼女らに手を振ると、大きな大きな扉を開ける。

 ここからまた俺の物語が始まる。過去の俺の世界で。



「行ってしまいました……」


 アメリアはただタスクの通った扉を見ていた。

 だんだんと消えていくその扉に、アメリアはできるだけタスクが傷付かないようにと祈った。


「じゃあ舞さん、契約どおり君を結婚式前夜に飛ばそう」


「タスクぅう……」


 舞はただタスクがそばにいてほしかったのだ。

 地べたに座り込んだ彼女は、どうしようもない悲壮感に襲われていた。


「本気で彼が好きならば、君は本当の意味で幸せになるべきだ。それは君の親友であるタスクくんも望んでいることだと思う」


「わかってる…… だけど、どうしても……」


「大丈夫、その悲しみは時間がどうにかしてくれる」


 アスクは舞の扉を出現させる。


「立てるかい?」


「大丈夫です」


 そう言い舞は一人で立ち上がると、扉に手を掛けた。


「アメリア姉さん! どうか頼りないタスクをよろしく頼みます」


「はい、あの人のお守りは私に任せてください」


 アメリアの返事を聞くと、舞は扉を開け、現世へと帰っていった。


「アメリア、君はこれからどうするんだい?」


 アスクの質問に、彼女は一呼吸すると答えた。


「この城を誰かにあげて、小さな花園の丘に家を建てます。そこでタスクを待っていますよ」


「そうか、じゃあ自分はもう行くよ、タスクくんの仲間を集めなきゃいけないんだ」


「私みたいな強い人を選んでくださいね」


「わかってるよ、じゃあ」


「あ、最後に! 一つ」


「なんだい?」


「私を生き返らせてくれて、ありがとうございます」


「それほどでもないよ、さよなら」


 アスクはドアで何処かへと旅立っていった。

 するとこの城が、物凄い音を立てながら大きく揺れ始めた。

 完全にこの城が壊れ始めたのだ。

 すぐに完治したての体にムチを打ち、ユウを肩に抱えてこの城を脱出した。


 彼女は思う、どうやって家を建てる金を集めようかと。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 目を開けると白い天井が広がっていた。

 口にはプラスチックのマスクが付けてあるようで、なぜなのか鉛のように重い腕を動かして外す。

 どうやら体は、何かに縛られているようで全くというほど動かなかった。


 よこで誰かがベットに腕を枕にして寄りかかるように寝ていた。


 彼女は気づく、お母さんだと。


 するとお母さんの目がゆっくりと開いた。

 一度彼女に気づいたはずだが、寝てしまった。こんどは彼女は肩を揺らした。

 今度は起きた彼女に、かなり驚いているようで、眠気が引っ込んだような顔をしている。


「舞!? 起きた、起きたのね!?」


 これでもかと大きな声で叫んだ後、彼女のことを強く抱きしめた。


「心配した、心配したの! あなたが助かってよかった……」


「痛いよ、何があったか教えてくれる?」


「ごめんね、あなたと結婚相手のなんて言ったかしら。爽君? 確かそんな名前だったよね」


「合っているよ、それがどうしたの?」


「結婚式前夜、あなたとドライブをしていたの…… トラックとぶつかってしまって…… 死んでしまったわ」


「ほんとに? そうなったの?」


「本当よ…… でもあなたが助かってよかった」


「うんわかったありがとう」


 聞いた後彼女は、長い長い夢を思い出していた。

 全然思い出せはしない、しかし、何かが吹っ切れたような感覚が彼女の中にあった。

 また一から頑張ってみようと彼女は思った。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 三年の月日が、この家、そして一人の女性に流れていた。

 そとは、秋が終わりを告げているようで、息が白く見える。

 薄暗くなってきた空は、星星が淡く控えめに光っていた。


 女性は今日も家の外を見ていた。

 ここに誰かが来るのを待つように、ずっと遠くを眺めていながら。


 すると一つの影が近づいてくるのが見えてきた。

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