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なんかよく分からないけれど怖い話  作者: 日暮キルハ


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自殺抑制委員会

 人生に絶望し、私は静かに最期の準備を進めていました。

 その準備が完了した、まさにその夜。玄関のチャイムが鳴りました。


 ドアを開けると、そこにはスーツ姿の男女が二人立っていました。

 彼らは真面目な顔で、胸に「S.I.C. 自殺抑制委員会」と書かれたバッジをつけています。


「〇〇様でいらっしゃいますか。私たちは、あなたの『自殺』についてお話しに参りました」


 私は驚きました。なぜ、僕の状況を知っているのだろう。

 彼らは強引に部屋に入ってくると、僕の決意を無にするかのように、淡々と話し始めました。


「あなたの人生が苦しいことは理解できます。しかし、あなたがこれから実行しようとしている行為は、極めて不適切です」


 女性職員は、僕が考えていた方法をまるで知っているかのように話しました。


「電車への飛び込みは、周囲に多大な迷惑をかける可能性があります」


 男性職員は、窓の外を指さしました。


「高所からの飛び降りも絶対に禁止です。公共の場所に汚損をもたらし、多額の清掃費用が発生します」


 彼らは僕の感情には一切触れず、ひたすら「迷惑」「費用」「問題」といった、実務的な観点から、僕の計画を批判し続けました。


 そして、彼らは僕をソファに座らせ、最後に静かに言いました。


「私たちは、あなたに『生きろ』とは申しません。ですが、社会で生きる以上は社会のルールに従ってください」


 そう言って、男性職員は僕に一枚の書類を差し出しました。

 書類には、「今後、いかなる手段においても、『周囲に迷惑をかける自殺行為』を行いません」という誓約文が書かれていました。


「サインしてください。そうしていただければ、私達はあなたが『不適切な行為』をしようとしている要因の解決に努めます」


 僕は、その異様な論理に反発する気力すら湧かず、言われるがままにサインしました。

 彼らは僕の誓約書を受け取ると、満足そうに微笑み、静かにドアを閉めて帰っていきました。


 その日から数週間。


 不思議なことに、たしかに彼らの言ったように私を苦しめていた数々の要因は解決されていきました。

 私は生きる気力が沸きました。


 でも、それもほんの少しの間のことでした。

 あっという間にたくさんの苦しいことが私の前に立ちはだかり私は死にたくなりました。


 私が死にたいのはきっと嫌なことがあるからではありません。

 私が死にたいのは私が私の身に振りかかる多様な事象にまるで対応できず勝手に苦しむ自分自身に絶望しているからなのでしょう。


 ですが、私はあの夜の誓約書があるため、結局、命を絶つことはできません。

 何度かそれすら無視して死のうと思ったこともありましたが、彼らが言っていた「迷惑」「費用」「問題」という言葉が私から死ぬ気力すら奪い、皮肉にも延命をさせていました。


 ある日の午後、僕はあの委員会の男が、テレビのニュースに出ているのを見かけました。


 彼は、笑顔でカメラに向かって語りかけています。ニュースの見出しは、「市民の安心安全を守る新サービス」。


 彼は言いました。


「私たちは、『公共の場を乱す不適切な行為』を未然に防ぎ、市民の皆様の平穏な生活を守ることに尽力しています。おかげさまで、今年度の『公衆衛生上の問題』は、ゼロを達成しました」


 私はそのニュースを見ながら、ふと、誓約書にサインしたあの日、彼らが僕の部屋から去る直前に、そっと置いていったものを思い出しました。


 それは、大量の睡眠薬の入った瓶でした。

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