大嘘つき
ケンタは、自他共に認める大嘘つきでした。
彼の話すことは全てが誇張され、あるいは完全に作り話で、周囲の人間は誰も彼の言葉を信用していませんでした。
ある日、ケンタの住むアパートで殺人事件が起こりました。被害者はケンタの隣室の住人で、警察が聞き込みに来ました。
刑事は、憔悴した様子のケンタに尋ねました。
「昨夜、何か変わったことはありませんでしたか?誰か不審な人物を見たり、物音を聞いたり……」
ケンタは目を見開き、身を乗り出して言いました。
「もちろんですよ!昨夜の1時半頃、僕は全身血まみれの男が、大きなトランクケースを引きずって裏口から出ていくのを見ました!間違いない、男の目はギラギラしていて、持っていたトランクからはカチカチという音が聞こえていました!奴はまだまだ人をたくさん殺しますよ!間違いない!」
刑事はメモを取る手が止まりました。そして、冷ややかな目でケンタを見ました。
「ケンタさん。あなたの隣人たちは皆、あなたの話は信用できないと言っていますよ。あなたが嘘つきなのは有名だ。今の話も、どうせ作り話だろう」
ケンタは顔を真っ赤にして反論しました。
「嘘じゃない!今のは全部、本当のことだ!信じてくれ!」
しかし、刑事はため息をつき、「もう結構です」と部屋を出て行きました。
ケンタは悔しさに打ちひしがれ、一人リビングのソファに座り込みました。
「誰も信じてくれない。あんなに正直に話したのに」
彼は壁に掛かった時計を見上げました。短針は1時を指しています。長針は、半の文字をもうすぐ通り過ぎようとしていました。
ケンタは立ち上がり、出かける準備を始めました。
そうして準備を終えると自分が座っていたソファの隣に置かれている、大きなトランクケースを撫でました。
中からは、カチカチという、秒針を刻むような音が、微かに聞こえていました。




