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掌編置場

治癒の灯

作者: 須藤鵜鷺

 まぶた越しにちらちらと光が揺れるのを感じて、そっと目を開けてみた。光源であるランプが照らす範囲以外の闇は濃く、今は夜の内なのだとぼんやり思う。

 どれだけの間眠っていたのかも、それでどれほどこの身体が回復したのかも、よくわからない。深手を負ったこの身には痛み止めなどの薬も投与されている。おかげであれだけの傷を受けたはずの患部も今は感覚がない。

 寝かされている寝台の隣で、ランプを灯したらしいその人は揺れる光を頼りに書物に目を落としていた。背もたれのない簡易の椅子に座り、ただ黙々と目を走らせている。ずっと起きてたのだろうか。

 隣のその人を、じっと見つめる。息を潜めて、そっと。

 なんの本を読んでるんだろう。ここからでは表紙も見えないし、そもそも見えたところでその内容はわからないと思う。たまにページを繰るときに動く眼差しは気難しそうにしかめられているから、たぶん専門書の類だろう。例えばそれが娯楽や息抜きに読むような小説だったとしたら、こんな難しい顔をして読むのもおかしい。

 ランプの光は小さいけれど、その人や書物に反射してやわらかく広がっている。

 こうしてずっと、見ていたいなぁ……。

 ふいに書物から顔を上げたその人と、目が合った。あぁ見つかってしまった。

「なんだ。起きたのか」

 ぱたんと読んでいた書物を閉じてランプの脇に置くと、掛けられた毛布をめくって傷の検分を始めた。巻かれた包帯を一度解き、縫合の跡をあらわにする。傷を縫い合わせている糸に触れられると変な感じがした。

「痛みはあるか」

「ううん」

「とりあえず化膿はしていないようだ。ガーゼを替える」

「うん」

 迷いのない手つきで傷の処置をする。長く薬師をしているこの人にとっては慣れたものなのだろう。

 傷を負ったのとは別の場所がチクリと痛んだ。その痛みを忘れようと、処置を続けるその人をただじっと見つめていた。

「終わりだ」

 そう言って毛布を掛け直し、元の椅子に戻った。ランプの脇に置いた書物を再び開く。まだ読書を続けるつもりらしい。

「どうした?」

 じっと見ていたら、怪訝そうな顔をされた。

「寝ないの?」

「……そのうちな。お前は寝ろよ。ちゃんと寝ないと治らんぞ」

 素っ気ない言い方はいつもと変わらない。でも今は。

「眩しいのか?それで寝れないなら消すが」

「ううん。このままがいい」

「……そうか」

 寝かしつけようとしたのか、前髪の上から頭を撫でられる。きかん坊の子どもを大雑把にあやすような手つき。でもその手は思ったよりずっとあたたかかった。

 いつもより優しさを感じるのは、このランプの灯のせい?

「ねぇ」

 再び書物に目を落としたその人に呼びかける。まだなにかあるのかと問いたげな目がこちらを向く。

「――――」

 この言葉をどう受け取ったのだろう。深手のせいで意識が混濁しているとでも思われたかもしれない。眉をしかめたまま動かないその顔を目に焼き付けるようにして、再びまぶたを閉じた。

 ランプのやわらかな光が、まぶた越しにずっとちらちら揺れていた。

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