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第46話:君は息を分けてくれた

俺は、瓦礫の中に立つ神々しいまでに美しい姿の青い巨人に駆け寄った。

その巨体は傷つき、乾いた血と煤が体にこびりついていた。


「クヴァ、無事だったんだな」


「ナレ、お前こそ」


クヴァは無表情だったが、俺を見るその目は柔らかかった。

声に出さずとも、暖かく、懐かしい心波が伝わってくる。


久しぶりの、言葉を要しない心の会話。

言葉より深く、確かに届くその響きに、俺はほっとした。


「情報を交換する。近くに」


そう言うと、クヴァは膝をついた。

俺と目線を合わせ、額をそっとつける。


「こうすると早い。いくぞ」


俺はうなずき、心を開いた。

クヴァ相手なら、ごく自然なことだった。


ひと息のあいだに、あふれるような記憶が流れ込んでくる。

狭く暗い水脈の冒険、風の神殿での交渉、異形との戦い――

クヴァが、どれだけのものをくぐり抜けてここに至ったのかを、俺は知った。


同時に、俺の記憶も流れていったはずだ。

出会った仲間、戦い、そしてユリカとのあの出来事まで――

クヴァはすべてを受け取っただろう。


「我が与えた服を着ていない理由が分かった」


クヴァの水底のような瞳に、いたずらっぽい影がよぎった。


「これは大事に持ってる」


俺は腰の短剣を触った。

クヴァは俺の手に自分の手を重ねた。


「これはお前を守る。大切にしろ」


俺は水の都でのクヴァとのキスを思い出した――人工呼吸だったが。


『……!!』


狼狽する心波が伝わってきた。


――しまった、心が繋がってるんだった!


「いや、クヴァこれはな……!?」


クヴァは空を見上げていた。

黒い埃のようなものが、街のあちこちから舞い上がって、ひとつの方向に飛んでいく。


「黒いマナスが集まっている――復活するぞ」


クヴァがそう言った直後、識心の爆風が押し寄せた。

闇が、まるで巨大な黒い花が咲く様に、ヴォルトがいた場所で膨れ上がっている。


「こっちに来る!」


走り出そうとしたときには、視界が黒で埋まっていた。


「ちくしょう!」


俺は地面を蹴って、横っ跳びに跳んだ。


次の瞬間、俺は全身を黒い棘に貫かれた。

人の背丈ほどもある先端が、地面の隙間という隙間から突き出している。


「ク……が……」


首を貫かれて、声が出せない。


「ナレ!」


クヴァは全身から血を流していたが、致命傷は避けたようだった。


「抜くぞ、いいな」


「……っ!!」


俺は心波で、やってくれと頼んだ。

クヴァが俺の体に手をかけ、慎重に力を加えた。


そのとき――


黒が世界を覆った。

あっという間の出来事だった。


巨大な腕のような闇の塊が、クヴァを叩き潰した。

俺の目の前で、肉が裂け、骨が砕けた。

熱い血が、俺の全身に降りかかった。


「ルアアアアアア!」


俺は、棘で喉が裂けるのも構わずに叫んだ。


闇はクヴァを飲み込んだまま、対流するように蠢いている。


そこへ、強力な心波がやってきた。


『原初の大神よ、御前に参ります。どうか御心のままに、我が身に宿りたまえ』


相手の狂った意識が、強引に入り込んでくる。

俺は拒絶しようとしたが、無駄だった。心波があまりにも強い。


『ミオールよ――ショロトル、ヴァラム、グルーヴァの認可を得た。浮上しろ』


命令――だが、俺にではない。


心波は消えたが、間違って口に入れた腐った肉を吐き出したあとのような、

最悪の後味が心の中に残っていた。


最初は小さな揺れだった。

もし現実世界だったとしても、TVから目を離しもしない程度の動揺。


しかし、すぐに異変に気づいた。

これは大震災――命の危険を感じるほどの揺れだ。


ズ……ガガ……ゴアアアアア……


揺れなんてもんじゃない!

地面がずれている。


ぐらりと視界が揺れた。

重力がおかしい――いや、傾いているんだ。


地面が滑り出した。


バキッ、バキバキンッ――


体を宙に固定していた棘が折れていく。


「ぐあっ」


俺は地面に叩きつけられた。

全身に刺さっている棘が体内で、ぐりぐりと動く。


激痛で頭が真っ白になる。

息がうまく吸えない。


俺は痛みもかまわず、体中の棘を引き抜いた。

クヴァが潰れていく光景を、痛みで頭から追い出そうとした。


俺は血まみれで立ち上がった。


空気が変わっている。

淀んだ空気が、冷たい新しい空気と入れ替わったみたいだ。


「心都が――浮いてる……いや、浮上してるのはダンジョンだ」


俺の推測は当たっていた。

やはり、遺跡は宇宙船だった。


「……そんなことは、どうでもいい」


クヴァが立っていたところに、いまだに止まっている闇。

その闇を辿った先に、奴がいる――ヴォルト。


俺は闇に沿って走り出した。


揺れはますます強くなっている。

普通なら立っていることすらできないだろう。


俺は、地に足がつくと同時にジャンプした。

それを繰り返して、崩れていく瓦礫の中を跳び進む。


「ナレ!」


声が聞こえた。


「ナレ、待つんだ!」


――クソ野郎、ぶっ殺してやる!


『止まれ!』


澄んだ、強烈な心波が俺の心を打った。


俺は止まった。


視線を巡らせると、光の閃きが見えた。


「……ルスカ」


「正気に戻ったか、ナレ」


ルスカは水馬に乗っていた。

まとっている水が真っ赤だが、確かに、森で出会った水馬ウユだ。


「戦いは、怒りに囚われれば負ける。心を静めろ」


「……。」


「怒りは奥深くで、熾火のように燃やすものだ」


「……ああ、助かったよ」


「怒りを力に、戦え――先に行くぞ」


ウユが滑るように走り出した。

ルスカが光剣をウユの首筋に突き刺す。


光が水馬の首を登っていき、透明な頭が強烈な光を発する。


瞬間、世界が真っ白になった。

強烈な光の筋が、水馬の口から発し、闇の塊を貫いた。


一瞬闇が散り、中に潜むヴォルトが見えた。

しかし、闇はすぐに集結して核を隠してしまう。


ヴォルトの周りでは、アマヤと衛士、それから黒装束がひとり戦っている。


――ユリカはどこだ……ん?


少し先の瓦礫の陰に、衛士が倒れていた。見覚えがある。


「カオリオか?」


たしかルスカの副長だ。

呼びかけたが、答えない――ぴくりとも動かない。


近づくまでもなく分かった。

カオリオの下半身は、瓦礫に押しつぶされていた。


いや――


額に穴が空いている。


「銃創……か?」


実際に見たことはないが、映像作品では腐るほど見ている。

たぶん、合っているだろう。


――この世界にも銃があるんだな。


敵の攻撃は、剣と魔法だけじゃない。

頭に入れておく方がいいだろう。


「すまない、カオリオ。もう行くよ」


俺は、日本風に手を合わせて弔いをした。


ひときわ大きな揺れがやってきた。

地面が大きく傾き、街が地滑りを起こして流れ落ちていく。


悲鳴が聞こえた。


誰かが、瓦礫と一緒に落ちていく。

いまや、心都は大きく傾き、見下ろせば地面が遥か遠くに見える。


黒装束の少女だ。


――あのままでは落ちてしまう!


俺は咄嗟に走り出していた。

街が滑り落ちていく方へ――下り坂を一気に駆け下るように。

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