第24話:進むべき道に、俺たちの知らない影!?
三人の男が怯えている。
鎖帷子の上から革の鎧。顔には古傷。歯が全部揃っているものはいない。
どこからどう見ても、荒くれものだ。
現実世界の繁華街で出会ったら、俺ならなるべく距離をあけてすれ違う。
でも今は、街道の真ん中で身を寄せ合い、かわいそうなくらいに萎縮している。
それもそのはず。
彼らを取り囲んでいるのは、完全武装の衛士の騎馬隊。
青黒い3メートル近くある巨人の一群。
そして、見上げるばかりの水の化け物と、焼け焦げた鉄線の魔獣。
これで怯えるなという方が無理だ。
というわけで、男たちはとても素直にルスカの質問に答えていた。
「俺たちはレヴナーだ……あ、いや、そうだ、遺跡探索者だ」と、頬に傷のある五十がらみの男が言った。
「墓荒らしで十分だ」ナティラはこの連中が嫌いなようだった。
男は鼻白み、しかし言葉を飲み込んだ。
――これがパワハラに見える俺は、間違いなく現代人だな。
要は、こいつらは遺跡探索者。
遺跡に入り込んで貴重なものを持ち帰るとか、そういう仕事だろう。
自称レヴナーで、墓荒らしというのは蔑称かな。レヴナーってなんか響きがカッコいいし。
「何があったか、簡潔に言え」
「お、俺たちはこの先の(と、やってきた方を指差す)荒地にある村にいたんだ。そしたら襲われたんだよ」
「なぜ襲われた」
「知らねえよ!」と言ったのは、右側の髪を背後で束ねた若い男だ。
「宿を取って、飯を食ってたら、いきなり黒装束の奴らが斬りかかってきた」
「それで」ルスカが淡々と先をうながす。
「俺たちだって腕に覚えはある。剣を抜いてやり合った。切り抜けて外に出てみたらよ。
そしたらよ、呪文ってか、唸りみたいなのが聞こえてきた」
ヒーちゃんがしゅーっと鼻から煙を吐いた。ガルが目を細める。
俺には退屈してるっぽい気配が伝わってきたが、男たちは震え上がった。
「そ、そいつを大人しくさせてくれ。俺たちは丸腰なんだ。なにもできねえよ」
左の男が言った。炭で真っ黒なせいで、顔立ちも年齢もよく分からない。
「続きを」
「あ、ああ」真ん中の男が応じる。
「村を誰かが襲撃したみたいだった。村の連中が戦ってたが、あの村ぁ、普通じゃねえ。
その辺の親父とか娘なんかが、やたらつええのよ。こりゃ、やべえってなってよ。
何かの術式だったのか、急に体が重くなって――仲間はそのまま動けず殺られた。
俺も一瞬、動けなかった。でも、なんとか足が動いた……それで逃げられた」
「唸りっていうのは?誰か他にもいたの?」と、ユリカ。
男はユリカを見て固まった。どう見ても子供のユリカに驚くのは当然だ。
でも、この男も修羅場を乗り越えてきてるんだろう。すぐに気を取り直して続けた。
「仮面の奴らの他に、灰色の連中がいた。そいつらが唸ってるみたいだった」
「で、ほうほうの体で逃げてきたってわけだ」ナティラが愉快そうに言う。
「俺たちは騙されたんだ。武器も荷物も全部置いてきた。あんな化け物だらけの村で。
もう、これ以上は勘弁してくれ。頼む」
「……ここまで、誰かとすれ違ったか」
これが核心の質問だ。
「誰にも会っちゃいねえ。ほ、本当だ。今さら、嘘は言わねえよ」
ルスカがカオリオを見て、カオリオがうなずいた。
俺たちの行き先が決まった。西だ。
心都とかいうところに行くことになる。
雰囲気を察して、男たちが立ち上がった。
ルスカも咎めはしない。
「も、もう行っていいだろ?」
「ああ。だが、今夜は心都に入るな。城門にも近づくな」
「わ、分かったよ。その代わりといっちゃなんだが、水をめぐんでくれねえか」
一瞬、間ができる。
でも、男たちは引かない。死活問題だろうし、したたかでもある。
ルスカが手を上げた。
巨人がひとり、水馬ウユのところに行き、手に持った皮袋を水の塊のような体に突っ込んだ。
取り出した皮袋には、水がみっしり詰まっていた。
無言でその様子を見つめる男たちの前に、巨人がのしのしとやってきて、皮袋を手渡した。
三人は得体の知れないものを見るような目で、革袋を見つめた。
――こ、これ飲めるのか?
という心の声が聞こえてきそうだ。俺は思わず吹き出してしまった。
「よし、行け。街道は通るなよ」
ルスカの言葉をきっかけに、男たちは小走りで草原に消えた。
「うーし、心都に乗り込むか!」
ユリカが脳天気に叫び、色々混成部隊の進軍が始まった。
◆◆◆
地平線に青い光。ようやく、夜が終わろうとしている。
黒い外套のフードを深く被り、衛士オクシトは岩陰に身を寄せていた。
脚に巻いた布は泥に濡れている。腰の荷には最低限の装備。
街道を避けて馬を走らせてきた。
風が頬を打つ。湿った冷気。
遥か東に、塔の影がいくつも突き立っている。
そこが――心都。
「……間に合ったか」
つぶやきが白く揺れる。
かつて訓練で訪れた小道。『ダンジョン』へと続く、誰も使わぬ廃道。
刻まれた、心都の印を確かめる。
扉は閉じているが、問題ない。
鍵を解くための道具は揃えてある。
「わたし、行きます。わたしは巫女である前に村の娘で、両親の子だから」
思い出す声は、震えていた。
使命の重圧も、巫女の宿命も、すべて分かったうえで――
それでも、あのときの彼女は一人の娘として、そう言った。
だから、自分はそれに応えた。
誰がどう言おうと、それでいい。
神殿がなんだ、秩序がなんだ。
「ルスカティア殿なら『ダンジョン』まで辿り着く。その前に、俺が巫女を連れて行く」
数刻前、神殿の鳴動とその後の混乱に乗じて、オクシトは結界牢を抜け出した。
そのまま自分の馬を駆ってここまで、一直線にやってきた。
オクシトは『言葉なき信者の会』が水の巫女を求めていることを知っていた。
警戒し、備えていたし、巫女アウラニスにも直接警告していた。
――俺の言葉は、巫女には届いていなかった。
霧のように薄くなった夜に、識心を押し殺す。
心都は敏感だ。巫女を捉えているものたちは、なおさら。
音もなく、オクシトは立ち上がる。
一歩。
そして、もう一歩。
――その願いに応えるために。




