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第4話 美少女からの告白を断る

 もうダスケンデール学院を卒業する季節になった。

 

 ちなみに、この学院は9月から新学期が始まることになっているので、日本人が連想(イメージ)する「卒業」という雰囲気からは少し離れている。

 卒業式は6月。

 そして俺は、18歳にまで成長した。


 年に数回の長期休暇で実家に帰るたび、美ママに抱き締められ、大きくなったねぇ、と成長を喜ばれた。

 

 学院を卒業したら、俺はひとりでギルドに登録でもして、冒険者レッドとしての新しい人生を歩んでいこうと思っている。


 意外と現実的な将来選択だぜ、まったく。

 

 相変わらず友達と呼べる人はシャロットだけだった。


 最初は図書館だけでの付き合いかと思っていたら、その後の闘技場での自主練にもついてくるようになったり、寮の部屋にまで侵入してくるようになったり……俺は最強のメンタル保持者なので、変な気を起こすことはなかったものの、シャロットとの距離は異常なほど近かった。


 悪役とメインヒロインが……なんて考えていた俺がバカバカしい。


 この世界は、あの『英雄物語ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の世界で間違いないかもしれない。でも、俺達はただの登場人物(キャラクター)ではなくて、生きた人間だ。それぞれが考え、行動する。


 あの映画のシナリオ通りに進まないのが当然なのだ。


「もう卒業ですね」


 どこか寂しそうに、どこか頼もしそうに言ったのが、メインヒロインの――いや、親友のシャロット。


 そうか。

 卒業してしまえば、俺達もそれぞれの進路に進むというわけだ。


 仮に物語通りに行くとすれば、シャロットはこの後主人公アーサー君と同じパーティーに入り、徐々に絆を深めていき、恋仲にまで発展する。最後には結婚もしている。


 別にシャロットを異性として好きになったことはない。


 でも、なんだか胸が苦しくなった。


 もう、お別れなんだ、と。


 まあ、今後の生活が楽しみで仕方ないから、すぐに切り替えていけるだろうけど。

 

「シャロットも俺も、相当強くなったよな」


「まさか、ふたり一緒に首席で卒業できるなんて思いもしませんでした」


「シャロットは優秀だから当然のことじゃないのか」


「よく言いますよ、ほんと。レッドくんは千年にひとりの逸材とまで言われているじゃないですか」


 シャロットが微笑む。

 聡明な碧眼の下にできる小ジワ。愛嬌があるのと同時に、人間味がある。


 彼女の美貌は確かに素晴らしいけど、もっと綺麗な女性はたくさん知っている。エルフならさらに妖麗でこの世のものとは思えないほど神々しいし、俺の母さんなんか絶世の美女だ。多分、人間で俺の母さん以上に美人な女性はいないと思う。


 ――って、なんかマザコンの息子みたいになってます。


 でも、俺は事実を言ってるだけなんだ!


 ――とにかく、俺はシャロットの人間味のある、清楚で素朴な美しさが好きだった。


「卒業後はどうするつもりですか?」


 不安そうな目で俺を見るシャロット。


 彼女がさっき言った通り、俺は完全に学院の頂点を極めていた。

 教師達からは千年にひとりの逸材とまで称えられ、他の生徒達からは畏怖のこもった目で見られるようにもなった。もしかして、友達ができなかったのは、俺が怖いから?


 学院で学べることは全て習得した。

 だから今度はもっと広い世界を見てみたい。

 

 自分より強い敵と戦い、最強になってみたい。

 そして、この物語の世界に来たからにはやらなければならないことリストの最上位にある目的(・・)を、こなしたい。


「冒険者になるつもりだ。この世界をずっと探索したいと思ってたし」


「そうなんですね」


「シャロットはどうするつもりなんだ?」


「私ですか……秘密、ですかね」


 フフッと、なぜか意味深に笑う。

 

 今ここで秘密にする必要があるのだろうか。


 親友だけどな、俺。

 そう思っていたのは、俺だけだった……っていうオチですか?


「秘密? ――っ! 親友の俺に、秘密とは……ショックだ!」


 わざとらしく返す。


 シャロットは今度は純粋に笑ってくれた。


「卒業式の日になったら話します。だから、その時まで待っていてくださいね」


 俺はこの時知らなかった。

 まさか、シャロットが俺に親友以上(・・)の感情を抱いていたなんてことに……まったく、罪な男だぜ、俺は。




 ***




「意外と呆気なかったですね」


 卒業式が終わった。

 

 神に祈りを捧げ、賛美歌を歌い、卒業生全員に卒業証書ならぬ、卒業(つるぎ)が贈られる。

 とはいっても感動するようなことは起こらなかったので、涙が止まらない、なんてことにはならなかった。


「これでシャロットと会うのは最後になるな」


 門の近く。

 

 少し歩いたところに、大きな木があった。


 俺達はよくここに来て外の訓練をしていた。

 何度か攻撃が木の幹に当たり、エルフの知り合い――決して友達というほど仲がよかったわけではない――に、木に対して(・・・・・)治癒魔法をかけてもらったことだってある。(治癒魔法は先天的に持っている人が使えるので、俺達は使えない)

 

「そんなこと、言わないでください」


 シャロットが俺を見つめた。

 青い瞳が光を反射し、宝石のように輝いている。


 いつもみたいにノリで言うのではなく、本気(ガチ)なトーンだったので少しビビった。


「ごめん、別に最後ってわけじゃないな。たまに手紙を出すから、絶対返してくれよ。既読スルーなんて御免だからな」


「きどくするぅ?」


「ああ、こっちの話」


 俺の言葉がわからず、キョトンとしていたシャロット。

 でもすぐにまた真剣な表情に戻った。


「手紙なんかじゃ、嫌です」


「え? やっぱ電話の方がよかったかな……」


 渾身のボケ。

 電話を知らない彼女にはわからないかもしれないけど、俺は笑える。


 ならいいじゃないか。


 でも――。


「私、レッドくんとずっと一緒にいたいですっ!」


 風が吹き抜けた。


 ボケを無視(スルー)されたことに対する驚きより、いきなりシャロットが声を張り上げたことに驚く。


 穏やかで声も控えめな彼女。

 なんだかあの(・・)予感がする。


「レッドくん……大好きです! 私と付き合ってくださいっ!」


 シャロットはそう言い切った。


 男子なら一度はされたいであろう定番の告白。

 数ある告白のバリエーションの中から定番(それ)を選ぶなんて、まさにメインヒロイン。だけど、いいのか悪いのか。


 その相手は主人公でもなく、主人公の親友でもなく、主人公と敵対するはずの(・・・)悪役。


 少なくとも悪役になるつもりなんてないけど、台本だと悪役だからそういうことにしておこう。


「シャロット……」


 俺は言葉を失った。


 胸が締めつけられる。

 鼓動が苦しい。

 

 純粋で透き通った彼女の瞳を見るたびに、これから言うセリフが吐きにくくなってしまう。


「ごめんなさい!」


「……ぇ?」


 戸惑うシャロット。


 多分、彼女の中では告白は確実に成功するものだった。

 自分の美貌にもそれなりに自信がありそうなのは知っていたし、俺との普段の仲を思えば、全然イケると踏んだのだろう。


 面食らうとはまさにこのこと。


 申し訳ないことをした。

 これで親友として築き上げてきた信頼関係が崩れなきゃいいけど。もしそうなったとしたら、全ては俺の責任だ。


「実は俺には――」


「駄目です! 許しません!」


「ん?」


 俺には心に決めた女性がいる。


 そう言おうとしたところで、シャロットの瞳から光沢(ハイライト)が消えた。どうやって消したんだ、ハイライト。


 なんかね。うん、なんだろうね。

 イヤーな予感がしまーす。


「レッドくんは私のものなんです。これからもずっと、ずーっと愛してあげますからね。私以外の女に触れることも私が許しません。明日にでも結婚して、最低でも百人は子供を作って、幸せな生活を送りましょう」


 そう、シャロットは……。


 我らがメインヒロインは……。


 ――ヤンデレだぁぁぁあああ!





《次回5話 パーティを結成する》

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