表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁プリ──青空の王子と暁のプリンセス── 転生した悪役令嬢は、そのすべてをもって愛する王子とプリンセスを導きたい  作者: 想いの力のその先へ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/16

レア・ジョーダンとジョーダン子爵家

 武術の授業の折、ソフィーが原作で取り巻きの一人だと話しましたが、他の取り巻きも既に学校へ入学していたりします。その娘たちの実家もまた、ドラクロワ家と同じようにエルミナ侯爵家の臣下だったりするのですが……。


「――あっ、おぉい。アンナさぁぁん!」


 噂をすれば影、でしょうか。そのうちの一人の声が、廊下の端から聞こえてきました。

 振り向くと、こちらへ、たっ、たっ、たっ、軽快に、弾むように走ってくる女生徒の姿。水色の、短いポニーテールがその名の通り、尻尾のごとく揺れています。

 相変わらず、元気が良い様子に少しホッとした気持ちと、廊下を走ると危ないから注意しないとなぁ、という気持ちが沸き上がってきました。


「こらこら、廊下を走ったら危ないわよ、レア」

「わっ、とと……」


 わたくしに注意されたことで、レア。ジョーダン子爵家令嬢のレア・ジョーダンは慌てて立ち止まると、恥ずかしそうに顔を歪めました。


「あ、はは……。ボクとしたことが、つい、うっかり……」

「まったく、気を付けなさいな。貴女の行動もまた、マリアの評判に繋がるんですからね?」

「……はぁい」


 注意を受けたレアは、しょぼん、と落ち込んでいます。まったく、悪い娘ではないんですが……。落ち込んでいるレアを見ると、少し罪悪感がわいてきます。まぁ、本来そんな罪悪感なんて感じる必要もないのですが、そう思わされることすら彼女の人徳というか、能力というか……。

 一言で言えば、レア・ジョーダンという少女は人たらしの才を持っているのです。この娘のために何かしてあげたい、そう思わせてしまう才が。


「それでレア、どうしたんですの。マリアからなにか言伝が?」

「えっと、そうじゃなくて。アンナさんを見つけたから挨拶したかっただけだけど……。ダメだった?」


 不安そうな眼差しで覗き込むようにこちらを見上げてくる。本っ当にかわいいな、もう。


「そんなわけないじゃない。あなたたちとのお話なら、いつでも受けるわよ」


 くすり、と笑って告げる。するとレアははにかむような笑顔を見せた。きっと、尻尾が生えていたらぶんぶん、と振られていたことでしょう。そう、確信できるだけの可愛らしい笑顔です。

 ……まぁ、頭の方の尻尾(ポニーテール)はすでにゆらゆら、と楽しそうに揺れていましたが。


「やたっ、嬉しい。アンナさん!」

「あらあら……」


 わたくしの言葉が嬉しかったようで、レアはがばり、とこちらへ抱きついてきました。突然のことで少し驚きましたが、問題なく抱きとめることができました。それは良かったのですが……。


 ――なんというか、これはいまだ慣れませんね……。


 女の子特有の柔らかい肢体と、清らか、とでも言いましょうか。良い匂いが鼻をくすぐります。また、正面から抱きしめあったことでわたくしとレアの胸がぐにゅう、と押し潰しあいました。そして、目の前には嬉しそうに満面の笑みを浮かべるレアの顔。それこそ、あと少しでキスできそうな近さにあります。

 なんというか、このスキンシップはいくら女に慣れたとはいえ、もと男のわたくしには少し……。――本当に少しですわよ?――心臓に悪いです。

 それはそれとして、抱きしめあった時に少し違和感。これは……。


「レア、少し胸が大きくなりました?」


 次の瞬間、レアはがばっ、とわたくしから離れます。その顔は少し紅潮し恥ずかしがっているのが一目で分かりました。


「もぉ、やだっ。アンナさんったら!」


 照れ隠しと分かりやすいレアの声。そんなに恥ずかしいのなら、抱きつかなければ良いのに。なんて考えるのは野暮ですわね。


「別に恥ずかしがらなくても良いでしょうに。わたくしもあなたも同じ女性でしてよ?」

「それは、そうだけど……。うぅ……」


 下を向きながら指をつんつん、と合わせているレア。なんというか、本当。所作のひとつひとつが可愛らしいんです、この娘。


 まぁ、それはともかくとして。彼女の実家であるジョーダン子爵家。かの家は、エルミナ侯爵家の臣下でありながら中央。王家の財務官僚にも連なる御家だったりします。

 陪臣でありながら中央。より力の強い主家の覚えめでたい、というのはわたくしたちハミルトン公爵家とアルフォード男爵家のあり方に、ある意味似ていますわね。それだけかの御家が有能であるという証左でもあるのですが。

 かといって、エルミナ侯爵家内部の立場でいうと、財務にはあまり関わらないで、どちらかというと政略や謀略などで主君を支える、いわば軍師的な立ち位置。それでいて配下の兵も精強と、どこに弱点があるのかとか、そもそもなんで子爵で収まってるんだ、なんて言われてもおかしくないほどの御家。

 本当に世が世なら、ハミルトンとエルミナの二強ではなくハミルトン、エルミナ、ジョーダンの三強と呼ばれておかしくなかった筈です。


 それなのに、ジョーダン子爵家が他貴族から嫉妬の対象にならないのは本人たちの人柄。レアを見れば分かりますが、この方なら助けても、偉くても良いという想いになる人当たりの良さ、人たらしたる部分が強いんでしょうね。

 先ほどまで恥ずかしがってた筈なのに、いつの間にか腕を絡めて恍惚としているレアを見ながら、わたくしはそう結論付けるのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ