40. 瑶の秘密②
「はひっ、気になること?」
瑶の声が上擦る。頬だけでなく耳まで真っ赤だ。反応が恋する乙女のそれ過ぎて、本当に相手が私で合ってるのか疑問ですらある。
私は更に瑶に近づく。
「瑶様の異術の秘密が知りたいのです」
「それは、つまり……」
「私は瑶様ともっと仲良くなりたいのです。教えてくだされば、私も異術を明かします。これは二人だけの秘密にしましょう」
「ふたりだけの、秘密……」
瑶が嬉しそうに頬を緩める。覗見術からも瑶の脳内がキャーキャーと黄色い声を上げているのが伝わる。
秘密の共有は互いの仲を親密にさせる。
あのときは腹が立った悧珀の受け売りだが、ここで役に立つことになるとは。申し訳無さはあるが好意を逆手に取って押し切ろう。私は駄目押しで顔を覗き込んだ。
「駄目でしょうか?」
瑶が私の手から逃れて変な呻き声を出した。そして、胸に手を当てて小さく小さく頷く。
「燕妃様はわたくしの術に気づいてらっしゃったのですね?」
「なんとなくですが……身体を操るような術ですか?」
迷いからか瑶の目が左右に揺れる。暫し止まった後、小さく頷いた。
「なら、あの事故は全て瑶様が意図的に引き起こしたものなのですか?」
「……はい、間違いありませんわ」
口にした瞬間、瑶は少しふらついた。天与の縛りにより、他者への術の開示は能力を落とす。瑶にも何かしらの反動がきているのだろう。
「何故そのようなことを?瑶様が対立は望んでいないと仰っていたのは、もしかして嘘なのですか?」
あれだけ頭の中で盛大に私へ好意を伝えてくれていたからには対立を避けたいと言っていたのは真実だと思う。が、あえて鎌をかけて瑶の様子を伺う。
瑶は私の言葉にすぐに反応した。
「嘘ではありませんわ!今は、ですが……」
「今は?」
「最初は違ったのです」
瑶は俯きながら、訥々と話してくれた。
「実は、悧珀殿下と才門に嘘をついて先読みの異術があるとお伝えしたのです。お父様と楚花から、そのようにしなさいと言われて、仕方なく……」
瑶が拳を握る。
「相手の身体を操って思い通りの結末に操作することは、わたくしの希望する未来を作ることでもあります。なので、先読みできるというのはあながち間違いではありません」
「物は言いようというやつですね」
「はい。ですので、才門に偽った申告しても先読みで問題なく通りました」
自分の思うように盤面を動かすため、瑶は異術を先読みと偽って私との対立や確執を演出しようとした。
初対面で面会の約束をなかったことにし私を躓かせたのは、楚花と打ち合わせの上で計画したことだという。太子妃争いを優位にすすめるため、私を潰すためにけしかけた。
しかし、転んだ瑶に対する私の態度で気持ちが変わったのだという。
「本当は額に怪我をする予定はなかったんです。わたくしは燕妃様に押されて地面に少し転ぶ程度にする予定でした。でも、思っていたより私が派手に転んでしまって」
話しながら瑶は額を触る。
「怪我したわたくしを心配してくださったのは、燕妃様だけでした。誰も、わたくしのことを心配してくださらなかった」
「そんなことは」
「いいえ、そうです。楚花はわたくしではなく金瑶のことを心配していた。太子妃になる可能性のある金家の姫、金瑶に傷がついたことに怒っていたんです」
額を触っていた瑶の手がきつく握られる。
「楚花は金家の侍女ですもの、当然ですわ。他の方も……わたくしの地位や立場に価値があるから近づいてくるのです。ただの鐘瑶ではこうはいかなかった。金瑶になって、後宮に入って初めて私は価値のある人間になったんです……。お父様も、わたくしの価値は後宮に入って皇后の地位に就いてからだといつも言っていまた……」
細い瑶の肩が震えていて、私はそっと肩に手を置いた。彼女のこれまでの苦労が見えるようで、痛々しい。
「転倒事故の後、もうこんなことは嫌だと伝えて楚花と喧嘩もしてしまいました。お優しい燕妃様と争いたくないですし、太子妃候補から降りたいと言っても周りは聞かなくて。二回目のお茶の件も、どうしても……やらなくてはいけないと……」
瑶が私の手を握る。
「信じてください。わたくしは、燕妃様と争いたいわけではないのです。悧珀殿下にも真実をお話しします」
瑶の表情も声色も、全て真実だ。私に流れ込んでくる瑶の気持ちも全て言葉のままだ。
「信じます。話してくださってありがとうございます」
術で知ったからではなく、瑶が言葉に出して伝えてくれた。この瑶の想いを信じたい。
私が手を握り返すと、瑶がポロポロと涙を流した。
「ありがとうございます……」
瑶は稀物という生まれのせいで、期待と重圧の中ずっと生きてきた。でも家に翻弄されながら生きているだけで、普通の女の子だった。
「瑶様のお父様が瑶様の価値について言っておられましたが、瑶様はこれまでずっと頑張ってこられたのですから、それだけですごいことだと思います」
瑶は、なり得たかもしれない、もしもの私だ。
私も稀物だと明かしていれば、瑶のように両親に利用されて家の道具にされていたに違いない。話を聞いて他人事のようには思えなかった。
「鐘家のご当主は何故そこまでして瑶様を金家に養子に出そうとされたのでしょう」
「私が太子妃となれば本家より多額の褒賞がおりるそうです。その資金で優秀な術者の養子でもとるのではないでしょうか」
なるほど。瑶の婿養子をとるよりそちらの方が家の家格も上がるし金も手に入るしで良いこと尽くめだ。世知辛い。結局は金なのだ。
私が頭を撫でると瑶はまた涙を零し、そして微笑んだ。
「わたくしの話ばかり長くなってしまいました。燕妃様のことをお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」
きちんと話してくれた瑶のため、今度は私が術について話さなければならない。私を信じて話してくれた彼女に嘘をつくことはできない。
どんな反応をされるか不安ではあるが、話すしかない。
「私の術は触れた方の頭の中を視る、覗見術というものです。相手の考えていることがわかります」
口にした瞬間、ぐんと肩に重石が乗るような圧を感じた。何かひとつ枷がかかったようだ。
瑶は意味を理解しようと暫し視線を巡らせていたが、はっとした表情で私を見た。




