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九月三十一日

作者: 哀原 暖鼠

もう十月であるということが信じられない。まだ九月のはすだ。

「今日は、九月三十一日。」

と、ジョークを言ってみては、

「あほか。でも、確かにな。」

と、友人に軽く刺されながら同意を得る。しかし、朝や夜では、窓を開けて寝るには少々寒い。寒暖の差のよる風邪というのも納得できる。もし、今日の太陽が一人の人間であったならば、かなり面倒な性格をしているに違いない。


奴の視線の下で、もう秋だからと早速アウトドアスポーツを行うというのは、なかなかに酷である。自転車で山を走るというだけのものであるが、道中は海風に煽られ、横のトラックに怯え、目的地までもしんどい。空を睨みながら一時間ほどで、山の麓に辿り着く。


登りに差し掛かって、なぜ今日に限って山なのか、と自ら立てた計画に、腹を立てる。たかが標高三百メートルに苦しめられることを想像し、その顔を友人に笑われる。重力に逆らおうとするのだから、その苦とこれとを想像するに歪む顔はどうしようもない。ただただ、山頂からの景色が見たくて登るのだ。



山頂にて思う。やはり登って良かったと。街並みを下に望み、木々も自分より下に見える。疲労感と達成感のせいで、まるで自然を支配している気にさえなる。随分、西洋的な考えだなと思い巡り、その思考の過程にすら、自分は何を考えているのだと自嘲する。しかし、この自嘲さえも自嘲の対象になる。

友人は、また何か変なことを考えているのだろうとでも言うような訝しんだ目を向けてくる。そこに会話はない。


登りきったほとぼりが冷め、再び自転車に跨る。車やバイクと同じく、高性能なブレーキシステムを採用していれば、下りも楽しめるのかもしれないが、それは好みではないので、ゆっくりゆっくりと行く他ない。


下山のさなか、木々の隙間から海が見える。登りでも同じ景色だったろうに、違って鮮やかに見える。ああ、山頂より好みはこちらだ。


帰り道も海風に煽られる。横風は行きも帰りも牙を剥く。しかし、山頂からの景色以上のものを見たからか、足が軽い。なぜあんなにも、木々の隙間からの木々と海が印象に残るのか。そればかり考え、気がついたらすっかり日も暮れて、家まで残り僅かだった。最後の曲がり道を緩やかに流れて、分かる。上からよりも隣からの方が自然だと。自分がどこまでも日本人であるのだなと思う。


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