君の夜があけるまで【二次創作】
真夜中。
昼間に活動する生物が寝静まり、活動者のみが起こさないようにと静かに活動をしている。
夜は太陽の代わりに、太陽の光を反射した月が辺りを照らしていた。
どうしようもなくきれいな星々は、仕事をする月を応援するかのように輝きを振り撒く。
そんな真夜中に、月光に照らされ、白い肌をより白くした少女がいた。
真夜中に一人、冷たい風と共に舞う姿はまるで、死者を誘う死神のようであった。
──────────
今の季節は春。暖かな太陽に照らされる季節。
ポカポカとした太陽の光が入り込んでくる季節。
そんなことをされては、聞ける授業も聞けないものだ。
なぜかって?そりゃあ、眠たくなるからだよ。
退屈な授業を集中して聞いていたら、暖かい太陽が僕を温めるんだよ?そんなの、眠気が来ないわけ無いじゃん。
そんなわけで、この季節になるといつのまにかに机にうつ伏せて、いつのまにかに意識を落としてしまう。
え?ノートとっておかなくていいのかって?
それは大丈夫。一応頼みの綱があるからね。
ああ、それにしても、眠たいなぁ。
「──さい!」
「──なさい!」
気持ちよく寝ているときに、僕の邪魔をしているのは誰なのだろうか。とても気が紛れてしまう。
睡眠に集中しているんだ。邪魔しないでほしいなぁ。
「起きなさいっ!!」
「わあ!?」
耳元で大声が聞こえ、僕は飛び起きた。
体が一瞬で動け、動け、と騒いでいる。
ああ?なんだ……?
僕はまだ働かない頭で冷静に考えてみる。
…………うーん。なんで起こされたんだろう。
「あ、あのぉ。なんですか?」
「なんですか?じゃないですよ!さっさと立ってください。もう皆帰ってしまいましたよ」
そう言われ僕は急いで時計を確認する。
すると、もう12時をとっくに回っていた。いつから寝てたんだっけ。
そう自分でも間抜けなことを考えるほどに今は頭が働いていない。太陽が暖かすぎるのかな。
ところで、この僕の目の前で不満そうに立っているのは、我らが委員長、都筑つとむ。真面目で勤勉な貧弱眼鏡だ。貧弱っていうのはな。実はこいつ、男のくせに力が全然ないんだ。だからまあノート見せてもらう代わりに僕が力仕事をしているってわけ。
「今日の約束、まさか忘れてなんていませんよね?」
「も、もちろん!忘れてなんか……ないさ!!」
あれ、なんだっけ。というのが本音だが、この貧弱眼鏡委員長は怖いけど、割とチョロいから自然と聞けばなんとかなる。うん、なる。
「はぁ、忘れたんですね」
は、早い!いつもならもう一言くらい持てるのに!!
「バレたか……」
「間を開けるなんて、隠す気ありますか?」
そう指摘され、「うっ」と声を漏らした。
「それでは、もう一度言います。教卓の上に積み上げられたノートを、出席番号順に並べてください。名簿も一緒に乗っているので、半までにお願いします。僕は日誌と黒板の文字を消していますから、もし何かあれば言ってください」
「はーい」
そう軽い返事をし、僕は教卓へ向かった。
積み上げられた物の一番上のノートには「古典」という文字が。
「古典……なんか引っかかるな……」
なんだっけか。
僕はその場で止まり、思い出す。必死に必死に記憶を辿る。
「あっ!!!!!!!!あれだっ!!!!!!!!!!ノート写して、ないっ!!!!!!!!!」
「なんだよ!?!?!?!?」
つとむは目を丸くして僕のことを見ている。
「うるさいよ!!」
そのまま僕のところまで来て睨む。
「いや、お前のほうが充分うるさいと思うけど……」
「と、ともかく、なんなんですか。急に大声出して」
「い、いやー、ノート書いてないなーって……」
「それで?」
「よ、よければー、見せてほしいなー、なんて」
僕は少したじろぎながらも伝える。
「別にいいですけど、間に合うんですか?」
「だ、大丈夫大丈夫。たぶんきっとなにかなければ運が良ければ……」
「残り20分しかないのですが……」
「大丈夫!ノートを出席番号に並べるだけなら5分あれば充分だよ!」
「はぁ、わかりました。どうぞ」
つとむは僕にノートを渡し、すぐさま自分の仕事へと戻っていった。
「うおおおおおおおおお!!やるぞおおおおお!」
「うるさい!もうちょっと黙っててくれませんか!?!?」
そんなつとむを横目に、僕はノートを写した。爆速で。
なんとか15分で写すことができた。なんて量だ。
「お、終わったぞおおおおおおお!!!!」
「だからうるさい!!!」
「あ、はい……」
「あと5分しかありません。早くしてください」
つとむのその威圧的な目に僕は一瞬怯え「はいっ!」と言ってからノートの作業に移った。どっちもノートだけど。爆速で。
それから3分くらいが経ち、
「お、終わった!!」
「それは、よかったです。あとはこのノートの山を担任に渡して来て下さい」
え……重たそ……。
僕はちょっと顔を引き攣らせたが、つとむの行け!というような顔に圧倒され、急いで担任の元まで持って行った。爆速で。
「お、終わったぞおおおおお!!」
僕は達成感で溢れ、大きなジャンプをした。
「あ、あれ……?」
着地をすると、辺りは闇に呑まれていた。
電気は消え、辺り一面真っ暗。
外も夜のように暗い。なぜだか、さっきまで煌めいていた太陽が、それはそれは明るい月へと変わっていた。
「う……さっむ……」
先程までポカポカとしていた周辺が、ジャンプしたことによって季節が変わったかのように寒く、それはそれは変わり果てていた。
まるで、雨でも降ったあとのように辺りはじめじめとしている。
異様な寒気と、水でぐしゃぐしゃの服を着ているような、そんな体の重たさがあった。
そんな異質な状態。一体なにがあったんだ……?
僕は、とても冷静だった。意味がわからなかったのに、全然平然と辺りを見渡している。
「ポーカー……?」
色のない声が聞こえて来る。
すぐさま声の方向を見ると、そこには中学生くらいの背丈に、ワイシャツの上にロングスカートで、全身真っ白の制服を着ている少女がいた。髪の色は透き通った綺麗な銀色で、月の光を反射してより輝いている。
すると、なぜか途端に胸が苦しくなった。
いや、苦しいというより、力が抜けると言った方がいいだろうか。
冷たい冷たい手が心臓をわし掴みにしているような、そんな感覚。胸から広がって行き、どんどん力が抜けていく。
透き通った手が心臓目掛けて飛んで来る。ずっとそう感じてしまう。
そう感じるのは、きっと目の前の少女のせいだろう。
だって、こんな静かな夜に、冷たい冷たい風を纏いながら立っている姿はまるで、僕を死界へと誘いに来た死神のようだったからだ。
Thank you for reading!
「フシギたんきゅーぶ!!!!!!!」に引き続き、「君の夜があけるまで」も書かせていただきました。
「君の夜があけるまで」はカクヨムにて連載中とのことなので是非是非、読んでみてください!